職業としての小説家 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 115
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001692

作品紹介・あらすじ

いま、村上春樹が語り始める――小説家は寛容な人種なのか……。村上さんは小説家になった頃を振り返り、文学賞について、オリジナリティーについて深く考えます。さて、何を書けばいいのか? どんな人物を登場させようか? 誰のために書くのか? と問いかけ、時間を味方につけて長編小説を書くこと、小説とはどこまでも個人的でフィジカルな営みなのだと具体的に語ります。小説が翻訳され、海外へ出て行って新しいフロンティアを切り拓いた体験、学校について思うこと、故・河合隼雄先生との出会いや物語論など、この本には小説家村上春樹の生きる姿勢、アイデンティティーの在り処がすべて刻印されています。生き生きと、真摯に誠実に――。

感想・レビュー・書評

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  • 小説家・村上春樹として自身を語るエッセイ。
    村上春樹作品を網羅してから読むのがおすすめ。時代とともに変わっていく彼の細かい作風や小説をどこでどのように描いたかの背景が分かりやすいと思う。

    村上春樹は私の中で一番好きな作家である。
    他の作家の作品は、通り過ぎるだけのものに過ぎないが、村上春樹の作品は、心身に留まるし、貯まるし、積もっていく。
    忘れないし、何度でも読み返したいと思うし、再読しても新鮮な気持ちで読めるし、新たな気付きがある。まるで、何度でも聴きたいと思うクラシック音楽のような特別な存在。

    たくさんの作品を読んで、この村上春樹という人間は、どのような家庭で生まれ、どのような環境で育ち、どのような人生経験を積んだのか、誰しもが興味を持つと思う。

    というのも、全ての作品において、いろんな立場の人が読んだとしても、決して「誰も傷つけない」配慮がされていると思ったから。
    ブレない芯や軸がありながらも、語弊や誤解を生まないように、慎重な言葉選びを配慮している。

    村上春樹氏は、特別な経験を積んだというよりも、目の前の出来事や物事の(ある時期の一面だけを)見て、早く結論を出さない(判断を下さない)人なのだということ。慎重に丁寧に観察する。白黒や善悪のジャッジをせずに、ただじっと見守る人。
    このような人は、色んな意味で寛容だと思う。

    「職業として小説家」になった経緯は、とても興味深いものがあった。
    もともと、小説家になりたいという夢があったわけではなく、小説家になるための勉強も一切していない。
    ただ小さい頃から、本を読むことが何よりも好きだったことぐらい。(ぐらいと書いたが「好き」という気持ちは、読書に限らず、一般人が一番見落としがちな、重要な生きるポイント=価値だと思う)

    ①ある日、ふと「小説を書きたい」と思い立ち、すぐに行動を起こす。
    ②仕事を終えた後の深夜に、ダイニングテーブルに向かって、小説を書く時間がとてもわくわくして楽しかった。
    ③生活のためや、お金のためや、誰かに読ませたいため、ではなく、ただ、自分のワクワクのために(自分が楽しむため)に書いた。
    ④自分が書きたいものしか書かないし、自分がやりたくないと感じる他の仕事は、しっかり断っている。期限も設けず、約束もしない。(誰かのために書かない、やらない)
    ⑤賞賛も批判もすべてを受け入れる覚悟。(批判されたり、嫌われる勇気)
    ⑥日本での居心地の悪さを感じた時、小説をより集中して執筆するために、店を売却し、住まいを引き払って、海外に移住した決断力。
    ⑦自分の「ワクワク」や「楽しい」や「気持ち良い」を貫いた結果、小説家1本で職業として成り立ち、不自由なく生活でき、成功している。

    これって、成功者の生き方(マインド)そのもの!!
    成功するための行動ではなく、まず自分の好きなことをどれだけ熱中して楽しめるかに重きを置いている。
    自分自身を満たした結果が、なぜか知らないけれど、本業となり生活ができるようになり、更には世の中や誰かのためになっている。
    「ワクワク楽しむ」やっぱりここに生き方のコツがあるのだなぁて思う。

    ・脈略も根拠もなく「ふと」頭に思ったことを、やってみる。
    ・自分がやりたいと思うことをやり、自分がやりたくないと思うことはやらない
    ・ワクワク・ドキドキ・ときめき・気持ちがいい・テンションの上がることを選択してそれを極めていく
    ・賞賛だけでなく、批判されたり、嫌われる勇気、それら全てをひっくるめた覚悟



  • 小説を書く――あるいは物語を語る――という行為はかなりの低速、ロー・ギアで行われる作業だからです。実感的に言えば、歩くよりはいくらか速いかもしれないけど、自転車で行くよりは遅い、というくらいのスピードです。 p22

    英語にエピファニー(Epiphany)という言葉があります。日本語に訳せば「本質の突然の顕現」「直感的な真実把握」というようなむずかしいことになります。平たく言えば、「ある日突然何かが目の前にさっと現れて、それによってものごとの様相が一変してしまう」という感じです。 p48

    僕はそのいわば「すかすか」の風通しの良いシンプルな文体から始め、時間をかけて一作ごとに、そこに少しずつ自分なりの肉付けを加えていきました。ストラクチャーをより立体的に重層的にし、骨格を少しずつ太くして、より大がかりで複雑な物語をそこに詰め込める態勢を整えていきました。それにつれて小説の規模も次第に大きなものになっていきました。 p110

    大事なのは明瞭な結論を出すことではなく、そのものごとのありようを、素材=マテリアルとして、なるたけ現状に近い形で頭にありありと留めておくことです。 p121

    多くの場合、僕が進んで記憶に留めるのは、ある事実の(ある人物の、ある事象の)興味深いいくつかの細部です。 p123

    裏の物置を開けて、そこにとりあえずあるものを――もうひとつぱっとしないがらくた同然のものしか見当たらないにせよ――とにかくひっかき集めて、あとはがんばって、ぽんとマジックを働かせるしかありません。それ以外に僕らが他の惑星と連絡を取り合うための手だてはないのです。 p133

    自分の中に存在するいくつかのイメージを、自分にぴったりくる、腑に落ちる言葉を使って、そのような言葉をうまく組み合わせて文章のかたちにしていこう p267

    エイブラハム・リンカーンはこんな言葉を残しています。「多くの人を短いあいだ欺くことはできる。少数の人を長く欺くこともできる。しかし多くの人を長いあいだ欺くこともできない」と。小説についも同じことが言えるだろうと僕は考えています。 p312


  • 実に面白かった。この世には、この筆者が好きな人と嫌いな人の2つに分かれると思うが、先入観なしにこの本を読んでもとてもためになると思う。内容も中学生でも理解できるると思うし、それで興味がもてにないということならば、この作者の本以外の本を読めばいいと思う。この本は半分は自叙伝みたいなところがあるし、それは結構、選り好みされるものだと思う。でも、ここに書いてあることは、なかなかまねのできることではないし、ここまで実績を積むのはなかなかできるものではない。でも単純に楽しみを目的にひとつの生き方の例として見ると、中学生でも参考になると思う。

  • 1日で一気に読み切ってしまった。読みやすく、引き込まれる内容だった。

    表層的には小説家という職業について語られたものだが、その中に彼の哲学、生きてきた軌跡が散りばめられていて、ますます彼の作品についていこうと思った。

    自身の将来について見通しを立ててくれた気がする。

  • 20代の頃「風の歌を聴け」に出逢って以来ずっとファンです。
    なぜ彼の作品が好きなのか。あれこれ読んでみたくなるのか。
    さて、感想を書こうかなと言葉をさがすのですが、いろんな思いがどんどん溢れてきてとても苦労します。
    そんなとりとめのないところが魅力なのかもしれない。

    小説家になったきっかけも個性的ですが、逆に普通ぽくも感じられる。
    この本を読んで、生き方の勉強にもなりました。

    彼と同じ時代に生きていることを嬉しく思います。

  • 彼の著作群が異様な深みを湛える様になってきたのは、いわゆる'青春3部作'の終わりからだったように記憶しているが、この本を読む限りでは村上氏自身もこれらの本を執筆する過程で小説家としてのルーティンを確立したようだ。
    本文中で彼が述べている通り、そのルーティンは私達が一般的に想像する'作家'のイメージとは大きく異なる。それは、わたしにとっては新鮮な驚きであると同時に、どこか納得する部分もあった。彼の著作群-長編小説の場合が多い-では主人公は身体的な移動と共に、自らの心の深淵へと潜り込んでゆく精神的な移動を行っている。この彼の本を他の作家の作品群とは異なるものにしている独特の部分が、本書で述べられている彼のルーティン化された創作スタイルと深く連動性を持ったものとして相対的に生み出されている・・ということを伺い知ることができた。
    本書で述べられる村上春樹氏自身の思想を自らの生きてゆく指針と対照し、参考にする・しないを含めて考え直してみることで、あなたのこれからの人生を立体的に組み立てる大きな助けになってくれるかもしれない。

  • 本書は、著者が「自分が小説家としてどのような道を、どのような思いをしてこれまで歩んできたのか」、35年の小説家人生を講演録風に書き起こした、「語られざる講演録」。

    著者は、残念ながら自分好みの作家ではないのだが(とはいっても、小説はまだ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」しか読んでいないが)、著者の作風や人となりがよくわかった(なぜ作風が好みでないのかも分かった)。

    興味深かったのは、

    野球観戦しているときに、突然天から啓示(epiphany)のように何の脈絡もなく「僕にも小説が書けるかもしれない」という思いが湧いてきたのが小説を書くきっかけだったこと(この他、お店の借金返済に行き詰まった時に必要な金額のお金を道端で拾ったり、文学賞(「群像」の新人賞)をとることが理由もなく確信できたりと、著者の小説家としての成功には大いなる意志が働いているようだ)、

    一旦英語で書いた文章を日本語に翻訳することによって、独自の文体(「余分な修飾を拝した「ニュートラルな」、動きの良い文体」)を編み出したこと、

    切実に書きたいことや書くべきことがないことを逆手にとって、「E. T. 方式」(物置のガラクタからマジックのように即席の通信装置を作ってしまったようなやり方)で日常の平凡なことがらを集めてガラガラポンし、ジャズの即興演奏のように、しっかりとしたリズムとコードの上に自由なストーリーを紡いでいること、

    長編であっても、「最初にプランを立てることなく、展開も結末もわからないまま、いきあたりばったり、思いつくままどんどん即興的に物語を進めてい」くこと、

    等々。また、「小説家は小説を創作しているのと同時に、小説によって自らをある部分、創作されているのだ」という言葉も。多くの小説家は、小説執筆中、登場人物が勝手に喋りだすのを単に筆記している状態になるというが、どんな状態なんだろう。このような境地、自分にはちょっと想像できないなあ。

    著者は、学生時代から深く外国文学に傾倒していたこともあって、ユニバーサルなストーリー展開や表現形式を求めてきたんだろうなあ。それが世界で認められる大きな要因にもなっているんだろう。自分としては、日本語の持つ(翻訳しにくい)独特の雰囲気、修飾を凝らした味のある日本語を大切にしたいんだけどなあ。

    とはいっても、もう買っていることだし、面白いと評判の「1Q84」読まなくちゃ。

  • この本の表紙の村上春樹はかなりかっこつけていますよね、かっこいいけれど。

  • 小説家ならずとも、自分のミッションを見つけたら読むといい本。
    閃きから苦悩、そして乗り越えるまでをシュミレーションできるし、壁にぶち当たったり批難にさらされたりしたときは、励みになる。
    個人的に要再読の一冊。

  • 実は氏の小説は1冊も読んだことがない。だが書店で本書を見かけ、思わず手に取った。氏が自身の職業をどのように考えているのかに興味を持ったからだ。自分自身が研究者という特殊な職にあるからかもしれない。

    氏は小説家と学者は全く別物と見ている。確かにその側面はあるが、しかし富士山のくだりなどを読むと、共通点も結構あるような気がする。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月刊行。2019年9月10日発売の『文藝春秋』10月号で「至るところにある妄想 バイロイト日記」を寄稿。

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