みずうみ 新版 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2023年1月19日発売)
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本 ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784101002477

作品紹介・あらすじ

誰にも言っちゃ、だめだよ。ふたりだけの秘密……高校教師の桃井銀平は、教え子の久子と密かに愛し合うようになる。だが、二人の幸福は長く続かなかった――。湖畔で暮らしていた初恋の従姉、蛍狩りに訪れた少女など、銀平が思いを寄せた女性たちの面影や情景が、中世の連歌のように連想されていく。作家の中村真一郎が「戦後の日本小説の最も注目すべき見事な達成」と評した衝撃的問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 川端康成55歳の作品。
    少女少女少女。見目麗しい少女や娘に異常に執着し、つけ回す。安定の川端康成だと思っていたら、赤ん坊が出てくるあたりで怪しくなりました。土手の中を這い回る赤ん坊は明らかに人外のもの。これまでの物語りもすべて銀平の幻想だったかも知れません。もう一回吟味しながら読む必要がありそうです。

    以下、思ったことを徒然に。

    冒頭は硬質のクライム小説を思わせる書き出しでおやっと思いましたが、湯女を相手に語りだすと直ぐにキモいオッサンに変わりました。銀平の女慣れしていないキョドった態度と口調、流石です。

    つけられる女のほうにも快感が生じると言う考えは観念としては妖しく魅惑的だけれど、現実的には気持ち悪いですね。

    川端康成(や同時代)の小説を読んで思う事のひとつは「日本は階級社会だったんだな」と言うこと。今回はその象徴として、普段は人目に触れることのない「足の指の醜さ」に執着する点が面白い。

    1章のラスト、蜘蛛の巣の幻と母の村のみずうみに映る夜火事が時系列的なラスト。巣にかかったメジロに腹を食い破られそうで、蜘蛛がじっとしてるのは判るけど、メジロ(娘)達はとっとと羽ばたいて何処かへ行っちゃうと思うけどなぁ。都合の良い幻想ですね。

  • 現実の世界に唐突にはさまれる主人公の見る幻、無意識の世界は、彼が危うい世界に片足、いや、ほとんど両足を突っ込んでいるのを感じさせる。発表当時でも嫌悪を示す読者がいたようだが、今の若い世代はどうだろうか。

  • 川端康成の文庫本としては、「山の音」「眠れる美女」に続いて3冊目になる。主人公の桃井銀平、回想の中で回想をしていることが多いので、ものすごく不思議な感じだった。少女の黒目がみずうみに見える、その黒い瞳のみずうみのなかで泳ぎたい、という描写がものすごく印象に残っている。

  • 醜い足

  • 湿り気、夢、女
    解説にもあるけど意識の流れ(水の流れ)

    「どなたです。」
    「お客さまですから、お母さま、あげないでちょうだい。」
    「先生です。」と久子は小さいが張りのある声できっぱりと言った。そのとたんに銀平は狂わしい幸福の火を浴びたように、びんと立った。ピストルでも持っていたら、うしろから久子をうったかもしれない。玉は久子の胸を貫いて、扉の向うの母 にあたった。久子は銀平の方へ倒れ母は向うへ倒れた。久子と母は扉をへだてて向 い合っているから、二人ともうしろへのけざまに倒れたわけだ。しかし久子は倒れながらなにかきれいに身をまわして向きかわると、銀平の脛に抱きついた。久子の傷口から噴き出す血がその胚を伝わり流れて、銀平の足の甲をぬらすと、そこのくろずんだ厚い皮はすうっと薔薇の花びらのように美しくなり、土ふまずの皺はのびて桜貝のようになめらかとなり、彼の指みたいに長くて、節立って、まがって、しなびた足もやがて久子の温い血に洗われて、マネキン人形の指のように形よくなった。ふと、久子の血がそんなにあるはずはないという気がすると、銀平自身の血から流れ落ちていることに気がついた。銀平は来迎仏の乗った五色の雲につつまれたように気が遠くなった。この幸福の狂想もしかし一瞬であった。 「久子がな、学校へ持って行きよった、水虫の塗り薬には、娘の血がまざっとるん ですがな。」

    あとは蛍のイメージから光が流線型(わずかに水)に移って、最後に上野の居酒屋のぼんやりとした光が点滅してラスト灯のない暗い路地に渡るのが上手だなあと思った
    オチ自体が微妙なのは道中の夢(人生最後の燈の瞬間)(走馬灯)を描きたかったからで、要は衰の始まりで終わる(描く必要がない)で描くことが夢の終わりとしてちょうど良いんだなと考えると納得のいく構成ではある。

  • 冒頭からしばらくは状況・登場人物の把握に時間がかかった
    後半にかけての伏線回収が素晴らしく、震えた

    幻と現実の境を感じた

  • 主人公(もしかして川端自身?)の異様な性癖とも言える行動を追体験できる面白さもありつつ、現実と空想が入り交じる世界観の不思議さもあり読んでいて複雑な心持になる作品であった。
    とりわけ、主人公の醜さと女性の美しさの対比を面白く読むことができた。

  • 読書会課題本。著者のフェチシズムが全面に出てくる内容。初版時からセンセーションな話題を呼んだらしいが、さもありなん。個人的には全く楽しめなかった。

  • 主人公の桃井銀平は、教え子である玉木久子と秘密の関係を持ったり、美しい女性を見かけるとあとをつけてしまう性癖を持つ、34歳の元・高校の国語教師。本作は章立っておらず、現在と回想と幻視が入り交じる書き方をしているので、分かったような分からないような、話の全体を理解するのが難しく感じた。また登場人物たちが何らかの形で繋がっているのだが、ただそれだけで特にそこから話が広がっていくでもなく拍子抜けした感覚だけが残った。感想の書きにくい不思議で難解な作品だった。そんな中で角田光代さんの解説がとても分かりやすかった。

  • 2024 8/12

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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