細雪 下 (新潮文庫 た-1-11)

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  • 新潮社 (1997年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (422ページ) / ISBN・EAN: 9784101005140

みんなの感想まとめ

上流家庭の日常を描いたこの作品は、四姉妹の繊細な人間関係とそれぞれの生き方を通じて、結婚や家族の問題を浮き彫りにしています。特に三女雪子と四女妙子の葛藤は、内気さや病気、恋愛のもつれなど、現代にも通じ...

感想・レビュー・書評

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  • 「細雪」回顧によりますと、谷崎潤一郎はこの作品を書き始めたのは太平洋戦争の勃発した翌年、昭和十七年であり、書き終わるまで六年かかったそうです。
    また「細雪」には源氏物語の影響があるのではと人に聞かれたそうです。
    最初の三年は熱海で書き、次に岡山県、平和になってから京都と熱海で書かれたそうです。
    長かったから肉体的に疲れたそうです。

    三十三歳になる三女の雪子の姿かたちの描写が美しいと思いました。映画では吉永小百合さんが演じられたそうです。
    でも、今の時代なら、お姉さんやお嬢さんでも、まだ通る年齢ですがこの作品の時代では年増とよばれるのですね。
    雪子の左の眼の縁にあるシミが何度も問題にされますが、そんなことで縁談がまとまったりこわれたりの時に問題にされるのですね。

    この物語で一番現代的なのは人形作家をやめて、洋裁で自立して奥畑という男性を養ってやろうと言っている四女の妙子であると思いました。
    でも、段々に妙子の言っていることが全て嘘であり、貯金はほとんどなくなり、奥畑の坊の実家から宝石やお金を引き出させて贅沢にふけり奥畑を利用して、あとはバーテンの三好を誘惑して、子供を身ごもり、奥畑とけりをつけようとしていたのには、驚きました。がっかりしましたが、リアルな生きた人間の人物像をも感じました。妙子の自立した女性像は嘘でした。

    そして、雪子は御牧という貴族出の男性と縁談がとうとうまとまりそうになったとき、妙子は妊娠中の姿を数か月の間、見せないように身を隠すようにうながされますが、死産してしまいます。
    雪子の花嫁支度は大変豪華で立派な式が挙げられることになりましたが、なんともやりきれない終わりでした。

    二女の幸子は二人の妹の縁談に始終、翻弄されていますが、幸子は他に何かないのだろうかと思いました。気苦労が絶えないでしょうね。昔の上流中流家庭というものは贅沢はしますが、大変なものだと思いました。
    最後の最後に四人の姉妹の本当の人物像がはっきりとみえたように思います。

    文章は本当に美しく、文豪のみやびやかな世界を堪能しました。

  •  やっと読了した。これで蒔岡四姉妹との付き合いは終わった。
     読み終えて、「で、一体作者は何が言いたいのだろう?」と思ったが、解説を読み、そもそも谷崎文学は作者が言いたいことを表す文学ではなく、作者が主観を消すことによって、「ものがものを語る」物語文学として成功しているのだ、これこそ「源氏物語」から続く日本の物語文学の伝統なのだということ。ふーん、なるほど。
     34歳にもなって、お見合い相手を怒らせるほど内気でなかなか結婚出来ず、かと言って自活する気もなく、何時までも姉たちに頼りきって気位ばかり高い、腹が立つような、でも美しい三女雪子。(結局、最終的には貴族出の男性との縁談が纏まりました。ま、親の財産を当てにしている、似たようなタイプです)
     板倉が突然亡くなったあと、また、ボンボン啓三郎とのよりを戻したかに見えて、バーテンダーとの子供を宿した、名家を破壊するような生き方ばかり繰り返す四女妙子。
     蒔岡家の人等が皆、おっとりして気位が高く「そんなに簡単に縁談に載ったら、軽く見られてしまう」などと気にしている間に、サバサバと事を進め、渡米までの10日間ほどて見事に雪子の縁談を纏めてくれた、やり手美容師の井谷婦人。
     人が良く、雪子の縁談のために、妙子の火消しの為に、あっちこっちの人とこっそり会ったり、手紙を書いたりといつも奔走してくれる、幸子の旦那の貞之助さん。
     人物の容貌、性格、言動の描写が細く面白かった。でもストーリーとしては昼ドラのようであった。
     谷崎潤一郎は「エロチックの天才」と言われているらしいが、妙子がお産で死ぬほど苦しんでいるときには、口から「蟹糞」のようなものを吐き出すし、最後、雪子が婚家へ出発する日には「下痢が止まらない」。花や蝶みたいな綺麗な物を描くだけでなく、そういう肉体的にも内面的にもドロドロしたものを含めた生命を描いてこそ、エロティックというのかな。私は子供だから?(えっ?)理解するのはちょっと難しい。

    • えみりんさん
      わたしもちょうど読み終えたばかりで、にたような感想をもちました(特に三女にイライラ、次女夫に感心)。

      >谷崎文学は作者が言いたいことを...
      わたしもちょうど読み終えたばかりで、にたような感想をもちました(特に三女にイライラ、次女夫に感心)。

      >谷崎文学は作者が言いたいことを表す文学ではなく、作者が主観を消すことによって、「ものがものを語る」物語文学として成功している

      とは知らなかったです。目から鱗でした。
      2021/05/27
    • Macomi55さん
      えみりんさん、はじめまして。コメント有難うございます。
      同じタイミングで読み終えられたのですね。新鮮な感想を分かち合えて嬉しいです。
      「上流...
      えみりんさん、はじめまして。コメント有難うございます。
      同じタイミングで読み終えられたのですね。新鮮な感想を分かち合えて嬉しいです。
      「上流社会のお嬢様方も大変やな。私に関係のない世界の話やな。」と思いながら読んでいたのてわすが、妙子が赤痢になったあたりから、上流社会もお嬢様も関係ないような赤裸々な部分まで描写され、綺麗な人だからこそ、こっちが恥ずかしくなってしまうような、醜いといえば醜い、エロチック?といえばエロチック?なやはり昼ドラとは違う芸術作品なのかな?とあとから考えると分かる作品でした。
      正直、あまり好きにはなれませんでしたが、文学史を勉強したと思ってます。
      2021/05/27
  • 下巻においても、幸子ねえさんは妹2人のことに母親のように心を痛め、夫の機嫌も気にしなければならないストレスフルな日々。

    見合いの話が再度持ち上がる雪子。しかし一筋縄にはいかない。妙子の方は、病気になったり男性関係も色々あったりで大変です。妙子が病気のときに雪子は献身的に看病をし、本当に面倒見の良い人です。

    縁談話を中心に上流家庭の日常を淡々と描き、ハラハラドキドキするわけではないのに、どんどん読み進められます。それは、文章のもつ魅力なのでしょう。一文は長くとも、船場言葉「〜おまへんか」「お〜やす」が上品で心地良く、あっという間に読了。

    風情ある自然描写、筆でしたためる巻紙のお手紙、短歌を通じての気持ちのやりとり、挿絵はなくとも目に浮かぶ艶やかな着物姿......

    結婚問題のごちゃごちゃ感ありながら、失われつつある日本の良さが温存されている作品だと感じました。そして、女性の生き方を考える上で、決して古くない内容であると思います。雪子も妙子も様々に経験し、もがいて自分の人生を踏み出しているわけですから。タイトルの『細雪』からは、繊細かつ優美といった言葉がイメージされ、素敵です。

    しかし、小説のラストは“人生そんなに甘くないぞ!”という風に感じ......これもまた、良し!です。

    • koba-bookさん
      「細雪」は本当に好きで。死ぬまでにあと3回くらいは読みたいです(笑)。市川崑版の映画も最高です!
       あと、記憶が薄まらないうちに、小林信彦さ...
      「細雪」は本当に好きで。死ぬまでにあと3回くらいは読みたいです(笑)。市川崑版の映画も最高です!
       あと、記憶が薄まらないうちに、小林信彦さんの「『細雪』とその時代」もオススメです。細雪好きのために細雪好きが書いた、まあ、単なるオタク本とも言えますが(笑)。僕は無闇と愉しかったです。
      2026/02/08
    • くにちゃんさん
      またまた教えてくださり、ありがとうございます!『細雪』、いいですよね〜
      またまた教えてくださり、ありがとうございます!『細雪』、いいですよね〜
      2026/02/09
  • 谷崎潤一郎の代表作にして、日本の近代文学を代表する作品のひとつ。
    1942-48年に書かれた。

    文庫版にして三巻にまたがる長篇小説。

    舞台は1936-41年の兵庫・蘆屋(芦屋)。

    旧幕時代からの豪商としてならした名家・蒔岡家の四姉妹を中心に、第二次世界大戦前夜の阪神生活文化が描かれる。

    長女の鶴子は、本家の奥様として、早逝した父母の代わりに入婿の辰雄と一緒に蒔岡家を切り盛りする。

    二女の幸子は分家の奥様。辰雄と折りの合わない二人の妹を宥め、監督する。

    三女の雪子は、美人として阪神間に名が轟く姉妹の中でも1番の美人でありながら、複雑な事情と不運によって三十を超えても嫁に行き遅れていた。

    四女の妙子は、器用かつ前衛的で、故に数多くの災難を引き起こすトラブルメーカー。

    物語は、雪子の見合いの話と、妙子が起こす騒動を軸に、主に幸子の視点から描かれる。

    四姉妹の性格はそれぞれ異なり、個性がある。

    長女の鶴子は保守的かつ前時代的なので、前衛的で行動力のある妙子とはよく衝突する。

    雪子は典型的な箱入り娘で、電話にすらまともに出れないほど引っ込み思案な性格だが、頑固なところもあり、辰雄を毛嫌いしている。

    そんなわけで、本来は本家が管理するべき二人の妹を預かり、監督しているのが幸子である。
    本家と妹の板挟みになり、気苦労の多い人であるが、彼女自身も気が弱く世間知らずなので、主にトラブルを解決していくのは、幸子の旦那の貞之助になる。

    本書は全編を通して船場言葉(近世から近代にかけて使われていた格式高い大阪商人のことば。らしい)で会話が書かれており、現在の関西弁とは異なり、優美な印象を与える。

    また、蒔岡家は大阪に名を馳せる豪商の名家であり、家の格式の違いを理由に雪子の嫁入りの話を断ったりしていたが、幸子たちの父が亡くなってからは衰退の途を辿っていた。

    とはいえ、幼少期から名家のお嬢様として育てられた彼女たちがそうそう変わることはできず、逞しさとはまったく無縁の、世間知らずで甘い、しかし有閑的で優美な存在として描かれる。
    そんな彼女たちが激動する世間に呑まれ、苦しみ、傷ついていく。

    この蒔岡家の凋落の様子と、第二次世界大戦に突入していく当時の日本の描写から、読者はノスタルジックを感じる。
    これが本書のひとつの魅力である。

    現代の忙しないリベラルな社会に生きる私たちとすれば、精神的にも肉体的にも甘い彼女たちに苛つきながら読むことになる(神戸から東京に列車で移動するだけで疲労困憊になるとか、30を過ぎて猶も満足に他人と口を利けない雪子とか、それを結婚できない原因だとは思いもしない家族とか)。

    しかし、これが彼女たちの常識であり、生き方なのだ。
    いかに家の格を大事にし、外聞にこだわるか。
    旧き上流階級社会と、家父長制というものを、本作を読むことで本当の意味で腹落ちできた。

    長い小説でありながら、多彩な表現と一貫して丁寧な心景描写によって読ませられる、美しい作品。

    関西ネイティブな私としては、かつて大阪に根付いていた高貴かつ華麗な文化を味わうことができた心地良い小説だった。

  • 昭和16年という時代が、ただそれだけで胸をつまらせる。
    幸子の抱えている悩みが、なんて平和でのんきで取るに足らないことか。
    あの頃に戻りたいと間もなく思うようになると思うと、小説内の日々のすべてが愛おしい。
    崩壊寸前の滅びの美の内包、挽歌的な切なさ、まさにそれ。

    幸子も結婚前はブルーだったと知ってホッとした。
    また読む。

  • 何度か中断しながらも下巻まで読み終えた。
    戦前の慌しい世の中、関西上流階級の四姉妹の心の変化、考えなどその時代を知ることもできた。
    特に、雪子、妙子の性格面の対比や結婚観の違いなど、感情の動きに合わせて読み進めるのが面白かった。

  • 下巻になり、雪子と妙子の運命がそれぞれの方向に極まってくるスピード感と盛り上がりはさすが。
    どこか突き放した描き方になっていくところが面白くもあった。

    貞之助の手紙が何度も出てくるが、(当然作者の谷崎が書いたものであるのだが)縁談を断るのも、お願いするのも、待ってもらうのも、相手を気遣い、その上で、複雑な自分の立場をうまく相手に伝える、最上のお手本のような仕上がり。
    おお、うまい書き方だなあと何度も感心した。

    この小説の蘆屋の家の空気にすっぽり入ってしまっていたらしく、読み終わってみると、ああ、もうこの人たちと会えないのか、とさみしくなった。
    長編小説の良さはこういうところにある。

  • 上中下巻やっと読めました。すごく良かった。

    没落気味ではあるが、まあまあ裕福な関西の華やかな四姉妹。ほぼほぼ三女の見合いと四女の恋愛ゴタゴタの話です。下の二人の姉妹と同居している次女と旦那の貞之助夫婦が一番常識人であるゆえに苦労している。

    世間体をめちゃめちゃ気にするし、見合い相手の親族は徹底的に調べる。今の時代からするとやり過ぎでは?と思う箇所が沢山あります。

    昔の話なので注釈か多いですが、注を無視しても意味は割と理解できます。一文が長めなので、一気に読めた感じがします。方言多めで、口に出すとやっぱりたおやかで映像化作品も見たい。

    最後の終わり方は、ここで終わるの?と思いました。大人しい性格の三女が感情を出さないのが不気味に感じます。

    なんだかんだあっても切るに切れない身内の情が、不運でもあり光でもあります。

  • はぁー面白かった! あらすじから受ける印象とは比べ物にならない面白さだった。下巻後半になると上巻にあったおっとりした雰囲気が消えることもあり、ほぼ幸子視点で妹二人に気を揉み続け。途中で「ちょっと待てよ」と我に返る隙も与えられず、妙子の行状が明らかになるシーンでは幸子同様にショックを受けてしまった。『細雪』は閉じた人間関係の不健全さを流麗に描いて傑作なので、日本の美とか興味なくてもどろどろホームドラマが好きならおすすめ。

    それにしても妙子。有能なのに人の気持ちに興味がなくて、それでおかしなことになり、姉さんたちも妹がかわいくて波風立てたくなくて、きちんとフィードバックを返さないために事態を拗らせて。家族って互いの短所を強化してしまうところがあるから怖い。

    最後のあれは、聖女を人間の女に引きずり下ろしてるんだな、と思いました。

  • ついに読み終えてしまった。。

    私の癖で終わらせたくない病が発動し、中巻を読み終えてから半年くらいあけてしまい、下巻を読む前にまた一から全部読み直すという状況になったのだが、作品にのめり込めるという点で却ってよかった。

    どういう終わり方になるのかを残りページが少なくなる中で気になりつつ読み進め、関西の上流の四姉妹のお話ということで平和的に、まるく収まるのかな…と考えていたが、妙子はまさかの死産、雪子もついに結婚とはなったけど当の本人は嬉しそうでないし、下痢ENDで、明るい未来ではないなぁ〜!と思った。

    それにしても四姉妹どの人物に対しても、いやどないやねん!と思うところが多々あったが、幸子自身もそれぞれに対して、憎くなったり、かと思えば愛おしさを感じたり、場面場面で気持ちが変化していて、こと身内に関しては特にそういうものかもねと、現実性を感じた。

    時間がかかってしまったけど、熱中して読めて本当によかった。おもしろかった。

  • え〜〜〜〜〜〜〜ん、読み終わってしまいました涙、、、めちゃくちゃ面白かった、、全然読む手を止められず、そしてこのMakioka Sistersの行く末をまだまだ読んでいられるという気持ち。。似たような本とか読みたい、、ロス!!!

    何が好きだったかって、色々な要素があるんだけど、蒔岡姉妹(と言いつつ、下の3人がメインだけど)のお嬢さん育ちな暮らしぶりとか、お着物や習い事の様子を見るだけで華やかで楽しいし、船場言葉も柔らかくて素敵だし、なんやかんやで仲良し姉妹・時々緊張感、のやり取りも目を離せないし、なんだかんだ全員の気持ちがそれぞれわかるからキャラクターとしても魅力的で、姉妹全員好きだなとなるわけです。あと悦子も可愛かった。男性キャラだと、貞之助が一番出ずっぱりで印象深いし、常識人感あって安心していました。笑

    妙子こと、こいさん、最後の方は彼女の描写が減ってしまったので、どんな心中だったのかと思うのだけど、結構言動共に理解できるところもあった。
    啓坊のばあやから、実は、、って聞かされた時はもちろん衝撃だったんだけれど、ダメ男とはわかりつつ肉体関係もある幼馴染兼古馴染みな相手とはそう簡単に切れられない気もするし、尚且つお金が絡んできたらさらに離れられないのもわかる。周りから見たら「ひどい!」なのかもしれないけど、妙子からしたら、いやいや自分だってこんな形で尽くしてきたんだから当然の対価である、と思っている可能性もあるだろうなと勝手に想像して、最終手段で?妊娠したのも、周りの心痛を考えれば身勝手と詰られても仕方ないけど、でもやっぱり相談できなかったんだろうとか思い出すと、同情してしまう。。板倉が死んだのだってショックだったろうし。。結局最後、死産というのも可哀想だった。

    妙子が赤痢にかかって、啓坊の家から出たいと言った時に、「こいさんは昨夜板倉の亡霊に魘されてから、啓坊の家で臥ていることを気にしているのではあるまいか」(p227)や、「その蝋色に透き徹った、なまかしい迄に美しい顔を視詰めていると、板倉だの奥畑だのの恨みが取り憑いているようにも思て、…」(p.429)などを見ると、自然と夕顔や葵やらを思い出した。
    あとは一番最後、雪子が下痢したままです!で終わった一文も、えここで終わり?こんな終わり方?というのも夢浮橋のような雰囲気があって、直前に源氏を訳していたというのに引っ張られすぎかもしれないが、そんなことを思っていた。

    以下、好きだったところ
    …通路の反対側の席に後ろ向きに掛けていた陸軍士官が、シューベルトのセレナーデを唄い出した。…唄ってしまうと、一層羞しそうにさし俯向いていたが、暫くしてから、又シューベルトの「野薔薇」を唄い出した。(p.56-7)
    シューベルトのセレナーデってどうせSwan song(Schwanengesang)でしょと思いつつ、日本語歌詞こんな感じなのか!と聞いてみたりした。そのあと野薔薇が登場するのも、なんというか時代感もあって、すごく好きだったな。
    というか音楽の話はここだけな気がする?

    音楽に関連して好きだった表現
    …白露が消えるように死んで行く母の、いかにもしずかな、雑念のない顔を見ると、恐いことも忘れられて、すうっとした、洗い浄められたような感情に惹き入れられた。それは悲しみには違いなかったが、一つの美しいものが地上から去って行くのを惜しむような、云わば個人的関係を離れた、一方に音楽的な快さを伴う悲しみであった。…(p.81)

    そういえばこの音楽の話を聞くことになったお見合いでの蛍狩において、
    …あの小川のほとりではあれらの魂が一と晩じゅう音もなく明滅し、数限りもなく飛び交うているのだと思おうと、云いようもない浪漫的な心地に誘い込まれるのであった。何か、自分の魂があくがれ出して、あの蛍の群に交って、水野麺を高く低く、揺られて行くような、…(p.35)というところは、和泉式部の「物思へば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」を引いているのだろうし、気づかない表現いっぱいあるんだろうなと思ったりした。

    隣人の外国人たちが帰国し、時々の規制や戦争関連の話も差し込まれ、徐々に日本全体に立ちこめる暗雲が増す感じがあって緊張感があったし、雪子の縁談も最後ああいう形で御牧とまとまってよかったが、彼女の体調崩しがマリッジブルーとも、結婚したところで訪れる本格的な戦時下での暮らしを思うと幸先が良くない感じも不穏だった。

    他に好きだったところでいうと、上流階級の生活が垣間見えるところ!関西という土地もあって全然肌感ないところも多かったけど、飲食店の名前とかわかったらかっこいいし、そういうところに電話をひょいっとして予約を取るのもかっこいい、、、笑。現存のお店がどれだけあるのかはわからないけど、残ってるお店で堪能ツアーしてみたいなあ
    …柿伝あたりの仕出しであろうと、京都の食味のことに委しい幸子は推した(p.403)
    …別に御木本で真珠入りの鼈甲のブローチ兼用のクリップを買って…(p.337) ーミキモトって御木本!!

    あとは言葉遣いがもちろん引き続き素敵だし、イントネーション想像し切れてないところがあると思うと、悔しいですけど笑、悦子の口調はどういうニュアンスなのか気になった。
    …こいちゃん今夜は泊って行きなさい、と悦子が云い出し…(p.294)
    「姉ちゃん、東京へ行って来なさい」と、悦子が大人めいた口調で云った。(p.325)

    それにしてもこれで谷崎、東京生まれ・育ちなのかいいいっていうのが面白かった笑。てっきり関西の人かと思っていたけど、よくよく詳しいなあ。

  • 上・中・下、一気読み。大作。四姉妹の次女幸子の繊細な思惑を中心に描かれ、姉妹だけでなくその他の登場人物のキャラクターがそれぞれ面白い。ずーっと読んでいられる。もう終わってしまったという感じ。家の中の描写も近所やその周辺の有り様もはっきりと思い浮かべることができる。全てにおいて細かな描写がすごい。

  • 長女が東京で子育てに追われ、
    次女が家の体面を保ちつつ生活をし、
    三女が幾多の縁談を避けながらも変化を過ごし、
    四女が我を通して望まれない恋愛をする

    そんな蒔岡家の日々は、最後のページをめくった後にも続いているような、巡る人の世に終わりなど無いと思わせるような、不思議な読後感。

  • 初めてまともに純文学というものを読み、その魅力に気づけた一冊。
    上中下と読むのは大変だったし、話自体も起承転結とかがあるわけじゃなく、蒔岡四姉妹の日常をつらつら描く、という感じなのだけど、読んでいて全然退屈しなかった。
    日本人、特に関西に住んでいる方はぜひ読んでみるべき。そして谷崎潤一郎の文体、何だかとても好き。男の人なのに何処か文に女性のようなたおやかさがあるからなのかな。他の作品もぜひ読んでみたいと思った。

  • だいたい1930年代後半~40年代初頭を舞台にした、芦屋の金持ち四姉妹の話。船場老舗商家の蒔岡家。主人公姉妹の父の代までは豪奢に暮らしていたが、晩年には既に経営は傾いていたようで、父の死後は後を継いだ長女の婿が店をたたんでいる。妹たちはそれが面白くなくて、他にもいろいろ(非理性的なものも含めて)理由があって妹たちはこの義兄とはあまり仲良くない。
    長女(40くらい?)の婿は銀行員。この夫婦は「本家」。子だくさん。転勤で東京渋谷に引っ越す。
    二女(30後半?)の婿は会計士。この夫婦は「分家」。芦屋に住む。娘がひとり。
    三女(30ギリ前半くらい)と四女(ギリ20代くらい)は未婚。本家と東京が嫌いなので分家に住んでいる。
    多くが二女視点で書かれていて、三女のなかなかうまくいかない見合い、四女の奔放な恋愛沙汰、それらの監督責任を本家から問われるかも、といったことに悩みながら、ピアノを弾いたり芝居を見たり鯛を食べたりお買い物をしたり習い事をしたりして暮らしている。専業主婦ね、と思うなかれ、主婦業は当然、女中のお春どんやらお久どんやらがやるのです。
    「これは当時の最高級品だった」とか「これを当時持っていた家庭は数パーセント程度だろう」とか、そういう巻末注釈ばかりふられる生活の描写。
    四女が丁稚あがりの男と恋に落ちようものなら「あれはまったく種類の違う人間だと思っていたからそんなこと想像もしなかった、まさか蒔岡家の娘がそんな、」と慌てふためく。

    …と、こう冷静に書くとなかなかいけすかない女たちのようにも思えるのだが、読んでいる間は不思議とそんなふうには感じなくて、結局「お嬢さん育ちで人が好い」ということなのか、作者の筆力ですっかり芦屋ライフに引き込まれているからなのか、いろんなエゴも「人間臭くて共感できる」というくらいに感じられる。
    戦争はどんどん激しくなるのだが、洋裁の修行のためにパリに洋行したかったけど危ないなとか、お隣さんだったドイツ人家族が帰国していったけど達者だろうかとか、あまり華美にするとやかましいご時世だから父の法事を盛大にできなくて寂しいとか、婚礼衣装を新調できないとか、恒例の花見でいつも行っていた料亭は今年はやめねばとか、、、切迫感に欠ける。

    何が面白かったか、と聞かれるととても難しい。でも面白かった。映画を先に観ていたおかげもあるだろう。そしてこの、起伏のない長編を、市川崑はきれいに映画にしたもんですね。すごいなー。
    原作のほうもまた最後の終わりかたがねー。そうやってこの長編を終わるんか!っていう。やってくれる。(別にどんでん返しとかじゃないですよ。)

  • 奔放でいろいろ事件に遭う四女、内向的で見合いをしても煮え切らない三女、2人と仲良しだが苛々させられもする次女、なんとなく厭われて出番も少ない長女。
    関西の上流家庭が花見や芝居見物に行ったり。話の起伏は少ないが、日常の中で姉妹を好きになったり嫌いになったりする描写は、共感してしまうところが多い。

  • 上中下一気に読んだ。

    人の矛盾を孕んだ細やかな思考の流れを
    心地よいリズムで悠長に書きつけてあって
    日記を読んでいるような
    それでいて全て主語は三人称(主に次女の幸子)
    独特な中毒性のある、素敵な文章で読み始めたら止まらなかった

    雪子の見合いに始まり、
    雪子の結婚で終わる
    およそ五年?ほどの歳月を描いたストーリー

    人を着ているもの、体型肌艶、話し方雰囲気などで色々と考察する視点は
    SNSなどないし情報も少ない上で、
    結婚はもちろん人付き合いが生きる術となる時代に
    どれだけ重要視されていたのか思い知ったし
    その視点に今も学ぶことが多いと感じた
    板倉のことを若くて丈夫なのにどこか幸薄い相のある男だと思うから助からない気がすると言った幸子とそれに僕もそう思うと言った貞之助には、
    そういう直感でみてOKなんだと驚いた笑
    だけど、そういった幸子の勘は稀に外れることもあって
    それがまたリアルで好ましいなと思った。(妙子の死など)
    でもそれ自体は外れていても、その時感じた感覚のような
    事象ではない何かは的を得ていたりするのかもしれないけど。それもすごい。

    四姉妹のこと
    鶴子は一生懸命だし素直だしとても好感が持てる
    実は子供らしい一面や他の姉妹を恨めしがっている筋があるところなど
    主に幸子の視点から全て暴かれていて愛おしい
    (実際はこんなもんではないかもしれないが雪子があんまり慕っていない
    ところからも感性はそんなに豊かでないのだろうと思う)
    だけど一番蒔岡全盛期の恩恵を受けて育っているのに没落してゆくという
    悲劇的な局面にあって、柔軟に生きていけて時にはプライドも捨てられるという
    同じ女として立派な人だと思う

    幸子は四姉妹の中で一番平和で幸運なんではないかと思えるけれども
    この繊細さと優しさでもって生きていくのが実は一番しんどい人だと思う
    当たり前だけどこの姉妹にこの人がいなければ成り立たないなあ

    雪子、小さくて儚くてそれでいて芯が強くて潔白
    あとがきでは聖母として描かれているような記述があったけれど
    個人的にはなんと肝が据わって図太いというか、すごいなと思っていた
    私だったら誰でもいいからとにかくもらってもらわなければと焦る
    自己肯定感でいったら姉妹中で一等賞と思われる
    でもそこがすごく素敵だと思った
    雪子を見習わないといけない
    飄々としていて格好いい友達になりたい女性

    妙子、本当の本当はどういうことを考えていたのか最後までわからない
    でも私はこの人が一番可哀想だと思った
    薪岡といっても栄華は一度も味わっていないし母の記憶もほぼないし
    上の三人は一般の中にあれば「世間知らずのお人形さん」で、
    綺麗でお金持ちで悩みとかないやろうと思われる存在だと思うが
    妙子もそういう目を持って姉妹を眺めることができる人だと思う
    谷崎潤一郎の設定の秀逸さがすごい
    奥畑との関係性もすごくリアルというか複雑で良かった
    一点、妙子がみんなの前で舞を踊った発表会のとき、
    近くの舞妓も踊りに来ていてその一人と
    稽古というか降りの確認をしたいといって二人きりになっていたところ
    あれは絶対に奥畑の女で一騎打ちしたんだと思っている
    ゾクゾクした
    戦後の方が生きやすい人なんだと思う
    きっと幸せになってほしい

    全体にみて、
    この第二次世界大戦目前の空気感が、
    現代の空気感と似ているという生き証人方の意見を
    実感するところが多くてゾッとして憂鬱になった
    とても参考になった

    個人的には、
    日常生活において現実的なこととは別に
    目に見えない直感のようなものを大切にした生活ぶりが
    すごく腑におちたし、こうあっていいんだと安心した
    私も人に対する直感とか、出来事に対する香りのようなもの
    そんなものをもっと現実に作用する一つの事象として
    生活に織り交ぜて生きていきたい
    人に対する返事のし方など、
    気を使いすぎるくらいでちょうど良く
    矛盾する気持ちだってきちんと人に伝えられるということ
    文章の大切さなどを改めて知らされた
    今思えば、そんな中にも現代的にテキパキした人(井谷とか)もいて
    本当に多彩で面白いキャラクターばかりの小説だなあと思う

    永遠に読んでいられそうだし読んでいたけど
    そこから何を得るのかといえば何なのかわからない
    サザエさんとかちびまる子のような
    谷崎潤一郎もしんどいやろうしこの辺で。

  • 中巻でだいぶ妙子を応援したい気持ちになっていたので、下巻はなんだかショックが大きかった。そういえばこれまでずっと幸子の目線で書かれていることもあって、妙子の言い分がすべて本当かはわからないぞ、と思いつつもいつの間にか幸子の「身びいき」に無意識にこちらまで引っ張られていたのだと読んでいて気が付いた。啓坊嫌いだけどちっとは同情する。雪子がズバッと妙子に物申すところはただの内気なお嬢様ではない一面が垣間見れて印象深い。
    いつかは雪子も妙子も嫁に行くだろうというのはわかっていたことだけれど、そこがちょうどこの物語の幕切れというのがまた…。バラバラになった姉妹はそれぞれどんなその後を送るのだろう。戦争がこれから本格化するというのも気になるところ。幸子は二人の妹が家を出て喪失感は味わうだろうけど、頼りになる夫がいるので細々と幸せに生きそう。でも雪子と妙子は…あまりいい未来が想像できない。

  • 巻末の解説に、私の感想を濃縮し洗練させた一文があった。

    p.497より抜粋
    「ヨーロッパの近代小説が個人主義をその思想として内包しているのにたいして、『細雪』が作者の"主観を消す"ことによって、まれに見る物語文学たりえている」

    この小説を読んでいるとき、登場人物の思考や行動から著者の価値観や美意識の投影を感じなかった。これは中々できることではないと思う。どうしても、誰かに自分の意見を託したくなるからだ。言葉や駆け引きそのものが鑑賞に足る、まさに絵巻という表現が相応しい作品である。

    幸子の苦労が報われた、と言って良い結末だったと思う。本当に良かった。また、貞之助の彼女に対する愛情と優しさには、私も家長としてかくの如くありたいと見習う所が多かった。紆余曲折を経て、それぞれの収まるべきところに収まった蒔岡家の四姉妹がまたいつの日か、みんな揃って歌舞伎や花見に出かけるような日々を願いながら、本を閉じる。

    素晴らしい読書体験であった。

  • 4ヶ月かかって、ようやく読み終わりました。
    両極端な妹たちに振り回される幸子さん、がんばれって応援したくなりますね。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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