風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1449
レビュー : 181
  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101004020

作品紹介・あらすじ

風のように去ってゆく時の流れの裡に、人間の実体を捉えた『風立ちぬ』は、生きることよりは死ぬことの意味を問い、同時に死を越えて生きることの意味をも問うている。バッハの遁走曲に思いついたという『美しい村』は、軽井沢でひとり暮しをしながら物語を構想中の若い小説家の見聞と、彼が出会った少女の面影を、音楽的に構成した傑作。ともに、堀辰雄の中期を代表する作品である。

感想・レビュー・書評

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  • 文章がうまいか美しいかは個々の主観と好みの問題なので当否は別にします。で、私見ですが、堀文学の特徴は人物心情や物語の展開を情景で描写するという比喩表現の緻密さにあります。特に今回読んだ「風立ちぬ」や「菜穂子」「楡の家」などの短篇に顕著です。
    で、描き込まれる風景は八ヶ岳、軽井沢、山の麓、林、村といった自然です。天候と四季の変化、そこから生み出される風景の移ろいに人物心情を表現して物語が進むという構成です。


    例えば「風立ちぬ」に連なる一連の短篇でいうと、
    <雨の降り出し、激しい雨、梅雨、葉の滴>=物語の始まり。苦悩。孤独。不安の兆し。
    <新緑、葉の輝き、澄んだ空>=病状の回復。待ち人来る。
    <秋らしい澄んだ日、穏やかに風に揺れる木々>=幸福な時間、平穏。
    <陽の光で顔が照らされる、硝子に反射した陽の光>=回想、思索の時間。
    <雪雲、冬枯れた森、雪の降り始め、肌をしめつける寒さ、吹雪>=病状の悪化。憔悴。死期の兆し。
    など大まかにざっくり言うとこんな感じです。


    心情を情景で表現するのはどの作家も大なり小なり小説でやっていることで珍しいことではありません。ただ、情景を描き込み過ぎてダラダラ文章を続けてしまうと物語のリズムや流れを損なうので、この手法はベタだけど簡単なようで案外難しい。逆に描きこみが足らなかったり表現がありきたりだと作品が陳腐になります。
    そこらへんはやっぱ堀辰雄の作品は凄い。物語のリズムを損なうことなく人物心情とストーリーの展開を情景描写で表現しつつきれいにまとめて小説を作っている。細かな情景描写が人物たちの心情や心の機微を表現して小説を美しい作品にしています。

  • 愛する人が結核を煩い、入院生活は単調な日々だけど、そのなかに二人は二人だけにしかわからない、二人にしかできない幸せを見つけていく話。
    昔の時代の恋人同士とあって、燃え上がる激しい恋ではなく、淡々とした静かなわかりにくい恋だったけど、お互いのために一生懸命生きているって感じでよかった。

    風が吹いてきた、さあ、生きていこう…?
    とてもいい小説なんだろうけど、その半分も自分の物に出来なかった。情けない。

  • 最近読んだ中では異色の本。
    文学小説というのでしょうか、短編の小説が積み重なって楽章が出来ていくような色々なシーンが目に浮かんだり、心の中の葛藤や苦しみ、そして慈しむ心などがあふれてくるような小説でした。
    主人公から去っていくだろう最愛の彼女を呼ぶ文章表現が名前になったり病人となったり揺れ動く心がそう言う変わり続ける呼称に心の乱れのようなものを私は感じました。

  • この作品の隙間には、ずっと柔らかい風が吹いています。
    映画も見ました。映画にもどこかに必ず風が吹いていました。
    静かで優しいどこかで、風みたいな人と過ごせたら、
    どんなに幸せなんだろう~~・・・と読むたび思います。
    何回呼んでも、穏やかな作品です。
    単調とも言うかも・・・けど、誰も憎まないし責めない、あったかいお話。

  • 「美しい村」の方は雰囲気でしか読めなかったのだけど、「風立ちぬ」は良かった。

    じわじわと悪化していく節子が主人公を見るときの、なんとも言えない微笑みが切ない。
    サナトリウムの中で、死ぬことを前提とした生と、そうして愛情と、理想と。
    様々な葛藤が混ぜられながら、節子の今を見つめるのではなく、理想の二人をどうしても追い掛けてしまう主人公の気持ちにも共感できる。

    同じく新潮社から『菜穂子』も文庫化されているが、こちらも併せて読んでみて欲しい。
    「風立ちぬ」では、サナトリウムという閉鎖的な空間でお互いを見つめ合う愛が描かれているが、「菜穂子」はエゴの部分や孤独感が非常に強く出ていて、それも面白い。

    風立ちぬ、いざ生きめやも。

    意志と反語が一緒になっていて、堀辰雄の誤訳とされている。
    宮崎駿は「生きねば」と意味を断定した。
    堀辰雄の真意を知るべくもないが、生きようという意志表現と取るか、また定まっていない矛盾を敢えて入れたと取るか。

    「風立ちぬ」主人公に沿って考えると、なんだかどちらも合いそうな気がするのだ。

    蛇足。
    映画化され、パンフレットは読んでいないのだが、「風立ちぬ」をタイトルにしながら、ヒロインの名前が菜穂子であることに頷いてしまう。

  • ジブリで映画化との話を聞いて久々に再読、、と言いながらも、
    内容はすっかり失念してまして、ほぼ初見な感じでさらっと。

    いわゆる「サナトリウム文学」になるのでしょうか、
    何かを失いつつある人間に共通する、儚くも美しい諦観といった風な。

    そこには、著者自身の純粋さも鏡のように投影されているのでしょうか、
    季節の移ろいに彩られた、透明感のある文章と、感じました。

     「幸福の思い出ほど幸福を妨げるものはない」

    全てを背負って生きていくには、いとしい人との想い出は幸せ過ぎて。

    ん、このあたりの描写がジブリ映画で「ゼロ戦」と絡めて、
    どのように昇華されていくのか、楽しみでもあります。

    今年は『永遠の0』も映画になりますし、見比べても見たいです、なんて。

  •  買ったまま数年間積んでいたが、同名の映画を観に行ったことを契機に読んでみることにした。同著者の小説は、2009年に『燃ゆる頬』を読んで以来となる。


     重い病気(結核?)に罹患した妻“節子”と、付き添う夫“私”がサナトリウムで過ごす日々を描く話。
     妻を指す言葉が「患者」「彼女」「妻」と変化したり、多くの心理描写・回想があったりと、物語は刻々と進んでいるにも拘らず、時間の流れというか、時系列というか、そういった秩序が奪われていくような感覚に陥る。

     しかし、そこから時の流れの中にぐっと引き戻されるようなシーンがある。「冬」の章、節子が父の横顔を山襞に見る描写。ここが凄く良い。「冬」では、日付が記されているために、嫌でも時の流れを見せられる。永遠に続くかのような幸せな日々を送っているだけに、その残酷さがいよいよ際立つ。

     ジブリ映画での二郎と菜穂子に比べると、主人公たちの背景が殆ど描かれていない。そのため、死に対峙した人の生き様や幸福であったり、死別の悲しみに涙したり、そういった面は持ち合わせていないように思える。むしろ、一文一文が含む濃厚な意識の流れと、それを彩る美しい描写に身を委ねる小説と言っても良いだろう。

     とはいえ、この物語は現実と解離したお伽噺などではない。弱々しさを持ちつつも「いざ行きめやも」という言葉に心を打たれる。そうして生きられる時間は、小説中の“節子”に限らず、驚くほど短い期間であるはずだ。
     生きることは、必然的に死を内包する。では、そうした「生」(あるいは死)にどう臨めばよいのだろう。この小説から敢えてメッセージを汲み取るとするならば、こうした問いに対する“私”と節子の生き方が、一つの答えなのかもしれない。

  • 映画を先に観てしまいましたが、原作を先に読めば良かったと後悔しました。

    風景描写が秀逸で、このような作品を「サナトリウム文学」というそうですが、他の作品も読んでみたくなりました。

  • ・美しい村
    全体としてはとりとめのない話なのだけれど、軽井沢の昭和モダン的で洗練された風景描写がどこかノスタルジックで、余韻を残す作品でした。

    ・風立ちぬ
    「美しい村」から数年後の話。
    死の予感が生きる幸福を際立たせるのだと考え、その信念に基づいて行動していた主人公だったが、死が切迫化していくにつれて当初の考えと現実の心は乖離していってしまう。
    本当の幸せは「美しい村」のような取り留めなさの中にこそあったのだろうなと思います。
    作中では節子の病状が進むに従って主人公の浅はかさが浮き彫りにされていくのですが、その甘さと苦さの対比がまさに彼の言う幸福論のような対比になっていてとても効果的になっているのが、なんというか憎いなあと思ってしまいました。

  • 静かな小説。
    葉がかさかさという音や小鳥のさえずりのみ。
    優しくて悲しきまなざしで見つめ合う。
    心がしんとなる。
    この小説の世界観、好き。

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プロフィール

ほり・たつお
1904(明治37年)~1953(昭和28年)、日本の小説家。
代表作に
『風立ちぬ』『美しい村』『菜穂子』『大和路』など多数。

「2017年 『羽ばたき 堀辰雄 初期ファンタジー傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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