- 本 ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101001333
感想・レビュー・書評
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だいぶ昔に読んだ本。再読。
その頃は、二回同じ本を読まない主義というか、他にも読みたい本が山ほどある中で、後戻りしていられないという、読書を味わい尽くす使命感のようなものがあった(今もあまり変わらない)。その頃の記憶が、当時の音楽や情景に宿っていて、それは小説にも閉じ込められていたと気付く。
私にとって村上春樹はそうしたタイムカプセルの象徴であり、本書の「蛍」はストーリー自体も回想のようで、私自身の記憶と錯綜し、感情が紐解かれるようだ。そして、案外、話を覚えているものだ、というのが自分自身、意外だった。
言葉の意味も深く分からず、夢中で読んだ。その余韻に浸りながら、感受性豊かだった学生時代を思い出す。世界観、喪失感に厨二病のように取り憑かれ、誰かや自分の言葉、価値観に振り回されながら、それに陶酔していた日常を。
『ノルウェーの森』を教えてくれた人が、この短編集に世界を広げてくれたのだった。今はもう、その人と簡単に会える関係性にはないが、元気でいてくれたらなと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
久し振りに読みたくなった、村上春樹作品。
この世界観は誰にも真似できないなとあらためて
読み終えて感じました。
「螢」は、彼の代表作の「ノルウェイの森」にも通ずる物語で、これ読んだ後にもう一度「ノルウェイの森」を読むとより深く世界観に浸ることができると
思います。 -
久しぶりに村上春樹さんの文体に触れたくて読んだ。
「螢」を読んでいたら「ノルウェイの森」につながっていた。
「納屋を焼く」は彼らしさ全開の短編。きっと実際に焼くのではなく、女性に関わる比喩なのだろう。
「踊る小人」これも面白い。非常にグロテスクで想像したくないけど想像してしまう。逃れられない小悪魔。
「めくらやなぎと眠る女」「三つのドイツ幻想」もシュールだった。
これらの短編が後に読み応えのある長編に成長していくことを思うと愛おしくもある。
やはり私の身体にも
踊る小人ならぬ踊る春樹が憑いている。 -
メカトール酒
ダッフルコート
ビール
耳
病院の食堂
オーディブルで読みました(聞きました)
モヤモヤとした正体のわからない、わかろうとも思わない感覚が好きで、何度目かの再読
中毒性あります -
7つのうち、最初の短編の「蛍」で、「僕」は「彼女」と中央線の電車の中で偶然に出会い、四ツ谷駅で降りる。その後、彼女は何も言わずに歩き始め、僕は、そのあとを1メートルほど離れながら歩く。四谷から飯田橋、飯田橋から神保町の交差点を経てお茶の水、さらには本郷に抜けた後で、駒込まで、僕は彼女のあとをついて歩く。そして、彼女は僕に「ここはどこなの?」と聞く。「駒込」と僕が答えると、彼女は「どうしてこんな所に来たの?」と尋ね、僕は「君が来たんだよ。僕はあとをついて来ただけさ」と答える。
グーグルマップで調べてみると、四ツ谷駅→飯田橋駅(2.1km、徒歩27分)、飯田橋駅→神保町交差点(1.2km、18分)、神保町交差点→御茶ノ水駅(950m、15分)、御茶ノ水駅→駒込駅(ここはほぼ直線、4.3km、62分)となり、合計で8.5km、122分となる。全く休まずに、口もきかずに、それだけの距離と時間を歩きとおし、「どうしてこんな所に来たの?」と僕に質問してしまう。
彼女は、彼の高校時代の友人のガールフレンドだったのだが、彼の友人は、どういう理由か分からないまま自殺してしまう。それから久しぶりに彼女と僕は偶然会うのだが、僕から見て彼女はやせてしまっていて、そして、上記の通り、普通ではない。
その後、彼女と僕は時々デートを重ねる。そして、クリスマスの夜に結ばれるが、彼女はそのまま僕の前から姿を消してしまう。その後に来た手紙には、彼女は「療養所」に入っているという内容が書かれている。
僕の友達の自殺により、彼女は心に深い傷を負い、まだ癒えてはいない、というよりも、異常をきたしている。デートを重ねるが、彼女は僕と一緒にいても、僕のことを見てはいない。「彼女の求めているのは僕の温もりではなく、誰かの温もりだった。」そのように、僕は感じながらも彼女と会い続ける。そして、結ばれた直後に、彼女は姿を消す。
とても哀しい物語だと思う。なぜ、このようなことが起こるのかということには、小説の中では一切触れられていない。ただ、そのように時は過ぎていくのである。
小説の最後に、僕は、別の友人からもらった瓶に入った蛍を屋上で逃してやる。蛍は飛んでいき、弱い光を放つが、彼にはその光をつかまえる術はない。 -
「蛍」ノルウェイの森の既視感。
「納屋を焼く」納屋を焼く男の話、パントマイムする彼女の消失。
「めくら柳~」耳鼻科に行くバスで回想。『めくら柳の花粉をつけた蠅が耳から潜り込んで女を眠らせる』 -
作者の短編集読み漏らし①
とにかく『納屋を焼く』が光っていて、謎めいた締めも作中のリリックも完璧。
『ノルウェイの森』の原案ともなる『螢』は、同作を読了後に読むとスケールダウン感は否めないが、他所からの参入や二番煎じが不可能な完成された世界観は流石としか言えない。 -
1983〜84年発表の短編をまとめた作品集。「蛍」と「踊る小人」が特に好みだった。
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「納屋を焼く」の話が印象的だった。スマートな見かけの青年が、どういう理由か周辺の納屋を焼いていく。納屋を焼く人と納屋は焼かない人とに分かれるという。その不思議な世界観にひかれた。村上春樹の素敵な文章に浸れて、幸せな時間を過ごせて良かった。
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理屈がないのに滑らかで、安心感のあってそれでいてやるせのない話を読んでいると、この感情は自分ただ1人しか味わえない、誰にも共有し得ないものだと実感すると同時に、自分がだだっ広い空間にポツンと投げ出されて行き場をなくしたような停滞感も味わうことになる。進めないのか進みたくないのか、もう分からない。
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