みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子 訊く/村上春樹 語る (新潮文庫)

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レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001753

作品紹介・あらすじ

ようこそ、村上さんの井戸へ── 川上未映子はそう語り始める。少年期の記憶、意識と無意識、「地下二階」に降りること、フェミニズム、世界的名声、比喩や文体、日々の創作の秘密、そして死後のこと……。初期エッセイから最新長編まで、すべての作品と資料を精読し、「村上春樹」の最深部に鋭く迫る。十代から村上文学の愛読者だった作家の計13時間に及ぶ、比類なき超ロングインタビュー!

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹にインタビューしたのが川上未映子だから買おうと思いました。
    予想に反して、若くて押しが強い人だな!って感じのインタビューだったのですが、もっと予想に反したのは、終えてから村上春樹が「また機会があれば」と思ったことに対してでした(笑)

    「でもその肝心の、本を好きになるっていうところだけは教えることはできない。好きになりなさいと強制することもできない。すべての偶然が一致して、本と出会わなければ、本の世界を熱烈に求めていく魂でなければ、書きつづけるというところに行かないと思うんですよね。」

    川上未映子のコメント。
    そうなんだよな。強制はできない。
    その中で、自分が触れてきた手触りみたいなものを、周りにどう宣伝するか、どんな風に世界に触れられるか、そういうことを考えます。

    「自分たちもヒトラーに騙されて心の影を奪われ、そのおかげでひどい目に遭わされたんだという、おおむねそういう被害者感覚だけが残ることになります。日本の場合もそれと同じようなことが起こっている。」

    こちらは村上春樹。
    随分前に、日本国民の被害者感覚について、全員が被害者であるはずはなくて、どこかに加害者がいるはずなのに、そうしたことが見えなくなっている、という文章を読んだのを思い出した。
    本当の被害者と言えるのは、子ども達だ、と。

    「その信用取引を成立させていくためには、こっちもできるだけ時間と手間をかけて、丁寧に作品を作っていかなくちゃいけない。読者というのは、集合的にはちゃんと見抜くんです。」

    村上春樹のコメント。
    私はこの人の、こういう所が好きだと思う。
    スピーチにしても、インタビューにしても、一度きりの言葉だからこそ、込められているものが、飄々としていながらも優しい。

    いわゆる近代ウジウジ文学を地下一階、村上春樹の井戸を地下二階と例えて、話が展開していくのも、分かりやすくて、面白い。
    夏目漱石『こころ』を好きではないと言う村上春樹に苦笑するが、地下一階には地下一階の良さがあると私は思います(笑)

  • 重厚なインタビュー。

    川上未映子さんは村上春樹さんの小説とその熱心な読者たち(或いは村上春樹読書としての自分自身)について鋭い考察がなされている。

    p40『村上春樹をめぐる読書は「内的な読者」というニュアンスが強いと思うんです。面白い何かを外に取りに行くっていう感じじゃなくて、そこに行けば大事な場所に戻ることができる』

    まさに熱心な村上春樹の読者はこの感覚が強いのだろう。

    だから、原初的な、最初に村上春樹を体験した感覚を大切にしているし、まるで愛着障害かのように引きずってさえもいる。

    従って、新しい長編が出るたびに村上春樹らしかった、とからしくなかった、とか言って満足したり、裏切られたように哀しくなることもある。

    あの時読んだ村上春樹はもうここにいないんだ、とか。

    川上未映子・村上春樹両者の物語の作り方が大きく異なる事も明らかになったように感じる。

    村上春樹はこの本の中でも語っているように、「洞窟の中で語るストーリーテラー」的な語り部であるという点。
    この点においては一種の集合的無意識が村上春樹という語り部を通じて春樹の小説という元型として表出していると考えることもできるだろう。

    従って、世界の多くの人が共感可能となる交換可能な主人公が生まれる。

    それ故にバルガス・リョサやガルシア・マルケスのような南米文学、レイモンド・チャンドラーやらサリンジャーのような北米の物語性とも連なっているのだろう。

    一方で川上未映子においては、集合的無意識ではなく、個人的無意識に抑圧された葛藤や、実存が物語となっていそうだ。

    p.234『何かものを書く時って、鮮烈な体験がベースにあったりしませんか。(中略)それらの関係を克服する行為だったりもする訳じゃないですか。-村上 そうなの?』

    従って、両者は物語を書くにあたっての根底が大きく異なっている。

    このインタビューの中で村上春樹は自身について『どこまでも個人的な人間だと思っている』と語っているが、およそ表現された物語は川上未映子の方がどこまでも『個人的』と捉えることができる。

    とはいえ、これはどちらが優れているとか言う優劣の次元では比較できない。それこそイデアであるかもしれない。

    ではなぜ、物語を求めるのか。

    物語よりも、How To本や自己啓発本、株で儲けるテクニック云々が書かれた本の方が、役に立つではないか。

    小説を読む理由がわからない、と言う人は一定数存在する。むしろ増え続けているとすら感じる。

    しかし、物語には役に立つ・立たないとか、ある考え方が好きか嫌いかと言う二元論の次元を超えた力が存在する。

    P.462『村上ー 今のSNSもそうだけど、みんな自分の好きな意見だけ読む訳ね。自分の嫌いな意見には悪口をいっぱい書くわけじゃない。そういうものに対抗できるのはフィクションというか、物語しかないと僕は思っている。』

    物語を通す事で一定の距離が置かれて事象を眺める事ができる。

    同じ文章でも自己啓発本やhow-to本、ヘイト書籍やそのカウンターヘイト書籍、Twitter等々の文章は唯一の立場に依って立つ他ない。

    しかし、物語ではその構造から距離を置くことができる。

    ほどよい母親と言ったのはD・ウィニコットだった。曰く、子どもはほどよい距離の中で安心感と自立欲求を満たすことが出来る。

    物語を通して見ることで、自身の考え、筆者の考え、社会一般通念や価値観とをそれぞれ冷静に眺める事ができるようになる。

    かつてニーチェもパースペクティブの重要性を説いていたように。

    およそ、2010年代から徐々にパースペクティブやほどよさが損なわれ、よりわかりやすい極端さを求めるようになっていないか。

    余裕よりも集約、寛容よりも排斥、科学よりも願望。

    我々はスマートデバイスを手にしてプレモダンへ退行してしまったようで。


    その他
    嫉妬心について、牛河のセリフ。懐かしい。よく覚えている。
    P185『「それは自分自身が欲しくて欲しくてどうしようもないもの、死んでも手に入れられないかどうかわからないものを、いとも簡単に手に入れている人を見た時に湧き上がる感情ですよ」

    バーで飲んでいて、隣の女性と話しが弾んだと思ったら、さらにその隣の男性に話題を持っていかれ、一人で会計を済ませる感覚だろうか。

  • 面白かった。川上さんの鋭い質問、疑問を感じると諦めずに何度もぶつかっていく姿勢が新鮮で、村上さんが少し答えに窮している感じも初めて見ました。ライブ感が伝わってきて読み応えあります。

    川上さんは小説家で元々村上春樹作品の熱心な読者とは言え、インタビューをする側の事前準備としてはこのレベルまで行かないと、深い話は聞き出せないんだと感じました。準備の質と量が凄いです。

  • 村上さんは、本当に誠実な方だな、と改めて思った。
    川上さんの質問は、インタビューという枠を超え、作家としてその創作のあり方を「知りたい」気持ちそのままに、どんどん追求していく感じで、そこまで聞く?とハラハラするくらいだけど、村上さんがどこまでも答えてくれるからこそ、だと思う。

  • 対談物をあまり読まないが、テンポよくスルスル読めた。
    不思議と読みやすい。
    鋭い質問をどんどんしていて、こんなふうに小説書いていたのかと感じることができた。

  • いやあ、語ってますね、村上さん。川上さんが聞き上手なのか、村上さんが70歳を迎えて思うところがあるのか。今まではぐらかされていた様々なことを、川上さんがズバズバと切り込んでくれています。なぜ文壇や私小説が嫌いなのか。なぜ主人公は30代なのか。なぜ登場する女性が性的な役割を担わせられるのか。などなど。読み応えありました。しかも堅苦しくなく、ユーモア満載の軽快な会話の中で。

    「物語」に対する村上さんの熱い思いにも、心を打たれるものがありました。本当に物語の追い求めている作家さんなんだな、と。なんだか『サピエンス全史』の「認知革命」を思い出しました。「物語」を創れることは、人類の根源的な力なんだという話。村上さんの次の「善き物語」を期待しています。

  • P.2020/1/22

  • 再読。やはり川上さんの予習量が半端なく膨大で恐れ入る。ファン目線と作家目線の両方からの遠慮のない質問が村上さんの答えを豊かに引き出している。村上さんも答えるのが楽しそうなのが伝わってくる。作家にとって書かれた小説がすべてであることはわかっているけれど、たまには小説家自身の声も聞いてみたいという欲求を十分にかなえてくれた。対談ではなくインタビューという形式なのがまたよかった。

  • 村上春樹のインタビューとしては聞いてみたいことを聞いてくれていると感じた。まあ帰ってくる言葉はいつもの村上春樹さんの小説方法論でブレないといえばブレない。目新しさはそんなにないと言えばない。ジェンダーに関する部分は川上未映子さんならではのポイントだったのだろうけど、そこはある意味はぐらかされている印象。これは村上春樹さんの年齢を考えると突っ込んでも詮無いエリアの様な気がする。

  • そうか、こういうタイトルだったんだ。村上春樹がどこかで書いていたのだろうか。川上未映子が前書きで書いただけだろうか。とにかく、情報量が多過ぎて、頭に残っていることがほとんどない。もう、知らないことが多すぎる。村上radioはまだ続いていたんだ。文庫版の付録を読むと、この2年で相当たくさんの仕事をされているとのこと。お父様について書かれたものは少し立ち読みをしたけれど、それ以外はほぼ気付いていない。雑誌まで追いかけていると身がもたない。まあ、とにかく文庫になったものだけは読み続けよう。あとは翻訳をどうするか。すでに何冊かはスルーしてしまっている。「村上春樹が好きなものは全部自分も好き」って言いたいところだけど、翻訳はどうも違うなあって思うことがあって、すべてはフォローし尽くせていない。「心臓を貫かれて」とかむちゃくちゃ良かったけど。「スタン・ゲッツ」の本は文庫になれば必ず読もう。本書と同時に「レンマ学」を読んでいて、地下2階の話が非常に興味深かった。何がどうつながっていくのかはわからないのだけれど。無意識のさらに奥を意識しようと思う。(意識できないのか。)本書を通して、「ねじまき鳥・・・」を再読しようと思った。ただ、このころだけは単行本を買っていて、持ち運びができない。枕元にどんと積もうか。あっ、それから、どうして文庫版の付録対談では春樹さんになったんだろう???川上未映子という女性にもちょっと興味がわいた。いつか読んでみよう。

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著者プロフィール

川上未映子(かわかみ みえこ)
1976年大阪府生まれ。大阪市立工芸高等学校卒業。2002年から数年は歌手活動を行っていた。自身のブログをまとめたエッセイ『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で単行本デビュー。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞、2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、2013年詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、2016年『マリーの愛の証明』でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞を受賞。2017年、『早稲田文学増刊 女性号』で責任編集を務める。2019年7月11日に『夏物語』を刊行し、注目を集めている。

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