お伽草紙 (新潮文庫)

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レビュー : 157
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006079

感想・レビュー・書評

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  • 太宰治による日本昔話のパロディ小説集。各元ネタは、「こぶ取り爺さん」、「浦島太郎」、「かちかち山」、「舌切り雀」の4編。
    娯楽性が高いのに、各話それぞれに人間の二面性や奥深さを突いていて面白いです。

    「瘤取り」
    頰の瘤に愛着を感じていたのに鬼に奪われたお爺さんと、瘤を取り除きたかったのに鬼のせいで増えてしまった隣のお爺さん。
    性格の違う当事者それぞれが抱えていた不満と孤独、その遠因でもあるそれぞれの家族の対照的な姿が印象的です。明るいお爺さんの家族が無口な無関心気質で、無口で暗いお爺さんの家族が朗らかで皮肉屋って…。太宰も教訓めいて述べていますが、人々の性質の違いとその交わり方によって、一見似たような事態の結末がこうも違ってしまうのかと、ちょっと身につまされる思いのする作品。

    「浦島さん」
    最終的に玉手箱を開けて老人と化してしまう浦島太郎をして、年月と忘却は救いであると言い切ってしまう太宰の哲学性がなかなかに刺激的な一品。私は晩年に孤独になっても、年月と忘却こそ救いであるなんて言える気はしないけど…。何事も強制せずに無限に許可し、玉手箱を開けるも開けないもすべてを浦島に任せる、あまりにも掴み所のない乙姫は、運命の象徴なのでしょうか?もう少し年齢を重ねてから読み直して味わいたい一作。

    「カチカチ山」
    うさぎを16歳の少女、たぬきをうさぎに言い寄る37歳中年男性とした設定の妙が活きた作品。うさぎがたぬきを殺してしまう残虐性は、乙女の純粋性の裏返しというのは、予想外の説得力に満ちていました。

    「舌切雀」
    基本は本家に忠実ですが、こちらのお婆さんは元々はそんなに強欲でもないのに可哀想な扱い。お爺さん、雀ばかりにそんな必死にならず、もうちょっと普段からお婆さんと会話してたら…、と思わずにはいられない。そして、不幸なお婆さんの末路とは対照的に、栄光の中で終わる爺さんの人生…。
    昔話にお馴染みの無欲の勝利というよりも、夫婦の溝の怖さや虚しさが際立つお話。

    太宰の企画力と筆力で、日本人にはお馴染みの昔話が、ずっと大人向けの奥深いお話になっていて、とても面白い作品集でした。

  • 人間失格、桜桃、晩年、走れメロス、御伽草子となんか変な順番で太宰文学をよんできて、いちばん楽しかったのがこの本だった。「晩年」を読んでいるときも、なかなか世間のいう「太宰は暗い」という批評は嘘だ、と思ったが、御伽草子をよんで本当にそう思った。「晩年」では、ほんとうにこいつ死の間際にいるんか、と疑うほどの快活とした作品に思えたりしたのだ。
    昔話に題材を取る作品はいままで読んで来たが、太宰にかかるとそこに笑いの要素が色濃く追加される。しかしこの作品が書かれたのは第二次世界大戦中だというのには驚いた。苦境の時代にあり、あれだけ大衆文学然とした娯楽読み物を書けるとは、なんていう頭してやがるんだと思った。だが、むしろ苦境にあったからこそ、あれだけの笑いを挟む必要があったのかもしれないとも思う。「晩年」の時もそうだが、死が近いときにこそ、道化という最後の人類に対する求愛の手段に訴えてしまうのが太宰なのだろうか、と。彼が見せる道化の裏に、此岸を見つめる彼の瞳があるのだ。この本は、道化と厭世と2つの側面を併せ持ちながらも、どちらの読み方もできる、太宰の最高傑作であると私は思う。

  • 洒脱なユーモアと豊富な語彙、軽やかでそれでいて格調を感じさせる文体。
    太宰治の良さに満ちている短編集。『お伽草紙』を太宰の最高傑作に挙げる人も多いが、わたしもこの作品は好きだ。防空壕の中での娘への語り話という設定が凄い。日本絶体絶命な時に、こんな戦意高揚に全く寄与しそうにない作品群を書く太宰はやはし凄い作家なのだと思う。西鶴の作品に材をとった『新釈諸国噺』や古典的短編も、太宰の教養の深さがうかがえる。“猿塚”という話だけは相当後味が悪いけどやはり巧い。

  • 浦島さんのラストがすごく好き。事実をそのまま受け止めて、それを悲観しなくてもいい、不幸じゃないってポジティヴにとらえる感じが、すごく優しいなって思いました。

  • 奥野健男の受け売りではないが、太宰という作家の神髄を見た。


    太宰の代表作と言えば『人間失格』や『走れメロス』場合によっては『富岳百景』が上がるのではないだろうか。もっと通の人だと私の知らぬ作品が上がるのだろうが一般的な話でね。
    私の中で記憶に残っているのは『斜陽』なのだが、もう一つが『駆け込み訴え』。
    アレは非常におもしろかった。前にも書いたが太宰とキリスト教という混じり合わない。ではないが,
    互いに無関心そうなもの同士がくっつきあって生まれた作品。その驚きも記憶を深くしているが、単純に非常にいきいきと上手く書かれていたことがおもしろかったのだ。
    あれ以来こういう風な下地のある物語や出来事を、おのれの手で調理するのが得意な作家なのだろうという認識は持っていた。
    その流れで本書『お伽草紙』も長らく読みたいと考えていた。
    先に書いたように収録されている作品のほとんどが、下地のあるパロディーもしくはそう言う雰囲気を模倣して作られた物語だ。
    長らく『お伽草紙』がすごくいいと言う話を聞いていたが、私には『新釈諸国噺』の方がよかった。西鶴と太宰のコラボである。時代的な(江戸情緒とも言えるのか、)味わいが物語に現れているのだが、それに太宰の正直なあばきとユーモアが含まれるために、読みやすくおもしろい。
    太宰の現代的感覚、文章のモダンさってのは読んでいて感心することが多い。
    まるで今第一線で活躍する作家のような錯覚を受けることすらある。それだけ、古めかしくも堅苦しくもない言葉選び、表現をするのである。それも本書の場合は書かれた時代が戦中なのだから、驚いた。こういう感覚を読むものに与えるのってすごいことである。
    私の個人的な見解だが、いい意味でも悪い意味でも、現代的な小説文章の軽さって太宰の功績が本当に大きいと私は思う。


    『新釈諸国噺』の他に私が気に入ったのが『竹青』。
    まるで芥川が書いたかのような話だった。ストーリーが単純に好きだ。珍しくまっすぐな物語だ。
    太宰的な塩梅いのよさで言えば『かちかち山』とかがいいのだろうが、どことなくふざけすぎ。いや私的にはもっと物語としての形をしっかりともって欲しかった。自分と物語の境界が文章中で曖昧になるのがあまり好きではないのだ。まぁ完全に個人的な趣向の話になってしまうが。


    どことなく太宰って作家として敬遠してしまう部分が今でもなくはない。
    私の様な生粋の三島好きだとあまりにも対極。情けなさというのを正直に書きすぎだと恥じらいみたいなものを感じてしまうんだろうな。(特に後期の作品の印象が強すぎるので)
    しかし本著はそう言った部分が非常にきれいに物語とマッチングして花開いている。
    太宰という”己”から切り離されて、一般社会という漠然とした中に、その哀愁やら情けなさが描かれていることでほどよい距離が生まれるからだろう。そうすると安心して眺められるのか。
    って、最後はいやに真面目に分析してみたりして。

  • 『盲人独笑』、『清貧譚』、『新釈諸国噺』、『竹青』、『お伽草紙』を収録。いずれも既にあるストーリーの作中人物の心理や情景を様々に解釈してその中に自己を仮託し空想の羽を開いて飛んでいるよう。井原西鶴の書いた題材に依った『新釈諸国噺』ではユーモリスト、サービス精神旺盛な太宰の顔が窺い知れる。『お伽草紙』では兎と狸をそれぞれ16歳の処女の持つ残酷さ潔癖さと37歳の中年男の話とし、「曰く、惚れたが悪いか」と死んでいく狸が哀れ。『聊齋志異』に材を取った『清貧譚』、『竹青』も良かった。太宰の別の顔がほの見えた。

  • ただ向う側の花を見たいだけなのです。自分がいま冒険をしているなんて、そんな卑属な見栄みたいなものは持ってやしないんです。なんの冒険が自慢になるものですか。ばかばかしい。信じているのです。花のある事を信じ切っているのです。そんな姿を、まあ、仮に冒険と呼んでいるだけです。あなたに冒険心が無いというのは、あなたに信じる能力が無いという事です。(浦島さんより)

  • 面白かった!!
    太宰は他に数作品読みましたが、どことなく暗く何か切なくそれでいて共感できるところもある、そんな作品の印象が強かったですが、この作品は自分が持っていた太宰の印象を大きく変えました。
    この人はかなりのユーモアのセンスがあったのでしょう。
    どの作品をとっても、文学的というかそういった部分ではすごいとは思っていたものの、なぜそれほど異性を惹きつける魅力があったのかと少し疑問に思っていたけれど、この作品を読んでなんとなく
    それがわかるような気がしました。

  • 清貧譚と竹青がすきだ。太宰の女の人はいじらしくて清潔感があって凄く素敵だと思う。憧れる。昔話のパロディがいっぱいあるんだけど、どれも登場する女の子が可愛い。カチカチ山のうさぎさんの残忍な美少女っぷりはそういうの好みの人にはたまらないんじゃないかと思います。どうだろう。わたしは乙姫様と竹青ちゃんのほうが好みですが。

  • 特に印象に残ったのは「浦島さん」。物語中には太宰の独自の解釈が垣間見られるが、最も感銘を受けたのはやはりパンドラの箱の話である。パンドラの箱は開けると膨大な憎悪や悲観など否定的な感情、悪物質が放出される。ただ、底に残るのは希望である。どれだけ辛くても、希望を見出して生きていけという太宰の強く優しい訴えだと考えることができる。そして、「浦島さん」を太宰が執筆完了したのは昭和20年、終戦直後のことである。
    本当に太宰治は偉大な作家だと思う。

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著者プロフィール

1909年(明治42年)、青森県金木村(現五所川原市)生まれ。本名、津島修治。東大仏文科在学中に非合法運動に従事し、やがて本格的な執筆活動へ。35年、「逆行」で第1回芥川賞の次席となり、翌年には処女作品集『晩年』を刊行。以後「走れメロス」「斜陽」など多数。

「2018年 『津軽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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