細雪 (下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 145
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005140

感想・レビュー・書評

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  • はぁー面白かった! あらすじから受ける印象とは比べ物にならない面白さだった。下巻後半になると上巻にあったおっとりした雰囲気が消えることもあり、ほぼ幸子視点で妹二人に気を揉み続け。途中で「ちょっと待てよ」と我に返る隙も与えられず、妙子の行状が明らかになるシーンでは幸子同様にショックを受けてしまった。『細雪』は閉じた人間関係の不健全さを流麗に描いて傑作なので、日本の美とか興味なくてもどろどろホームドラマが好きならおすすめ。

    それにしても妙子。有能なのに人の気持ちに興味がなくて、それでおかしなことになり、姉さんたちも妹がかわいくて波風立てたくなくて、きちんとフィードバックを返さないために事態を拗らせて。家族って互いの短所を強化してしまうところがあるから怖い。

    最後のあれは、聖女を人間の女に引きずり下ろしてるんだな、と思いました。

  • 中巻でだいぶ妙子を応援したい気持ちになっていたので、下巻はなんだかショックが大きかった。そういえばこれまでずっと幸子の目線で書かれていることもあって、妙子の言い分がすべて本当かはわからないぞ、と思いつつもいつの間にか幸子の「身びいき」に無意識にこちらまで引っ張られていたのだと読んでいて気が付いた。啓坊嫌いだけどちっとは同情する。雪子がズバッと妙子に物申すところはただの内気なお嬢様ではない一面が垣間見れて印象深い。
    いつかは雪子も妙子も嫁に行くだろうというのはわかっていたことだけれど、そこがちょうどこの物語の幕切れというのがまた…。バラバラになった姉妹はそれぞれどんなその後を送るのだろう。戦争がこれから本格化するというのも気になるところ。幸子は二人の妹が家を出て喪失感は味わうだろうけど、頼りになる夫がいるので細々と幸せに生きそう。でも雪子と妙子は…あまりいい未来が想像できない。

  • だいたい1930年代後半~40年代初頭を舞台にした、芦屋の金持ち四姉妹の話。船場老舗商家の蒔岡家。主人公姉妹の父の代までは豪奢に暮らしていたが、晩年には既に経営は傾いていたようで、父の死後は後を継いだ長女の婿が店をたたんでいる。妹たちはそれが面白くなくて、他にもいろいろ(非理性的なものも含めて)理由があって妹たちはこの義兄とはあまり仲良くない。
    長女(40くらい?)の婿は銀行員。この夫婦は「本家」。子だくさん。転勤で東京渋谷に引っ越す。
    二女(30後半?)の婿は会計士。この夫婦は「分家」。芦屋に住む。娘がひとり。
    三女(30ギリ前半くらい)と四女(ギリ20代くらい)は未婚。本家と東京が嫌いなので分家に住んでいる。
    多くが二女視点で書かれていて、三女のなかなかうまくいかない見合い、四女の奔放な恋愛沙汰、それらの監督責任を本家から問われるかも、といったことに悩みながら、ピアノを弾いたり芝居を見たり鯛を食べたりお買い物をしたり習い事をしたりして暮らしている。専業主婦ね、と思うなかれ、主婦業は当然、女中のお春どんやらお久どんやらがやるのです。
    「これは当時の最高級品だった」とか「これを当時持っていた家庭は数パーセント程度だろう」とか、そういう巻末注釈ばかりふられる生活の描写。
    四女が丁稚あがりの男と恋に落ちようものなら「あれはまったく種類の違う人間だと思っていたからそんなこと想像もしなかった、まさか蒔岡家の娘がそんな、」と慌てふためく。

    …と、こう冷静に書くとなかなかいけすかない女たちのようにも思えるのだが、読んでいる間は不思議とそんなふうには感じなくて、結局「お嬢さん育ちで人が好い」ということなのか、作者の筆力ですっかり芦屋ライフに引き込まれているからなのか、いろんなエゴも「人間臭くて共感できる」というくらいに感じられる。
    戦争はどんどん激しくなるのだが、洋裁の修行のためにパリに洋行したかったけど危ないなとか、お隣さんだったドイツ人家族が帰国していったけど達者だろうかとか、あまり華美にするとやかましいご時世だから父の法事を盛大にできなくて寂しいとか、婚礼衣装を新調できないとか、恒例の花見でいつも行っていた料亭は今年はやめねばとか、、、切迫感に欠ける。

    何が面白かったか、と聞かれるととても難しい。でも面白かった。映画を先に観ていたおかげもあるだろう。そしてこの、起伏のない長編を、市川崑はきれいに映画にしたもんですね。すごいなー。
    原作のほうもまた最後の終わりかたがねー。そうやってこの長編を終わるんか!っていう。やってくれる。(別にどんでん返しとかじゃないですよ。)

  • 美しい4姉妹の物語。義理の兄までもが大きく巻き込まれて縁談の話をまとめるために奔走する時代が、そう遠くない昔にあったのだということにまず驚きました。それに関わって、あれこれ思い悩む次女の心中が細かく描かれています。
    あれこれ思い悩むことがあると、こんなに悩んでいてはいけない、と思ったりもしていましたが、悩むだけ悩んで、人にも相談して、よりよい対策を練るという手順を踏んで日々の生活を送ってもいいじゃぁないかと思えるようになりました。
    これは、名作と言われる本書の本道の読み方ではないかもしれませんが、読んでよかったです。
    神戸育ちなので、地名や駅名がわかって頭の中で風景を想像できるのも楽しく、また姉妹の関西弁が頭の中に自然にはいってくるので、関西を離れて暮らしている自分にはとても懐かしいような心の落ち着く文体でもありました。

  • 上中下巻の中でこの下巻が一番物語が大きく動いたと感じたのは、この数年先に待ち受ける開戦が大きく陰を落としているからだろうか。
    旧家でも華やかなりし頃の習慣を忘れずに過ごしていた様子の上巻だったが、少しずつ生活などが緊縮していく様が下巻には描かれており、当たり前のことだがこんな風に少しずつ日々の生活が変化していったのだなあとしみじみ思った。

    井谷の件で幸子らが上京した際、渋谷の本家からの去りぎわに鶴子が流した涙は、鶴子だけが芝居に誘われなかったという少女のような鶴子の寂しい気持ちからだけだったのだろうか。
    奥畑との縁を切るためとはいえ、当時としては相当な強硬手段に出た妙子のその結末と、蒔岡家と親族あげての祝い事として嫁ぐ雪子とはあまりにも対照的な妙子の結婚。
    それはこれまでの妙子への罰ととらえていいのだろうか。
    自身が積極的に受け入れたわけではないが、ようやく相手の粗さがしや吝をつけずにいられる人との結婚で、体調を崩したまま式に向かう雪子の不安の拭えなさは何なのだろうか。
    そして、これまで姉や妹たちの板挟みとなってきたが、ようやく落ち着けるようになったであろう幸子。
    これらはこれから待ち受ける更なる闇への伏線なのかと勘ぐってしまう。

    この先彼女たちの日々の生活で待ち受けるのが第二次世界大戦だと思うと、この時は本当に一瞬の、束の間の幸せなのだろうかと題名を見ながら考えた。

  • 俺は、細雪の中の、川が氾濫し、土台を失った線路が餓鬼の肋骨のように浮かび上がっているその場面だけがありありと目に浮かびはするが、もはや、大谷崎が巻物へ綴った「絢爛」さは、字面を追うのみで、頭の中にイメージすることすら出来ない人間なのだ。

  • 本書は他の谷崎作品のようにアクの強いキャラクターは出てこないが、この巻にきて妙子の毒婦的な要素が現れ、やっぱり谷崎だ❗️とファンには嬉しい展開。雪子も別の意味で嫌味な部分が表面化してきた。

    ただ、妙子みたいな女は現代では当たり前のように存在するけど、時代が時代だけにとんでもない不良のように扱われ、些か彼女が気の毒になった。格式だの面子だのに囚われている人間って、本当に愚かだ。それは形は異なるけど現代にも通じる。

    『痴人の愛』や『卍』のような強烈なキャラも出てこないし、それほど衝撃的な事件も起こらないけど、ページを捲る手がすらすらと進んだ。

  • 雪子さんがこれからも変わらず美しいといいと思う。妙子さんのエネルギッシュなところもとてもすき。長かったが読み切ることができてよかった

  •  下巻では、三女雪子の結納と、四女妙子の死産が大きな事件。見合いを断られる側に回ってしまおうとも、やっとこさ決まろうとも、結局のんびりとして雪子をいらだたせる雪子。一方、姉たちに対する裏切りとも取れる行動をしてまで、自分に正直に生きる妙子。
     そんな二人が言い合い(というか雪子の説教?)をするシーンからは、家族というシステムの複雑さを感じてしまう。妙子に対し家族は優しいのか薄情なのか。妙子は家族に対する裏切者なのか、それとも可哀想な被害者か?

     全編を通じ考えていたのは、やはり儚いもの、失うもの、移ろいゆくものに大して感じる美しさだったと思う。桜の秒屋の場面では、花を惜しむ心と同時に、雪子との花見が最後かもしれないという、幸子の心が描かれる。
     桜は散ってしまうけれど、また翌年に桜の季節がやってくる。対して人は、個人レベルで言うならば、去年と同じではありえないし、沢山のものを失っている。桜を見る自分たちがだんだんと変わってゆく諸行無常の感と、少しずつ変わりゆく姉妹たちのそれぞれの生き様。

  • (旺文社文庫特製版)
    中巻読み終わった辺りから忙しくなって、2週間くらいずっとなかなか読めん日が続いたんやけど、7月入ってからやっと一気にばーっと読んだ。

    3巻通して面白かった。下巻だけで言うと雪子(橋寺の件)妙子(こっちはもう言うまでもない)まじおまえらなんなんていうくらいの展開で精神的には中巻のあの水害よりも修羅場やと思った。幸子の心臓もたんのと違うか。
    幸子視点やけん、雪子妙子の心情は幸子の想像なんやけど(鶴子もじゃ)、実際のところ何考えとんて思った。妙子の本心は結局分からんままでちょっともやもやするわ。進歩的なフリやったのか、気持ちはそのつもりやけど…とかなのか。
    幸子は結局ずっと狂言回し的な役割で、自分が中心になることはほとんどないのに、間近で大変なことが起きたり板挟みやったりと、ほんと苦労人気質やわ。
    そうそう、下巻の最後の方でようよう鶴子の心情なんかも見えてきたりしてそれも面白かったよ。3人だけで遊びに行くって言われたら寂しいよ。

    これから本格的に戦争に入っていくくらいの時期で、華やかで優雅な彼女らのお話はここでおわっとくのが一番ちょうどいいやな。雪子のあのラストはすごく好きです。

    6月30日に、西宮に遊びに行ったついでに神戸文学館に行ったんやけど、細雪でいっこのコーナーができてたー。きちんと読み終わってから見たかったな。西宮への道中、作品の中で見知った地名の駅に停まったりすると内心興奮してしまった。

    • マヤさん
      妙子の本音、気になりますよね~。しゅうこさんの感想はそうそう、と共感するところが多いです。神戸文学館に細雪のコーナーがあるんですね。いつか行...
      妙子の本音、気になりますよね~。しゅうこさんの感想はそうそう、と共感するところが多いです。神戸文学館に細雪のコーナーがあるんですね。いつか行ってみたいなぁ。
      2016/07/05
    • しゅうこさん
      マヤさん
      感想が軽くてお恥ずかしいです。マヤさんのレビュー、わたしが言語化できなかったようなことをするりと書かれておられるので、わたしもそ...
      マヤさん
      感想が軽くてお恥ずかしいです。マヤさんのレビュー、わたしが言語化できなかったようなことをするりと書かれておられるので、わたしもそうそうー!と思いながら拝見しております。
      神戸文学館、着物の話や、モデルになったホテルや料理屋の写真なんかも展示されてました。
      2016/07/06
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著者プロフィール

明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2018年 『父より娘へ 谷崎潤一郎書簡集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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