猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

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レビュー : 198
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005058

感想・レビュー・書評

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  • 猫賛歌の小説。(笑)人間が愛情を捧げる心理を、愛猫を中心に巧みに表現した短編作品です。
    ダメ男が最も愛情を傾ける猫リリーを頂点に、新旧妻のおんな二人(いや母親も入れると三人か)の駆け引きを緻密に表現されており、また、ダメ男庄造の溺愛と憔悴ぶりがきれいに対比されていて、それが面白かった。僕なんかがこんな心理もあるだろうと予測することが、それ以上に次から次へと展開されるので、これはかなり心情が吟味されてあるのだろう。
    解説によると谷崎文学の根底にある、(リリーへの)「隷属の幸福」を拒まれた男の破滅を描いたということであるが、心理描写が巧み過ぎるせいか理屈が先行し少し説教臭さのある文章になっている半面、関西弁の穏やかさと日本語表現がきれいなので、気軽に楽しみながらすらすら読めます。また、自分にはよくわかりませんが、猫好きな方にはたまらないのではないでしょうか。(笑)
    ラストはかなり余韻が残るのですが、余韻が残り過ぎて結末としては物足りなさも感じてしまい、逆に忘れられないラストになりました。この後の展開がまた気になるところです。

  • 庄~造~。
    なんで?なんでリリーを手放しちゃったの?
    元はといえばアンタがそういう性格だからこうなっちゃたんじゃないのー?
    と、柄にもないお説教をしたくなるほど、おはなしにのめり込み登場人物達に愛着を抱いた。

    谷崎文学ははじめて。
    この本は高校生の時にブックオフで100円で手に入れた。
    それからウン十年本棚に積んであったが、久世番子さんのコミックエッセイ『よちよち文藝部』を読んで‘日本文学’に興味を持ち家にあったこちらを読むことに。
    ‘日本文学’に及び腰のビギナーにも安心の薄さ。
    中身は軽妙だけど濃かった。

    最初に感心したのは読みやすさ。
    もっと読みにくいと思い込んでいたが、長いセンテンスの文章でも苦痛に感じずスラスラ読める。
    登場人物達の関西弁も、昔風の言い回しも慣れてしまえば心地よく作品世界に浸れる。

    その登場人物達の造形の上手さには舌を巻いた。
    特に福子がお腰をそこら辺の隙間にたくさん溜め込んでいる描写。福子という人となりが分かり、ちょっとした嫌悪感が一気に襲ってきて、庄造が最終的に「やっぱりわしにはリリーちゃんしかおまへん。ああリリーちゃんに会いたいなあ」となるのに納得する。
    品子さんはしっかりものでキツいようだけど、ちゃんと情があって働き者。
    でも庄造はバカにされているのが許せないんだね。
    わかるわかる(笑)
    そして、この作品の女神ことリリーちゃん。
    猫好きなら必ず「リリーちゃん、リリーちゃん」になるだろう。彼女の描写が丁寧で、そして堪らなく愛らしい。

    登場人物それぞれの‘プライド’のどれに共感するかで性格でそう(笑)

    そしてやはり一番賢いのは猫だった(* ̄∇ ̄*)

  • 飼い主の心猫知らず。
    周囲の人間が呆れる程、只ひたすらに飼い猫リリーに愛情を注ぐ、正に「猫可愛がり」。
    本作のタイトルの順番通り、常に「猫」が一番上。
    妻や愛人よりも、である。
    リリーが一度哀愁に充ちた眼差しでじっと自分を見上げただけでもうメロメロ。
    リリーの言いなり。
    リリーは只、飼い主の顔を何の気なしに見ただけなんだろうけどね…それを言っちゃあ、おしまいよ。

    谷崎潤一郎も相当の猫好きとみた。
    猫の描写が具体的で細かすぎる。
    これは猫を実際に飼って間近で見て可愛がっている人でなければここまでは描けまい。
    谷崎潤一郎に対してぐっと親近感がわいた。

  • 『猫と庄造と二人のおんな』猫が庄造の上にきて、彼の下に元妻、現妻がくる。庄造から見ると何が一番大切なのか、このタイトルに表された順番がばっちりハマる小説。そして、猫が支配しているものとして考えてみても、やっぱりこの順番になると思う。
    猫の名前はリリー。なんて素敵な名前だろう。百合の花のように、純潔で気品があってツンとすましていながら、妖艶な芳香のように時には妖しく時には甘えてくる……庄造の理想とする女性像が全て詰まったようなものなんじゃないかな。
    そんなリリーに陶酔する庄造の奉仕っぷりは、やっぱり谷崎潤一郎の描く愛の形。
    現妻、福子はリリーへの嫉妬心から庄造と引き離したけれども、彼の心は猫から戻らない。元妻、品子はリリーをダシに庄造の愛を取り戻そうとするけれど、彼の執着はやっぱり猫だけに向く。そして、あれほど庄造と相思相愛だったはずのリリーは、もう彼のことを忘れたように見捨てている。
    たった一匹の猫の支配する世界から逃れることの出来ない人間たちの可笑しくもちょっぴり哀愁漂う物語。

  • *猫と「蜜月」関係を結んだことのある人にはたまらない小説ではないでしょうか。って私自身は、飼っていたことはあるけど、そこまで親密な時期が続くことはなかったですが(子猫のある一時期はよく懐かれたな、とかその程度)。でも、猫と蜜月な人って本当にいると思うので、この小説で描かれている、庄造と猫の関係は、ちっとも大げさじゃないなと思います。
    犬でも、同じくらい溺愛してる人はいると思うので、広く「ペット」文学とみることもできそうだが、「二人の女」が出てくるところが、やっぱり猫じゃないとあかんという気がする。庄造という男が猫とあまりに親しすぎてやきもちを妬く女ふたりが出てくるわけですが、犬には出せないエロチックさとかが、猫にはある気がする。

    *庄造、元妻の品子、現妻の福子、母のおりん、が主な登場人物。彼らの心情がすーっと伝わってくる。ただだらだら綴っているだけと言えばそれまでというくらい、文章でひたすら書いてあるだけなんですけどね。この赤い夕日の描写が彼の情熱を象徴しているのだというような、凝ったことはしてなくて。だらだら書いているけど読みにくいこともなく、生い立ちや性格までも、いつの間にか「知らされて」いる。

    *でまた、終わりかたの潔さったら!細雪もそうでしたが。このなよなよ男と女たちと母と猫との関係を、どういう結末で片付けるんだろうって楽しみにして読んでいったんですけどねえ!

    *なよなよ男といま書いた庄造さん、まさに歌舞伎でいう和事の二枚目のような情けなさ。仁左衛門とか愛之助が、眉根を寄せて演じていそう。

  • コメディっぽくてとても読みやすかった。
    出だしの品子の手紙の語り口がいかにも谷崎らしくて
    ファンとしては冒頭からにんまり。

    130ページもない小説なのに、登場人物のキャラクターや背景、
    駆け引きを淀みなく描ききってしまう文章と表現はただただ尊敬します。

    傍から見ると滑稽なくらい何かに執着している人たちは
    どうしてこんなに魅力的なんだろう。
    いつか猫を飼う時がきたら、「リリー」と名付けて
    振り回されてみたいものです。

  • やっぱり好きだな〜と再確認。谷崎潤一郎は何が魅力かって、もちろん描写のうつくしさとかもそうなんだけど、それ以上にわたしが好きで堪らないのは、だめな人間の描き方。それから女性目線の的確さ。ほんと女性の、夢を求めるくせに自分はシビアだったりする矛盾とかを描いていて、全然うつくしくないがゆえに読んでいるこちらはいいんだけど、谷崎潤一郎の好み大丈夫?こんな女性の醜いところを嬉々として(に、見える)描く谷崎潤一郎きもちわるい、といつも思う。そこが好きです。


    世の中は、リアルですよ、と言いながら、リアルな(人々が夢見ているそのままの、つまり現実からうまく生臭さを取り除いた)物語や言葉や関係性に溢れている。谷崎潤一郎の書く物語は、えげつない描写や極端な人物設定を使って、人の弱さみたいなほんとうのリアルを実は書いている、気がしてる。

    とは言うものの、全作品まだ読んでないのです。笑 今年中に読みたいなあ。

  • 喜劇として面白く読んだけれど、登場人物のリリーに対する愛情の描写が気持ち悪かった。気持ち悪いのが猫好きで知られる作者なのか登場人物なのか自分にははっきりしなくて、それもまた気持ち悪い。猫が悪いんじゃなくて、人間の一方的な偏愛の気味悪さ。谷崎にとって愛とは隷従らしいけれど、自分としてはあまりそういうことにしたくない。

    偏愛なのだから放っておくしかないのだが、庄造みたいな愛嬌だけの非生産的な男に執着するはめになった品子と福子が残念だ。世の中半分は男だというのに。

  • 猫文学ときいて気になっていた作品。
    なんであんなだめ男に女性がふたりも、信じられんことに猫までもが寄っていくんじゃい。なんで庄造がもてるんかもわからんわ。少年漫画かよ。ただ、ねこはえさをくれる、うんちの掃除をしてくれる人がすきです。
    あと、谷崎がねこに対しても異様なへんたいめせんでみているとゆーことがわかりました。大好きなのは知ってたんだけどね。

    テンポのいい関西弁で文章もすごく読みやすかった。

  • のれんに腕押しの情けない男庄造を二人の女が猫を挟んで取り合うというどうしようもないお話なんだけど、この猫のリリーちゃんがかわいすぎる。
    リリーちゃんの描写に猫愛を感じる。
    長毛種で茶系だからノルウェイジャンみたいな感じかな。猫の写真見ている時と同じようなときめきを感じました。庄造が最後逃げていく様もなんだか猫のようで可笑しい。猫が活躍する小説の中で一番好きかも。

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著者プロフィール

明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2018年 『父より娘へ 谷崎潤一郎書簡集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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