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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784101001715
作品紹介・あらすじ
私は時間を味方につけなくてはならない──妻と別離して彷徨い、海をのぞむ小田原の小暗い森の山荘で、深い孤独の中に暮らす三十六歳の肖像画家。やがて屋根裏のみみずくと夜中に鳴る鈴に導かれ、謎めいた出来事が次々と起こり始める。緑濃い谷の向こう側からあらわれる不思議な白髪の隣人、雑木林の祠と石室、古いレコード、そして「騎士団長」……。物語が豊かに連環する村上文学の結晶!
感想・レビュー・書評
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約2年ぶりに読む村上春樹さん。
正直、村上春樹さんの作品はよくわからない。けれども、作品全体に漂う静謐な雰囲気が嫌いではない(ただ本作で言えば主人公と人妻との情事が多かったりするのは微妙)。そんな独特の雰囲気に久しぶりに浸りたくなって長編の中で未読だった本作を読んでみようと思った。全4巻のうちの第1巻。
離婚して行き場をなくした30代半ばの肖像画家が、大学時代の先輩の父親がかつて住んでおり現在は空き家となっていた小田原の山にある邸宅を借りる形で暮らし始める。邸宅の住人であった著名な日本画家の雨田具彦は、「騎士団長殺し」という自身の作品を除き、自宅に一切の絵画を置いていなかった。第1巻では、そうした導入のほか、近所の瀟酒な山荘で今でいうFIREをした資産家の免色さんとの交流が始まったところで終わる。個人的には雨田具彦の1930年代後半のウィーン留学で何があったかが気になるが、それが今後の話に出てくるかはわからない。引き続き読み進めたい。 -
文庫4冊分のうちの1冊目。(春樹作品おなじみ)ちょっとした謎がいくつか出てきて、なんだろうで終わる序盤。好き。
妻のこと、免色という人物の謎、謎の鈴、そしてタイトルにある騎士団長殺しという絵画の謎。あとは雨田具彦が西洋画から日本画へ転身した真相が知りたい。
続きを読みたくなる面白い話だった。 -
そう、この不穏な雰囲気がたまらないのです。
表題の騎士団長殺しとは何なのか、それがこの上巻ではわかるのですが、その後ゆっくりじっくりと何か嫌なことでも起こりそうな、この怪しい雰囲気が村上春樹さんらしくて面白かったです。
彼の作品は、物語の展開に向かって進むというより、
主人公の視点から少しずつ進んでいくので、どうしても進むスピードがスローに感じてしまうのですが、それが逆にリアルに感じます。
読者を“結末まで連れて行こうする感”がなく、
最後はどこに行き着くのか全く見当がつかないこの描き方がいいですね。
物語の舞台が小田原なようですが、海があるのでどことなく寂しいような、死の雰囲気が漂っているのもいいです。 -
かなりの大風呂敷を広げた気がしてしまう文庫版1冊目。
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妹は夭逝し、妻は離婚を告げる。「私」は大切なものの「不在」を二度も経験する。
しかし、それらの「不在」は、果たして魂にとって「存在しない」ということになるのだろうか。
「不在」を「存在」にかえる、それこそが芸術の役割である。
そのような訴えを感じながら読んだ。
絵画や死者や意識下の記憶が、静かに口を開くような物語だ。
各章のタイトルはその章の中の一文となっていて、それがどこに書いてあるのかを楽しみに読み進められる。
これがなんともまぁキャッチーだ。
思えば、書き連ねている文章で、人の記憶に残るのはたった一文である場合も多い。
第2部へ誘われる。
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「肖像を描いてもらいにきたのだ」、「おまえはそのことをわたしに約束した」と<顔のない男>は言った。何もないものをいったいどのように造形すればいいのだろう?と何もできないうちに、その男の姿は消えてしまう。このように謎めいたプロローグで本作は始まる。
「とても悪いと思うけど、あなたと一緒に暮らすことはこれ以上できそうにない」と、主人公はある日突然妻から切り出される。妻には付き合っている男がいるようだが、特に諍いもなく二、三言のやり取りで離婚を承諾する。(この辺りの淡々としているところは、正に春樹の登場人物)
妻と別れることにした彼は家を出ることにし、愛車の赤いプジョー205に乗って、仕事も放り出し(彼は肖像画家)、北へとあてどもない旅に出る。そして数か月後車もダメになって、東京に戻ることにした彼は、日本画家である父親がアトリエとして使っていた家に住んでも良いとの友人の助けを得て、新しい場所で、新しい生活を始めることになった。
そこで彼は、家の元々の主、日本画家の雨田具彦が描いた『騎士団長殺し』というタイトルの付けられた、世に出ていない素晴らしい絵を発見する。また彼の前に、高額な謝礼を提示して肖像画を描いて欲しいと申し入れてきた不思議な白髪の隣人が現れるかと思えば、夜中に鳴る鈴らしき音に導かれて、雑木林の中に祠と石室を発見したりする。
謎が謎を読む展開だし、非常にリーダブル。先に進むのが楽しみだ。 -
作者特有の時間論、比喩的表現は本作でも健在。4部作の第1部ということもあり、これからのストーリー展開が気になります。
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川上未映子との対談本を読み終えて、無性に再読したくなったので、今度は文庫版で。
以下、軽くネタバレ含みます。
村上春樹自身がキーワードとして出していた、上田秋成『春雨物語』内の「二世の縁」を、こういう風に組み込んでいたんだなぁということを、思い出しながら読み進んだ第1部上巻。
夜な夜な鳴り響く鈴の音も随分奇妙ではあるけれど、初読した時にも感じていた『騎士団長殺し』の絵の方が自分的にはうわあ、となるかな。
日本画って、どこかのっぺりしていて、写実的とは言い難いのに、なんであんな怖いんだろう。
そして、古代中世の辺りの絵巻物って、血を流しているものがないような気がする。
物語でも、忌避されるシーンなのですよね。
それがまざまざと描かれた絵って、どんなんだろう、と思いながら、直視は出来ないように思うビビりな私でした。
近代に至って「日本」画という名称が、西洋との区別のために生まれたという流れは面白い。
非西洋的なるもの。勿論、それが日本的とは一概に言えないにしろ、比較の中で発見されてきたものがあるんだろう。
でも、発見されたことで失われた自然さもあるんだろう。 -
なぜ、村上春樹氏の男性主人公は料理上手でしかも後片付けをさっさとするのだろう?w
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