ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006031

感想・レビュー・書評

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  • 借金をしてまで酒を飲み、現実から目を逸らすためにそとに女をつくる。そんな弱い男が何人も出てくる短編集。

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    著者が自分を投影しているのはわかる。
    どうしようもない自分を擁護するわけでもなく、堕落した生活のせいで妻子につらい想いをさせてしまって自責の念に押し潰されそうな男の生活。
    そんなに苦しいのなら家庭から離れればいいのに、とも思えるが、彼は一人で悩み続けることも怖くて寂しいのだ。そうして、地獄の想いを妻にも背負わせてしまう。
    しまいには、このような結論に達する。

    "曰く、家庭の幸せは諸悪の本。(P188より引用)"

    金を家に入れないばかりか、借金を押し付けて、さらにこの責任転嫁っぷりは流石だ。
    幸せな家庭を作って妻子を養うという生活ではなくて、『ヴィヨンの妻』の大谷と椿屋のさっちゃんみたいに飲み屋で会う夫婦のような距離感が太宰の理想だったのかもしれないな。

    哀れな無頼漢の生き方をどうしようもないとは思いつつも、無性に憧れてしまうのはどうしてだろう。

  • 「生きていさえすればいいのよ。」

    駄目な人間が周囲の真面目な人間達を振り回す。その迷惑。呆れ返りながらも、思う事の色々と、続いてしまう人生の無常。

    妻の愛に触れ、考えずにはいられない。生と死と家族と他人、そして社会という不安を煽る異形の存在。

  • 表題作はじめ全8編を収録。特に心に残ったのは以下の諸編。
    『親友交歓』は、津軽に帰郷した「私」のもとに突然上がりこんで来た「小学校時代の同級生」との顛末。男は酒肴を要求。秘蔵のウイスキーをガブガブ飲む。さらには、お前のカカを呼べ、俺に酌をさせろ、等と強要。なんともずうずうしい男。「私」は、生涯忘れない苦い記憶、と言うのだが、どこかしらユーモアも滲んでいて、痛快な感じもある。津軽を舞台にした作品のなかでは少々毛色が違っていて、なんとも面白い。

    『トカトントン』。これまた太宰の他作品に似たものは無く、異色の存在感を示す作。(太宰の)小説の読者だという青年からの手紙という型式の書簡体小説。8月15日、その青年は兵舎の前で整列し、厳粛な気持ちで敗戦の現実を受け止めつつあった、ところが、どこからか聞こえてきた「トカトントン」という金槌の音に、つき物が落ちたように、それまで心身を染めていた軍国主義が抜け落ち、ぽかんとした心持になったという。さらに、青年は、その後も、何かに一所懸命に取り組もうとした時など、きまって「トカトントン」という音がどこからか幻聴のように聞こえて、物事に向きあうやる気が消失するのだという。敗戦後のある種の虚無感を描いたものか。呑気のようだが、ある種の鋭さを感じさせ、強く印象に残る短編である。

    『父』、『ヴィヨンの妻』これらは恐らく三鷹時代の作。三鷹を舞台にし、その頃の生活に材をとった作品のようだ。

    『父』。父とはつまり太宰自身のことで、どうしようもない「父」の有様を描く小品。なんとも、人でなしの父である。ある日妻は、風邪をひいて辛いので、今日だけは、配給の行列に代りに並んでくれまいか、と「父」に懇願。しかし「父」たる私は、飲み代を懐手にして家を出る。しかも、飲み屋の近くで、寒空に並んでいる妻と遭遇するのだ。あまりのもの哀しさ、人でなしぶりに、笑ってしまった。太宰のひとでなし名場面のベスト3に入るように思う。

    『母』。これまた、見事な短編である。津軽に帰郷していたとき、太宰は、文学青年の小川君の実家である海辺の旅館で饗応されそこに泊まる。その夜、休暇中の若き航空兵の泊まる隣室から、男女の会話が筒抜けに聞こえてくる。太宰は、そのやりとりに息をのむ。太宰の明るい突っ込みを織り交ぜつつも、もの哀しい小景が心に残る。

    『ヴィヨンの妻』は、「妻」の告白体の小説。その夫は当然ながら太宰らしき人でなしの男。中野の小料理屋の夫婦が、妻のもとに飲み代の請求にやってくる。(夫は)3年間一銭も払わずに飲み続けていて、困り果てているという。3年前、店にふらりと現れたときから語り起こすのだが、曰く『魔物がひとの家にはじめて現れる時には、あんなひっそりした、ういういしいみたいな姿をしているものなのでしょうか。』。このひと言、なんとも傑作ではないか。その後、妻は、夫の積年の飲み代を返すため、その小料理で働き始めるのであった…。

    『おさん』。これはどうやら妻の名前らしい。やはり、妻の告白体小説。ダメダメな夫との日々を、女言葉で回顧する。おもろうてやがて悲し…、な小景が描かれる。粋、だけどなんとも切ない台詞…。 「昼の酒は、酔うねえ」とか、「エキスキュウズ、ミイ」 とか…。 

    『桜桃』 妻と子を残して、家を飛び出し、飲み屋に飛び込む。桜桃が出る。こんなぜいたくで美味な果実、家に持ち帰ったら子供がよろこぶだろうな、と思う。

  • 少し前はこういう文学はなかなか読めない人間だったはずだけど今はさらりと読むことができるようになったなぁと思う。それがどういうことなのかっていうのはよくわからないけれども。

    これから『走れメロス』を扱うにあたって、他に『人間失格』くらいしか読んだことがないのも何だかなぁと思って2冊借りてきてみたうちの1冊。
    「親友交歓」は森見登美彦が太宰作品を集めた『奇想と微笑』で読んだことがあったもの。ラストの「威張るな!」があまりにも突然すぎていっそ清々しくてなんだか「ふふっ」と笑ってしまう。

    「トカトントン」はタイトルは知ってた。そういうことか、という感じだった。いつ自分の耳にも「トカトントン」が聴こえるかとひやひやする。

    他の作品の中では「母」と「ヴィヨンの妻」と「家庭の幸福」が好きというか、印象的でした。その他の作品はなんだかどれも駄目男と不憫だがたくましい妻の物語といった感じで似たり寄ったりかなと。ヴィヨンの妻もそんな話だけど。
    登場する女性はみな不憫な人なのだけど、不幸そうには感じられないのが不思議です。駄目男も憎みきれないのも不思議。

  • 今回もよかった、、確信した、太宰治の文章めっちゃ好き。なんだろう、ただ読むんじゃなくて、文章を深く味わえるっていうか、自分なりの解釈を考えながら読めるのが好き。特に「父」がよかったな。地獄だと思いながらそこにはまり込もうとする姿が共感できる。勉強しなきゃいけないことは分かってるのにスマホばっか見てる、別に楽しいわけじゃない、むしろ目が痛くなって辞めたいのに。勉強は好きだけどどうもやる気が起きない、そこはトカトントンに似てるかな?良くない事は自覚してる、変えたいけど変えたくない、怠惰で救いようないけど、この言い表せない心情を代わりに説明してくれた気がした。今回は特に、どの話もどこか気まずくて不幸で、読んでて心地よかった。


  • 1.おすすめする人
    →日本文学に興味がある、太宰治を知りたい

    2.内容
    →太宰治が死を目前にして書いた話の短編集。
     どうにもやりきれない家庭の話や
     友人であろう人との諍いだったり、、、
     時折太宰本人を登場人物として描いているが、
     空想に長けていた太宰治のことだから、
     本当のことかどうかは不明。
     太宰治の作品にしては、
     短編なのでとても読みやすいと思う。

  • 親友交歓が個人的に面白かった。
    突然自宅を訪問してきた、好いところが1つもみじんもない男との飲み会。
    自分の楽しみにとっておいたお酒を鯨飲されるわ、話は下世話でつまらないわ、すごく嫌な時間を過ごしていた。
    でも感情のままに発言せずに、自分のしたい流れを作るため相手の喜ぶ内容で色々と話をふっかけていた。
    でも相手に響くことなく最後は大事なお酒の、新品をよこせと言われ渡すことになっていた。
    ここまで来たら煙草もいるか聞いて、欲しいと言われたのであげてた。
    終始、主人公はされるがままの状況だった。
    でも最後、訪問してきた男は「威張るな!」と主人公に言っていたので、結局訪問してきた男の負けだなぁと思った。

  • 「我が身にうしろ暗いところが一つも無くて生きて行く事は、不可能だと思いました。」

    身の回りでも、どんな人でもうしろ暗い所が必ずあると思えると、僕はむしろどこかホッと安心できるような思いが込み上げてきた

  • ヴィヨンの妻の生きてさえいればいいのよが好き。
    あと、父の中でついに死ね!て書いちゃうところも好きだった。

  • ヴィヨンの妻
    (和書)2009年10月12日 20:54
    新潮社 太宰 治


    「親友交歓」を久しぶりに読みました。坂口安吾が激賞していたのを読んだことがある。同じように高橋源一郎も激賞していた。彼は坂口安吾の評論を読んだかどうかは知らないが、同じような感銘をきっと受けたのだろう。

    「ヴィヨンの妻」は映画化されたということで読んでみました。短編としては面白いが映画として観るには脚色が激しそうな予感がして期待はしない方が良いかなって思いました。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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