- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101003528
作品紹介・あらすじ
人生はままならない。だから人生には希望が必要だ。深夜ラジオを聴いた部屋で、祖母と二人きりで行った富士サファリパークで、仕事のためにこもった上野のビジネスホテルで、仮病を使って会社を休んで訪れた石垣島で、ボクが感じたものは希望だったのかーー。良いことも悪いことも、そのうち僕たちはすべて忘れてしまう。だからこそ残したい、愛おしい思い出の数々。著者初のエッセイ集。
感想・レビュー・書評
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2023.10.12 読了 ☆8.6/10.0
以前読んだ『ボクたちはみんな大人になれなかった』が面白かったので、著者のエッセイである本作も読んでみました。
本書は、筆者の日常の中で目にする耳にする、言葉にするのは難しい、そして名前のない感情が綴られた、掴みどころのない経験を描いたエッセイで、読んでいて単純明快に「分かるわぁ」とならないのは、普段いかに自分が、分かりやすい言葉の、そしてわかりやすい感情が綴られた本を読んでいるかということの裏返しのような気がした。
“分かりやすさ”は、ともすれば万人に受け入れられる内容であり、それ自体は魅力ではあるのだが、本作は一味違う。
不思議な読書体験、そして不思議な読後感でした。
〜〜〜〜〜印象に残った言葉〜〜〜〜〜
“「逃げちゃダメだ!」は自己啓発本の常套句だ。それもある一つの真実だとは思う。だけど、「逃げた先に見つけられるものもあるかも知れない」と注釈でいいから書いておいてほしい。”
“新しい感情に名前をつける人を、人はアーティストと呼ぶんだと思う。
もう名前のついた感情や出来事に、もう一度違う名前をつけて、ほら共感するでしょ?というのは全くエモくない。エモーショナルじゃない。
しばしばネット出身のモノが軽視されるのは、この"劣化コピー"が見透かされているからなのかも知れない。ネットで拡散されやすいものはわかりやすい。わかりやすいものは、どこか極端だ。絶対に見たら泣ける映画とか、絶対にモテる10ヶ条とか。
本当は、日々のほとんどはグラデーションの中にある気がする。世界平和を考えながら性欲にかられたり、金持ちになりたいと願いながら好きなことを追い求めて世界一周に出たいの夢見たり、そんな両方を夢見ながら中目黒で満員電車を待っていたりする。
まだ名前のついていない感情と出来事に囲まれて、僕たちは生きている。
“ちょっと社会をかじった人間が言いがちな「全ての仕事、経験は後で役に立つ」なんて言葉が現実に反映されるほど、人生は甘くも、伏線回収的にもできていない。
僕は今日も五番目くらいに得意な仕事に就いて、九番目くらいに相性が合う後輩に指示を出している。
“「逃げてもいいんだよ」
これは、SNSで定期的に呟かれる呪文の一つだ。
本当に逃げていいと思う。逃げても世の中は平常運転だ。
二度と同じような人が出てこなくても、世の中が困っている様子を見たことがない。これは、絶望でもあり希望でもあるのだけれど、この世界は誰が抜けても大丈夫だ。だから個人が潰れるまで我慢する必要なんてない。心が壊れてしまう前に、人は逃げていい。
でも呪文のように「逃げていい」と呟く彼らも、そのツイートにいいねを押す人たちも、現実社会ではなかなか逃げていないように見える。
「ボクたちは必ず死ぬ。誰もが何も持たずにこの世からおさらばするのだ」
そうだ。僕たちは必ず死ぬんだった。ほぼ同時刻に満員電車に乗る日常を繰り返していると“いつか死ぬ”と脳では分かってはいるはずなのに、ふとこの日常が永遠に続くような徒労感に襲われることがある。
でも本当はこの日々の果てに、僕たちは一人残らず全員死ぬ。何も持たずに全てを置いて僕たちは必ず死ぬんだ”
“カネが儲かるとか、社会的に偉くなるとかの才能は分かりやすいけれど、別に僕たちの血肉までが資本主義なわけじゃない。勝った負けたが、僕たちを必ず幸せにしてくれるわけでもない。高級時計を買えば幸せになれるわけでも、タワーマンションの階数が上がれば上がるほど幸福度指数も一緒に上がるわけでもない。
各々が無心になれる何かをずっと続けられることが、勝った負けたなんてチンケなことを考えなくてもいい状態を作ってくれるんじゃないか”
“生きていると全部が、元には戻らない。壊れた部分は壊れたまま、抱えて生きていくしかない。
大きいため息を一つ。今のはため息じゃない。大きな深呼吸だ、と自分と他人を騙しながら、今日を生きてみる”詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ドラマが良かったので読む。
なので、脳内ではCharaさんが朗読していた。
過去は美化される。
エッセイは一回分として成り立つように構成される。(感傷的すぎと感じる部分があるが、気持ちはなんかわかる…否定と肯定が混ざる変な気持ち)残さなくてはいけないことはないけど、それでも忘れてしまうから、残したいと思って抵抗する。読書の記録をつけるのも同じ。
読んできたことがなかったことになるのが少し悲しいから記録をつける。生きていたことがなかったことになるのがなんか悲しいから誰かに語る。または語らず日記をつける。 -
なぜペンネームが『燃え殻』なのでしょうか…?
本書は、「人生はままならないから、デビュー小説で希望を書いた」(私は未読…)という著者のエッセイ集です。
自分を卑下し、自虐感溢れる印象は、内容からも筆名からも伝わってきます。ただ、文章からは重苦しさは感じられず、スラスラ読み進められます。
書き残さなかったら、なかったことになるかもしれない出来事や人の営みがあって、それらを残すのもいいのかも、と考えられたのでしょうか…。
かつてのことや最近のことを取り留めなく書くことで、大半が苦難であっても、後で振り返った時に「抗って生きてたな、その時は輝いていたな」と思えるのかと、我が身に照らしてぼんやり考えました。 -
燃え殻さん3冊目。本書は週刊SPAに掲載された2018年から2020年までのエッセイ。都内の美術制作会社に会社員として勤務する傍ら、作家・コラムニストとして活躍する燃え殻さん。2足のわらじ&テレビ局に出入りするなどマスコミ業界に身を置いているだけあり、本当に顔が広く、バラエティに富んだ燃え殻さんの知り合いについて楽しめる。燃え殻さんのこれまでの経験の考察なども面白い。常に淡々としており、地に足がついた感じがとても読み易い。
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小説『ボクたちはみんな大人になれなかった 』を読んだとき、そんなに好きじゃないなと思っていた。が、これはそんなイメージを吹き飛ばしてくれた。
こちらはエッセイで1つのお話が3,4頁で終わるためとても読みやすいし、感情に働きかけるなにかがあった。小説のときはこのエモさが上手く物語と繋がらなかったような気がする。だから、この作者は小説よりエッセイ向きの人なのかなとか思ってみたり。
良いエッセイばかりだった。特に好きなのは「偉そうにするなよ 疲れるから」「君はいつか知らない誰かとまたここに来る」でした。 -
いいねぇ!肩の力抜けてて、人生に気負いを感じさせない文体。かと言って作者は人生を舐めてるのか?とんでもない。作者の優しさ、葛藤、苦悩、人生への讃歌を受け取りました。すごく切ない話があれば
どうでもいいですよっ笑 って話もあれば
涙が…溢れはしないが、グッとくる話もある。気構えずに読むくらいが作者も喜んでくれるかな? -
ドラマが気になって手に取った一冊。
一篇が約4ページサラッと読めて、クスっとしたり、しんみりしたり、けっこういい気持ちにさせてくれたり…すべて忘れてしまうからからこそ残しておきたい思い出の数々たち……就寝前に読むのにお薦めのエッセイです。 -
ひとりで聴いた深夜ラジオから聞こえてきた彼女の声。祖母と二人でこっそり見た女子プロレス中継。突然生活に入り込んできた「テレワーク」……。良いことも悪いことも、僕たちはすべて忘れてしまう。だからこそ書き残しておきたかった、日常を通り過ぎて行った愛しい思い出たち。
心に響くエピソードの数々。 -
ドラマが存外良いので慌てて文庫本を買ってきた。
ドラマになってるエピソードも文字になると余計によかったりそうでもなかったりする。
阿部寛をあてはめて読んでいる。
日常は各人それぞれで同じ場所で同じ時間にいたとしてもきっと取り方は違ってて、だから面白いと思うのかなと全部読み終わってから考えた。
明日とか考えてもすぐ今日になるってことが辛い時もある。
それを肯定された気がするので読んで良かったかも。 -
過剰な期待も絶望もなく、肩の力を抜いて生きている筆者の語り口に、なんだかホッとさせられた