走れメロス (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 527
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006062

作品紹介・あらすじ

人間の信頼と友情の美しさを、簡潔な力強い文体で表現した『走れメロス』など、安定した実生活のもとで多彩な芸術的開花を示した中期の代表的短編集。「富士には、月見草がよく似合う」とある一節によって有名な『富岳百景』、著者が得意とした女性の独白体の形式による傑作『女生徒』、10年間の東京生活を回顧した『東京八景』ほか、『駈込み訴え』『ダス・ゲマイネ』など全9編。

感想・レビュー・書評

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  • 太宰中期の短編集9作品
    ぜんぶ強烈に面白い!

    『ダス・ゲマイネ』
    個性溢れる4人(互いに仲が良いわけでは決してない)の青年のやり取りが面白い
    あと素朴でかわいい菊ちゃん
    ハッキリ言ってストーリー性はそうない
    主人公はちょっと背伸びしがちな純朴な青年
    アクの強い連中にどうも好かれるらしい
    嘘ばかりついて生きているがピュアな自称音楽家の学生
    (もうすぐ死ぬと言っているがちっとも死なない)
    世の中を器用に生きている画家
    小説家太宰治
    (ん!?この設定!しかもとてもと嫌われ者して登場)
    太宰らしい
    主人公以外の三者三様のアクが豊かに表現され、主人公の「無」の対極さが際立つ
    この個性的な面々に囲まれて、疲れ果て最後は自分は一体誰なのか…と
    最後は電車に轢かれて死んでしまう
    !?
    主人公があっさり事故で死ぬ…(死ぬ死ぬ言っていた自称音楽家じゃないのね)
    いや、ストーリーなんかどうでも良い
    この世界観にちょっと身を寄せてみることに価値がある
    各人の見事な描写、感覚的なユーモア


    『満顔』
    もの凄く短いお話し なんと3ページ
    酒に酔って怪我をして医者にかかった
    その医者も同じくらい大変酔ってふらふら現れた
    もうのっけから楽しい
    初対面なのに二人でくすくす笑い合ってしまう
    こちらにも笑いが伝染する
    3ページでどんな展開をするのかと思いきや
    こちらの医者にかかっている学校の先生の奥さんに
    「奥さま、もう少しの辛抱ですよ」と医者が言うわけである
    学校の先生は3年前に肺を悪くしたがこの頃回復しているようである
    「いまがだいじのところ」と、固く禁じた
    ん?これは…
    というお話(笑)
    しかし3年である
    一歩間違えたら家庭崩壊の危機になったのではと心配してしまう
    そうしてとうとうお許しが出た日の学校の先生の奥さまは嬉しそうにさっさと飛ぶように歩いて行った
    これは医者の奥さまのさしがねかも
    たった3ページにセンスの光る小粋なお話
    太宰恐るべし


    『富嶽百景』
    富士山の麓の御坂峠で滞在している太宰治が人との出会いや発見により、富士への見識を変化させていくというストーリー
    完全なるフィクションではない…と思われるが
    太宰の人生背景を窺い知ることができ、井伏鱒二から勧められたお見合い相手とこれから再出発していくのだ…という静かで前向きな気持ちを感じとることができる
    見る場所見る場所から富士山について語っている
    当初は富士は「世間=俗物」の象徴とも思っているのだが多くの人との触れ合いを経て最後は富士にお世話になりましたと挨拶する
    静かで大きな展開のないストーリーだが
    いつも富士が居て居心地が良い
    人も暖かい
    無意識なる自然崇拝的存在富士山
    まさに日本人の感性だ
    私も富士山が大好きだ!(でももう登りたくないなぁ…)


    『女生徒』
    元は太宰に送られたある女性の日記とのこと
    どこまでが太宰にアレンジされているのか不明
    多感な14歳の女学生の日常生活の中でのさまざまな想い
    お父さんが亡くなり、お姉さんがお嫁に行ってしまい、お母さんと二人の生活
    その中で感じること思うことをつらつら綴っている

    思春期の心の揺れ、葛藤、残酷さ、自己嫌悪
    同性に対する愛情と嫌悪感
    いつまでも子供で居たい気持ちと早く今の時期を飛び越えて大人になりたい気持ち
    青臭く湿度が高く…だけどなんか憎めない

    当時の自分を振り返っても…
    もうこの頃って無駄に時間はあるし、エネルギーが余っているから、変なことばかり考えてしまう(考えたくないのに!)
    どうでもよいしょうもないことに悩んだり、急に吹っ切れたり
    さっきと今でまったく逆のことを考えたり
    あふれ出る嫌悪感を抑えられなくなり、だけどどうやってガス抜きしたらいいのかわからない
    一番泣きたいときには涙が出ない
    自分でも自分がわけわからないし、自分の「位置」みたいなものもわからないし、他の人と比べて何かおかしいのではないかと悩むし
    今思うと、もうかわいそうわたし…バカね!(笑)となるのだが
    その頃は真剣

    なので女生徒に
    大丈夫だから
    通り過ぎるから
    って教えてあげたくなるようなそんなお話し
    ただこれを読んで自分の中では「あるある」ネタだが、ひょっとして世間は違うのかしら?
    あとこれ読むとなんだか江國香織ワールドみたいな感じがした


    『駆込み訴え』
    何の予備知識もなしに読んだのだが、もう最初はさっぱりなんのことやら???
    そうは言うもののどうやら男の愛憎劇だというのはわかる

    〜あの人は酷い
    厭な奴です
    悪い人です
    ああ我慢ならない
    生かして置けねぇ〜
    (ほぉどうやら悪い奴の話しか)

    そうきたら今度は

    〜誰よりも愛しています
    あなたが此の世にいなくなったら、すぐに死にます〜
    (なんですと!?)

    ある師匠に対し、もうドロドロした相反する愛憎感情にぐちゃぐちゃになっている男の独白、訴えである
    殺したいほど愛おしい
    こんなに尽くしているのに
    意地悪くこき使われ軽蔑してくる
    昼ドラの世界である
    しかも男同士である
    なんだこの設定は
    どれほど愛おしくてどれほど憎いか、切々と訴えてくる
    この訴えが本当に臨場感あふれるのだ
    感情がつらつら流れ出る、いやあふれ出て言葉が止まらない!
    もう人目もはばからず本能むき出しである
    常識も理性もすべてぶっ飛んでいる
    ある意味混じりけ無しの純愛ともいえよう
    しかし何故か真剣なほどだんだんおかしみが増す(真面目に読んでいるのだ!いやだからこそ太宰の文章は面白いのだが…)
    途中から(あれ?まさかこれは…と)気づくのだが、なんとユダとキリストの話しではないか!
    これは全くの想定外

    〜私は天国も神もあの人の復活も信じない
    あの人の美しさだけは信じている〜

    歪んでるなぁ
    とてもイエスの弟子の台詞ではない
    思いはさらにエスカレートしていく
    もう最後は自暴自棄のサイコである
    圧巻の迫力、展開でぐぃぐぃ引き込まれる
    すごかったぁ
    読み出したらアリ地獄
    だいたいコレ元ネタは新約聖書ですよ
    それが太宰の手にかかると…
    ・主人公:ユダ
    ・ジャンル:心理サスペンス、サイコホラー
    ふぅ
    凄過ぎる!
    なんだか完敗…と思ってしまった(笑)

    ちなみに…
    「口述筆記」で書かれた小説、つまり「太宰がしゃべったことを妻の美知子さんが書きとった小説」
    しかも酒飲みながら(本当か?)
    凄すぎませんか?


    『走れメロス』
    メロスが友情のために走るんだっけか?
    伝令?(いやこれは別の話しか)くらいの漠然とした記憶のため、気になったので再読
    太宰らしからぬストーリーだが古代ギリシャの伝承というベースがあるらしくまぁ納得
    やっぱり太宰の表現力が凄いのである
    主人公の怒り、葛藤、辛さ
    一緒になって走っている気さえしてくる
    感情と疾走がもうドバっと荒波のごとく押し寄せるのだ
    もう走り出したきっかけなんてどうでもいいから、何とか間に合ってくれ(手に汗握ってくる)
    大河を渡り(泳ぎ切ったが服が濡れてきっと体力を奪われているだろう!かわいそうに)、複数の山賊と戦い(羊飼いなのに何故かとても強い)、もう間に合わない宣言をされても諦めないのだ!
    くぅ…この信念(もうここまできたら意地か怨念かとさえ感じる凄まじい想いなのだ)
    心が折れそうになり、一度だけ裏切ろうとした友情をお互いに詫び1発ずつ殴り合う、そしてしかと抱き合う!
    おお!男の熱い友情である
    最後に暴君の王様が感動して仲間に入れてほしい(王様が「仲間」だなんて!)…というハッピーエンドストーリーである
    ひねくれ者のいつもの私なら、もうそんな子供だましの簡単なストーリーなんてさ!
    と思うのだが、いやいやここまでしたら人の心は動くだろう
    しかし待っている友人の心境も恐ろしいだろうに、相当な葛藤との闘いであろう
    こんな立派な話、書いているクセに太宰自身は「待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね」
    なんて言って真逆のことしてるからなぁ…



    『東京八景』
    太宰の10年間の東京生活
    恐らく32歳の時に執筆している
    もうこの男は本当にクソである
    同じ過ちを何度繰り返せば気が済むのだ
    男のくせにめそめそ泣いて金をせびるな!
    いちいち死のうとするな
    死んだら解決すると思うなよ!
    もういい加減にしろよ!
    …と腹の立つこと甚だしい
    このように怒り爆発させながら読むのだが、なんかやめられない
    そのうち怒りを通り越して、どれどれ今度は何をしたのだ?
    もうこのあたりからはパロディだ
    太宰のしょうもない人生のくだりがよーくわかるのだが、意外と肝心なポイントとなる部分を言葉を濁す
    繊細なのか、演出効果なのか…
    怒涛の時期をこえ、二度目の結婚をしてから落ちついた精神状態で書いたと思われるので想像より読む側の悲壮感はない
    とにかくアホか!とぶつぶつ言いながら読むのが個人的には良い
    しょうもないのにたまに切なくなる
    転機がくる
    生きなければならないと思う
    やれやれ
    本当に「やれやれ…」


    『帰去来』『故郷』
    10年ぶりに太宰が生家へ帰郷する話し
    といってもこれまたさんざんお世話になった恩義のある方のお膳立てに乗っかるだけなのだが…
    ああ、本当に罰当たりで恩知らずな人間である
    それなりにしおらしい内容なのだが、世話になっても飽きれる厚かましさがある
    しかし皆が本当に太宰を愛しているのだと感じる
    これほど傍若無人な振る舞いを繰り返してもいつもいつも助けてくれる人間が必ず周りに居る
    しかも複数である
    本当に人たらしであるこの男は
    太宰以外の(笑)人達の温かみに触れるお話し
    切なさと喜びと小さな幸せ
    もう本当にこの男は…
    まったく…
    太宰は本当は幸せ者なのに…
    わかってたはずなのに…
    自分には真剣に向かい合ってはいるのだ
    目を逸らさずに
    しかしこんな人間なかなかいないよな



    太宰の短編
    総体的にびっくりするほど面白かった
    いやぁ、人間失格しか知らなかったので本当にびっくりしたのだ
    「好きに書いているんだから好きに読めば良いさ」なーんて言われてる感じで肩肘張らず、好き勝手なことを考えながら、時には文句言いながら読める
    何故か本を読むとついいい子ぶってしまうことがあるのだが、もう太宰の本なんてそんな必要全くなくて気楽で良い
    向こうも丸腰、丸裸、体当たりなんだし、こちらも感じるまま自然体で良いのだ
    しかもいちいちユーモア、感性、表現力が見事である
    そして必ず最後にくるなんともいい塩梅のオチ
    たまりません
    こうやって太宰の周りにいた人たちも嫌だ嫌だと思いながら、なんか気づいたら太宰の世界に入って行ってしまったのか!?
    『駆込み訴え』のユダのように、嫌いなのに我慢ならないのに、惹かれてしまうんです…
    いやぁ恐ろしい…

    9作品の短編集であるがなんとも濃厚で贅沢な1冊である

  • 9つの短編集。
    特に気に入った作品は3つ。

    思春期真っ只中の複雑な年頃の女子の1日をイキイキと描いた『女生徒』。
    文体が太宰らしくなく新鮮。
    喜怒哀楽がくるくる変わり、自分でも感情をどう処理してよいか分からない、少々厄介な思春期女子が軽やかに描かれていて良い。

    唄のリズムのような文体の『駆込み訴え』はある一人の男性の訴え。
    内容は少々ヘビーなのにノリで読めた。

    そして『走れメロス』。
    読むのは恐らく中学以来。
    竹馬の友のためにとにかく走る!
    途中お決まりの邪魔が入っても、自分に負けそうになっても最後は男同士の友情が勝つ!

  • 教科書でお馴染みの『走れメロス』をはじめとした太宰「中期の代表的作品集」。9作収められていてどの作品もとても面白かったのだが、2つ挙げるとすると『女生徒』と『駆込み訴え』。
    『女生徒』は、戦争で父親を亡くした若い女性の独白から成る短編。自分の思いをつらつら述べる一人称小説が好きな自分の好みにぴったり嵌った。というか、吐露される心情があんまり他人のものに思えない。
    『駆込み訴え』は、話には聞いていたが聞きしに勝る凄い迫力(特に冒頭)。目紛しく転換する心情をよくここまで繊細に描けるものだ。太宰はこれを一気に口述したそうだが、ちまちま推敲していてはこの勢いを捕まえられない気もするし、やっぱり太宰は天才だとも思う。
    『帰去来』は何故か読んだ覚えがあった(現代文の模試か何かで?)。

  • もちろん表題を聞いたことがあったのでスッと手に取った一冊。退廃的できれいな文章と何となく共感できる息苦しさに魅せられて人間失格、斜陽、ヴィヨンの妻、もの思う葦に続き5冊目の太宰。短編集の中では一番面白く感じた。ただ解説にもあったようにこの共感は著者の文体に秘密があって読者が皆そう感じていると思うと少し妬ける。。女性を一人称にとった文章がなぜこんなに繊細に書けるのか、これだけ解っていれば女性にモテるだろうし、周りの人が無償で必死に生かそうと思ったのも納得した。著者の作品は私小説的なところが多く、冊数を重ねるたび太宰を知れて(知った気になれて)どんどん堕ちてしまう。井伏鱒二や志賀直哉などの太宰に親しい(?)人らの本も読んでみたいなと思った。
    特に印象に残ったのは富嶽百景、女生徒、駆込み訴え、帰去来・故郷。

  • 1. 友との信頼は鋼よりも強い。

    2. そんな固い友情で結ばれていても、心は時に弱くなることもある。

    3. そんな弱い心を強くしてくれるのは、友との信頼に応えようという思いである。

    4. その思いは、地位・名誉・権力を持ち、かつ悪意を持って接してくる人の心をも動かす力がある。

  • 大人になってから読むと、こんなんやったっけ?てくらいおもしろいので、教科書に載せるという国の判断は正しいと思う。

  • 自分の命がどうであろうと、他人を助けようとするところに感動した

  • 2017.7.22
    太宰が晩年、落ち着いていた時に書かれた名短編である。思えば私は、自らを「人間失格」と思いながら、しかし「メロス」であることを求めていたように思える。だから太宰が好きなのかも知れない。
    信じられているから走る、もはや間に合うか間に合わぬかは関係ない、私はもっと大きな何者かによって走っている、というこの感覚。現代に失われているのものではないだろうか。できるできないは問題ではないのである、人間にとって大事なものに対して。それはこの表現の通り、語ることができない、形がないにもかかわらず、それに反して確信の強いものである。こういうものが、私は欲しかった。本物は、心が最も動く動因というものは、言葉で語れるものの向こう側にある。それは言葉足らずなのではない。語るという方法そのものでは掴めないものなのではないだろうか。語るという方法をどれだけ極めても、その延長線上にはないものなのではないだろうか。
    そういう心の真実を、美を、最近はよく考える。そこに人間の、生きることの価値や意味の感覚のヒントが、あるように思える。

  • 「富嶽百景」 … 富士山が孤高の人に見えてくる。「いいとこあるねえ。よくやってるなあ」と褒められたり、「こいつらを、よろしく頼むぜ」とあてにされたり、きっと富士山は苦笑いしただろうなぁ。

    「女生徒」 … 例えば、歯を磨いている時や赤信号を待っている時、ぼんやりしつつも実はあれこれ考えていたりする。もしも思考を一切もらさず文章にする能力があったとしたら、それはそれでしんどそう、なんて思う。

    「駈込み訴え」 … ブラック企業の悪徳社長なみに非難されているのは“あの人”。裏切り者の代名詞になるのはこの人。愛憎でボロボロの慟哭は、のみ込まれそうな迫力があった。

    「走れメロス」 … 緊迫には土砂降りの雨が、男の友情には真っ赤な夕焼けが、よく似合うのはなぜ? 大変だったわりに存在感が薄かったセリヌンティウスだけど、最後の5行に彼の個性が垣間見えるのがおもしろい。

    「帰去来」「故郷」 … 北さんと中畑さんをはじめ、優しい人ばかりでびっくりする。絶対に匙を投げられない「修ッちゃあ」ってば、やっぱりお坊ちゃま…。

  • 感受性の高い作者が、自分を傷つけずに書いている数少ないお話。
    歴史的な設定、友情と信頼について記述しようとする姿勢。
    太宰の作品の中では、人間失格とは対極のような物語かもしれない。

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著者プロフィール

1909年(明治42年)〜 1948年(昭和23年)日本の小説家。代表作に『斜陽』『人間失格』『走れメロス』『富嶽百景』など多数。

「2019年 『女神 太宰治アイロニー傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

太宰治の作品

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