刺青・秘密 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 331
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005034

感想・レビュー・書評

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  • やっぱり、美しい。そして、すごい。
    私と谷崎さんの出会いは7年ほど前の痴人の愛。
    その時に受けた文章の美しさに対する衝撃。
    やはりすごい。

    秘密が一番気に入った。
    谷崎さんは、椿姫などの外国文学のように、商売女を扱わない。誰もに潜む、しかし見栄があり認められない変態性を描き出す。つまり、普通の人の狂気だ。高圧的な上司に文句を言いながら、自分が上司になったら決断をしたり、部下の仕事の安定の責任を持つ勇気がないことを認められないといった心理のように。それをテーマに扱うことはすごいとは思うが、内容にそれほどの深さは感じない。ただただ、日本語の美しさ。それに尽きる。wikiの「耽美主義」の説明に同意する。

    怖いのは「少年」。サディズム。私は、サディズムなとこは少ないと思っていたが、この話を読んでいると私にもあるかもしれないと思えてくる。

    刺青の足をほめる表現が好き。

    家族へのゆがんだ感情についての「異端者の悲しみ」は、心に刺さった。私も一緒の境遇にいるから。160ページ周辺の自らがまず大人になると、父親の態度も変わり、自分自身の良心のとがめもなくなるのではないかなど。私も父親のことをなんとも思わないことを子供のころに思い、人間として失格なのではないかと悩んだことがあるので、よく気持ちがわかる。反抗して家を出ても、やっぱり戻るところがそこしかないといったところなど。自分の教養に自信を持ち、世間に非があると思ってしまうのも、多くの人が理解できる感情ではないだろうか。私が谷崎の特徴だと思っている、認めにくい誰もが持っている普通の人の感情だと思う。

    母を恋うる記は幻想的で、最後まで設定がよくわからない。少年が母を探して、海沿いの松原を歩いていく。途中から月が出てきたり、その情景の美しさがやはり谷崎。歩んでいくと、三味線を奏でる女が一人。それは泣いている母だった。母を探して長々と歩いてきた悲しみがあふれ、共に泣きだす。目が覚めると、自分は大人で、母は去年亡くなり、改めて涙を流す。これが綺麗な情景でなく何なのか?やはり谷崎は美しい。

  • 谷崎潤一郎なんて男女の性愛についてとかでしょ?あんま興味ないかなあなんて思ってたけどそんなこといってないで早く読めばよかった。
    面白かった。

    文章がすごく綺麗なので、いやこれどうなのって状況でもすごく綺麗に感じる。

    『異端者の悲しみ』は自伝的な話らしいけど、本当に谷崎がこんな感じだったのだとしたらなんとも嫌なやつだなぁという印象。
    この年頃は誰しもいろんなことに悩んだりおかしなことをしたり悪ぶってみたりするものだと思うし、年齢や当時の状況を考えるとしょうがないのかなとも思えるけど…。
    それにしても傲慢、自尊心、他人への思いやりのなさがすごい。
    女性に関しても何より谷崎が好きなのは『女の綺麗な肉体』であって、女の人格やらなんやらはどうでもいいってことなんだなあと。
    たぶん『自分を責めて悦ばしてくれる綺麗な道具』くらいの認識なんでしょうね。

    好きだったのは『少年』と『母を恋うる記』。
    『少年』は少年少女の無邪気な残酷さがぞわぞわするほど綺麗に描かれていてまさに耽美という感じでよかった。
    『母を恋うる記』は幻想的で綺麗な雰囲気と文章ですごく好き。
    情景の描写もだけど音の描写もとにかく綺麗で、その場面の風景がみえて音が聞こえてくるかのようだった。
    美しくて切ない。
    これをラストにもってきてくれてありがとうございます。

  • 『少年』の文章から漂うエロさは凄い

  • この本を手に取るのは、勇気がいりました。
    けど、読んでみてよかったです。
    「秘密」はとくにミステリアスでおもしろかった。

  • 刺青の章だけ読了。何とも形容し難い、本当の文章としてのエロティシズム、耽美主義であると思う。繊細な描写と語彙の選択のひとつひとつが艶めかしく、文章そのものが妖艶さを放っている。
    彫刻家(芸術家)の心描写とその生き様、生きる意味や意義を描くところはとても素晴らしい。

  • ・異端者の悲しみ

    主人公の中に何年か前の自分を見た。
    主人公のモデルは彼本人らしい。
    最近、もの書きというのはこういう一面を皆必ずと言ってもいいほど持っているものなのかもしれない‥と思う。

  • 私的に俄かに生じた文豪ブームに乗っかった初の谷崎作品。
    新潮文庫『文豪ナビ 谷崎潤一郎』のおすすめコースに素直に従い、手始めの本書から。

    7つの短編から成る本書。
    いきなりの『刺青』では、文庫版で12頁の短さながら、登場人物の“生身”感や艶やかな色合いを浮き彫りにする表現・描写、そして心地よく・キレのある展開。
    一気に作品世界に取り込まれます。

    他6作品も個性あふれる作品ばかり。

    物語に魅了され、没入していくうちに、心や感覚のすみっこの方をチクっと刺激される感覚。

    谷崎作品、病みつきになりそうです。

  • 印象に残ったのは「少年」、「異端者の悲しみ」、「母を恋うる記」。「少年」は、マゾヒズムの倒錯、「異端者の悲しみ」は太宰のような自伝的世界、「母を恋うる記」は谷崎の母への思慕、それぞれが印象に残る秀逸な短編集。

  • 全篇に渡って、なんとなく後ろめたさを感じる。文章表現が美しければ美しいほど、なんだかわからない罪悪感に苛まれてしまう話ばかりだ。
    その中で、最後の作品『母を恋ふる記』。本当にこれには参ってしまった。
    冒頭から情景がありありと浮かんで、寒く、心細く、宛てなく暗闇を歩いている主人公の心情が完全に伝わってきて、読んでいる自分は実際には歩いてないのに足取りが重くなる…。そこを照らす月の明かりの表現。描写が心に響きすぎて、声にならない声が出そうになった。
    その後の母の涙の姿、これも美しさと母親の気丈な心が現れていて感嘆してしまう。月の包容力にも泣けてしまう。そして最後にわかる真実で、もう全ての力が抜けてしまう…
    本当にこの作品を読めてよかった。こんな凄まじい文章は到底書けないけれど、だからこそ読む愉しみがあるというものだ。

    (『刺青』が思っていたよりかなり短編で驚いた。これをあそこまでの映像に膨らませた増村保造監督はすごいなあ)


  • 官能的!

著者プロフィール

明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2018年 『父より娘へ 谷崎潤一郎書簡集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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