小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)

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レビュー : 51
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001661

作品紹介・あらすじ

「良き音楽」は愛と同じように、いくらたくさんあっても、多すぎるということはない――。グレン・グールド、バーンスタイン、カラヤンなど小澤征爾が巨匠たちと過ごした歳月、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーの音楽……。マエストロと小説家はともにレコードを聴き、深い共感の中で、対話を続けた。心の響きと創造の魂に触れる一年間にわたったロング・インタビュー。

感想・レビュー・書評

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  • ジャズバー経営の経歴をもつ村上春樹さんだが、クラシック音楽の視聴歴もそれに劣らないくらい長く、かつ深い。

    小澤征爾さんが病気療養を余儀なくされた期間中、様々なレコード演奏を聞きながら、小澤さんが師事したカラヤン、バーンスタインがどうやってテンポの取り方やオーケストレーションを作っていったのかマエストロの口から語られる。プロならば当然の常識だろうけれど、一般の音楽ファンにとっては新鮮な知見が披露され興趣はつきない。

    聴き手である村上さんのクラシック音楽への理解の深さがなせるわざか、小澤さんへの質問が絶妙で、お二人のやり取りを追っているうちに、こちらも一緒に現場で音楽を聴いているような感覚につつまれる。
    まさに奇跡のインタビュー。


    白眉は、本書終盤に出てくる、小澤さん主宰のスイスでの若手演奏家に対する弦楽四重奏のトレーニング。
    最初はバラバラだった4つの音が、互いの音をきき、プロからの細かなアドバイスを受けながら、全体として人を感動させる「音楽」に仕上がっていく。

    クラシック音楽を聴く喜びを堪能できる一冊に仕上がった。

  • 同じかもしれないし、違うところもある、二人の話。

    村上春樹のエッセイが好きだ。ジャズが好きなのは知っていたけれど、クラシックにも詳しいとは。レコードを聴き比べたことがないし、それほどオーケストラに思い入れもないけれど、二人の対談は色々と感心することが多かった。指揮者の話、小澤さんの考え方だけでなく、バーンスタインやカラヤンほかの指揮者、またソリストのことや、弦楽四重奏の魅力など、今まで注目していなかった世界を知ることができた喜び。

    「良き音楽」とは。楽譜を演奏するとは。指揮とは。考えたら、楽譜を書いた作曲者の意図は、もしかしたら指揮者や演奏者が思っているのと、全然違うかもしれない。それは、作家が描いた物語が、全然意図していない、もしくは意図していたものを超えて、読者に読まれるのと似ているのかも。でも、音楽は、作曲者、指揮者や演奏者だけでなく、聴く人というポジションもある。

    異なるかもしれないけれど、通じ合えるかもしれないところ。それを探すのは、ロマンだな、と。

  •  ハルキストでも熱狂的なオザワ信者でもないが、それでも、読み進むうちにどんどん膝を乗り出すように2人の対話に引き込まれてしまった。

     音楽家は、楽譜に書かれた音符を通し作曲家と対話することで音楽と向き合う。それに対して、楽器を弾かず、ろくすぽ譜面も読めず、だが人一倍音楽を愛する人間は、とかく聴こえてくる音楽のむこうになにかしら文脈のようなものを読み取ろうとするものである。ここでの村上春樹の立場は、いわばそうした「音楽愛好者の代表」にほかならない。ぼく自身、まさにそのようなごくふつうの「音楽愛好者」なので、この本の中での村上春樹の発言やその意図については手に取るようにわかる。

     ふつう、おなじ「音」について語ったとしても、こうしたまったく異なるアプローチの仕方で音楽とつきあってきた者同士の対話は失敗に終わることが多い。
     ところが、会話が「滑ってる」という印象を受けないどころか、むしろ「奇跡」と呼んでよいほどに濃い対話が生まれているのは、それが一流の音楽家でありながら誰よりも強い好奇心と行動力をもつ小沢征爾と、音楽愛好者でありながら作家として誰よりも深い洞察力と多彩な語彙をもった村上春樹という選ばれた2人によるものだからにちがいない。元々、音楽を離れたところで2人が友人であったという事情も大きいだろう。

     ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をめぐっておこなわれた「第1回」のインタビューでは、村上春樹による巧みなリードの下、「指揮者という仕事」についてその手の内を明かすようなエピソードがさまざま語られていて興味深い。たとえば、太く長い「線」をつくることをなにより重視するカラヤンの音作りの指向性(文中、小澤は「ディレクション」と呼んでいる)は、たしかに指揮者カラヤンの音楽性を端的に表現したものである。

     いっぽう、第3回「1960年代に起こったこと」を読んで、ぼくは、他にもたくさん優れた才能の持ち主がいるなかでなぜオザワが世界の頂点にまで登り詰めることができたのか、その「秘密」の一端に触れえた気がした。それは小沢征爾の天性の「人間力」、そしていい意味での「鈍感力」ではないか。
     そのことは、第5回「オペラは楽しい」にもつながっている。しばしば「総合芸術」といわれ、音楽以外にも文学、美術、歴史などヨーロッパの文化や伝統に対する深い理解を求められるその特異な世界にあって、楽譜を深く読み込む力さえあれば十分通用することを小澤は証明してみせた。これは、もう、本当にすごいことだと思うのだけれど、ザルツブルグで、しかも『コシ・ファン・トゥッテ』(!)で彼をオペラデビューさせたカラヤンの慧眼にも驚かずにはいられない。

     だが、いちばん興味深かったのは、小沢征爾がスイスで開催している若い音楽家たちのためのセミナーについて語り合った第6回「決まった教え方があるわけじゃありません。その場その場で考えながらやっているんです」。現地で視察した村上春樹によるレポートも併せて収められている。
     技術を超えたところで、はたして「音楽」はどのように教えられるのか、教えられたものはどのように咀嚼され、継承されるのか。音楽家にとってはあたりまえでも、音楽愛好者にとっては秘密めいた儀式のようにもみえるそのやりとりが、「文字で」書かれていることにまず感動をおぼえる。目の前に、予期せぬご馳走を並べられた気分。
     「それはちょっと僕には聞けないことだし、聞いてもきっと正直には言わないだろうな」。村上春樹が、セミナーに参加した東欧人+ロシア人からなるクアルテットに「どうして(自分たちのルーツとは疎遠な)ラヴェルの楽曲をあえて選んだの?」と質問したと聞いたときの小澤の反応である。
     単身ヨーロッパに渡り、「東洋人がなぜベートーヴェンやモーツァルトを演るのか? バッハは理解できるのか?」と言われながら現在の地位を得た小沢征爾の胸中には、そのときさまざまな思いがよぎったことだろう。そして、なによりも大切なのは、音楽と深いところで対話すること。それさえできれば、どこに行っても通用する。彼が若い音楽家たちに伝えたいのは、あるいはそういうことかもしれない。

     文庫版の付録には、一度は引退を決めたジャズピアニスト大西順子を小澤がサイトウキネンフェスティバルになかば強引に引っ張り出し、共演を果たした際のエピソードが明かされている。そんな出来事があったとはまったく知らなかったのが、たまたま入った喫茶店で小澤・大西両氏の打ち合わせ場面に遭遇したぼくとしては、とても興味深かった。

     たぶん、いずれまた読み返すであろう刺激的な一冊。

  • 村上氏がジャズに造詣が深いのは知っていたけど、小澤氏からこれだけ引き出せるほどクラシックにも造詣が深いとは。

  • 文章のリズムがいいのかスイスイと読めた。本文中にもあったけど、まるで音楽から文章のリズムを学んだかのように。面白かったのが、いろいろライブやレコードで聴き比べて論理的に突き詰めて考える村上春樹と、音楽をすっと自然に自分の中に取り込んでいるので、しばし村上春樹の言葉に沈思黙考する小澤征爾の対比。黙考したあとは、味わいのある言葉が帰ってくるのもまたいいなあ、と。そこまで深く音楽を聴きわけ、感じる喜びを得られない身には、別の誰かがそう感じたことを読むのは一種の喜び。バーンスタインのエピソードや、ストラヴィンスキー「春の祭典」改訂をめぐる一幕、カズオ・イシグロの小説と大西順子の関係などなど興味深かった。ぶっ飛んだ映画だというケン・ラッセル「マーラー」、大西順子トリオと小澤征爾指揮サイトウキネンオーケストラのラプソディ・イン・ブルー、ヒナステラの「エスタンシア」は触れてみたいと思った。

  • クラッシックは聴かないので何話してんだかよくわからないんだけど、小澤征爾がすごすぎてわからないながらもなんかすごいことだけはわかった。
    とにかくよく偉い人に気に入られていい仕事に巡り合えてるみたいなんだけど、本人の努力と才能もあるんだろうけど、きっとものすごい人間的魅力がある人なんだろうなー。

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  • 2人のやりとりがものすごい。

    マーラーのくだりが特に面白かった。
    カラヤンやベームが、その雑多性や猥雑性、分裂性が生理的に我慢できなくて、自分の音楽に適した容れ物になるものしか演奏してないーとか、
    ボストンの演奏はレベルの高いチームプレーでオケの音から外れるようなことはしないが、マーラーの場合は必ずしもそれが正しいとは限らないーとか、
    リヒャルトはドイツ音楽を辿ってくればその流れで読めるけど、マーラーはまったく新しいアングルが必要になってくるーとか。

    音楽教室の話は、自分もカルテットやクインテットをやるので、頷ける所が多く、気持ちが引き締まった所でもある。
    早くチェロを弾きたくなった。
    弦楽四重奏ができなければ、何もできない。


    「みみずくは黄昏に飛びたつ(しかもこちらもインタビュー本)」を読んでいた時に行った梟書茶房で、案内された席になんと!設置されていたため、思わずその場で読破。
    引きの強さというかなんというか。クラシックやってて春樹も好きな私としてはずっと気になっていた本ではあったのだけど、この出会い方には運命的なものを感じてしまった。

  • もう少し音楽に触れてから読み直したい。
    それでも全体に心地よく、ところどころでおもしろい。

  • とても楽しく、そして為になる一冊でした。大西順子さんとのラプソディインブルーの経緯も詳しく書かれていました。私はテレビでこのライブを観たのですが、感動ものでした。
    音楽を教える一人として確信を得たり、勉強になったりと読み終わって充実した気分です。いつまでも手元に置いておきたい一冊。

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