神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 1002
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001500

作品紹介・あらすじ

1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、世界はしずかに共振をはじめる…。大地は裂けた。神は、いないのかもしれない。でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた-。深い闇の中に光を放つ6つの黙示録。

感想・レビュー・書評

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  • 全て良かったです。蜂蜜パイが特に好き。
    積極的でリーダーシップを取る高槻は自分から淳平に声を掛け友達になった。淳平は暇があれば部屋で本を読んでいるような人見知りするタイプ。そして同じように高槻は淳平を伴って小夜子に声を掛け、いつも三人は一緒だった。
    この短い頁に、友情、恋愛、性が濃く描かれていた。三角関係と言ってしまっては安っぽくなってしまう。
    甘酸っぱく、ほろ苦い、青春(人生)というのは、こうもうまく噛み合わないのだろう。もし自分が先に告白していたらとか。ああだったらこうなっていたかという、タラればは誰にでもあるし、それが人生の醍醐味にもなっているはず。
    しばらく、頭の中でこの曲が流れた。
    伊勢正三さんの「君と歩いた青春」。
    君と始めて出会ったのは僕が最初だったね。君と歩いた青春が幕を閉じた。君はなぜ男に生まれてこなかったのか。

    1995年、阪神淡路大震災を絡めて描かれている短編

  • 阪神淡路大震災が起こった1か月後の1995年2月、日本や世界の各地で生活する人たちの暮らしや心情の変化を綴る6つの短編集。

    この本の登場人物たちの中で、地震の揺れを体感したり、生活上直接震災の影響を受けた人はいない。彼らが思い描く震災のイメージはどこか現実感がなく、とりとめがない。
    だからかもしれないが、震災は彼らの中で得体のしれない大きな不安となって生活を少しずつ侵食していく。
    ある人はこれまでゆるぎないと思っていた夫婦の日常が急に断ち切られ、ある人はこれまで胸にしまっていたどろどろとした憎しみが顕在化する。夢とも現実ともつかない世界で大きなみみずと戦う者がいれば、先送りにしてきた決断を行う者もいる。

    私は当時関西に住んでいたので、この本の登場人物たちと比べて震災はもう少し具体的な恐怖として記憶している。だからこの本を読んでまず感じたのは、被災地から遠くにいた人たちは当時こんな風に震災のことをとらえていたのか、という新鮮な驚きだった。
    震災をテーマにした本を書く場合、直接被害にあった人たちの心情や生活の様子を描くことは多くても、震災から遠く離れている者たちの精神的な影響を描くことはあまりないのではないだろうか。

    日本ではその後東日本大震災があり、全国各地でも大きな地震が起きているが、阪神淡路大震災の揺れを経験している私は、被災地から遠く離れていても、この本の登場人物たちのような漠然とした不安を持つのではなく、自分が体験した恐怖をもって被災地のことを思う。自分がもう感じることのない感覚を想像で体験することができるという意味で、小説の醍醐味を味わえたような気がした。

  • 連作短編集。
    カエルくんが良い。

  • 神戸に生まれ育った、村上春樹氏が阪神淡路大震災を一つのテーマとして、地震のあとに書いた6つの短編をまとめた本。

    「UFOが釧路に降りる」
     震災のニュースに見入っていた妻から突然別れを切り出された小村は、荷物を届けるために釧路へ向かい、二人の女性と出会う。
    「アイロンのある風景」
     流木の流れ着く街に住み、焚き火に惹かれる”焚き火フレンド”の三宅さんと順子。三宅さんは神戸に家族のいる人だった。
    「神の子どもたちはみな踊る」
     とある宗教の熱心な信者である母を持つ、”神の子ども”善也。奔放な過去を持つ、美しい母は神戸へ布教に行く。”神の子”とされる善也は父を探しにいく。
    「タイランド」
     タイに休暇できたとある女性病理医の話。彼女と因縁をもつ相手は震災の時、神戸にいた。
    「かえるくん、東京を救う」
     東京をみみずくんの起こす、大地震から救うべく、片桐とカエルくんは闘う。
    「蜂蜜パイ」
     大学時代に始まった不思議な友人関係。蜂蜜をとるのがうまい熊のまさきちと、鮭をとるのがうまい熊のとんきちの友人関係はいつまで続くか?

    どれも話としては不思議で取り止めがない。
    でも死生観を本当に問われるようになったとき、すごく重要性を増すものがあると思う。
    いろんなことが、自分と離れた世界で行われているように見えて、でも実は結構近い。
    そんなことに気づくのは、なにか大きな事象に揺さぶられたとき。
    ここで取り上げられるのはどれもそういう話。

  • 『タイランド』と『蜂蜜パイ』が好きです。
    テーマは〈孤独と絆〉だと感じました。
    読み手がよく知っているような気持ちにさせる主人公の描写により、物語にぐいぐい引き込まれます。
    モヤモヤしたりザワザワしたりドキッとしたり…主人公たちと自分との間に特別な絆というか、同化みたいなものを感じてしまいます。非現実なスパイスもあり(でもそう感じさせない)、短編集で読み易いのですが、どのお話も読了感が大きく大満足の一冊です。

  • 東京駅で新幹線を待ちながら、手持ちの本を既に読み終えていたことに気づく。慌てて、構内の小さなブックストアに入って、店頭で目につくのは実用書ばかり。小説のコーナーにあるものも流行りの推理小説やシリーズものばかりで諦めかけたが村上春樹のゾーンを発見。なんだかんだで間違いがないからと購入したがミニマルなのに煌びやかな素敵な作品群だと感じた。
    「面白い」の意味を起承転結のはっきりしたものと捉えるなら「蜂蜜パイ」は中編をぎゅっと凝縮した感じがある。
    途中の「淳平が書く短編小説は、主に若い男女のあいだの報われない愛の経緯を扱っていた。結末は常に暗く、いくぶん感傷的だった。」はまさに「蜂蜜パイ」の結末それ自体を暗示しているかのようだったが結末は意外。

    「かえるくん、東京を救う」は節々で出てくるかえるくんの引用が知的。アーネストヘミングウェイの「僕らの人生は勝ちかたによってではなく、その破り去り方によって最終的な価値を定められる」と言う発言はどこからきたものなのか、調べてもわからなかったけど大切にしたい言葉。

    なんだかんだで一番こころに残ったのは「アイロンのある風景」かな。三宅さんや順子のみならず現実においても多くの人にとって焚き火がカタルシスであるのはそれが死への憧憬のメタファーだからだろう。燃え盛る炎に生の煌めきを見るのではなくたゆたうように燃え、いずれは消える炎にこそ惹かれる。

    新幹線で着いた先で友人達とビールを飲みながら見た無数の花火を見ながらそんなことを考えた。

  • 再読。さくっと読める短編集。阪神・淡路大震災を題材として書かれている。
    そのため、各話の背景には、どことなく登場人物たちの不安と孤独を感じさせる。

    以前、他の短編の感想でも書いたと思うのだが(確か、ユーモラスで可愛らしい羊男が出てくる、ふしぎな図書館)、短編集ではあるが、しっかりと"村上春樹み"を感じることが出来る。
    ちょっと村上春樹を読んでみたいと言う人には、他の短編集よりも、こっちをおすすめしたいと思う。

    私が好きなのは、アイロンのある風景とタイランド。

    表題作について。
    母親がとある宗教にハマり、息子も布教活動をするのだが…宗教から抜けて云々と言う話。
    幼い頃から父親は無く、母親から「あなたのお父さんは天におられる"お方さま"なのよ」と聞かされて育つが…
    この辺が、1Q84の青豆を想像させる。勿論、細部は異なるのだが。


    私は、村上春樹作品には"人生における曖昧さ"と言うテーマがあるのではと、ずっと思っている。結局その後はどうなったのだろう。あれはどういうことだったのだろう。そう考えても、答えが出ないことは沢山あると思う。そういうのを受け入れていくしかないこともあるし、時間が解決してくれることもある。
    人によってはモヤモヤするかも知れないが、私はそれがとても好きなのだ。

  • 阪神淡路大震災を題材とした短編集。
    東日本大震災を元にした文章は書いたのだろうか。

    震災のニュースを見てどことなく不安で定まらない気持ちの人たちが自分のあり方を見つけるような話。
    全体的に暗くて会話が上滑りしているような感じ。

    短編は書き込みが出来ないから物語が「痩せる」と表現していたのがなるほどと思った。

  • 久しぶりに読んだ村上春樹の短編作品。
    何とも言えない世界観、この世界観が好きだ。
    この小説が発売されたのは1995年、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件など、世間が暗くなるような出来事が多く起こった時期で、そんな中で、村上春樹が当時の自分の思いをこの作品に投影しているような気がしました。

  • 孤独なんて、みんな同じ。何も気にすることはない。
    それに、実際中身なんてからっぽだ。
    何も気にすることはない。

    自然のもたらす災害のこと思うと、人間なんてちっぽけな存在だ。
    それでも心は石ではなく、人は温かいものを求めているのだね。
    最後の「蜂蜜パイ」で、ほっこりとした気持ちになれてよかった。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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