螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 5084
レビュー : 415
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001333

作品紹介・あらすじ

秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

感想・レビュー・書評

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  • 1980年代の初め、村上春樹はロングインタビューで「ピュアな恋愛小説を書きたい」と語っていた。その元となったのが表題作にある「蛍」で、これを敷衍して「ノルウェイの森」が生まれた。ページ数にして40頁程の短篇が空前の大ベストセラーとなるとは本人も予想をしていなかっただろうし、それを機に時の人となり、ストレスフル状態になり日本を脱出する羽目になるとは、まったくもって計算外だっただろう。

    本書に収録されている短篇は5篇。
    ⑴蛍
    学生寮に住む大学生の主人公が、偶然車中で高校時代の友人の元彼女に出会い、時々会うようになる。当初のギクシャクした関係も、次第に互いの体温を感じる距離に狭まり恋愛へと発展。でも、ある過去の出来事がふたりの間に影を落とす…。

    ⑵納屋を焼く
    歳の離れた奔放な彼女が長い海外旅行から日本人の彼を連れて帰国。ある日、主人公宅へふたりが訪ねてくる。彼はマリファナを吸いながら「定期的に納屋に放火し、その燃える様を眺めるのが好き」と告白。「近々この近所の納屋を焼きます」と言われ、気がそぞろな主人公は…。

    ⑶踊る小人
    一頭の象から五頭の象を作り出す工場で働く主人公の夢の中に、実に優美に踊る小人が登場し謎めいた一言を残す。その夢を端緒に、主人公の周辺でぐらりと様々なものが動き、揺らめきはじめる…。

    ⑷めくらやなぎと眠る女
    仕事を辞め地元に戻った主人公は、耳の病を持つ、いとこの通院に付き添う。その病院で診察を待つ間、コーヒーを飲みながら物思いに耽り、あることを想起する…

    ⑸三つのドイツ幻想
    東西冷戦時代のベルリンという物理的閉鎖された都市空間を舞台にしたエッセイ風3つの掌編。第1章はエロチックな言葉が溢れ、以後彼の長編に多く見られるセックスシーンの原点なったのかなと思える…

    村上春樹の処女短篇集「中国行きスロウボート」以来、おそらく全ての短篇を読んでると思うが共通しているのは、ストンと落ちるオチというかサゲはない。起承転結、序破急というメリハリはなく、ストーリーのつなぎ目は淡く緩やかである。読んでいる途中から、短篇なのに長篇を読み通したような錯覚に陥るぐらい、実に豊かなイメージを持った作家であることを再認識した次第。

    「蛍」を初めて読んだ時は19歳。主人公とほぼ同じ年齢であったから、簡単に自身を投影でき、また文章から立ち昇るリリシズムにいたく感動した記憶がある。今回久々に読み、一瞬だけど19歳のあの頃に戻れ、鼻の奥がつんとしてしまいましたがな…。

  • 村上春樹の原酒みたい。

  • 2016.11 本棚整理のため再読。評価は3.5くらい。

    ノルウェイの森とのベースとなった「蛍」を含む短編集。表題2作が〇▲。めくらやなぎ~はレキシントンの幽霊に収録の後年修正版のものの方がシンプルで良い。

  • 村上春樹の短編を読むのは初。前知識なく読んだので、ノルウェイの森の元になったと螢にはあれ?と思ったけど、この短さで世界観は十分完成されてるなと思った。納屋を焼くは、どことなくフィッツジェラルドとカポーティを彷彿させる。踊る小人・めくらやなぎと眠る女・三つのドイツ幻想どれも村上春樹の世界がぎゅぎゅぎゅと濃縮されて詰まっていて素敵だったー。ちょっぴり怖いグリム童話的な雰囲気とか、ミヒャエルエンデ的なファンタジー感とか、羊をめぐる冒険や世界の終わりと~を彷彿とさせたり…とにかく気持ちいいファンタジーだった。

  • 村上春樹はむかしから村上春樹だったんだなあと思った

  • 「踊る小人」「納屋を焼く」が特に楽しめた。
    小人がからだに取り付いている間、喋ってはいけないのだが、小人の力で口説いている女は、早送りしたように腐り落ちていく。声を出しそうになり、乗っ取られるのではとハラハラした。そして、ウジだらけの顔に唇を突っ込み、キスをした時のすべてが戻るその瞬間。平穏な凪の風が吹く星空の下の2人を想像して、とてもホッとした。やはり、村上春樹は、鬼気迫る展開を書かせると素晴らしい。

    また納屋を焼いてまわる、『ダンスダンスダンス』の五反田くんみたいな人もいて良かった。

    『ノルウェイの森』は、好きどころか嫌いな部類の作品なのだが、「螢」は良かった。いまノルウェイの森を読んだら印象が違うかもな。
    まだ突撃隊の名で呼ばれていない同室人がでてくる。

  • 蛍もいいけど、納屋を焼くがとても惹かれます。
    納屋って物が、忘れてしまった自分の記憶のような気がして、いつも怖くなります。
    無くなっても困らない。でも確かに存在していた物。
    記憶力がいい方だと思っていたけど、知らず知らず忘れてる事も出てきて、私は忘れてるのに友達は憶えてる昔の出来事が話題になったりすると、「納屋を焼く」の事を思い出します。

    私の中では村上さんの短編の中で一番印象的な作品です。

  • 2013.01.26
    再読

  • 遠い日の記憶や、夢をたどっていくような柔らかな空気が、文章の中に漂っている。
    「蛍」を読んでいくうちに、これが「ノルウェイの森」の原型になっていることに気がついた。
    「なるべく深刻にものごとを考えまいとしている」
    その言葉にひどく励まされる。

    短編集を読むたびに、村上春樹の世界にどんどん引き込まれていく。

  • 中学生の頃「踊る小人」が好きで、宿題の読書感想文に書いた思い入れの深い作品だ。「踊る小人とは何を表現したものなのだろうか?」とか、今思えばなんだか小生意気な子どもだったなと思う。今でも時々読み返しては、違った印象を持つ話。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市・芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年5月9日、対談集『本当の翻訳の話をしよう』を刊行。5月10日、両親と過ごした幼少期と父親の戦争体験、そして自身が親の語りをどう受け止めかたを記したエッセイ「猫を棄てる」を『文藝春秋』に寄稿し、話題となる。

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