職業としての小説家 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1968
感想 : 159
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001692

作品紹介・あらすじ

いま、村上春樹が語り始める――小説家は寛容な人種なのか……。村上さんは小説家になった頃を振り返り、文学賞について、オリジナリティーについて深く考えます。さて、何を書けばいいのか? どんな人物を登場させようか? 誰のために書くのか? と問いかけ、時間を味方につけて長編小説を書くこと、小説とはどこまでも個人的でフィジカルな営みなのだと具体的に語ります。小説が翻訳され、海外へ出て行って新しいフロンティアを切り拓いた体験、学校について思うこと、故・河合隼雄先生との出会いや物語論など、この本には小説家村上春樹の生きる姿勢、アイデンティティーの在り処がすべて刻印されています。生き生きと、真摯に誠実に――。

感想・レビュー・書評

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  • 20代の頃「風の歌を聴け」に出逢って以来ずっとファンです。
    なぜ彼の作品が好きなのか。あれこれ読んでみたくなるのか。
    さて、感想を書こうかなと言葉をさがすのですが、いろんな思いがどんどん溢れてきてとても苦労します。
    そんなとりとめのないところが魅力なのかもしれない。

    小説家になったきっかけも個性的ですが、逆に普通ぽくも感じられる。
    この本を読んで、生き方の勉強にもなりました。

    彼と同じ時代に生きていることを嬉しく思います。

  • 小説家・村上春樹として自身を語るエッセイ。
    村上春樹作品を網羅してから読むのがおすすめ。時代とともに変わっていく彼の細かい作風や小説をどこでどのように描いたかの背景が分かりやすいと思う。

    村上春樹は私の中で一番好きな作家である。
    他の作家の作品は、通り過ぎるだけのものに過ぎないが、村上春樹の作品は、心身に留まるし、貯まるし、積もっていく。
    忘れないし、何度でも読み返したいと思うし、再読しても新鮮な気持ちで読めるし、新たな気付きがある。まるで、何度でも聴きたいと思うクラシック音楽のような特別な存在。

    たくさんの作品を読んで、この村上春樹という人間は、どのような家庭で生まれ、どのような環境で育ち、どのような人生経験を積んだのか、誰しもが興味を持つと思う。

    というのも、全ての作品において、いろんな立場の人が読んだとしても、決して「誰も傷つけない」配慮がされていると思ったから。
    ブレない芯や軸がありながらも、語弊や誤解を生まないように、慎重な言葉選びを配慮している。

    村上春樹氏は、特別な経験を積んだというよりも、目の前の出来事や物事の(ある時期の一面だけを)見て、早く結論を出さない(判断を下さない)人なのだということ。慎重に丁寧に観察する。白黒や善悪のジャッジをせずに、ただじっと見守る人。
    このような人は、色んな意味で寛容だと思う。

    「職業として小説家」になった経緯は、とても興味深いものがあった。
    もともと、小説家になりたいという夢があったわけではなく、小説家になるための勉強も一切していない。
    ただ小さい頃から、本を読むことが何よりも好きだったことぐらい。(ぐらいと書いたが「好き」という気持ちは、読書に限らず、一般人が一番見落としがちな、重要な生きるポイント=価値だと思う)

    ①ある日、ふと「小説を書きたい」と思い立ち、すぐに行動を起こす。
    ②仕事を終えた後の深夜に、ダイニングテーブルに向かって、小説を書く時間がとてもわくわくして楽しかった。
    ③生活のためや、お金のためや、誰かに読ませたいため、ではなく、ただ、自分のワクワクのために(自分が楽しむため)に書いた。
    ④自分が書きたいものしか書かないし、自分がやりたくないと感じる他の仕事は、しっかり断っている。期限も設けず、約束もしない。(誰かのために書かない、やらない)
    ⑤賞賛も批判もすべてを受け入れる覚悟。(批判されたり、嫌われる勇気)
    ⑥日本での居心地の悪さを感じた時、小説をより集中して執筆するために、店を売却し、住まいを引き払って、海外に移住した決断力。
    ⑦自分の「ワクワク」や「楽しい」や「気持ち良い」を貫いた結果、小説家1本で職業として成り立ち、不自由なく生活でき、成功している。

    これって、成功者の生き方(マインド)そのもの!!
    成功するための行動ではなく、まず自分の好きなことをどれだけ熱中して楽しめるかに重きを置いている。
    自分自身を満たした結果が、なぜか知らないけれど、本業となり生活ができるようになり、更には世の中や誰かのためになっている。
    「ワクワク楽しむ」やっぱりここに生き方のコツがあるのだなぁて思う。

    ・脈略も根拠もなく「ふと」頭に思ったことを、やってみる。
    ・自分がやりたいと思うことをやり、自分がやりたくないと思うことはやらない
    ・ワクワク・ドキドキ・ときめき・気持ちがいい・テンションの上がることを選択してそれを極めていく
    ・賞賛だけでなく、批判されたり、嫌われる勇気、それら全てをひっくるめた覚悟

  • モチベーション高まって最高です。職業作家として力を発揮するために早寝早起きして体を鍛えるところ、共感します。昔の自分ならがっかりしただろうその姿勢。健康的にいきいきと生きたって、文学者としての根っこはかわらないからいいんです。

  • 本書を読んで、村上春樹さんの人となりや小説家になった経緯、それから小説家という職業について知ることができました。エピファニー(突然何かが現れて、そこから一気に物事が変化してしまうさま)によって小説家になったというのはとても驚きました。
    嫌ことがあっても、自分の信念を貫いて、30年以上も作品を書き続けてきたことに尊敬の念を抱きました。何かを継続するには、生活の規則性とそれを維持する確固たる意志が大事なんですね。
    村上春樹さんの作品を読み始めたばかりなので、これからじっくり堪能したいと思います。

  • 以前に村上春樹さんが訳した
    「ティファニーで朝食を」読みました。

    ですが、著作はこれが初めてでした。
    作品を知らない中で読んでしまいましたが、
    それでも小説に対する姿勢、海外のこと、教育への考えを知ることができ、とても面白かったです。

    改めて村上さんの小説を読んでから、再び読みたいと思います。

  • 《小説を書くというのは、とにかく実に効率の悪い作業なのです。それは「たとえば」を繰り返す作業です。ひとつの個人的なテーマがここにあります。小説家はそれを別の分脈に置き換えます。「それはね、たとえばこういうことなんですよ」という話をします。ところがその置き換えの中に不明瞭なところ、ファジーな部分があれば、またそれについて「それはね、たとえばこういうことなんですよ」という話が始まります。その「それはたとえばこういうことなんですよ」というのが延々と続いていくわけです。》(p.25)

    《だから小説家は、異業種の才人がある日ふらりとやってきて小説を書き、それが評論家や世間の人々の注目を浴び、ベストセラーになったとしても、さして驚きはしません。脅威を感じたりすることもまずありません。ましてや腹を立てたりもしません(と思います)。なぜならそのような人々が、小説を長期間にわたって書き続けるのは稀なケースであることを、小説家は承知しているからです。才人には才人のペースがあり、知識人には知識人のペースがあり、学者には学者のペースがあります。そしてそういう人たちのペースはおおかたの場合、長いスパンをとってみれば、小説の執筆には向いていないみたいです。》(p.29)

    《ジェームズ・ジョイスは「イマジネーションとは記憶のことだ」と実に簡潔に言い切っています。そしてそのとおりだろうと僕も思います。ジェームズ・ジョイスは実に正しい。イマジネーションというのはまさに、脈絡を欠いた断片的な記憶のコンビネーションのことなのです。あるいは語義的に矛盾した表現に聞こえるかもしれませんが、「有効に組み合わされた脈絡のない記憶」は、それ自体の直観を持ち、予見性を持つようになります。そしてそれこそが正しい物語の動力となるべきものです。》(p.128)

    《僕が思うに、混沌というものは誰の心にも存在するものです。僕の中にもありますし、あなたの中にもあります。いちいち実生活のレベルで具体的に、目に見えるようなかたちで、外に向かって示さなくてはならないという類のものではありません。》(p.199)

    《読者を念頭に置くといっても、それはたとえば企業が商品開発をするときのように、市場を調査して消費者層を分析し、ターゲットを具体的に想定するというようなことではありません。僕が頭の中に思い浮かべるのは、あくまで「架空の読者」です。(…)重要なのは、交換不可能であるべきは、僕とその人が繋がっているという事実です。どこでどんな具合に繋がっているのか、細かいことまではわかりません。ただずっと下の方の、暗いところで僕の根っことその人の根っこが繋がっているという感触があります。それはあまりに深くて暗いところなので、ちょっとそこまで様子を見に行くということもできません。でも物語というシステムを通して、僕らはそれが繋がっていると感じ取ることができます。》(p.280)

  • こんな風に小説を書くのか、と楽しく読んだ。


    予想されるような反論を想定しながら自身の意見をかなり(言い方は悪いが)回りくどく書かれていたのが印象的だった。
    村上さんは大変慎重な方なんだなぁ……と思ったが実際のところはどうなんだろうか。

  • 村上春樹が小説を書き始めたきっかけは前から知っていた。ヒルトンも赤鬼もすぐ思い浮かぶ。
    音楽と読書が彼の抽斗を増やし、それが多彩な小説を生み出す素となっている。

    もい全員を楽しませられないなら
    自分で楽しむしかないじゃないか

    という歌詞には勇気づけられる。
    面白い箇所はたくさんあったが
    河合隼雄先生の思い出は興味深い。
    河合先生が、意識してとった受動体勢アンダーグラウンドの春樹の姿勢とシンクロする。

  • 本書は、著者が「自分が小説家としてどのような道を、どのような思いをしてこれまで歩んできたのか」、35年の小説家人生を講演録風に書き起こした、「語られざる講演録」。

    著者は、残念ながら自分好みの作家ではないのだが(とはいっても、小説はまだ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」しか読んでいないが)、著者の作風や人となりがよくわかった(なぜ作風が好みでないのかも分かった)。

    興味深かったのは、

    野球観戦しているときに、突然天から啓示(epiphany)のように何の脈絡もなく「僕にも小説が書けるかもしれない」という思いが湧いてきたのが小説を書くきっかけだったこと(この他、お店の借金返済に行き詰まった時に必要な金額のお金を道端で拾ったり、文学賞(「群像」の新人賞)をとることが理由もなく確信できたりと、著者の小説家としての成功には大いなる意志が働いているようだ)、

    一旦英語で書いた文章を日本語に翻訳することによって、独自の文体(「余分な修飾を拝した「ニュートラルな」、動きの良い文体」)を編み出したこと、

    切実に書きたいことや書くべきことがないことを逆手にとって、「E. T. 方式」(物置のガラクタからマジックのように即席の通信装置を作ってしまったようなやり方)で日常の平凡なことがらを集めてガラガラポンし、ジャズの即興演奏のように、しっかりとしたリズムとコードの上に自由なストーリーを紡いでいること、

    長編であっても、「最初にプランを立てることなく、展開も結末もわからないまま、いきあたりばったり、思いつくままどんどん即興的に物語を進めてい」くこと、

    等々。また、「小説家は小説を創作しているのと同時に、小説によって自らをある部分、創作されているのだ」という言葉も。多くの小説家は、小説執筆中、登場人物が勝手に喋りだすのを単に筆記している状態になるというが、どんな状態なんだろう。このような境地、自分にはちょっと想像できないなあ。

    著者は、学生時代から深く外国文学に傾倒していたこともあって、ユニバーサルなストーリー展開や表現形式を求めてきたんだろうなあ。それが世界で認められる大きな要因にもなっているんだろう。自分としては、日本語の持つ(翻訳しにくい)独特の雰囲気、修飾を凝らした味のある日本語を大切にしたいんだけどなあ。

    とはいっても、もう買っていることだし、面白いと評判の「1Q84」読まなくちゃ。

  • 実に面白かった。この世には、この筆者が好きな人と嫌いな人の2つに分かれると思うが、先入観なしにこの本を読んでもとてもためになると思う。内容も中学生でも理解できるると思うし、それで興味がもてにないということならば、この作者の本以外の本を読めばいいと思う。この本は半分は自叙伝みたいなところがあるし、それは結構、選り好みされるものだと思う。でも、ここに書いてあることは、なかなかまねのできることではないし、ここまで実績を積むのはなかなかできるものではない。でも単純に楽しみを目的にひとつの生き方の例として見ると、中学生でも参考になると思う。

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著者プロフィール

1949年 京都府生まれ。著述業。
『ねじまき鳥クロニクル』新潮社,1994。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』新潮社,1985。『羊をめぐる冒険』講談社,1982。『ノルウェイの森』講談社,1987。ほか海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

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