痴人の愛 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6252
レビュー : 795
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005010

作品紹介・あらすじ

生真面目なサラリーマンの河合譲治は、カフェで見初めた美少女ナオミを自分好みの女性に育て上げ妻にする。成熟するにつれて妖艶さを増すナオミの回りにはいつしか男友達が群がり、やがて譲治も魅惑的なナオミの肉体に翻弄され、身を滅ぼしていく。大正末期の性的に解放された風潮を背景に描く傑作。

感想・レビュー・書評

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  • なんでナオミは最後、譲治のところへ戻ってきたんだろう。もっとお金持ちだったりハンサムだったり、何でも自由にやらせてくれる男は探せばいくらでもいただろうし、いや探さなくても花の蜜に誘われて飛んでくる蝶のように、ヒラヒラと男の方からやってきたはず。西洋館に住み西洋人のように暮らしたいのであれば西洋人と一緒になればいいのだし。夫婦とならなくても愛人でもいいのではないか。現にナオミの周りには、譲治と別れる前から途切れることなく男たちがいたじゃない。
    それなのに、ナオミは譲治の元へ戻ってきた。まぁスンナリとただでは戻らないのが彼女だけど。ジリジリと譲治の本能をなまめかしくいたぶり、からかい惑乱する。遂に譲治は自分からナオミの足下に身を投げ跪いてしまうことになる。ナオミは譲治と再び夫婦という形をとりながら、好き勝手に生きることの出来る人生を手に入れた。
    ナオミを崇拝する譲治の姿を愛と呼ぶならば、譲治を奴隷のように扱うナオミの姿も愛なんだろう。
    ナオミにとって自分の前に跪き身悶え陶酔し堕落していく男がいる。この譲治こそ、彼女の魅力を引き立たせ、身も心もゾクゾクさせる満足感を与えてくれるモノなんじゃないのかな。夫婦という柵があってこその燃え上がる多情愛。だから譲治の元へ戻ってきたんだと思う。
    きっとこれも愛なんだろう。たぶん。うん。そぅ。たぶん。

  • 思うところあって谷崎。
    谷崎はたしか学生時代に「細雪」を読んだくらい。
    恥ずかしながら、ほぼ「通過していない」と云っていいでしょう。
    「もう一度、ジェームス・ブラウンから聴け」てな心境で、大正14年に刊行された本作を手に取りました。
    「今も色褪せない名作」といったあたりが常套句なのでしょうが、色褪せないどころか今も新鮮で艶めかしく、濃密な色香を放っていて夢中で読み耽りました。
    長年の風雪に耐えてきた文豪の作品は、やはり違うなと改めて実感。
    主人公の譲治は、一回り以上も年下のナオミと同居生活を始めます。
    ナオミはまだ数え年で15歳です。
    この幼気な(というかかなりマセてはいますが)少女を自分好みの女に変えようと、譲治は、いわば〝調教〟に励みます。
    ところが終盤、立場は変わり、譲治はすっかり大人の女に変貌したナオミの意のままに操られるようになります。
    ナオミの馥郁たる色気を描く谷崎の筆の容赦のなさと云ったら。
    譲治はナオミに触れたい一心で何とか隙を窺いますが、ナオミはのらりくらりと交わして指一本触れさせません。
    まことに悪魔のような女です。
    私は譲治にすっかり感情移入してしまい、何度も身もだえしました。
    で、ナオミは最後に譲治に馬乗りになって、全ての要求を無条件に飲ませます。
    その執拗さ周到さには驚き呆れました。
    そこまでやるか、と思わず突き込みを入れたほどです。
    まったく女ほど怖いものはない。
    強き者、汝の名は女なり。

  •  喫茶店で働く15歳の少女ナオミを自分の理想の妻に育て上げようと考えた河合譲治。しかし、河合は徐々にナオミの言動に抗えなくなってしまい…

     読む前はナオミがどんなに魅力的で危険な魔性の女っぷりを見せてくれるのか楽しみにしながら読み始めたのですが、ちょっとイメージと違ったかなあ。言動が思ったより露骨で下品だったなあ、というのが正直な印象。

     ナオミに対しそう感じてしまったので、譲治がナオミに囚われていく描写もイマイチ入り込めず…。このあたりは完全に自分の好みの問題だとは思いますが…。

     読み始め当初はナオミに囚われた譲治に対し、「馬鹿だけどかわいそうだな」などど少し同情的に読むところもあったのですが、
    譲治がナオミと喧嘩し「出ていけ」と啖呵を切ったにも関わらず、その後彼がナオミの少女時代から今までの身体の成長の様子を記録したノートを読み返し、後悔する場面を読んでその感情が消し飛びました(笑)。ナオミも大概だけどあんたも相当だよ……。

     二人の関係性がこうなった原因は結局どっちのせいということもなく、どっちもどっちだったのだろうな、と思いました。

    「女は恐ろしい」という言葉がありますが、この本を読んでいると女が恐ろしいというよりかは、破滅すると分かっているのに、結局本能に負けてナオミとの関係をズルズル続けてしまう譲治を通して見えてくる男の肉欲、性欲の恐ろしさ、というものの方が強く感じました。まあ、本人はそれに満足しているみたいなので、読者がとやかく言うことでもない気はしますが。

     譲治のナオミに対する感情って愛なのかなあ…

  • 私が人生で初めて遭遇した『小悪魔(魔性の女?)』といえばこのナオミ。親が持っていた文学全集の中でも、ひときわ異彩な話で、夢中で読んだ思い出。当時はなぜこの男は懲りないんだろう、バカだなぁとシンプルな感想を持ったが、子供心ながら本全体から漂うエロチックさ・背徳感はヒシヒシと感じていた。15歳の原石美少女ナオミを自分好みの女性に育てようと引き取る28歳の男の話。今読み返すと、ちょっと男の気持ちも理解できる。とはいえ、なかなかの変態な世界観やな。それを美しく文学的に昇華させている谷崎潤一郎は凄いな。

  • 途中であんまりにもむせ返って読むのが辛くなったけれど、それは私がこの登場人物たちに頼まれても居ないのに勝手に同情なんぞをしてしまった所為で、単純に「痴人物語」として読めばこれほど耽美で奇矯で哀れな話もないな、と一笑に伏せるわけです。

    なにも「純愛」だなんて謳ってないんだもの、最初から「痴人の愛」って言ってるのに。ついつい道を踏み外されると目を伏せたくなったりして、だめね。

    なんせ主人公の男が女にすっかり参っちゃってるもんだから、えらく奸黠だ巨魁だなんだって言い立てられてるけど実際彼女の手口を見ているとそんなに大物にも見えないんだよね。途中から本当に外見が美しいのかすら怪しんでみちゃったよ。時代背景を無視して、且つあら筋だけ見ちゃえば本当どこにでも居る悲しい30近い童貞男のよくある女狂いっていうだけの話で。良く「悪女の代名詞」みたいに言われてるけど、私にはナオミの素質なんて世界中の女が持ってるよ!って思えて、自分達で増長させていて泣き付くあたりは男性達にばかばかしさすら感じた。なのでラストの終わり方は反って気持ちが良かったです。うんうん、あれなら愛だよ!許す!

    こんなもやっとする話をここまでぞくぞくさせる性倒錯に満ちた艶麗な文学作品に仕立て上げた事に寧ろ感動。フェティシズムって人の神経を過敏にも鈍感にもするのね、とかSMも悪女も一日にして成らずだなあ、とか考えてときめきました。

  • 初谷崎潤一郎作品。
    カフェで働く貧しい15歳の娘、ナオミを引き取り、自分好みの女性に育てあげた28歳の男の手記。
    (物語はナオミ23歳、男36歳まで続く)
    美しく成長したナオミは自由奔放に周りの男たちを次々誘惑し、手玉に取る。主人公の男はどんどんとナオミに翻弄され、狂っていく。

    ナオミ…恐ろしい…。
    直接的な表現こそしないけど限りなく変態な谷崎の世界観初体験でした。

  • 自分で自分の首を絞めているとはいえ、首根っこを握られているとはいえ、最後は惚れた方の負けですね。途中、いいところまで離れられたけど、再来を許したらもう最後です。拒否したいようなまた逢いたいような気になったら、痴人の愛を読み直しましょう。負けないように。

  • 痴人=おろかな人の、とある女性に対する偏愛・執着の物語。

    対象の差、程度の差、時間の差はあるけれど、誰しもが、そして、間違いなく私自身も持っている偏愛や執着。
    それを“おろかさ”と言うかは人それぞれでしょうか。

    ただ、それがなければ、この世も、この文化も、この時代も、人が生きるナマナマしさも、なにもかもが空疎になってしまうようにも思います。

    でも、その“おろかさ”には溺れてしまいたくはないですね。
    “おろかさ”とほどよく付き合える距離感。
    これまでの我が人生の反省も込めつつ、模索していきたい距離感です。

  • 直接的な表現は避けてあるのに、ナオミの艶めかしさが目に浮かびます。

  • p.263
    そこには恋人としての清さも、夫婦としての情愛もない。そうそんなものは昔の夢と消えてしまった!それならどうしてこんな不貞な、汚れた女に未練をのこしているのかと云うと、全く彼女の肉体の魅力、ただそれだけに引き摺られつつあったのです。
    (略)いや時としてはその卑しむべき娼婦の姿を、さながら女神を打ち仰ぐように崇拝さえもしたのですから。

    貞操や情愛を超えた、純粋な肉体の美しさ。しかも悪魔のような肉体の魅力。その自由奔放な精神。
    漠然としたあらすじでは、男を手玉に取りつつも知的で美しい女性、というのを想像してた。実際は、わがまま放題奔放でだらしない女性、でもそうなればなるほど崇拝してそれに目をつぶり金を貢げば極上の女性に跨ってもらえる、これはこれで惨めでも幸せな夫婦。
    口に息を吹きかけてもらう「友達のキス」、寝れば沐浴すれば冴え渡る肌の白さ、お馬さんごっこ、足首の締まり方と様々な履物、質感と柄の凝ったシンプルでエキゾチックな着物と似合うナオミ、谷崎の倒錯した美学、見事。

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著者プロフィール

明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2018年 『父より娘へ 谷崎潤一郎書簡集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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