- 本 ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101001500
感想・レビュー・書評
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村上春樹先生の作品、初挑戦です!はっきりとは理解できないのに、不思議と読了感の良い作品だった。どの作品にも楽器を鳴らし終わった後の音の余韻みたいなものを感じた。
頭で理解する読書ではなく、心で感じる読書だった。今まで読んだ短編集の中でも、グッと心に残るような作品。詩を読んだような、感覚に近いかも。結末がしっかりしている作品以外の良さを感じることができた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
個人的に好きだったものは
『タイランド』『神の子どもたちはみな踊る』
どの短編も孤独を抱えた人が主人公で、かつ問題も抱えてたりするのだけれど、終わり方がどれもほんのちょっと明日(生きる)というものが見えるような感じのするものであったと思う。それは『タイランド』の会話で「生きることと死ぬることはある意味では等価なのです」を表すかのように。
タイランドは印象に残るセリフが多かった。「生きることだけに多くの力を割いてしまうと、うまく死ぬることができなくなります」「今は我慢することが必要です。言葉をお捨てなさい。言葉は石になります。」
神の子どもたちはみな踊るでは善也の踊り出す描写からの終わり方が好き。 -
全て良かったです。蜂蜜パイが特に好き。
積極的でリーダーシップを取る高槻は自分から淳平に声を掛け友達になった。淳平は暇があれば部屋で本を読んでいるような人見知りするタイプ。そして同じように高槻は淳平を伴って小夜子に声を掛け、いつも三人は一緒だった。
この短い頁に、友情、恋愛、性が濃く描かれていた。三角関係と言ってしまっては安っぽくなってしまう。
甘酸っぱく、ほろ苦い、青春(人生)というのは、こうもうまく噛み合わないのだろう。もし自分が先に告白していたらとか。ああだったらこうなっていたかという、タラればは誰にでもあるし、それが人生の醍醐味にもなっているはず。
しばらく、頭の中でこの曲が流れた。
伊勢正三さんの「君と歩いた青春」。
君と始めて出会ったのは僕が最初だったね。君と歩いた青春が幕を閉じた。君はなぜ男に生まれてこなかったのか。
1995年、阪神淡路大震災を絡めて描かれている短編 -
連作短編集。
カエルくんが良い。 -
阪神淡路大震災が起こった1か月後の1995年2月、日本や世界の各地で生活する人たちの暮らしや心情の変化を綴る6つの短編集。
この本の登場人物たちの中で、地震の揺れを体感したり、生活上直接震災の影響を受けた人はいない。彼らが思い描く震災のイメージはどこか現実感がなく、とりとめがない。
だからかもしれないが、震災は彼らの中で得体のしれない大きな不安となって生活を少しずつ侵食していく。
ある人はこれまでゆるぎないと思っていた夫婦の日常が急に断ち切られ、ある人はこれまで胸にしまっていたどろどろとした憎しみが顕在化する。夢とも現実ともつかない世界で大きなみみずと戦う者がいれば、先送りにしてきた決断を行う者もいる。
私は当時関西に住んでいたので、この本の登場人物たちと比べて震災はもう少し具体的な恐怖として記憶している。だからこの本を読んでまず感じたのは、被災地から遠くにいた人たちは当時こんな風に震災のことをとらえていたのか、という新鮮な驚きだった。
震災をテーマにした本を書く場合、直接被害にあった人たちの心情や生活の様子を描くことは多くても、震災から遠く離れている者たちの精神的な影響を描くことはあまりないのではないだろうか。
日本ではその後東日本大震災があり、全国各地でも大きな地震が起きているが、阪神淡路大震災の揺れを経験している私は、被災地から遠く離れていても、この本の登場人物たちのような漠然とした不安を持つのではなく、自分が体験した恐怖をもって被災地のことを思う。自分がもう感じることのない感覚を想像で体験することができるという意味で、小説の醍醐味を味わえたような気がした。 -
震災後の人々の生活を描いた短編集。震災を皮切りに別れた人、出会った人、むすびつきが強まった人、色々な話が展開されるがその流れの中に存在する阪神淡路大震災。あの地震後というのは、あの事件後、あの出来事のように世界の様相が変わってしまった部分。我々も東日本大地震後、コロナ後と変わってしまった日常、戻らない日常の流れへの中に生きている。色んな段階で自分の人生と結びつきやすい作品集、焚き火の話とクマの話が、特に好き。
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阪神淡路大震災への想いがそれぞれの短編に著されている。
あれから、まだまだの災害を経ても私達はまたいろんな感情を抱えて生きてゆかなければならないんだ。
文章がとても洗練されていて文学を味わうということ身も心も満たされる思い。 -
神戸に生まれ育った、村上春樹氏が阪神淡路大震災を一つのテーマとして、地震のあとに書いた6つの短編をまとめた本。
「UFOが釧路に降りる」
震災のニュースに見入っていた妻から突然別れを切り出された小村は、荷物を届けるために釧路へ向かい、二人の女性と出会う。
「アイロンのある風景」
流木の流れ着く街に住み、焚き火に惹かれる”焚き火フレンド”の三宅さんと順子。三宅さんは神戸に家族のいる人だった。
「神の子どもたちはみな踊る」
とある宗教の熱心な信者である母を持つ、”神の子ども”善也。奔放な過去を持つ、美しい母は神戸へ布教に行く。”神の子”とされる善也は父を探しにいく。
「タイランド」
タイに休暇できたとある女性病理医の話。彼女と因縁をもつ相手は震災の時、神戸にいた。
「かえるくん、東京を救う」
東京をみみずくんの起こす、大地震から救うべく、片桐とカエルくんは闘う。
「蜂蜜パイ」
大学時代に始まった不思議な友人関係。蜂蜜をとるのがうまい熊のまさきちと、鮭をとるのがうまい熊のとんきちの友人関係はいつまで続くか?
どれも話としては不思議で取り止めがない。
でも死生観を本当に問われるようになったとき、すごく重要性を増すものがあると思う。
いろんなことが、自分と離れた世界で行われているように見えて、でも実は結構近い。
そんなことに気づくのは、なにか大きな事象に揺さぶられたとき。
ここで取り上げられるのはどれもそういう話。 -
『タイランド』と『蜂蜜パイ』が好きです。
テーマは〈孤独と絆〉だと感じました。
読み手がよく知っているような気持ちにさせる主人公の描写により、物語にぐいぐい引き込まれます。
モヤモヤしたりザワザワしたりドキッとしたり…主人公たちと自分との間に特別な絆というか、同化みたいなものを感じてしまいます。非現実なスパイスもあり(でもそう感じさせない)、短編集で読み易いのですが、どのお話も読了感が大きく大満足の一冊です。 -
久しぶりに読んだ村上春樹の短編作品。
何とも言えない世界観、この世界観が好きだ。
この小説が発売されたのは1995年、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件など、世間が暗くなるような出来事が多く起こった時期で、そんな中で、村上春樹が当時の自分の思いをこの作品に投影しているような気がしました。
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