陰翳礼讃・文章読本 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005164

作品紹介・あらすじ

まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。『陰翳礼讃』蒔絵、金襴の袈裟、厠……。巨大な庇下に広がる闇に、独自の美を育んだ日本文化の豊穣。/『文章読本』文章に実用的と芸術的の区別はない……古典と当代の名文家たちの一字一句に学び、含蓄ある日本語を書く心得を説く。文豪の美意識と創作術の核心を余さず綴る、名随筆を集成。

感想・レビュー・書評

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  • "われらの祖先の天才は、虚無の空間を任意に遮蔽して自ずから生ずる陰翳の世界に、いかなる壁画や装飾にも優る幽玄味を持たせたのである。これは簡単な技巧のようであって、実は中々容易ではない。(略)分けても私は、書院の障子のしろじろとしたほの明るさには、ついその前に立ち止まって時の移るのを忘れるのである。(p.36)"

     谷崎潤一郎による随筆5編を集録したもの。類書は各出版社から出されているが、解説で筒井康隆が述べている通り、この新潮文庫版の特徴は『陰翳礼讃』と『文章読本』が一冊にまとめられていることだろう。

    『陰翳礼讃』
     日本の伝統文化にある美を陰翳という視点から読み解く。谷崎によれば、概して日本人は、何でもハッキリ見せるのではなく、全体を仄暗く曖昧に留めることを尊ぶのだという。日本座敷や能舞台、漆器の美しさはそれである。"漆器の肌は、(略)幾重もの「闇」が堆積した色であり、周囲を包む暗黒の中から必然的に生れ出たもののように思える。派手な蒔絵などを施したピカピカ光る蝋塗りの手箱とか(略)、いかにもケバケバしくて落ち着きがなく、俗悪にさえ思えることがあるけれども、もしそれらの器物を取り囲む空白を真っ黒な闇で塗り潰し、太陽や電燈の光線に代えるに一点の燈明から蝋燭のあかりにして見給え、忽ちそのケバケバしいものが底深く沈んで、渋い、重々しいものになるであろう。(p.26)" 出典が分からないのだが、英国経験主義について論じた文章で”The mere fact of being able to do a number of things seems to him to indicate a probable incapacity for doing any one of them well.”というのを読んだ。もちろんそれとは文脈が異なるが、特に西洋文化と対比させたときに、決して底を見せない「深さ」に日本文化の美(=”禅味(p.28)“)がある。僕はテレビでしか見たことがないが、例えばパリの美術館では自然光の下で作品を展示しているのに対し、日本の美術館の展示室は暗いことが多いのは、勿論作品の保存のためという実際的な理由もあるのだろうが、西洋と日本の美が前提としているものの相違がよく表れているように思う。
     冒頭に引いた日本座敷に関する文章を読んだとき、『夢十夜』(夏目漱石)の第一夜を連想した。確かに、日本座敷の仄暗さあるいは仄明るさの中には、知らない間に百年経っていてもおかしくないと思わせる、悠久の時の流れのようなものがあるように感じる(逆に、一片の闇さえ排除された白い部屋にあるのは、静止した時間だろうか)。
     ただ、日本人の肌が黄色いのを"損(p.63)"と書いたのはよく分からない。肌の色が違えば美意識も異なるものであり得るのだから、態々白色人種と比較して卑下する必要はないだろう。当時と今とでは状況が違うのは理解できるが、何故こんなことを書いたのか首を傾げざるを得ない。
     上述の通り少し疑問に思うところはあるのだが、谷崎の指摘自体は鋭いと思う。それに加えて、文章がとても素晴らしい(特に、p.22~37辺りはほんとに名文)。
    『厠のいろいろ』
     厠(トイレ)を題材にしたユニークな随筆。なんとも長閑な感じ。
    『文房具漫談』
     執筆のときに使う文房具についての拘り。
    『岡本にて』
     随筆の内容とは全然関係がないが、通っていた高校からすぐ行けるところに谷崎潤一郎記念館があったのを思い出した。なんで一回も行かなかったんだろう…
    『文章読本』
     含蓄のある日本語を書く心得について様々な項目を立てて詳述されているが、繰り返し述べられている要諦は「分かりやすく、かつ、饒舌を慎むこと」だ。本を読んでいると色々と表現を知るので、例えばブクログのレビューを書くときでも難しい表現を使いたくなって、つい必要でない形容を付け加えてしまう。ブクログは趣味だからまだいいとはいえ、それは読む人のことを考えてのことかと問われれば否なわけで、これからの戒めとせねばならないと思った。
     p.200に"名文も悪文も、個人の主観を離れては存在しなくなるではないか、と、そう云う不審が生じるのであります。"とあるが、僕もこれはずっと気になっている。一般に名著とされている本を読んで特に感心しなかったとき、本にではなく自分の方に問題があると(一旦は)考えるのが教養主義であるが、では自分が感じたものはどう処理すればよいのか。これに対して谷崎は、酒の鑑定家を例に挙げて"一定の錬磨を経た後には、各人が同一の対象に対して同様に感じるように作られている(p.201)"と述べており、一つの答えになっているとは思う。ただし、"一定の錬磨を経た後"とはいつなのかといえば"同様に感じる"ようになるまでと言うしかないはずで、些かトートロジーのようにも感じる。
     p.324では、婦人雑誌から引っ張ってきた悪文の実例を谷崎が書き直しているが、内容は同じでもここまで鮮やかに印象が変わるものかと驚かされた。

  • 随筆集ということで今までスルーしていたけれど、読まずに死なないで良かった‥‥

  • 谷崎潤一郎の随筆集。「細雪」の文章が好きだったので随筆を読んでみたいと思い手にとる。時代が違うのでよくわからない風俗文化や差別的と取れるような表現がある中、「陰翳礼讃」で語られる考察にはうなずけるところが多々あり。「文章読本」は専ら読むばかりの私には関係ない内容かと思いつつ、そうでもないような。時代が違うから事情も異なると言えるところもある中、現在の文章に言えることが多々あり、稚拙で無駄の多いことばを垂れ流している私には痛い。とにかくどの随筆も流麗な文章。

  • 谷崎の没後50年経過したからだと思うけど、中公から出ていた『陰翳礼讃』と『文章読本』を合体させた本。ここがミソ。
    このふたつは1933、34年に書かれており、つながってる部分があるので連続で読むのは良いことだと思う。『陰翳礼讃』のタイトルはかなり有名だけど、『文章読本』の方は読んでない人が多いんじゃないかと。

    『陰翳礼讃』の方はただのジジイの愚痴なのだが(当時47歳)、愚痴だとわかって言ってるのがよい。ただ、根拠なく言ってる、それはお前の好みだろ!という点、ツッコミどころも多少ある。

    どちらかというと『文章読本』の方が面白かった。ただ、かなり細かく解説しているので最後の方は飽きてきた。
    谷崎の小説、最初読んだときからずっと、読みやすいなーなんでだろ?と思っていたけど、『文章読本』を読むとその理由がわかる。谷崎はずっと、読みやすい文章を書くこと、あるいは内容に合わせて表現を変えることに苦心していたことが窺える。

    芥川との論争〜志賀直哉の文章に対する評価、ぐらいを押さえとくとより楽しめるかも。また、後半277頁からの森鷗外の漢字と仮名の使い方にはハッとさせられた。

    松岡正剛さんは『陰翳礼讃』のことを「うまくない」と言っているが、どこがどううまくないのか、松岡さんの文章がなに言ってるかわかんないので、説明が欲しい。

    また、タウトが『日本文化私観』を書いたのが1935年頃と、時期的に近いのでこちらも読んでみたい。

  • 2021/2/13

    【陰翳礼賛】
    日本人の美意識は翳にあると。なるほど、以前ほのかな灯りに照らされた茶室を訪れた時に感じた妙な美しさはこれか。ただ経験不足がゆえに、それ以外に谷崎が言う能や女が醸し出す翳の美に共感することはできなかった。

    僕は(日本の中途半端な)西洋文明に染まってしまっているのだろうか。谷崎は「東洋人は己れの置かれた境遇の中に満足を求め、現状に甘んじようとする風があるので、暗いと云うことに不平を感ぜず、それは仕方のないものとあきらめてしまい、光線が乏しいなら乏しいなりに、却ってその闇に沈潜し、その中に自らなる美を発見する」と言う。

    なおも物質主義が支配する令和時代において、「現状に甘んじ」る必要はないため、日本特有の美意識が損なわれるのは当然の帰結だろう。とは言え日本人の美意識は潜在的に皆に宿っているはずで、京都や鎌倉が日本屈指の観光スポットになってることからも明白。

    今一度、翳に着目して自分の美意識に自覚的になった方が良さそうだ。


    【文章読本】
    谷崎は初めて読んだのだが、こんなにも流麗な文章を書くのかと驚いた。

    これは文章と切っては切り離せない生活を送っている限り、みなが読む価値があると思う。ツイートをするときも、メール文を作成するときも、本を読むときも、こうやってブクログに感想を書くときも、あらゆる場面で活きてくる助言が書かれている。簡単に言えば、日本人は国民性としておしゃべりではない上、文法の構造上の問題から、文章はなるべく分かりやすく簡潔に書け、ということ。

    これについて谷崎は古典を引用しながら説明する。古文は受験生の宿敵の一つだが、その理由は徹底的に装飾を避けられているところにある。雄弁に語ることが是とされる現代人にとって難しいのは当然だ。古文を英訳すると、装飾は不可避だそう。これは興味深い。

    これによって自分がいかに無駄な装飾を苦心して付け加えているかに対して自覚的になる。

    また、文章に対する感覚を研ぐためには、理論の勉強ではなく古来の名文を繰り返し素読して暗唱が肝要だ言っている。理由こそ違えど、小林秀雄も素読の大切さを説いている。
    実朝や芭蕉など気に入った詩人の歌を暗記しないとなーと。

  • ◎まずは、「文章読本」を読了。

    もともと、私は実用書より小説派ですので、小説を読むより少し時間がかかりましたが、難しいぞ!と思うページは適当に流し読みするなどしながら、読み進めて最後までたどり着きました。

    ・エッセイのような、大学で谷崎の講義を聴いているような感じの読み物
    ・文章を綴る人が、作文にあたって配慮すべきこと、心にとどめ置くべきことを並べ、持論を展開
    ・特に気になったのは
    -古くからある言葉を優先すること(安易に外来語を使わないこと)
    -造語しないこと
    -品のある文章を作ること(そのために、自分の品位を磨くこと)
    -できるだけ声に出して読んで推敲すること
    (句点、読点の付け方や言葉づかいも変わる)
     といったあたりでしょうか。

    また、「饒舌にならぬこと」というのも、日頃文字数が多くて悩める私にはぐさっと刺さるところでした。(既にこのメールの文字数でアウトですね)
    なんとなく、「読む人がどう理解するか、どうとらえるかをしっかり考えて文章を作るべし」と言われている気がして、身につまされました。

    また、この本を通して、文章を書く際には、伝えたいものの本質はどこにあるのかを考えて、言葉を選び(漢字や仮名の文字使いも含めて)、用法や文体を考えるのがよい、という姿勢が貫かれているようにも感じました。

    ・単語数の少なさ(それゆえの広がり)、主語を表す多彩な表現(君、あなた、お前、貴殿、…など)、敬語を用いて隠れた主語を表現すること(「おっしゃる」と言っただけで主語がなくてもその場に登場している目上の人物の動作と分かる)…など、西洋文と異なる日本語独特の特徴を指摘し、その良さを美しい文章づくりに活かそうと工夫を重ねる文豪の努力もすごいなぁと思いました。

    ・この本が執筆されたのは昭和9年とのこと。文章は確かに谷崎らしい流れるような感じですし、出てくるちょっとした事例も時代を感じるものでしたが、指摘されていることや視点は、まったく的確で、なるほどと感じ入ることばかりでした。

    ・文章読本、という名前のものは、世間に数多く出版されているらしく、文豪の著作では、川端康成や三島由紀夫も同名の本があるようです。いずれも、綺麗な日本語を奏でる人たちなので、いつか読んでみてもよいかなぁと思っています。

  • 徹底的なまでの文章への拘り。

  • 桐野さんの「デンジャラス」がおもしろかったから、谷崎作品を読みたくなって買いました。一番読みたかったのは「鍵」だったのだけど、本屋2~3件回ってもありませんでしたので、二番目に読みたかった「陰翳礼讃」を買いました。私は本屋で買いたい派です。

    「細雪」を読んで、谷崎の耽美的世界に惹かれました。その谷崎の美意識随筆を読むことができ、おもしろかったです。持論展開というか半ば愚痴展開なのだけど、大谷崎だから許されるのです。

    愚痴でさえ、厠論でさえ、天晴れなのです。

  • しょっぱなからトイレの話が多くてぶっ飛んでるなと思った。日本家屋の美しさを知ると同時に今の自分の生活の仕方を考えさせられる。
    時代錯誤な部分も多いのですこし難しい部分もあるが是非とも全日本人に一読してほしい

  • 陰翳礼賛:「陰翳」をキーワードにして日本人の美しき特性を描くエッセイ。「もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光と蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。」
    文章読本:作家の立場から書かれた文章の書き方の手引き。簡素な文体を心がけることに、文学と実用文の違いはない、ということに納得。また、氏の小説が非常に読みやすい理由のひとつも、ここにあるのかとうなずく。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎② 春琴抄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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