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本 ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784101001395
感想・レビュー・書評
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ギリシャ編とトルコ編からなる紀行文。
ギリシャ編はギリシャ国内に存在するアトスという宗教国家のルポ。ギリシャ正教会の聖地にして修行の地であり、正教会の信者以外の入国は難しい。また、女人禁制のため信者であっても女性は入れない。
トルコ編は黒海沿岸やロシア(当時)、イラン、イラク、シリアとの国境地帯とのルポ。クルド問題や隣国との問題を抱えており、ガイドブックには「行くな」と書かれている紛争地域だ。
これらの地域に村上春樹がカメラマンと共に乗り込む。かなりの緊迫した場面も淡々と書き綴る。辺境の人々の暮らしを記述していても、そこここに村上春樹節が染み出している。切り取り方が村上春樹なのだなと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
村上春樹の紀行記を呼んだのは初めてだったが、とても面白かった。ギリシャ、トルコのどちらの旅も相当ハードな、大変そうな旅であったが、彼の文章でもってその旅を想像してみると、不思議と楽しそうな印象を受けるのである。
トルコ篇で、道中真っ白なドレスに身を包んだ女の子の一行に遭遇する場面がある。車を止めて話しかけるでもないが、トルコの荒々しい風景の中で突如として現れた予想外の光景に村上春樹氏が思ったこと。素晴らしい叙述だった。こういう世界の捉え方は、ぜひとも参考にしたいと思った。 -
思い出し投稿。過去に別SNSで書いた感想。
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2012.7記。
経済危機の着火点として世界中の顰蹙を買っているギリシャですが、Lonely Planet曰く、この夏訪れるべきか?の問いに対する答えはYES!だそうです。
https://www.lonelyplanet.com/greece/travel-tips-and-articles/77388?fbclid=IwAR0Us_V9IILfZN3RnAdntZosUGzZ2aXeRX15n7vttqNIETHn_Hj5yZ-VAWc
新婚旅行(10年以上前…)で上陸したミコノス島には当時激しく感動したが、クレタ島はじめエーゲ海の他の島々や、アジアと地続きになっていそうな東部の田舎にもいずれ行ってみたいものだ。それにしてもエーゲ海(の中でもアトス半島周辺)の美しさの描写に関しては、以下の文章が秀逸すぎる。
「・・・もちろんただ透き通って青くてきれいというだけの海なら、それはいくらでもある。でもここの海の美しさはそれとは全然違った美しさなのだ。それは何というか、まったく違った次元の透き通り方であり、青さなのだ。水はまるで真空の空間のようにきりっと澄みわたり、そして深い葡萄酒色に染まっている。…(中略)そしてそこに、晩夏の朝の強い陽光がナイフのように激しくつきささり、屈折して見事にはじけ散る。船の影がくっきりとした輪郭を取って海底に映り、揺らぐ。」・・・うーんのんびり2か月くらい旅行したい・・・。 -
ギリシャ・アトスには行きたくなり、トルコには行きたくない(読むだけで十分)という読後。
残念、アトスは女人禁制の島なんだった…
状況としては深刻で冗談も通じないようなシリアスな場面でも村上春樹の描く文章は何か状況を滑稽に伝える。
2023.3.2 -
雨天炎天のトルコ編、チャイと兵隊と羊ー21日間トルコ一周ーを読んだ。
トルコ人はヨーロッパ人でなく、アジア人だという箇所になるほどとなった。
来月イスタンブールに行くので自分ではどう感じるかな?イスタンブールはヨーロッパに近いからそうは感じないかも知れないけれど。人懐っこくて、親切(私たちでいう親切ではないかも)なトルコ人と会うのは楽しみだな。 -
村上春樹の紀行文、いくつか読みましたが
こちらがいちばんハード(かつタフ)な印象を受けました。
日本に住んでいて想像できうる「ハードな旅行」を遥かに超越した別世界を見せてくれます。
ギリシャ編はまだ楽しむ余裕があるのですが、トルコ編は「おお…」とちょっと引かざるを得ないような描写があります。(1988年の事なのでだいぶ違いはあることを差し引いても…)
自然の美しい描写と、なんと言っても現地の人々の描写が生き生きしていて読み応えがあります。写真も、現地の空気が伝わってくるようなものばかりで見応えがありました。 -
村上春樹の随筆は楽しく面白い。とりわけ紀行ものはおも楽しい。
本書は「ギリシャ編」と「トルコ編」の二つで構成されている。
“ギリシャ編”の旅はアトス半島only なのであるが、同地に一点集中しており潔い。知らなかったのだが、同地はギリシャ国においても宗教的自治体として自治を認められているという。ギリシャ正教の修道院が20程あり、修行僧らがビザンチン時代と変わらぬ生活を送っているという。村上春樹とカメラマン、編集者の3人はこの地を訪ね、伝統的で禁欲的な暮らしの一端を垣間見る。このアトス半島、相当な辺境であり、秘境。道路や宿も整備されていなくて筆者らの道行きも難儀を極める。そういう苦労やハプニングもまた村上春樹独特のユーモアで面白く読ませてくれる。
私が個人的に最も面白かったのはある修道院の「 聖人受難の図」を説明される場面。
「 釜茹でにされている聖者がいる( この人はちょっと弱ったなという顔をしている… )。…おなかに焼けた石炭を載せられている人もいる( この人は「 もう何でもいいや」という顔をしている )、わきの下を火で焼かれている人もいる( この人はなんとなくとぼけた顔でしのいでいる )。
そして曰く「 僕なんかまだ受難が足りないのかなという風にも思う 」p76
これらの条り、なんとも秀逸ではあるまいか。
トルコ編もまた相当な辺境を行く。黒海沿岸を東に向かい、アナトリア東部で南下。ソ連(東部)やイラン、イラク国境に程近いところをかすめて西に折り返す。クルド人ゲリラにも遭遇する。この辺の道行きを記録した中で以下の条りに頬が緩んだ。
「 国境の町というのは、みんな何かしら胡散臭いものだが、ここも相当なものである。」p164
ところで、このトルコ辺境への旅は1988年頃に行われたそうだ( テレビでソウル五輪の中継をやっていた )。同じ時期私は中国の西域辺境を独り旅していた。初めての海外旅、1月程のバックパッカー旅であった。(その後幾たびかの個人旅行に赴き、黒海をチラ見したし、モロッコ旅にはマルボロ1カートンを携えたのを思い出す。誰に教わるでもなく、そもそも煙草吸いでも無いのだが、選んだのはやっぱりマルボロなのであった。)
などなど若き日の辺境旅を思いだしたりしたのだった。 -
ギリシャとトルコどちらも過酷な旅で、読んでて気の毒に思った。こういった辛い心情を書くのも上手いなあ。
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「村上春樹」の紀行『雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―』を読みました。
「坂本達」の自転車紀行エッセイ『やった。―4年3ヶ月の有給休暇で「自転車世界一周」をした男』に続き、旅の本で現実逃避です。
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「女」と名のつくものはたとえ動物であろうと入れない、ギリシャ正教の聖地アトス。
険しい山道にも、厳しい天候にも、粗食にも負けず、アトスの山中を修道院から修道院へひたすら歩くギリシャ編。
一転、若葉マークの四駆を駆って、ボスフォラス海峡を抜け、兵隊と羊と埃がいっぱいのトルコ一周の旅へ―。
雨に降られ太陽に焙られ埃にまみれつつ、タフでハードな冒険の旅は続く。
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「村上春樹」の紀行は、5年くらい前に読んだ『辺境・近境』以来なので久しぶりですね。
本書はギリシャのアトスへの旅と、トルコへの旅が収録されており、以下の構成となっています。
■ギリシャ編 アトス―神様のリアル・ワールド
・さよならリアル・ワールド
・アトスとはどのような世界であるのか
・ダフニからカリエへ
・カリエからスタヴロニキタ
・イヴィロン修道院
・フィロセウ修道院
・カラカル修道院
・ラヴラ修道院
・プロドロムのスキテまで
・カフソカリヴィア
・アギア・アンナ―さらばアトス
■トルコ編 チャイと兵隊と羊―21日間トルコ一周
・兵隊
・パンとチャイ
・トルコ
・黒海
・ホパ
・ヴァン猫
・ハッカリに向かう
・ハッカリ 2
・マルボロ
・国道24号線の悪夢
・国道24号線に沿って
ギリシャ正教の聖地アトスを巡る旅と、トルコを一周する旅、、、
旅行先として選ぶには躊躇するけど、一度は足を踏み入れてみたい場所… でも、楽な旅じゃないですよねぇ。
俗世界と隔絶されたアトスの不思議な世界観、死の危険と隣り合わせのトルコの辺境… 行ってみたけど、行くとしたら、なかなかディープな旅になりそうですね。
実際には行けそうにない土地だけに、現実逃避にぴったりの作品でした。 -
飲食するシーンが最高。食べたことがないものも、苦手で食べられないものも。記憶というよりも、一つの鮮烈な感覚として読んでいる実感に繋がってくる。文体をカラダとするならば、見たものを自分の身体で受けとめる旅が、豊饒な身理(しんり)が発する気持ちの表現を支えている。村上作品を読んでいると目と耳で作る空間は言葉だけになり、その語句の連なりに投じられるというかたちで作品世界に誕生するのだが、小説でも紀行文でも、与えられたありあわせのもので最大最良の演奏を著者と読者で共同で達成しようという構えは本質的に同一だと思う。
著者プロフィール
村上春樹の作品





