- 本 ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101005133
感想・レビュー・書評
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大阪の名門、蒔岡家の四女(こいさん)妙子は活動的。28 歳で人形作家として一角の人物になっているだけでなく、日本舞踊にも熱心、さらに洋裁を習い、将来は洋裁で身を立てたいと密かに思っている。
自称妙子の許嫁である、同じく大阪のお坊ちゃん、奥畑啓三郎は(蒔岡家から正式に許嫁と認められていないが)、妙子が洋裁なんかで身を立て、職業婦人となることを辞めさせてくれと、仲あんちゃん(次女)幸子に掛け合う。
幸子が妙子に聞いてみると、啓三郎は、ぼんぼん育ちで、財産をすぐ使い果たしてしまうことは分かっているので、自分が家計を支えたい。そのためにフランスへ行って洋裁の勉強をしたいという。戦前に、妙子はなんてしっかりしているのだろう。四姉妹の中でも両親が二人とも早く亡くなってしまった末っこの妙子は姉たちと考え方が異なる。
それに引き換え、何も出来ないボンボン啓三郎や本家の旦那の「職業婦人」を軽蔑した態度にはイラッとくる。まあでも、この時代勿論保育制度なんて整っていないし、上流階級でなくても、「主婦」か「職業婦人」かの二択だったのだろうな。
妙子だけではなく、主婦の幸子も魅力的だ。考え方は妙子と異なり古風だが、一人娘を育てている他、二人の妹のことも母親替わりに面倒を見て、いつも二人の意見を尊重しながら、本家との橋渡しをしている。
だけど、妙子は旧家蒔岡家の中では進歩的すぎる。頼りない浮気症のボンボン啓三郎よりも、啓三郎の店の元丁稚奉公で、写真家の板倉と結婚したいともらす。板倉は洪水の時、命を掛けて妙子を救ってくれたし、一人渡米し、写真を勉強して「板倉写真館」を経営し、身を立てている。それに板倉なら妙子の生き方を理解してくれる。
板倉は少し馴れ馴れしいが男として魅力的だという妙子の気持ちに共感出来る。しかし、家庭環境が全く異なる育ち方をした人が義理の弟になるのは嫌だという、幸子や雪子の気持ちも分かる。妙子は熱意のまま突っ走る所があるのだ。
でも、まさか板倉とあんな終わり方をするとは…。板倉は運がなく、本当にいい人だったと思う。それに引き換え、蒔岡家の人々の冷たいこと。
妙子はどうするのだろう。私なら板倉のことが本当に好きだったのなら、三年くらいは立ち直れないと思うけど。
下巻に続く
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風邪をひいたので、あまり事件が起こらない「細雪」を少しずつ読むのはちょうどよい。
大人になって読む「細雪」は妙子への印象が違う。家父長制の犠牲者だなあと思う。
谷崎は松子賛歌として「幸子」を描いているのね、というのもよくわかる。自慢なのね。 -
たらたら名文、ここに極まれり。
やっぱり比喩が巧い。好き。
日本語の美しさと表現力の高さを、改めて思い知る。誇らしい。
会話文もぜんぶ好き。
谷崎が、幸子たち姉妹や関西に最大の敬意と好意をもっているのが伝わる。
四姉妹には同じお墓に入ってほしいけど、そうはいかないのがやたら切ない。涙さえ出てくる。
お嫁にいくってそーいうことなんだって、わかってはいるんだけど…(なんの話だ) -
夢中で読みふけってしまった。まだ中巻、そしてこれで谷崎の本は4冊目だというのに、外国の人に日本の作家を紹介するんなら、谷崎だろうと思うところまできた。この縦横無尽さは何だろう。この人は何だって書けるんじゃないかという気がする。
さて中巻は日本の(娘さんの)美だけではなく水害やある人の死などもあり、緊迫したシーンもあって飽きさせない。面白いのは妙子。今だったら、自分の考えを持った自立志向の女の子とたたえられてもいいところを、姉に「こんなに迷惑をかけて」と思われてしまって気の毒というかもったいないというか。
幸子視点で話が進むから、妙子が男二人をどう比べて決断したのか気になる。計算しているようで純粋なようで、謎な女の子。 -
この本は本当に、登場人物たちが発する上品で小気味良い関西弁の台詞が楽しい
当時の上流階級が贔屓にしていただろう実在の名店が色々登場するのも楽しい
谷崎が描写する食べ物の、なんて美しくて美味しそうなことか、、 -
戦争の足音が忍び寄り、時代の流れには抗えない様相になる中でも、日本の文化的行事や生活様式を変わらぬ価値観で貫いて生きる四姉妹とその家族。我々が生きる現代の日本を思うと、歴史的に見ればほんの数年の第二次世界大戦を経て日本の文化や価値観が劇的に変わったのだと実感する。敗戦とはこう言う事なのかと。。
結婚一つ決めるのも本家の許可が必要とか、戦後仕事も結婚も自由に選べる今を思えば生きづらい世の中だったとも思いますが、引き換えにならない程の今はなき良き日本もたくさんある。
神戸の大水害が実際にあった事とは初めて知りましたが、家のしきたりに逆らい奔放に生きる四女妙子がこの大水害にも巻き込まれて九死に一生を得るなど益々波瀾万丈な人生となる一方、相変わらず結婚が決まらず前に進まない三女雪子の人生がより対照的となってくる様から目が離せない。 -
久しぶりに手に取り、一気に引き込まれた。戦前の芦屋の有産階級の日常が、芦屋の言葉で語られるさまがとても魅力的。
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続きが気になる。
会話や、進み方のリズムが心地よい
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