雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001395

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹の雨天炎天を再度読みました。
    平成二年に出版された、ギリシャのアトス半島にあるギリシャ正教の修道院を訪ねて歩く旅とトルコを一周する旅の旅行記でした。

    ギリシャのアトス半島の旅は険しい山道を通って修道院を訪ねて歩く旅です。
    厳しい天候にも負けず、粗食にも負けず、修道院で出されるルクミ(甘いお菓子)とウゾー(蒸留酒)の水割りを楽しみに村上春樹と同行のカメラマンは旅を続けます。

    トルコは民族的にも地勢的にもいくつかの地域に分かれます。
    東欧の雰囲気を持つ地域、黒海に面する地域、ソ連・イランとの国境の地域、シリアに面する地域、エーゲ海に面する地域。
    それぞれの地域の特色が鮮やかに描かれています。

  • …物事がとんとんと上手く運ばないのが旅である。上手く運ばないからこそ、我々はいろんな面白いもの・不思議なもの・啞然とするようなものに巡りあえるのである。そして、だからこそ我々は旅をするのである。…紀元前後のヨーロッパの文明の要を担っていた彼の地、それも観光地から外れて男二人道なき道を旅します。この紀行文が書かれたのがもう四半世紀以上前、その頃でも結構ドキドキの危ない目に遭う話がトルコの辺境であります。今の世界情勢では、もはや行くこと自体が気狂い沙汰、よっぽどの理由がないと踏めない土地柄でしょう。あゝ、それでも行ってみたいなよその国、ギリシャのアトス半島とトルコ周辺の地図付きなので、この本を私の旅のお供に携え、つらつら眺めて行った気分を味わいます。

  • かなりの数のひとを敵に回してしまうかもしれないが、村上氏の著書はあまり読みたくない。
    何冊か読み、面白さも知っている。だが、村上ファンの勢いに押されて、どうも読む気がなくなってしまう。
    「そんな人におすすめなのが村上氏のエッセイである。」、というのを某ブログで知った。
    「小説の内容が気に入らない人は、彼のエッセイを読むと、普通のおじさんだということが分かる」ということらしい。
    たしかに村上氏が期間限定でオープンしていた「村上さんの~(タイトル失念)」はよく読んでいたし、彼のエッセイは読んだことはない。
    トルコは大好きな国だし、読んでみようということで、手に取った。
    読んでみると、さすが世界の村上、秀逸な文章が目に付く。下記に秀逸だと思ったものを挙げる。

    ・信仰宗教について
    仏教徒と答えるよりは「ハイテク教徒」とか「高度資本主義教徒」と答えておけばよかったのかな、と思ったりする。そういうことについてなら、仏教に関してよりは少しは詳しく説明できる。いかにしてソニー・ウォークマンは誕生し、発展したか、とかね。

    ・下痢について
    その水は僕を無慈悲に打ちのめし、締めあげ、揺さぶった。まったく勝ち目はなかった。この下痢は―詳しい説明は省くけれど―凄かった。

    ・豆スープと黴パンで生きている猫について
    山をいくつか越えると、そこにはキャット・フードなるものが存在し、それはカツオ味とビーフ味とチキン味に分かれ、グルメ・スペシアル缶なんてものまであるのだということを。

    このエッセイを読もうと持ち出した朝、トルコで軍事クーデターが発生した。
    大好きな国でこんなことが起こってしまったという悲しさと、本書でトルコの軍事についての記述や本書が書かれた時も政情が不安定だという記述を読み、今後もトルコの政情(治安)は安定しないだろうと心が重くなった。
    私が旅行した時期は2010年で、なんでも中東が最も安定していた時期らしい。
    すべての問題が解決するとは思わないが、2010年後との治安状態に戻って欲しいものである。

    本書の内容とはずれてしまったが、村上氏の小説が苦手な人も十分楽しんで読めると思う。
    村上氏が本書に書いてあるようなサバイバル旅行をする方だとは知らなかった。
    ひとつ難をいうならば、本の結びが唐突すぎて、続刊があるのかと思ったくらいだ。これも村上式小説美なのかもしれない。

  • 40/335

  • こんなに(作者が)気の毒で、かつ読んでておもしろい旅行記はなかなかいない。


    旅行記というのは、作者がひどい目にあえばあうほど、おもしろくなる。
    特に村上氏の旅行記はそれが顕著だ。
    (村上氏の旅行記は他にもあるけど、ひどい目にあわないでおもしろいのは、おいしい料理を食べられているときと、マラソンを走っているときくらいだ)

    タイトルからして大変さがにじみ出てる。
    「雨天」は、たった3泊4日の旅なのに、雨の中、険しい山道を半ば遭難しながらさまよってヘトヘトになったギリシャ正教の聖地アトスへの巡礼期だ。
    「炎天」は、3週間かけて灼熱で、車の運転は荒くて、ゲリラに囲まれてたばこをせびられて、ホテルで水を飲めば下痢をして、ノープロブレムと言われれま問題だらけで、「もう一度そこに行きたいかといわれれば、今のところ僕の答えはノーだ」というトルコの一周旅行の記録だ。

    さて、これだけ気の毒な旅行記だというのに(旅行した当事者たちはともかく)読んでいるほうは、不思議と自分もアトス、そしてトルコに行きたくなる。
    アトスの修道院で固いパンと冷めた豆のスープを飲みたくなるし、トルコのチャイハネでトルコ人のおしゃべり攻撃に耐えながら日記を書きたくなる。

    なぜかと思えば、村上氏の(ユーモアあふれる)筆致により、村上氏が感じた当地の「空気」が活き活きと表現されているからだ。
    そして、その「空気」を「リアル」に感じることが、旅行の醍醐味だと、村上氏は述べている。
    その旅行感そのものを村上氏と追体験したくなるのだ。

    ギリシャ正教の人もそうじゃない人も、トルコでヴァン猫を見に絨毯店に入りたい人も入りたくない人も、いちど読んで損はない一冊。
    (なお、僕はそうまでしてトルコには行きたくない)

  • 作家がなぜこの地域を選んだのかよく分からない(知らないといった方がより適切かな)のだが、この間再読したギリシア関係の本の記憶がまだ残っていてその内容は非常に興味深かった。
    日本ではあまり意識されない(しない、できない、する能力が無い?)歴史の中の現在を、彼の地で暮らす人々は半ば本能的に、半ば訓練の結果として理解していると思われ考えさせられるところ大いにありです。
    ところでこの手の本には『深夜特急』という”山”が存在していると思っておるのですが、それと比するに何だか全ての間合いが微妙に遠い感じがして『深夜特急』ほどの評価とはならない次第で。

  • 地球上には、まだまだ辺境と呼ばれるところがたくさんあるのだということを感じさせられた。
    前半のギリシャ・アトスでは、カビの生えたパンを食べるところが、後半のトルコでは、子どもたちの群がり来る村を車で通り抜けるところとか、国道24号線を車で走る様子などは、まるで映画を見ているような迫真性であった。

  • ギリシャ正教の聖地であるアトス島と、トルコを1周した時の旅行記。
    たぶん読むのは2回目。

    何度読んでも、アトス島の教会に飾られている聖人の拷問の絵の描写に笑ってしまう。「この人はちょっと弱ったなという顔をしている」とかw
    アトス島は女性立ち入り禁止なんだけど、男装して入る人もいるらしい。そこまでの情熱はないけど、行ってみたいなあ。
    ウゾーとルクミとギリシャコーヒーの描写を読んでいるだけで、疲れた胃に色々染み込んでくるような気がしました。

    トルコはアトス島に比べるとなんとなく印象が弱いんだけど、そんなにいいこと書いてあった気がしないなあ。
    どうしても親日国のイメージがあるので、彼の描く少し暗い雰囲気の立ちこめるトルコは新鮮でした。

  • 村上春樹のギリシャ・トルコの旅のエッセイ。
    その旅で出会う人、食べ物、景色が、現地の空気とともに伝わってくる一冊。
    実は小説が何だかしっくりこなくて、エッセイならどうかというのが読み始めたきっかけ。
    カチカチのおいしくないパンに辟易したり、それでも何もないよりましかと苦い顔して食べたり、現地のウォーターサーバーの水にあたってしまったり…。現地の太陽の強さや、不条理な天候に悪路、そういうものにぶつぶつ文句を思いながら旅する様子に、何だか共感。
    何より景色の描写が美しい。
    飾った言葉ではないけれど、そこに綴られた言葉は、村上春樹氏が見たものを網膜に描き出してくれました。

     ”ヴァン湖の湖面が見えてきたのはもう夕方だった。
    僕らはもうくたくただったが、でもヴァン湖の夕暮れは文句なしに美しいものだった。空も水も山際も、何もかもがオレンジに染まり、空と稜線が触れ合うあたりはまるで火のような真紅に燃えあがっていた。湖面はしんと静まりかえり、漣にあわせて細かい粉のような光が音もなく一面に揺れていた”
    -本文 p.144より引用-

  • 旅がしたくなる。
    しかもちょっとハードめな。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月刊行。2019年9月10日発売の『文藝春秋』10月号で「至るところにある妄想 バイロイト日記」を寄稿。

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