もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2855
レビュー : 341
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001517

作品紹介・あらすじ

シングル・モルトを味わうべく訪れたアイラ島。そこで授けられた「アイラ的哲学」とは?『ユリシーズ』のごとく、奥が深いアイルランドのパブで、老人はどのようにしてタラモア・デューを飲んでいたのか?蒸溜所をたずね、パブをはしごする。飲む、また飲む。二大聖地で出会った忘れがたきウィスキー、そして、たしかな誇りと喜びをもって生きる人々-。芳醇かつ静謐なエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 頭をぜんぜん使わずに楽しく読める春樹のエッセイ、大好きです。

    ウイスキーに、ジャズとロックとクラシックといった音楽、映画、マラソン、アメリカ、旅、そしてもちろん文学。彼の好むものははっきりとしていて、たとえばツイッターのプロフィールなんかで要素をつらつら並べたてて自己紹介しようとする人ってたくさんいるじゃん?春樹はツイッター的プロフィールがめちゃくちゃ書きやすそうな人で、だけど確実に記号を並べて自己紹介なんてしない人で、俗世にまみれたわたしが信頼出来るのはこの人だけかもしれない。

  • 自分自身に買ったはずなのに、
    いつも誰かにあげている。

    そうしてまた買う。

    お酒を愛する全ての人に。

  •  村上春樹は夫婦でアイルランドを旅しようと計画していたところに、ウイスキーについて書く仕事が持ち込まれる。それでは、ということで出かけた夫婦のアイルランド・ウィスキー紀行文。アイルランドはウイスキー発祥の地。この地で造られるウイスキーは、モルトウィスキー、しかもシングルモルトが信条だ。大麦の麦芽だけを減量とし、昔ながらの蒸留釜でつくる。洗練された(と言えば御幣があるが)ブレンデッドウィスキーと違い個性がはっきりしている。麦と水が違えば、ここまで違うものかというほど違う。そのモルトウイスキーを作り続ける蒸留所を訪ね、パブを訪ねる。そこで語られるうんちくや信条は、情報が蔓延している現代ではどことなく何度も聞いたことのあるような話ばかり。
     アイリッシュウイスキーをテーマにした本も数多く出ている。しかし村上の話は、そんな表面的なところで終わらない。物語となりそうな出来事を切り取り、いつものように穏やかな、ふくよかな文章にして見せてくれる。 ガイドブックを読むのなら、きちんと見る目を持ち、語ることのできる人が書いたものを読みたい。そういった意味で、これはもっとも贅沢なガイドブックの一冊であるといっていい。

  • アイルランドのパブで、一人の老人がジェイムソンだかタラモア・デューだか何かアイリッシュを頼んで、一杯のウイスキーを飲むのに過不足ない時間をかけて、一杯のウイスキーを飲んだ、という箇所が良かった。だらだら飲むでもなく、煽るように飲みまくるでもなく、誰かと話す口実でもなく。酒の為の酒、酒の為の時間。

  • 『しかし残念ながら、僕らはことばがことばであり、ことばでしかない世界に住んでいる。僕らはすべてのものごとを、何かべつの素面のものに置き換えて語り、その限定性の中で生きていくしかない』―『前書きのようなものとして』

    何かをうまく言い表せたと思う気分の時がある。それが本当にうまく何かを言い表せたのかどうかとても心許ないのだが、その気分だけは忘れずにいる。そして当然の如く何を言ったかはきれいに忘れている。村上春樹を読むといつもそういう気分のことを思い出す。もちろん村上春樹の文章についてケチをつけているのではない。むしろあれこれ言いたいのだ。しかし、いざ何かを言おうとすると何を言ってよいのか解らない。

    それを捉えところがない、と言ってしまうのはとても簡単なこと。彼我の差を全く無視して暴言を吐くなら、ひょっとしたらノーベル文学賞の選考委員もまたそんな言葉にならないもどかしさを評価しあぐねているのかも知れない、等と思う。でも何かを言われたこと、文脈の中に紛れていること、そんなはっきりとした言葉にならないものがその小説の中にあることは間違いなく理解できるのだ。

    それに比べるとこの本の村上春樹はとても分かり易い。人の手仕事の大切さ、その成果の儚さ、その土地に行かなくちゃ判らないことの大事さ。そんな身体的な感触による理解の大切さを率直にかつ冗舌に語っている。この解り易さが、少しばかりお節介で鼻につく人もあるだろう。自分も普段なら天邪鬼で人に言われたことには敢えて異を唱えたい。けれど村上春樹の言葉には、何か抗い難いものがある。

    「汽車にのってあいるらんどのような田舎へ行かう」

    何十年も前に国語の教科書で読んだフレーズがしきりと頭の中で繰り返し響き続ける。もちろん全ては変わっていく定めとは分かっているけれど、見た事すらない憧れの土地の原風景は永遠に変わることがない。それは自然に抗う人の営みがあってこそなのだなと改めて思う。

  • 自分の趣向を考慮すれば、本来なら真っ先に読んでいるはずの本。

    いま思えばあえて読まずにいたんじゃないかと思う。
    そう、この本は書店の本棚でずっと熟成していて、ひっそりと読まれる時を待っていたに違いない。

    アイルランドの長閑な風土と上質なシングルモルトの香りが感じられる。悔しいけどいま無性にウィスキーが飲みたい。

  • この本を読み始めた時は、バーボンをロックで飲んでいた。
    この本を読み終わった時は、シングル・モルトをトゥワイスアップで飲んでいた。
    そして、棚にはいつの間にかアイラ・ウィスキーの瓶が増えていた。

    この本を再読した時にはきっと、アイラのシングル・モルトを生牡蠣に垂らして食すことになるだろう。
    そして、10回程読み返したならば、僕もウィスキーの聖地巡礼へと旅立つことになるだろう。

  • とにかく文が上手で、まるで一緒にウィスキーをのんでいるような錯覚に陥ります。

    スコットランドにアイルランド。
    その名前を聞いただけで、
    「誇り高く、頑固で、豊か」「文明に毒されず、自分の時間を自分で作る」、そんなイメージが浮かぶのですが、この本を読んで「まさにその通りだったんだ」と改めて思いました。

    ウィスキー作りに一生をかけ、
    拘りをもって、作る続ける人々の時間は悠久です。
    「今、僕が作っている酒を誰かが飲む頃、僕はもう生きていないかもしれない。
    しかし、
    ここに僕があったことの証明をこのウィスキーはしてくれる」と知人の職人は村上に言う。
    ウィスキー職人の数ほど、
    ウィスキーには味があり、顔があるのでしょうね。
    作る前から出来た時を想定して、
    ゆっくり、長く、熟成させる、その情熱とロマン。
    こんな素敵な「もの」を祖末に飲んではいけないと、思いました。
    秋の夜長。
    夫と本を読みながら、ゆっくり、じっくりとウィスキーを嗜む時間があっても良いな♫
    なぁんて、想像しながら読み進むのです。

    そして、
    夫と一緒にいつか行ってみたい。
    そして自然に身をまかせ、時間のながれるままに任せ、
    ウィスキーを楽しめたらどんなに素敵だろうと思ったものです!!!

  •  期待していたとおりの本だった。アイラ島のシングルモルトを飲みながら想いを馳せてきた空気を、彼の地で育つウィスキーの心を、感じさせてくれる本だった。
     「うまい酒は旅をしない」 本当にそうだと思う。そこへ行くことがかなわないから、旅してきた酒が連れてきた産地の空気を風味を息吹を一生懸命感じようとする。たぶん酒は故郷を恋しがっていて、それを飲もうとする私たちに自分の素晴らしい故郷について語ってくれている。だからそれを聞きのがすまいとして酒に向かう。
     ボウモアを造っている蒸溜所は古式豊かな造り方を決して変えずにずっと続けているそうだ。沢山の人が自分の手を使ってつくる。ラフロイグの蒸溜所は正反対。ステンレスの発酵槽にコンピュータ制御された製造工程。おいしいウイスキーを時代に合わせて造る。ボウモアにラフロイグ、そしてカリラ。手元にある3本のアイラのシングルモルトに手を出さずにこの本を読むのは骨が折れた。

    • jamさん
      ウィスキーはほとんど飲まないけど、とても興味あるタイトル。さっそく図書館予約入れました。
      ウィスキーはほとんど飲まないけど、とても興味あるタイトル。さっそく図書館予約入れました。
      2012/04/22
    • SnowyYukiさん
      これを読んだら飲んでみたくなるかも。写真も綺麗。
      これを読んだら飲んでみたくなるかも。写真も綺麗。
      2012/04/22
  • 人生は、旅ですね。
    よい旅を!

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。2019年8月7日発売の『文学界』でロングインタビュー「暗闇の中のランタンのように」掲載。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月末に刊行予定。

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