少将滋幹の母 (新潮文庫)

著者 : 谷崎潤一郎
  • 新潮社 (1953年10月9日発売)
3.60
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005096

少将滋幹の母 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 夕食の席で柿を齧りながら「谷崎はどうも苦手です。私は芥川が好きなんです。」と言ったら、先輩のYさんが自室から引っ張りだしてきて貸してくだすった。『少将滋幹の母』か、あんまり聞いたことないな。題名から考えるに、王朝物という共通項を見込んでの選択だろうか。と首を傾げつつしゃくしゃくと柿を咀嚼し飲み込む。「あたしは谷崎でこれが一番好き。貸したげる。」とYさんが笑った。

    自分の四畳半に帰って、読んだ。
    どろどろとした性的な描写に嫌悪感があって敬遠していた谷崎だが、この作品はそれほどでもなく、落ち着いて読むことができた。さすが先輩の推薦だけのことはある。おかげで、これまで気づかなかった谷崎作品の良さが少しずつ見えてきた。

    絵巻物のような小説だ。
    実際、谷崎の文章は綴じ本よりも巻物が似つかわしいように思う。読点や句点で区切られてはいるのだけれど、文と文とが切れ目なく続いていくさまが確かに感じられる。息継ぎがどこにあるのか判然しないほど幽かなのだ。
    また、絵画性の強さも印象的だ。ひとつひとつの場面が絵のような鮮やかさで眼前に現れる。
    『それは北の方の着ている衣装の一部だったのであるが、そんな工合に隙間からわずかに洩れている有様は、万華鏡のようにきらきらした眼まぐるしい色彩を持った波がうねり出したようでもあり、非常に暈のある罌粟か牡丹の花が揺らぎ出たようでもあった。』
    この北の方の描写など、衣を実際に目にするよりも何倍も何十倍も鮮烈なイメージを描き出している。私の好き嫌いはさておいて、もうほんと、さすが「大谷崎」だなぁ。

    優れた小説であることは間違いない。
    しかし、根底のところにはやはり埋められない溝を感じる。
    谷崎や荷風を何作か読んで思うのは、耽美主義の人が言う「美」と、私個人の思う「美」がそれぞれ違うものを指しているのではないかということ。絢爛であったり優艶であったりも良いのだけれど、自分はもっと神経の先端に触れるようなぎりぎりの感覚を美と呼んで求める傾向にある。
    これはもう好みの問題であるので、今更どうということもないが。

    何はともあれ、良い読書体験だった。多謝。

  • 菅原道真を左遷した左大臣藤原時平、
    藤原基経の兄である藤原国経、
    在原業平と並ぶ色男として知られる平貞文などが登場する。

    老大納言国経は、若く美貌の妻である北の方
    (筑前守在原棟梁(在原業平の長男)の娘)を、
    若くて時の権力をひと手に握っている甥の時平に、
    驚くべき手法で奪われる(差し出してしまう)。
    しかし国経は北の方への思いは全く断ち切れぬままこの世を去る。

    また、その北の方と幾度か浅からぬ仲となっていた、
    平貞文も、彼女が時平のものになったことで、
    思いを燻らせている。

    後半は、国経と北の方との間に生まれた藤原滋幹の、
    母への思いが描かれる。

    藤原時平は、今昔物語の記述から、
    「富貴と権勢と美貌と若さとに恵まれた驕慢な貴公子」、
    また大鏡の記述から「可笑しいことがあると直ぐ笑いだして
    笑いが止まらない癖があった」と、
    平貞文は「女に好かれる男の常として、なまけ者ではあるけれども、
    洒脱で、のんきで、人あたりがよくて、めったに物にこだわらない彼」
    と表現されている。

    私は時平が国経の北の方を奪う流れや、
    平貞文の恋模様などが描かれる前半部分が、
    文章に引き込まれて次々とページを捲ってしまうほど面白かった。
    特に国経の北の方を奪うシーンは臨場感があった。
    時平の傲岸さが際立っていて憎く思う。

  • 時平が国常の妻を奪う強烈でドラマチックなハイライトシーン、平中が侍従の君の機知に富んだ嫌がらせで袖にされるさま、国常が妻を想う執念、名場面がいくつかあるけれど、やっぱりラストの滋幹の「お母さま!」に尽きる。
    平中、時平、国常、焦点を当てて語られる人物はあくまでも脇役、滋幹ですら主役ではなく、「母を恋い慕う子の叫び」が主役の本なのだと思った。

  • 匂い立つような美しさが文章から滲み出るよう。過剰な美は人を狂わせる。
    最後の再会の場面が眼に浮かぶようだ。

  • 大学で学んでいる百人一首の歌人が登場していることが読むきっかけでした。読み終わって驚くのは、略奪者時平、浅薄な平中、盲執の国経、思慕の滋幹と視点を変えて語られますが、肝心の滋幹の母については、彼女が語ることも語られることもありません。見事なまでに中空です。ここに谷崎の企みがあり、このフィクションの醍醐味があるのでしょう。それにしても、ラスト廃屋からの出会いのシーンは美しい。映像が目に浮かぶシーンでした。

  • 谷崎の書く男の人って本当気持ち悪いなあ……でも褒めてる。平安期の登場人物が女性を思ったり、母親を慕ったり、ただ綺麗なだけの物語になるはずの要素が、本当に執着やエゴやらで気持ち悪くて、見事すぎる。しかも「少将の母親」である女性は、いろいろな男性の人生を意図せず狂わせていくことになるけど、その反応がごくごく抑えられた表現でしか書いてない。さすがだなあ、と思います。
    情景描写ではやっぱり、女性の美しさ、着ているものの描写、綺麗な景色が綺麗すぎてネガティブな印象を伴う描写、あたりが本当に物凄いなあ、とどの作品を読んでも思います。桜の描写がすごく好き。

  • 2016/09/11 読了

  • のめりこんで読んだ。
    人を忘れられないのは苦しい。不浄観も苦しい。
    国経と滋幹の帰り道の場面がいい。
    最後の再会場面もいい。

  • 文章が相変わらず上手くて読ませてくれるんだけど題材が古典だから和歌はほぼ全部とばした!それでも面白い!
    もっと長く掘り下げてくれてもよかったなあ、もったいない感じがした

  • 時平が大納言から堂々と妻を奪うシーンが圧巻。
    大胆不敵ってこのことだなぁ。

    わき役だけど平中の三枚目っぷりも光っていて好きだ。
    時平のキャラが立っているせいか、滋幹や大納言の印象がちょっと弱かった。
    最後の尼になった母との再会のシーンは感動的だけれども。

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