蓼喰う虫 (新潮文庫)

著者 :
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本棚登録 : 1305
感想 : 96
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005072

感想・レビュー・書評

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  • 書名の「蓼喰う虫」とは諺である「蓼食う虫も好き好き」の、あんな不味い蓼を食べる虫もいるように好みは人いろいろである、というところから来ているのだろう。
    この物語は大きくは2つの流れになっているようで、主人公の要(かなめ)を中心に、通である義父の人形浄瑠璃好きに付き合っている内にだんだん自分も傾倒していく様子と、もうひとつはこれが本流ですが、妻の美佐子を抱けなくなったのを発展(?)させ、妻には愛人を持たせ、自分は娼婦通いで、将来的に離別するのを前提に仮面夫婦を演じている異常な関係を、両者巧みに場面を移しながら描いていきます。書名からすると、人形浄瑠璃の世界をこんこんと描き、義父自体、人形のような妾・お久を自分色に染め上げている物語の方がその意に直接的ですが、その関係の異常さを解消せずに夫婦のぐだぐだな惰性生活に実のところ浸っている要・美佐子の関係性のことも指しているのでしょうね。
    大阪文楽や淡路の人形浄瑠璃の世界をそれこそ通の道楽さながらに描く様は、谷崎の文芸評論であるとともに谷崎自身の傾倒ぶりも感ぜられ微笑ましい。
    夫婦の機微やそれを察する息子の言動などみっちり細やかな表現は、逆にますますぐだぐだ感を高めていきますが(笑)、実のところのどうしようもない心情が奥ゆかしく(?)読者に伝わってきて、物語の行く末がとても気になりだしますが、これも谷崎らしい非常な余韻をもったラストになって、おいおい!と。(笑)考えるに、これは最早「夫婦」ではなく仮面夫婦だが、しかし相性は「夫婦」としてぴったりというこの異常な関係を、この瞬間においてぴったり切り取り、夫婦である男女間のある心情として永遠に封じ込めたかったのでしょう。放置、あるいは投げっ放しジャーマンを食らうのも好き好きなんですけどね。(笑)

  • 蓼喰う虫もなんとやら。あえて今日読むよ。
    最近はもっぱら"娼婦型"だが、芯は良妻賢母であるはずの妻・美佐子がひらひらと恋人の元へ通うことを公認している夫・要。
    世間様や一人息子のまえでは体裁を弥縫し生活する仮面夫婦、でもそれが二人とも納得尽くのバランスの良い関係性であるんだとしたら、それはそれで有りなんでないかな。
    ゆくゆくは離婚する方向で話し合いはついたものの、じゃあそれはいつになるのか、いざという肝心の一歩を互いに相手任せにしちゃう感じ、いいね。生活だなぁ。
    人形浄瑠璃や着物にまつわる描写が多くて多くて、知識不足ゆえイメージを膨らませるのが難しかった。「閨房の語らい」と書いて夜の夫婦生活を意味するのは、なんか面白くて妙に気に入ったので覚えておきたい。

  • 私の人生の悩みの一つでもある、愛と性欲についての本だ!と思ったので手に取ってみた。あとこの題がいいね( ´-`)調べてみたら「蓼喰う虫も好き好き」という諺があるんだ。勉強になった。

    うーん..。最初はまぁ性欲で繋がらない夫婦の内面的な問題点について探っていくものかと思っていたけど、どうも違いそう。途中までもっと重いのが好きだな~っていう感想だったけど、そういう視点ではこの小説の魅力や扱っていることは捉えられなそう。主人公夫婦と、対照的な老人カップル、高夏とルイズの存在、そして 弘(絶対子どものことそんな心配してないでしょ!と思った)がそれぞれどんな印象を与えるのか、もう少し深く考えてみたいものである。
    主人公の名前が要だから、何かずっと要潤で想像してしまった(*´・∀・)

  • 谷崎の有名作。
    両者合意で「離婚すること」を内々に決めた夫婦が、子供や義父にどう伝えようかとくよくよする話。
    この時代にして、あくまで理性的にかつ公平に?対処しようとする男性主人公の心理が主で、その西洋的な?理性に浄瑠璃などの純和風古典的な価値観がアンチ的に忍び寄ってくる…という趣向は後期谷崎への助走として興味深いが、その情景のみに終わるので作品としての満足感というか、「打ちのめされ感」で言うと、卍とか猫と庄造に比べると今ひとつな感想。

    でも、谷崎は大好きです。

  • "妖しく交錯する"という表現がぴったり当てはまるような内容。
    既婚者だからこそ、この小説を興味深いと思えるのかもしれません。

  • 今の時代でもこの様な夫婦はいると思う。
    お互いの心理描写の微妙なバランスを細かく描けており感心した。最後の場面は淡路の人形浄瑠璃のお話が出てくるのだが、私世代から見ると、このサブカルチャーの描写はは 初見のため頭に入りにくかった。
    世の中は色んな人がいます。蓼食う虫も好き好きです。

  • 文学好きの知人が「谷崎潤一郎の中では『蓼喰う虫』が好きだ」と言っていたので、読んでみた。読後「どうだった?」と聞かれたので、「人形浄瑠璃が見たくなりました」と言ったら、知人も「私も全く同じ感想だった」と。人形浄瑠璃は徳島で『傾城阿波鳴門』を見たことがあるだけなので、要たちが淡路島で見る『朝顔日記』を見てみたいと思った。こんな風に、お重にお弁当を詰めて行って一日中屋外で浄瑠璃見れたら楽しいだろうなぁ。トイレが無いのは困るけど。
    夫婦関係は、まぁそういうこともあろうかなぁという感じであまり心動かされなかった。谷崎の書く男女関係や恋愛のあれこれよりも、作品に表れる谷崎の日本文化に対する目の方が好きだ。

  • 性的不調和が原因で、離婚しようとするが、なかなか踏み切れない夫婦を描いた作品。
    今のように簡単に踏み出せないのは、当時の世間の目が大いに関係している。
    妻の立場を思うと、こんな夫は嫌だ!と言いたくなる。自分に性的な魅力を感じてくれず、また他の男のもとへ通うのも助長されるのだから。しかし、なかなか夫を攻めきれないのは長年寄り添ってきて情がなかったわけでは無かったからであろう。しかし、妻は夫に素直になることができないのは可哀想だと感じた。

    スッキリしない終わり方、と言われればそうなのだが、当然なのではないかと感じた。最初から曖昧な関係、曖昧な心持ちの夫婦だったのだ。それが、最後に綺麗に収集される方が違和感がある。きっと夫婦は別れ、それぞれの道を歩むのだろう。しかし、そこまで描く必要もない。一貫した終わり方だと感じた。

  • どこの夫婦にも多少はありそうな不和が比較的若い時期に訪れた悲劇ではあるが、夫婦感の感情の起伏をとても繊細に丁寧に描いており、また表現がうつくしい。
    嫁の父が中を取り持とうとしているが読みのほうが遠ざける原因が目かけのお久にあることとか、はっきりと描かれてはいないが根深い感情があると察しつつ考えさせられる。
    淡路に三人で人形浄瑠璃観覧に行くところは本筋ではないけれど情景が浮かぶようでとても楽しい。夫のかなめの感情はルイズやお久を慕っていることが終盤に明かされいよいよ興味深い展開に。
    最後に父娘二人ででかけ、嫁が泊まりを了承した意外な展開から、残された要とお久の風呂場や寝床での描写などの後に突如終わる展開が何故かとても印象深い。

  •  妻が外に愛人を持つことを夫が容認する仮面夫婦。「別れよう」と心に決めながらも、決断できない様子、ゆらゆらする心情は、理屈っぽい読者(と従弟)を苛立たせるが、そう簡単に割り切れぬのが人間というものなのだろう。

     結末は描かれない。主人公が妻の老父の妾(いかにも日本的な美しさを湛えた女性)に心惹かれる様子がなんとなく書かれ、あっけなく幕切れが訪れる。別れたのか、それとも別れなかったのか、そこは大して重要ではないのかも。ハイカラなもの、日本的なもの、その両方が多く描かれる中で、終局は日本的なものに原点回帰したことが根底にあるテーマなのかも知れない。注釈の多さが読み進める上で苦労にもなったが、当時の文化芸能の片鱗が見えておもしろかった。

     娼婦型と母婦型。娼婦型の女は男を引きつける「女性らしい」肉体を持ち、母婦型の女は控えめな「女性らしい」精神を持つ、ということなのかなと思った。どちらも「女性らしい」なら、女性はその逆説の中で生きなければならないということなのかも知れない。そしてそれは、現在も変わらず女性につきまとう逆説なのかも。

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著者プロフィール

谷崎潤一郎

明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2021年 『盲目物語 他三篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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