刺青・秘密 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005034

感想・レビュー・書評

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  • 「異端者の悲しみ」が作者の自伝的小説だと聞いて読んだが、繊細すぎるがゆえに歪んでしまったのかと思うと悲しい気持ちになった。
    世界は自分の見方で変わる。

  • 短編集(中編も含まれている)であり、それぞれの話が面白い。少年、秘密、異端者の悲しみか特に良かった。タイトルにある刺青はこんなに短いものだったんだと、少し拍子抜けしてしまった。笑

  • 初の谷崎潤一郎作品。
    出てくる人物はほとんど狂人じみた人達ばかりで、共感できるところはほぼ無い。
    ただ、文章に惹きつけられる。
    難しい言葉が多いけど、不思議と苦にならない。
    特に短いけど心を掴まれる「刺青」と幻想的な情景描写が美しい「母を恋うる記」が良きでした。
    もっと別の谷崎潤一郎作品を読みたい

  • 谷崎潤一郎の短編集だがどの物語もそれぞれ怪しい雰囲気が漂っていてその不思議な艶めかしい世界に取り込まれてしまう感じでした。
    特に印象に残ったのは「秘密」と「少年」かな。

  • 谷崎潤一郎の短編集。
    本当は岩波文庫で揃えたかったのですが、現時点でなぜか岩波で"刺青"を収録しているものが無く、新潮文庫版で読みました。
    収録作は7作、全て短編で、一般的に有名な谷崎文学は"刺青"のみだと思います。
    刺青に始まり、氏のライフワークの中頃までの作品が収録されています。

    名作揃いですが、選定基準は謎です。
    短編集とするのであれば発禁となった"颱風"や、映画になった"お艶殺し"、また、"異端者の悲しみ"を収録するのであれば、同じ自叙的小説である"神童"なども収録してほしかったなと思いました。

    各話の感想は下記です。

    ・刺青 …
    言うに及ばない大谷崎の代表作。
    氏が処女作としている作品で、倒錯した望みを秘めた刺青師が、理想の女性に出会い、刺青により魔性の女へと変貌を遂げさせるという内容となっています。

    有名作ですが、15ページもない超短編ですが、谷崎潤一郎の文学を知るには十分な作品です。
    主人公の刺青師が女の白い足に惹かれ、怯える無垢な女性を昏倒させて事に及ぶに至る流れは怪しく、また、一つ違えば大事件となることをやらかすのですが、そんな読者の思惑とは異なり、刺青によって変身をした女の姿は怪奇小説に似た雰囲気を持ちます。
    耽美主義を理解する上でも教科書となる作品だと思いました。

    ・少年 …
    耽美主義が前面に出た作品。
    本作、"少年"から"幇間"、"秘密"は全て1911年に発表しており、これらは谷崎潤一郎の初期の短編と呼べる作品です。
    金持ちの息子・信一に誘われて西洋風の豪奢な屋敷に遊びに来た主人公は、そこで学校ではえばっているガキ大将・仙吉と共に三人で遊ぶことになります。
    その遊びの内容というのが、サディズム的衝動に取り憑かれている信一に従わされるひどい内容なのですが、主人公はそこに気分の高揚を感じてしまい、言われるままに従ってしまうという内容。
    その過程が自然で、知らぬ間に引き込まれる作品でした。

    ・幇間 …
    幇間の男が恋をしてしまい、元友人である旦那に口添えを頼むが、結局はからかわれてしまう話。
    何をされても怒らず、人に笑われることにのみ全てを委ねる男に対するあんまりな仕打ちが描かれています。
    ただ、本作中に悪意を持った人はおらず、それまでの道化からなるべくしてなったことのような展開で描かれていて、この展開は現代社会におけるイジメが発生する流れに似たところがありますが、本作で描かれているのはイジメではないです。
    こうして大勢から自尊心を傷つけられるのですが、直接的な描写こそないですが、そこに悲しみではないもっと他の感情を受けてしまっているように感じました。
    そこが本当に哀れと感じ、やはり本作も耽美派の作品であると感じるところでした。

    ・秘密 …
    世俗に疲れ、東京のとある裏路地の寺に隠れ住むことにした、心の荒んだ男が主人公。
    この主人公が女装趣味にハマり、いい気分で街を出歩いていたところ、昔関係を結んだ女性に偶然出会う。
    その女性・Tも、素性を明かしてくれず、お互い秘密を抱えたまま逢瀬を重ねるが、というストーリーです。
    女の柔肌フェチだったり、ドM男だったり、女装癖だったり、谷崎潤一郎の小説の登場人物はHENTAIだらけですね!
    秘密は秘密のままでいたほうが良いという内容で、それが暴かれたとき物語は終焉を迎えますが、そのカタストロフィというにはあまりにも残念すぎる終幕を含めて秘密というタイトルに込められた意味を感じました。

    ・異端者の悲しみ …
    谷崎潤一郎の自叙的中短編。
    別の中短編"神童"から続く内容となっているそうです。
    章三郎といういい年をして働かずに放蕩暮らしをしている青年が主人公。
    こいつが作者の投影なのでしょうが、どうしょうもないクズ野郎で、羽振りがいいフリをして友人と遊ぶ約束をし、金の工面に困り別の金が必要な友人から借受て返さず、それが友人間に伝わっても平気の面でしゃあしゃあと仲間の内に加わります。
    家は父の事業の失敗から零落し、妹は病から死の淵にいる。
    夫婦げんかは絶えず、父の立場は弱く、お嬢様育ちの母は泣いてばかりいるし、主人公は情緒が不安定。
    そんなどうしようもなく詰んでいる日々を描いた作品で、読んでも気分悪くなるだけで良いことがないです。
    心理描写、情景描写が巧み故に救いがないことが伝わってくる内容で、それも抗った上ではなく、主人公が立場をわきまえずプライドを捨てきらない駄目男なので、ただどうしようもない雰囲気が漂うだけの作品でした。
    谷崎潤一郎という文壇の成功者を知るには正直すぎる如何もありますが、参考になる作品だと思います。

    ・二人の稚児 …
    物心のつく前より、女人禁制の比叡山にあずけられ、女性を見ることなしに育った二人の稚児の物語。
    小説というよりおとぎ話めいた内容です。
    ふとしたきっかけにより、禁欲の日々が瓦解した一人と、その世界を知ることなしに生きて突然、目の前に全く違う2つの道が現れ選択を迫られた一人。
    歪んだ物語ですが、耽美主義という感じはなく、普通に良くできた考えさせられる内容でした。
    結末もおとぎ話ライクで、良かったですが谷崎潤一郎のドロリとした、フェティシズムなものは感じられず、毛色の違う作品と思いました。

    ・母を恋うる記 …
    谷崎潤一郎の中期における短編。
    執筆の二年前に谷崎は母を亡くしており、亡き母の美しさを夢の中で描いた作品となっています。
    ただ母を礼賛しただけの内容ではなく、夢の中で少年の姿の谷崎が老いた母から拒絶され、若くきれいな女性に母親であると告げられるというのが文学批評家諸氏的にはポイントであるらしく、母性への憧れ、崇拝の顕れと言われています。
    読んでみた感想としては名著とは言い難く、読んで退屈な内容でした。
    耽美主義といった内容でもなく、"二人の稚児"以上に、「刺青・秘密」と題した短編集に収録するのは不自然に感じしました。
    谷崎潤一郎のルーツを辿るには重要な作品ですが、そういったテーマで読みたいときに出会いたかったと思いました。

  • 私的に俄かに生じた文豪ブームに乗っかった初の谷崎作品。
    新潮文庫『文豪ナビ 谷崎潤一郎』のおすすめコースに素直に従い、手始めの本書から。

    7つの短編から成る本書。
    いきなりの『刺青』では、文庫版で12頁の短さながら、登場人物の“生身”感や艶やかな色合いを浮き彫りにする表現・描写、そして心地よく・キレのある展開。
    一気に作品世界に取り込まれます。

    他6作品も個性あふれる作品ばかり。

    物語に魅了され、没入していくうちに、心や感覚のすみっこの方をチクっと刺激される感覚。

    谷崎作品、病みつきになりそうです。

  • これほど美しい日本語に出会ったことはない。。
    谷崎潤一郎は私の一生の推し^^

  • 全部さすがの面白さ。短編であそこまで引き込むのは谷崎しかいないと思う。

  • 美しく艶めかしい文体に触れて、濃密な読書時間を体験した。

    中でも美しい絵を織り成す「秘密」が好み。

    秘密に秘密をかさね、欲求が抑えられず
    はらりはらりと
    秘密は秘密のままが美しい
    女の人は色々の秘密を抱えて生きている

  • 印象に残ったのは「少年」、「異端者の悲しみ」、「母を恋うる記」。「少年」は、マゾヒズムの倒錯、「異端者の悲しみ」は太宰のような自伝的世界、「母を恋うる記」は谷崎の母への思慕、それぞれが印象に残る秀逸な短編集。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

谷崎潤一郎の作品

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