パンドラの匣 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101006116

感想・レビュー・書評

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  • 希望に満ちた二つの物語。
    太宰治もこんなに明るく爽やかな青春小説を書くんだ!

    「パンドラの匣」は、結核療養所で病気に負けずに明るく精一杯生きる少年の話。友へ宛てた手紙という形で物語は展開していく。看護助手のマア坊や竹さんへの恋心。少年の想いが明らかになる瞬間、書簡形式ならではのトリックにやられた。とても好きだったんだね。

    「正義と微笑」は、中学生の内面が日記形式で描かれる。なぜ人生に勉強は必要なのか。ここにその答えがあった。…あれ?太宰治ってこんなに情熱的な人だったかなと思うほど、きらきらと眩しかった。

    いつか、子どもがなぜ勉強するのかと訊いてきたら、迷わずこの本を手渡そう。

    • ひろさん
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわ...
      1Qさん♪
      太宰治なのに明るく爽やかすぎて驚きましたよ~!
      先日、私が太宰治の本を読んでると知った母が心配そうな顔をしたので、別に病んでるわけじゃないよ!と必死で弁解しておきました(^_^;)
      やっぱりそういうイメージですよねw
      この本は間違いなく太宰治の違った一面が見られます( * ¯꒳¯ )b
      2023/09/09
    • 1Q84O1さん
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      必死に弁解!w
      ひとつ勉強になりました!
      人前では太宰治は読まない方がよいw
      もし読むなら「パンドラの匣」にしておきましょう
      2023/09/09
    • ひろさん
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      やはり「人間失格」とかの印象が強いのでしょうねぇ
      そうですね!人前で読むなら「パンドラの匣」がお勧めです( *ˊᵕˋ)ノ
      2023/09/09
  •  「正義と微笑」(昭和17年6月)と「パンドラの匣」(昭和20 年10月〜11月)の二編が収められている。
     「正義と微笑」は太宰の年少の友人の十六歳から十七歳の時の日記を下敷きにし、「パンドラの匣」は結核で亡くなった太宰のファンの闘病日記を下敷にしている。両方とも下敷はあるがフィクションも含み、太宰自身の心情を濃く反映している。そしてどちらも、十代後半から二十歳くらいの青年の心のうちの懊悩、挫折、喜び、生命力……などに満ちた青春小説である。
     「正義と微笑」の主人公は、父親替わりの兄の愛情を受けながら、自分の進路について悩んだり、友人との確執に悩んだり、教師のことを批判したり、家族の愛情に感謝したりする日々を日記に書く。今日清々しく、未来が明るく見えたかと思うと、次の日には何もかも訳もなく、虚しく感じ、自殺したくなるというような、青春の心の浮き沈みを書いている。
     理解あるお兄さんに背中を押され、俳優を目指す主人公。希望する劇団に入り、毎日修行の日々。初舞台がおわり、楽屋風呂に入ったとき、
    「あすから毎日、と思ったら発狂しそうな、たまらぬ嫌悪を覚えた。役者は、いやだ!ほんの一瞬間の出来事であったが、のたうち回るほど苦しかった。いっそ発狂したい、と思っているうちに、その苦しみが、ふうと消えて、淋しさだけが残った。なんじら断食するとき、……あの、十六歳の春に日記の巻頭に大きく書き付けておいたキリストの言葉が、その時、鮮やかに蘇って来た。汝ら断食するとき、頭に油をぬり、顔を洗え。苦しみは誰にだってあるのだ。ああ、断食は微笑と共に行え。……」と、自分を奮い立たせる。
     そうだね。社会に出始めの時、自活し始めたとき、誰もがそんな淋しい気持ちになるよね。新社会人でなくても、私だってこの主人公の倍以上の年齢だけど、新しい道に進む時には、そんな淋しい、自分がとてつもなく愚か者のような気持ちになる瞬間が一日に何度もある。そんな、一瞬の気持ちを三十代で表現した太宰さんは本当に心底真面目な人だったのだと思う。
     大阪、名古屋公演を終え、二ヶ月ぶりに東京に帰り、駅に迎えに来てくれた兄さんの顔を見て、
    「僕は、兄さんと、もうはっきり違った世界に住んでいることを自覚した。僕は日焼けした生活人だ。ロマンチシズムはもうないのだ。筋張った、意地悪のリアリストだ。」
     こんなに清々しく、自分の成長を認められたことが私にあっただろうか。いつまでも、誤魔化して、甘えている子供であり続けたと思う。
     最後の主人公の決意の言葉が好きだ。
     「真面目に努力していくだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らないことは知らないと言おう。出来ないことは出来ないと言おう。……磐の上に、小さい家を築こう。」

    「パンドラの匣」は「健康道場」という風変わりな結核療養所で、迫りくる死におびえながらも、病気と闘い、明るく精一杯生きる二十歳の青年と患者(塾生と呼ばれている)同士の交流、看護婦さん(助手と呼ばれている)との恋愛感情などを描いた青春ドラマだ。学園物でもない、病院ものでもない、閉ざされた特有の空間での青春ドラマ。新聞連載だったそうで、書き進むにつれて太宰自身が虚しい気持ちになり、連載を早々に切り上げたそうなので、ストーリーはなんだか盛り上がりにかける気がしたが、ドラマ化されたら面白いかもしれないと思った。

     

  • 「パンドラの匣」「正義と微笑」、戦中戦後期に書かれた青春長編二作。
    太宰の根底にある懐っこさに触れられた気がして何度も頬が緩んだ。

  • 『正義と微笑』がお気に入り。高校生の時に「なんで勉強なんかしなきゃいけないんだ」と、うじうじ考えていた時間に、本書に出会いたかった。でも、大人になってからの方が勉強の楽しさとか大事さが分かっているから、余計に言葉が染みる。

  • 今日6月19日が桜桃忌だと気付き、急遽太宰の作品を読む。

    戦後間もない時代、結核療養所「健康道場」を舞台に書簡形式で生き生きと綴られた物語。
    主人公の二十歳の男性「ひばり」と、互いに渾名で呼び合う仲間達や看護婦達との日々のやり取りは実に微笑ましい。
    特にひばりの恋にはキュンとなった。
    時代の違いを全く感じさせない。
    愛しい女性からの「かんにんね」の囁きに対し「ひどいやつや」とそっと呟くひばり。
    互いのままならない、想いの込められた短いやり取りが切ない。
    彼の歩む道はきっと陽の当たる方へ伸びて行くはず!
    希望に満ちた物語。

  • 「正義と微笑」
    自分のやりたいことを悩みながらも見つけていく姿を見て、自分本位でムカつくときもあったけど、良かった。
    「パンドラの匣」
    恋愛観というか、女性観は昔のもので共感はできないけど、昭和のツンデレ男子が見れた。コロコロ変わる気持ちがいかにもウブでかわいい。

  • 「正義と微笑」
    話が通じないという悩みの根底には
    儒教だの体育会系だのいった紋切型への嫌悪がある
    腹を割って互いの話を聞く姿勢を誰もが持ったならば
    そんな悩みはすぐに解消するだろう
    しかしそうはならない
    理由は様々だけど、紋切型に全部はめ込まなければ
    不安になってしまう人が大勢いるからだ
    どこに逃げてもそういう人々からは逃れられない
    そして、紋切型を嫌悪する自分もまた
    実はそういう紋切型に人々をはめ込もうとしているわけだ
    それらに気づいて絶望できなければ
    インチキな大人になるしかないだろう
    じゃあ最初の悩みを解消するために何をどうすべきかといえば
    結局、堕落を覚えて自らに幻滅するしかないのである
    そんな逆説を17歳で味わう人の日記
    対米開戦の直前に発表された作品であるらしい

    「パンドラの匣」
    身体が弱くて兵役検査に落ちたのだと思う
    肺病の悪化を周囲に隠したまま
    死ぬことばかり考えている若者がいた
    しかし玉音放送を聞いて憑き物が落ちたのか
    死ぬのをやめて療養所に入ることにした
    彼は看護の女たちに囲まれながら
    規則正しいモラトリアム生活を送ることになり
    日ごと変わりゆく社会情勢のなか
    恋と気づかぬような恋をするなどして
    欧米の自由主義とは異なった日本ならではの
    モラトリアムな自由に目覚めていく
    自堕落なのではない
    個々の献身によって優しい社会を作り、守ってゆく決意だ
    ただしそれは死に瀕した人への優しさなのかもしれないけれど…
    敗戦直後で何も決まってなかった頃の奇妙な呑気さを
    リアルタイムで書いた作品と言うべきだろう
    「トカトントン」の主題を肯定的に書いたらこうなった、みたいな
    戦争の悲惨さを思い出させるものはなにもなく
    そしてやっぱり結末は明るい

  • 「正義と微笑」は日記形式、「パンドラの匣」は書簡形式で書かれていて、著者と対話をしているような感覚で読み進められた。とても読みやすくて面白い。
    なかなかに辛辣な表現もあり、くすっと笑ってしまう表現もあり、なるほどと感心する表現もある。
    戦後の新しい世の中に踏み出す人々はこんな気持ちだったのかなあ、と、想像を膨らませて読むことができた。約80年前の人々の暮らしや思想、言葉遣いは今と違っていることもあれば、同じ部分もあって、なんだか面白い。
    「正義と微笑」の、勉強する意義を語る場面は本当に素晴らしいと思った。また、学生時代特有の、受験や将来に対する焦燥感や、自分は何者なのかといった悩みも書き表されていて、共感した。

  • 学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。
    けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。
    これだ。これが貴いのだ。
    勉強しなければいかん。
    そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。
    ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!
    p19

    人間は不幸のどん底につき落とされ、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手さぐりで捜し当てているものだ。
     〜
    それはまるで植物の蔓が延びるみたいに、意識を超越した天然の向日性に似ている。
    p232

    この道は、どこへつづいているのか。
    それは、伸びて行く植物の蔓に聞いたほうがよい。
    蔓は答えるだろう。
    「私はなんにも知りません。しかし、伸びて行く方向に陽が当たるようです。」
    p402

    またいつか読み直したい。

  • 太宰治にしては設定に関わらず不思議に明るい2作。いずれも主人公が20歳前の青年だからであろう。
    ’’正義と微笑’’は芹沢進という主人公が一高に落ちてR校(立教?)に合格したものの幻滅して、姉は嫁ぎ先と実家との不仲に落ち込み(もっとも杞憂だったが)、結局は主人公はR校を辞めて当時でも明らかにアウトローな存在の役者に邁進するという、モラトリアム人間を描いた話。でも話が完結しているのと、これを戦時中に執筆したという点に満足。
    ’’パンドラの匣’’はひばりという主人公が健康道場に入院している間、竹さんという看護師とマア坊という看護師をめぐっての三角関係のようなものを展開した話。終戦直後に書かれている。恋の駆け引きの際のやりとりが太宰治の女性観を表しており、時代は違えど夏目漱石の’’明暗’’に通じる。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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