ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 530
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006031

作品紹介・あらすじ

新生への希望と、戦争を経験しても毫も変らぬ現実への絶望感との間を揺れ動きながら、命がけで新しい倫理を求めようとした晩年の文学的総決算ともいえる代表的短編集。家庭のエゴイズムを憎悪しつつ、新しい家庭への夢を文学へと完璧に昇華させた表題作、ほか『親友交歓』『トカトントン』『父』『母』『おさん』『家庭の幸福』絶筆『桜桃』、いずれも死の予感に彩られた作品である。

感想・レビュー・書評

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  • 少し前にレビューを書いた、「津軽」「走れメロス」は何れも太宰の安定期の明るい作品であったが、今回の「ヴィヨンの妻」は、戦後太宰が疎開先から東京三鷹に帰ってきた、昭和21年から、入水心中を遂げた昭和23年までの作品。
     家庭を顧みず、原稿料は自分自身の酒代や遊び代に使い切り、愛人も何人かいる、放埒な生活を送りながら、心の中は苦悩でいっぱいという、その頃の太宰自身の姿を反映させた作品ばかりだった。特に「おさん」という作品は、太宰の死後に夫人によって書かれた?と錯覚するくらい、自身の自殺をそっくりそのまま予告しているようで怖かった。
     以下は、標題作「ヴィヨンの妻」についてのレビューです。

     主人公、さっちゃんの夫はしょっちゅう家を空けているが、ある夜、泥酔して、はあはあ言いながら帰ってくると、その直後に、激しい勢いで入ってきた客が。それは、小さな料理店を営む夫婦で、話によると、さっちゃんの夫は、いつもただ食いするだけでなく、その日はとうとう店のお金を盗んだので、追いかけて来たという。夫はすぐに相手にナイフを見せて逃げてしまったが、さっちゃんはその客から、いつも夫がどんなにひどいか……華族の勘当息子で有名な詩人らしいが、いつもお酒を煽るように飲むが殆ど勘定を払ったことはなく、一緒にきた女の子や新聞記者がたまに払ってくれる…というような訴えを聞き、何故か分からないが笑いがこみ上げる。
     さっちゃんは「わたしが何とかします」というが、お金があるはずないので、その料理店「椿屋」で働くことにした。
     さっちゃんの目論見はあたり、クリスマスの日、ルパンのような仮面を付けた夫が、きれいな女の人と一緒に店に現れた。それから、夫は二日に一度くらい店に現れるようになり、お勘定はさっちゃんに払わせて、ふっとどこかに行ってしまうが、店の閉まる頃「帰りませんか」とそっと言いにきて、一緒に楽しく家路をたどることもしばしばあるようになった。
     店で働き始めて何日か経つと、さっちゃんは、椿屋のお客は全て犯罪人ばかりだということに気付く。お客ばかりでなく、店にお酒を卸しにくる上品そうな奥さんも水酒を高値で売りつけている。戦後の混乱期、人は皆、生きるためには、何かしら後ろ暗いことをしていたのかもしれない。
     さっちゃんと夫との会話で名セリフが沢山あるのだが、一つ挙げるとすれば、最後のさっちゃんの
    「人非人でもいいじゃないの。私たちは生きてさえいればいいのよ」

     ああこれが、デカダンって奴かあ。と思った。戦後の混乱した社会と太宰の性格と生い立ちが作り上げた世界っていうのかな。
     堕落して、どうしようもないのだが、汚くは感じない。どの作品もピリリとした一言があり、カッコ良かった。

  • 『たんぽぽの花一輪の誠実さを、僕は信じたい。』

    • ダイちゃんさん
      ジョアンナさん、おはようございます。ダイちゃんと言います。文豪と言われる作家の本はそれなりに、読みごたえがあります。私は、本棚に載せてありま...
      ジョアンナさん、おはようございます。ダイちゃんと言います。文豪と言われる作家の本はそれなりに、読みごたえがあります。私は、本棚に載せてありませんが、夏目漱石や遠藤周作の本をよく読みました。ジョアンナさんとは、読書分野が少し違うかも知れませが、色々な本を読もうと思っていますので、参考になります。フォローありがとうございました。
      2021/08/24
  • 太宰治・ヴィヨンの妻。太宰の後ろ暗い、切羽詰まった、リアリズムを示しているのだろうか?主人公の夫は自分の家族が上流階級であることを嘯き、若い女性を連れて飲み呆ける。夫は妻・子どもとともに放ったらかし状態。妻は夫が通い続ける中野の飲み屋で働き、夫に会えることで幸せを感じる。夫は飲み屋で5,000円もの大金を盗むが家族と正月を迎えたかったからだと言う。「社会で生きることが悪と並行していること」「不甲斐ない男の不徳」「女性は男性に翻弄される」この3つの視点が平衡に絡み合い、人間失格に行き着くのだろうと感じた。⑤

    「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」

    • アールグレイゅぅママさん
      こんばんは★

      ん~!
      夫がお酒を飲む、その店で妻が働く。
      考えられない。私は我慢できない!
      ・・・・最後の言葉ですが、“人は人、私達は私達...
      こんばんは★

      ん~!
      夫がお酒を飲む、その店で妻が働く。
      考えられない。私は我慢できない!
      ・・・・最後の言葉ですが、“人は人、私達は私達”ということでしょうか?
      (。_゜)
      2021/11/15
    • ポプラ並木さん
      「人は人にあらず」--->「人間というのは人間の姿をしているけど人間ではない」--->自分のバカ亭主は度を越してダメな人であるけど、生きてい...
      「人は人にあらず」--->「人間というのは人間の姿をしているけど人間ではない」--->自分のバカ亭主は度を越してダメな人であるけど、生きていてくれるだけで幸せよ~ということかな。太宰の理想の女性像だと思います。
      2021/11/15
  • なかなか明るい気持ちで読めない一冊。
    まず、「親友交歓」
    とにかく、読んでいてイライラ~ってなる。自分ならこんな黙って好き勝手言わせておかないなぁって。はっきり断れば良いのにって。

    表題作「ヴィヨンの妻」
    これは、なんというか結局のところ似た者夫婦だったんだろうな、というのが最後まで読んだ感想でした。ただ、虐げられて居ただけの妻だとばっかり思っていたのにこの先はきっと大谷よりも・・・と想像してしまう。

    「家庭の幸福」
    この話はもう、最後の一言に尽きる。
    無条件に「怖っ!」ってなる。言葉にしてしまうことの怖さというのだろうか?本当は悪いことではないとは思うんだけど。

  • 『ヴィヨンの妻』
    借金してまで酒を飲み人に金をやる破滅的な作家を妻の視点から描く。妻といっても入籍しておらず夫にはあちこちに女がおり家にもほとんど帰らない。子を抱えた妻は、最終的にはそれでも生きてさえいれば良いと前を向く。太宰作品にはこういう話が多いですけど好きです。

    『親友交歓』
    ド厚かましい男の話。人の家に来て、さんざん自慢話をけちらし、厚かましくし、しまいに暴言を吐く。たまにこういう人と遭遇して殺意すら芽生えることがあるが、まさに人間の嫌らしさが前面に出ている作品。

    『トカトントン』
    トカトントンの幻聴ですべての情熱が一瞬にして消えてしまう病の話。これに対する作家の答がおそろしい。すべてを無にすること、それが太宰の出した答えだったのか。「ただ一切は過ぎてゆきます」と人間失格で語ったように。
    この作品は他のエッセイ的なぐだぐだ感に比べ、トカトントンというキーワードが生きていて印象深く心に残った。

    『父』
    この父親は最低すぎると思うけど、「義」つまり義理のために子と別れる。それが男のサガ、わからんでもない、せつなすぎる。と思うけどこの父親はやっぱり最低…。


    『母』
    母の話というより女の話である。主人公である作家を、小生意気な小川くんがうまい具合にけなすのがおもしろかった。この短編集の中では比較的穏やかな気分で読める話。しかし母というのは息子にとって何なのだろうな…


    『おさん』
    不倫をするなら明るい感じでしなさい、というお話。というわけではないが、思想に酔う男、大義を振りかざして自分を正当化する男の弱さが、生活を抱えた女の冷めた目から語られている。ヴィヨンの妻と正反対のような、似ているような。


    『家庭の幸福』
    最後の一文を導き出すために延々と妄想しているだけの話ではあるが、現代にも通ずるものがある。核家族化するほど家庭の問題は増える気がする。
    それにしても太宰にとって家庭は欺瞞に満ちたものであり幸福であってはいけないものだったのだろうな。


    『桜桃』
    子供より親が大事、で有名な太宰最後の作品。厭世的なラストがせつない。桜桃の首飾り、作ってあげれば良かったのにね。

  • 太宰は、父とはこうあるべき、家庭は円満でなければならない、といった生真面目さに、晩年始終悩まされていたのだなぁと。
    父の立場から家庭から逃げていたにもかかわらず、その避難場も避難先としての役には立たず、「死」のみ、自らを匿う場として憧憬したのだと…。
    聖書の言葉もところどころに。
    死にひきよせられている太宰の姿がうかがえる。

  • 久しぶりの再読。
    太宰って、そりゃ女グセも金グセも酒グセも悪かったでしょうよ。当時だってスキャンダラスな作家だったと思うよ。
    自己愛が強くて、自意識過剰で、人間として手放しに褒められる人ではない。
    でも、なぜ好きなのか考えてみるに、もちろんその文学的才能はもちろんだけど、どっかにまっとうな、純粋なところがあって、それは本物なんだよなあ、と改めて思った。
    「親友交歓」「トカトントン」「ヴィヨンの妻」は素晴らしいと思う。特に「ヴィヨンの妻」は改めて言うまでもないことだけど、傑作。こういう悲哀をのみこんだ人間の強さをさりげなく(これでもか、っていうふうに書かないところがいい。)書けるってすごいよ、本当に。

  •  戦後の晩年に近い作品。自分のことを嫌に思っている陰や死が見え隠れする作品が多い。でも初期と違って、どこかまとまった文体・世界になっているのは積み重ねと言えるか。
     「トカトントン」は、最後にもあるように、自身の性格の何物でもないと思った。音があるからと自分に納得出来る解釈を与えているだけ。学習効果と言うべきか……。
     「おさん」や「ヴィヨンの妻」などの女性による語り口は作者の影を忘れさせる。
     最後の方の作品である「家庭の幸福」は、官僚を批判する珍しい作品。過去に同人で農作の上下関係を批判するような作品を書いて、長兄から取り消すよう言われたことがあるそうで、その事もあるのだろうか……。弱者に優しいと言われることがあるけれど、それを感じられる作品でもあった。

  • ページが短く、テンポがいいためあっという間に読めます。

    ある夫婦の日常を描いた物語。
    旦那は物書きで
    外に女がいて
    毎日ツケで酒を飲み歩き
    子育ては参加しない。

    「旦那」というにはあまりに欠点ばかりの人間。

    そんな妻は対照的に
    他人に気を遣い
    気配り上手で
    そんな旦那を愛している。

    という正気の沙汰ではないくらいの優しいヒト。
    そして若い女でベッピンさんらしい。

    損得で考えれば妻は絶対損していると思う。
    今よりいい暮らしを保証してくれる相手を見つけるのは容易だと思うし、
    社交上手ならばもっと外との関わりもしたかったのではなんて思ったり。

    しかし、これが男と女なのでしょう。
    ここまでだらしない夫でも
    妻はなにかを見出し
    けなげに信じ続けたのではないだろうか。
    尊敬していたのではないだろうか。
    幸せだったのではないか。


    ということは、
    「本当の幸せ」とは「本人がそれを幸せだと認識したもの」にしか見いだせないものだから、その妻の幸せは「夫の側でありつづけること」以外に他ならない。
    そうなってくると逆に大谷は報われないところが多くあるように思えるが、その話の続きはまた長くなりそうなので別の機会で。

  • 太宰治の、晩年の8つの短編集。
    又吉さんのオススメ本。
    全体的に暗いトーンの作品が多いが、所々でクスリと笑える場面もあり、読みやすい作品が多かったように思う。

    「親友交歓」は単純に面白く、ユーモアたっぷりの作品。
    それ以外の「ヴィヨンの妻」他は、金や女にルーズなどうしようもない夫と、それを支えるしっかりものの妻という設定が多い。
    夫のことを憎み切れない妻に、何故だか好感が持てた。

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著者プロフィール

1909年(明治42年)、青森県北津軽郡金木村の大地主の六男として生まれる。本名、津島修治。
薬物中毒になりながらも、第二次世界大戦前から戦後にかけて作品を発表。主な作品に『走れメロス』『お伽草紙』『人間失格』『斜陽』などがある。戦後は流行作家として活躍するも、1948年6月13日、玉川上水で愛人であった山崎富栄と入水自殺。享年38。

「2022年 『太宰治⑤ 富嶽百景』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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