眠れる美女 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2408
レビュー : 279
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001203

作品紹介・あらすじ

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女-その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作『眠れる美女』のほか二編。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの「美女」は何で「美少女」じゃないんだろう。きっと表情に幼さを残した十代のきむすめたちも、薬か何かで一晩中眠らされたまま老人と一晩を過ごす、その自分が置かれた環境とそうしなければ生きていけない境遇に対して、否応なしに大人にならなければならなかったからじゃないかな。少女のままでいられなかった。でもそれは勝手にわたしが思っているだけで、けっして本当のところはわからない。だって少女たちはけっして目を覚まさない。老人たちの「生きている人形」として横たわっている彼女たちの意志はどこにも見当たらないのだから。

    海辺の宿屋では、みずみずしい肉体をもつ美少女が眠る。目を覚まさない少女の傍では、ただ共に眠るだけの一夜を過ごす老人がいる。
    全裸の娘から伝わる体温と肉体が放つ匂いを感じながら、老人はそう遠くない未来に訪れるはずの「死」を見つめるようになっていくように思う。強烈な生命の輝きは物言わず陰に潜んでいる死をも炙り出す。
    若く美しい命は「眠り」という器に閉じ込められ、男でなくなった老人へ「生きた人形」として差し出される。けっして人形は傷つけられたり痛めつけられることもない。なのに、その小さく歪な世界には仄暗く妖しげ時間が流れ、老人は情欲を煽り立てられる。眠っているだけの美少女が、目を覚まして話をしたり抱き合ったりする女よりも、これほどまでに官能的で崇めたくなるほどにエロティックなものとして描かれていることに感嘆する。そしてなんでだろう。老人が眠れる少女たちへと執着していくほどに「死」を思い浮かべてしまうのだ。たぶんそれは心のどこかで目を覚まさないこと=永遠の眠りを暗示しているように思えるからだ。ただその死は恐れとも嫌悪とも違う、魅惑的で倒錯的なエロティックなものとして。

    すでに男ではない老人たちとは違い、自分はまだ「安心できるお客様」ではないと自負している江口は、少女たちを通して過去の女たちを思い出していく。そして物語最後の夜に自分の最初の女は「母だ」と母のいまわに胸をなでたこと、幼い日に若い母の乳房をまさぐって眠ったことを思い浮かべる。さらに夢で見た家をうずめるほどの赤いダリアのような花。その花の色と宿屋の真紅のビロードのカーテンに命の脈動を感じた。懐古と追憶、そしてエロティックな色。同時に江口にある人物の死が突然訪れることになるが、宿屋の女の非道な一言を受け入れた江口。この場所が普通とは俗世間とは違う価値観で存在していることに改めて気づくことになる。江口はもう後戻りできないところまできてしまった。その魅力に憑りつかれた江口にとって、今はもう性と死はどちらも始まりと終わりであってメビウスの輪のようなものなのかもしれない。

  • デカダンス文学の傑作と言われる作品。
    読もうと思ったきっかけは、原宿ブックカフェという番組で浅田次郎さんが“人生を変えた一冊”に挙げていたのを観たから。

    薬か何かで眠らされた少女と、添い寝して一夜を過ごすことが出来る部屋。知人から聞きつけた江口老人は、ある日そこを訪れる。
    奥の部屋の布団に眠る若い女は一糸纏わぬ姿で、そしてどんなことをしても絶対に目覚めない。
    そこを訪れるのは大抵、もはや男性としての機能を失ってしまった老人ばかりであるが、江口老人はまだ完全に機能を失ってはいない。
    隣に眠る若い女を犯して破壊してやろうかという衝動にも襲われるが…。

    直接的な肉体の交わりのないエロティシズムが却って妖しさを引き立てていて、死が見え始めている老人が若い肉体を目の当たりにした時に感じる寂寥感がそこはかとなく漂っていた。
    その妖しげな家にいる女主人が最後に放つ一言が、凄まじく悲しい真理だった。

    他に二編収録されている中の一編「片腕」は一人の男がある女性から片腕を借りて家に持ち帰る物語なのだけど、表題作同様、現実離れしていて不思議な物語だった。
    三作目の「散りぬるを」はひとつの殺人事件を小説家が語るつくりで、これだけは雰囲気が全然違った。

    解説を三島由紀夫が書いていて豪華。とても絶賛している。
    発想力も文章力も凄い。昔の文豪が残した傑作はやはり面白い、と思わされた一冊。

  • 「雪国」に続いて「眠れる美女」にチャレンジ(笑)

    日本文学作品には苦手意識があって、学校の授業以外ではほとんど読んでいない私が、イイ大人になったのでチャレンジして、今年の始めに読破できたのが「雪国」だ。
    調子に乗って他の作家のものも色々手にとってみたが、どうにも途中で挫折してしまい中途半端になっていたので、川端康成氏に戻って別の本を読んでみようと手に取ったのがコレ。正解だった。

    たぶん私は川端康成氏の文中の表現や世界観が好きなのだと思う。人のこころの危うさのようなものが。

    本書は「眠れる美女」「片腕」「散りぬるを」の3編から成る短編集である。

    「眠れる美女」のあらすじは、
    波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女-その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している-。(作品紹介より)

    読みながら頭に浮かんだのは「耽美なエロティシズム」という言葉。

    若く美しい女たちの肌を表現するというひとつとってもその言葉選びが美しい。また、枯れ行く老人の心情が切実に伝わってくる。
    まさに、生と死が布団に並んで横になっている姿を見るようだ。

    「片腕」は、ホラーかよって思って読み始めたが、フェチだなこれは。究極の腕フェチ。私にはない感覚なので、いまいち共感はできないが、やはり美しかった。ラストはやっぱりホラーだったけど(笑)

    「散りぬるを」は、うーん。これは作者の目線そのもので書かれているのだろうか?という感じ。やはり危ういのだが現実っぽすぎて、美しさが足りない気がした。

    他の作品もまた、読んでみたい。

  • 『眠れる美女』『片腕』『散りぬるを』の3編から成る短編集。
    『眠れる美女』『片腕』が印象的。
    2作品共、性的描写は出てこないのに、文章全体から醸し出される官能的な妖しさにドキドキしてしまう。

    『眠れる美女』に心奪われ年甲斐もなくオタオタする江口老人。
    その汚れなき美しい肌に触れたくてもなかなか触れることもできず、添い寝の途中で起きはしないかとハラハラしっぱなし。
    美女の弾ける若さに対して己の老いを痛感する。
    そして眠れる美女の隣で、江口老人は過去の女達に思いを馳せる。
    ラストの宿の女の一言はとても衝撃的。

    「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」娘のサラリとした一言で始まる『片腕』。
    尋常ではない設定にも関わらずコミカルに物語が進むので違和感なく読める。
    男は娘の可憐なやわらかい腕を事細かく観察し堪能する。
    こちらの男もまた、娘の体の一部を娘の身代わりのようにもてなし添い寝して喜びを感じる反面、己の孤独を痛感する。

    老い、孤独…年老いた男達の哀愁をチクリと鮮やかに皮肉る川端康成の筆力はやはりただ者ではない、と唸るしかない。
    そして解説があの三島由紀夫…最後の最後まで気の抜けない贅沢な文庫本。

  • 川端康成は『雪国』だけを読み、美しいけどうーん…というのが私の印象であった。ガルシア=マルケスの『わが悲しき娼婦たちの思い出』がこちらを下敷きにしているというところからしった作品である。表題作とほか中編が2つ。あぁ、なんと美しく面白いのか!!裸のうら若き熟睡しきった生娘と添い寝する宿を描く表題作のなんと頽廃的で耽美なことか!乙女の「片腕」をつける「片腕」。殺人事件とその犯人の問答「散りぬるを」まで3編すべてが面白く、しかもそれぞれに趣が異なり飽きない構成である。川端文学円熟期の紛うことなき名作である。川端康成、これからすこしずつ読もう。巻末の解説はなんと三島由紀夫。解説も必読。2013/355

  • 娘たちの肌や匂いに関する描写の厚さに圧倒された。凄い執着。美しく生々しい文章に触れた。

  • 眠れる美女
    若い娘を見て老いていく自分を見ている。
    そして今までの人生を振り返っている。
    よく死期が迫ると生物として生きなくてならないという本能が働き、
    性的欲求が強くなるというのを聞いたことがありますが、
    それと類似しているようにも思えました。
    ただ一晩添い寝をしている娘を見ているだけのことですが、
    描写が細かく表現力が豊かなので生々しくも官能的でもあります。
    三作品の中で一番生と性と美を強く感じる内容でした。

    片腕
    娘の右腕を老人の男が借りて家に持ち帰り、
    腕と会話をするという何とも奇妙な話が綴られています。
    こちらも少し淫靡な雰囲気を持ちつつ、
    老人が片腕と会話をしながら生を感じているように思えました。

    散りぬるを
    三作品の中でこれが一番理解するのに難しく、
    読了後に頭の中で整理をしてみても分からないことだらけです。
    「眠れる美女」と「片腕」は少し現実離れをしていますが、
    これは現実的のような内容なので分かりやすいはずなのですが。
    ただ前の二作品を通してからこの作品が出来たのかと思いました。
    この作家はもしかしたら著者自身なのかもと思ったりしました。


    読書が好きなので自分の好きなジャンルの本を様々読んできましたが、
    時には基本に戻り日本文学を読んでみようと思い、
    この作品がお勧めされていたので手に取りました。
    さすが日本を代表するいや、ノーベル文学賞受賞者の
    川端康成ということでとてもレビューをするのはおこがましいです。
    というか純文学の細かいことなどは分からないので、
    表現するのが難しく、読解力も乏しいのでレビューも難しいです。
    古い作品であるのに古さを全然感じないほいうのも
    この作品の特徴かと思います。
    ただ一つ言えることは性と美と生と死といった
    テーマの作品だと思います。

    「伊豆の踊子」、「雪国」などの作品とは違った川端康成の世界を
    読んでみたい方がお勧めだと思います。

  • 眠れる美女、表現の緻密さにありがたさを感じた。そして、全てが綺麗なわけではなく、ありのままを描くその川端康成の姿勢にグッときた。何かが起こりそうでなにも起こらないんだろうなと思わせておきながら、何かが起こりそうな予感を孕みつつ物語は進んでいく。我々はその時すでに川端康成の術中にはまっているのであった。

    単純に抱いた感想としては、ページに文字がびっちり書いてあるなと思った。それは、会話する相手は眠っているのであって、大方主人公の思考が書いてあるのみになるで当然である。

    まあ雪国の方が好きかな。

  • 死と生が肌ふれ合い、添い寝する。


    深紅のびろうどのカーテン、その向こうで深く眠らされている美女。
    すでに「男ではなくなった」老人たちは、
    その若い女に寄り添い、一夜を過ごす――。

    官能的な肉体の描写の一方で、気になるのは
    物語の中盤から散見する「死」についての記述です。

    若い美女と老人が寄り添い、眠りに落ちるという物語は、
    美女が生の象徴であり
    老人が死の象徴、
    そう考えがちです。
    しかし、物語の最後の最後で
    それらは逆転して描かれます。

    死とは、
    生のすぐ隣に、
    それこそ肌をすり合わせて
    横たわっているものだと
    思わずにはいられません。

    そして、その死のなんと軽いこと。
    「ただ、死んでしまう」という事実が
    痛いほど突きつけられる終わり方。

    寂しさや口惜しさではなく、悔恨でもなく。
    ひっそりとある個人的な孤独が、
    貫かれて描かれる小説だと思いました。

  • 男性としての機能を失った老人達が薬で眠らされている娘と共に一夜を過ごす宿に、まだ男性としての機能は失っていない江口老人が訪れる。

    老人は6人の少女と共に眠るが、それぞれの少女の特徴がうまく書き分けられていると感じた。
    美しい少女、娼婦的な少女、まだあどけない少女など…
    老人は決して少女に手を出してはいけないという制約があるが、その制約があるからこそかえって官能的で、神秘的であった。

    また、老人が共に一夜を過ごした少女で、一人だけわきががあり、肌が油っぽいと多少醜く?描かれていた少女が死に、その少女をどう始末したのかも気になった。

    …ある意味、死体のような少女を愛する、少し歪んだ性愛を書いているように感じた。

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著者プロフィール

1899年生まれ。1920年東京帝国大学文学部英文学科に入学(のち、国文学科に転科)。1921年第六次『新思潮』を創刊。『伊豆の踊子』や『雪国』などの作品を残す。1961年文化勲章受章。1962年『眠れる美女』で毎日出版文化賞受賞。1968年10月、日本人初となるノーベル文学賞受賞が決定する。1972年没。

「2017年 『山の音』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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