パンドラの匣 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1989年1月1日発売)
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本 ・本 (351ページ) / ISBN・EAN: 9784101006116

感想・レビュー・書評

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  • 希望に満ちた二つの物語。
    太宰治もこんなに明るく爽やかな青春小説を書くんだ!

    「パンドラの匣」は、結核療養所で病気に負けずに明るく精一杯生きる少年の話。友へ宛てた手紙という形で物語は展開していく。看護助手のマア坊や竹さんへの恋心。少年の想いが明らかになる瞬間、書簡形式ならではのトリックにやられた。とても好きだったんだね。

    「正義と微笑」は、中学生の内面が日記形式で描かれる。なぜ人生に勉強は必要なのか。ここにその答えがあった。…あれ?太宰治ってこんなに情熱的な人だったかなと思うほど、きらきらと眩しかった。

    いつか、子どもがなぜ勉強するのかと訊いてきたら、迷わずこの本を手渡そう。

    • ひろさん
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわ...
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわけじゃないよ!と必死で弁解しておきました(^_^;)
      やっぱりそういうイメージですよねw
      この本は間違いなく太宰治の違った一面が見られます( * ¯꒳¯ )b
      2023/09/09
    • 1Q84O1さん
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      2023/09/09
    • ひろさん
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      2023/09/09
  • 太宰治作品に対する先入観を裏切る、明るく前向きな2編が収められていた。
    特に『正義と微笑』には、心に残る言葉がたくさんあった。

    「微笑をもて正義を為せ!」

    青春小説でありながら、青春時代を過ぎた私のような読者も置いてけぼりにはされない。
    むしろ、歳を重ねるほどに「顔は柔らかく、芯は真面目に」と心がけるべき場面は増えていくように思う。

    とはいえ、決めたはずのスローガンを守り続けるのは難しい。
    主人公の進自身も八つ当たりや迷走を繰り返す。
    そんな中登場する『ファウスト』の朗読シーン。

    「此の虹が、人間の努力の影だ。(略)
    人生は、彩られた影の上にある!」

    実体のない虹と、苦労を包む微笑。
    この二つのイメージが重なり合い、理想を追い求める人間の努力そのものが、美しいものとして肯定されているように感じた。

    この一節が、高い理想と現実のすれ違いに悩む進にぴったりとはまり、「迷っても、笑って、なお進め」という、作品全体を貫くあたたかなメッセージとして伝わってきた。

  •  「正義と微笑」(昭和17年6月)と「パンドラの匣」(昭和20 年10月〜11月)の二編が収められている。
     「正義と微笑」は太宰の年少の友人の十六歳から十七歳の時の日記を下敷きにし、「パンドラの匣」は結核で亡くなった太宰のファンの闘病日記を下敷にしている。両方とも下敷はあるがフィクションも含み、太宰自身の心情を濃く反映している。そしてどちらも、十代後半から二十歳くらいの青年の心のうちの懊悩、挫折、喜び、生命力……などに満ちた青春小説である。
     「正義と微笑」の主人公は、父親替わりの兄の愛情を受けながら、自分の進路について悩んだり、友人との確執に悩んだり、教師のことを批判したり、家族の愛情に感謝したりする日々を日記に書く。今日清々しく、未来が明るく見えたかと思うと、次の日には何もかも訳もなく、虚しく感じ、自殺したくなるというような、青春の心の浮き沈みを書いている。
     理解あるお兄さんに背中を押され、俳優を目指す主人公。希望する劇団に入り、毎日修行の日々。初舞台がおわり、楽屋風呂に入ったとき、
    「あすから毎日、と思ったら発狂しそうな、たまらぬ嫌悪を覚えた。役者は、いやだ!ほんの一瞬間の出来事であったが、のたうち回るほど苦しかった。いっそ発狂したい、と思っているうちに、その苦しみが、ふうと消えて、淋しさだけが残った。なんじら断食するとき、……あの、十六歳の春に日記の巻頭に大きく書き付けておいたキリストの言葉が、その時、鮮やかに蘇って来た。汝ら断食するとき、頭に油をぬり、顔を洗え。苦しみは誰にだってあるのだ。ああ、断食は微笑と共に行え。……」と、自分を奮い立たせる。
     そうだね。社会に出始めの時、自活し始めたとき、誰もがそんな淋しい気持ちになるよね。新社会人でなくても、私だってこの主人公の倍以上の年齢だけど、新しい道に進む時には、そんな淋しい、自分がとてつもなく愚か者のような気持ちになる瞬間が一日に何度もある。そんな、一瞬の気持ちを三十代で表現した太宰さんは本当に心底真面目な人だったのだと思う。
     大阪、名古屋公演を終え、二ヶ月ぶりに東京に帰り、駅に迎えに来てくれた兄さんの顔を見て、
    「僕は、兄さんと、もうはっきり違った世界に住んでいることを自覚した。僕は日焼けした生活人だ。ロマンチシズムはもうないのだ。筋張った、意地悪のリアリストだ。」
     こんなに清々しく、自分の成長を認められたことが私にあっただろうか。いつまでも、誤魔化して、甘えている子供であり続けたと思う。
     最後の主人公の決意の言葉が好きだ。
     「真面目に努力していくだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らないことは知らないと言おう。出来ないことは出来ないと言おう。……磐の上に、小さい家を築こう。」

    「パンドラの匣」は「健康道場」という風変わりな結核療養所で、迫りくる死におびえながらも、病気と闘い、明るく精一杯生きる二十歳の青年と患者(塾生と呼ばれている)同士の交流、看護婦さん(助手と呼ばれている)との恋愛感情などを描いた青春ドラマだ。学園物でもない、病院ものでもない、閉ざされた特有の空間での青春ドラマ。新聞連載だったそうで、書き進むにつれて太宰自身が虚しい気持ちになり、連載を早々に切り上げたそうなので、ストーリーはなんだか盛り上がりにかける気がしたが、ドラマ化されたら面白いかもしれないと思った。

     

  • 書簡体の小説は好き。

    太宰治の本にしてはなんとも読みやすい話であった。

  • 以前に読んだ、古賀史健さんの本のなかで『正義と微笑』が紹介されており、とても気になったので読みました。

    思ったよりとても読みやすかったです。太宰治の文章って、こんなにスムーズに頭に入ってきやすかったっけ?と思うほど。書簡体小説だからでしょうか?

    主人公の芹川進くん。無事に志望する劇団に入れて良かったです。試験後のやりきった感じは読んでいるこちらにも清々しさがひしひしと伝わってきました。
    初任給で、お兄さんに万年筆をプレゼントしたのかな?

    最初のほうに出てきた黒田先生のセリフは名言でした。
    カルチべート。この言葉をしっかり胸に刻みました。
    なんで勉強なんかしなくちゃいけないんだ?と悩んでいる、小中高校生に是非読んでいただきたい。

  • 初の太宰作品。
    読みやすくて主人公の苦悩や想いに共感する部分あり。名言もあり。カルチベート大切にしていきたい。

  • 「パンドラの匣」「正義と微笑」、戦中戦後期に書かれた青春長編二作。
    太宰の根底にある懐っこさに触れられた気がして何度も頬が緩んだ。

  • 私の中での太宰治は『人間失格』のインパクトが強すぎたので、こちらの名作も少し悲しいものかと思い込んでいたのですが、とても前向きで優しくユーモアがある作品で、思っていたよりも読みやすくてとても好きになりました。

    『正義と微笑』『パンドラの匣』のに作品からなるものですが、両方とも人生を励ましてくれるような作品に感じます。
    今の時代にはない前向きさというか、違った栄養を得られるものです。

  • 『正義と微笑』がお気に入り。高校生の時に「なんで勉強なんかしなきゃいけないんだ」と、うじうじ考えていた時間に、本書に出会いたかった。でも、大人になってからの方が勉強の楽しさとか大事さが分かっているから、余計に言葉が染みる。

  • 今日6月19日が桜桃忌だと気付き、急遽太宰の作品を読む。

    戦後間もない時代、結核療養所「健康道場」を舞台に書簡形式で生き生きと綴られた物語。
    主人公の二十歳の男性「ひばり」と、互いに渾名で呼び合う仲間達や看護婦達との日々のやり取りは実に微笑ましい。
    特にひばりの恋にはキュンとなった。
    時代の違いを全く感じさせない。
    愛しい女性からの「かんにんね」の囁きに対し「ひどいやつや」とそっと呟くひばり。
    互いのままならない、想いの込められた短いやり取りが切ない。
    彼の歩む道はきっと陽の当たる方へ伸びて行くはず!
    希望に満ちた物語。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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