きりぎりす (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.84
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本棚登録 : 1987
レビュー : 183
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006130

作品紹介・あらすじ

「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。…」名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を、妻の告白を通して印象深く描いた表題作など、著者の最も得意とする女性の告白体小説『燈篭』『千代女』。著者の文学観、時代への洞察がうかがわれる随想的作品『鴎』『善蔵を思う』『風の便り』。他に本格的ロマンの『水仙』『日の出前』など、中期の作品から秀作14編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 太宰文学の中期に属する14編の作品を収めてあります。
    巻末の解説によると中期の作品は文学的、芸術的才能がのびのびと発揮され豊かに開花しているとのこと。
    精神上、安定していた頃のようです。

    私がこの14編の中で1編選ぶとするなら「日の出前」でしょう。
    この作品は世間的に、かなりの地位を得た洋画家一家の一人息子(勝治)が学生の身でありながら、金遣いが荒く、どうしょうもない放蕩息子で家族の生活が滅茶苦茶にされてしまう話。

    実はこの話、太宰が現実事件をモチーフにしていたという事に驚いた。
    1935年に日本で初めての保険金殺人事件とされている「日大生殺し事件」。
    この事件の概要をウィキで調べてから、再び「日の出前」を読んでみると、モチーフにされた方と作品とを対比せずにはいられない。
    どこか太宰の作品の方に上品さを感じる不思議さ。
    最後には息子を殺してしまうというのに。

    一家は逮捕され、勝治の妹の言い放った、「兄さんが死んだので私たちは幸福になりました。」は名台詞だ。

  • 今年もうかうかしてゐたら、既に桜桃忌も過ぎてゐました。今さらですが、まあいいでせう。良いものはいつ読んでも良いのだから。
    かつて筒井康隆氏は、「いい短篇集は長篇数冊分の読みごたえがある」と述べましたが(『みだれ撃ち瀆書ノート』)、この『きりぎりす』もまさに同じことがいへるでせう。
    解説の奥野健男氏が編んだ14篇が収録されてゐます。ちなみに文庫版の太宰全集といへば、ちくま文庫版が有名ですが、この新潮文庫も実は、全部揃へると実質的な全集となつてゐます。但し書簡集とか初期習作・雑纂は除きますが。

    太宰が最も安定してゐた時期(昭和12-17年)の五年間に執筆された珠玉の作品群であります。得意とする女性の一人称語りの作品がまづ目につきます。
    哀切にして心温まる「燈籠」、何かと自信を失つてゐる女性が吹き出物に悩む「皮膚と心」。これは夫婦愛の物語でもあり、佳作と存じます。夫の出世を喜べず、却つて心が離れてゆく「きりぎりす」、当時流行つたといふ「綴方教室」を題材にした「千代女」.....いづれも、冒頭の一行目から読者の興味を惹き、一気に結末まで読ませます。本当にうまい喃。

    ほかにも、自殺未遂のカップルを描いた「姥捨」、幼少時の心の闇を抱き続ける「黄金風景」、犬嫌ひを標榜しながら迷ひ込んだ野良犬に愛情を注ぎ「芸術家は弱い者の味方だつた」と悟る「畜犬談」(これは有名な作品で、わたくしは太宰の全作品中五指に入る傑作と考へます。この一篇の為だけに本書を購入する価値あり)、幼少時以来おしやれ好きを自認してきた語り手の恥かしい過去「おしゃれ童子」、衣錦還郷を目論んで出席した同郷会で醜態を演じた「善蔵を思う」、佐渡への紀行文を装つた(と思はれる)「佐渡」(『津軽』といひ、太宰は紀行作家としても一級品ですね)、新進作家と、彼が憧れ続けたヴェテラン作家との緊張感漂ふ往復書簡「風の便り」、「水仙」「日の出前」では、太宰のストオリイテラアとしての実力が遺憾なく発揮されてゐて、私小説的作品しか知らぬ人が読むと、眞に新鮮に感じるでせう。

    久しぶりに一冊通して読みましたが、やはり「ご馳走」といふ言葉がぴつたりの豊穣な作品群であります。太宰はとつつきにくいと感じる人には、絶好の入門書とも申せませう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-755.html

  • 私は、太宰治さんのファンになりました。笑える楽しさをもつもの、恐ろしいほどの冷たさをもつもの、それぞれ作品に、それぞれの凄みがあります。
    でも、私は太宰治さんの「作品の」ファンである、という点を保持したいと思っています。

    ご本人の生い立ちや生涯については、あまり踏み込みたくはありません。

    私は、文学作品をあくまでも消費しているのであって、文学者のように作品の成り立ち等を研究云々することには、決して目的を見出していません。

    太宰治さんに限った話ではないですが、殊にこの方の作品の語られ方には、背景のようなものと強固に結びつける向きがあったり、ときに背景が全面に強調されていたりすることがあるような気がします。

    したがって、太宰治さんが各作品をどのような境遇と心境の下で紡いでいったか、ということは、あえて知らずにおきたいと願います。

    そのほうが、純粋に物語が楽しめると思うのです。


    <目次>
    燈籠/姥捨/黄金風景/畜犬談/おしゃれ童子/皮膚と心/鷗/善蔵を思う/きりぎりす/佐渡/千代女/風の便り/水仙/日の出前

  • クスッと笑えるものからちょっと考えさせられるものまで様々な物語が入った短編集。
    個人的には畜犬談、きりぎりす、風の便り、水仙、日の出前あたりが面白かった。
    太宰の作品は人間失格から入ったのでああいう系統の作家なのかと思っていろいろ読んでみたが読むたびにその引き出しの多さに驚かされる。
    それぞれが今の作家にはない面白さがあると思う。

  • 50に手が届く歳になって太宰治に目覚めました。私の感性に合うのです。嫌いな人、読まない人がいるのもわかります。私にとっては、今が出合う時だったんだろうな。
    「佐渡」の書き出しが好きです。

    • nejidonさん
      村のすずめさん、はじめまして。
      お気にいりとフォロー、ありがとうございます。
      ワタクシからもフォローさせていただきます。どうぞよろしくで...
      村のすずめさん、はじめまして。
      お気にいりとフォロー、ありがとうございます。
      ワタクシからもフォローさせていただきます。どうぞよろしくです。
      本は出会いですものね。年齢は関係ないかなと思います。
      村のすずめさんは、お気に入りの絵本はありますか?
      2017/06/11
    • ねこ和毛さん
      フォロー、ありがとうございます!
      お気に入りの筆頭が「馬車で~」です。先日小学校5,6年対象で読み聞かせに利用しました。
      絵本も、もっと...
      フォロー、ありがとうございます!
      お気に入りの筆頭が「馬車で~」です。先日小学校5,6年対象で読み聞かせに利用しました。
      絵本も、もっとブクログに挙げて行きます。
      貴方の本棚を参考にさせてくださいね
      2017/06/11
  • 新潮文庫の太宰の短編集では「きりぎりす」がNo.1!ちなみに角川文庫ではダントツ「女生徒」。太宰は書き出しがすさまじく上手な作家だけど、「きりぎりす」はしめの一文が素晴らしい作品が多い。とくに「黄金風景」と「善蔵を思う」!何度も読んでるがやはりいい。
    太宰はキリスト教徒だったのだろうか、と前々から疑問。

  • いくら文章を書くのが好きだとしても、誰もが物書きになれるわけではない。才能がないとそれで食べていくことはできない。文章で食べている、という事実だけで才能は認められているのに、芸術は数値化することができないから太宰を苦しませる。「わたしには文章を書く資格などないのです」と至るところに書いてある。太宰は、何を拠り所に自分の価値をみつけたらいいのかわからず苦しんでいるように感じた。でもそれは、わたしが常に感じていることだと思う。
    自分ははたして価値のある人間なのか?自分の価値とはなんなのか。他人に評価されなければ自分には価値がない?
    わたしは、自分はこのように偉そうに感想を述べるに値する人間ではない、と本気で思っている。

    • kwosaさん
      tommealさん

      『風が強く吹いている』のレビューに引かれ、本棚を拝見しました。
      他のレビューも素晴らしく、胸に迫りました。
      tomme...
      tommealさん

      『風が強く吹いている』のレビューに引かれ、本棚を拝見しました。
      他のレビューも素晴らしく、胸に迫りました。
      tommealさんをフォローさせてください。
      2013/01/15
  • 太宰治にしてはあっさり感があるけれど、どれも読み易く面白かった。
    特に『きりぎりす』『畜犬談』『水仙』『佐渡』が印象に残った。
    俺って本当にダメな男なんですよ、と言いつつも、どこか自信ありげなところにコノヤロウ、と腹が立つが。

  • 北村薫「太宰治の辞書」に、この短編集に収録中の「水仙」についての奥野健男の解説が「明白な勘違い」であると書いてあったのが気になって読んでみた。
    「水仙」は収録作品中でも印象的な作品で、確かに奥野のいうように「善意や社会良識がある人間を根本的にだめにしてしまう」わけではないが(善意や社会良識は「水仙」にも「忠直卿行状記」にも出てこないような…)、北村が言うように必ずしも忠直卿の「裏返し」ではなく(そもそも「善意」と「悪意」の対立項が成立しないので)、おべっか(忠直卿及び水仙の取り巻きによる)にせよ恨みから来る無視(水仙の主人公による)にせよ、相手をいい加減にあしらう在り様は、無意識下に「天才」など存在しないことにしたい俗人の浅ましさがあるようで怖ろしかった。
    太宰はメロスやお伽草子を読んだくらいで、『斜陽』も『人間失格』も読んでいなかったのだが、思ったより面白かった。しかし、女性1人称ものは苦手。特に「きりぎりす」は、語り口だけでなくその内容がウザかった。売れっ子画家になって俗物化した夫をひたすら非難する妻の一人語りで、実際俗物化しているのだが、それ以上に、勝手に枠決めて、それに合わないと許さない妻の身勝手さのほうが不快だった。

  • 短編集。
    すらすらいけますよ。

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著者プロフィール

1909年6月、青森県生れ。学生時代から小説の創作を始める。東大仏文科入学を機に上京。在学中に非合法運動に従事するもやがて転向し、以降、本格的な執筆活動を開始する。1935年に「逆行」が第1回芥川賞の次席となり、翌年、第一創作集『晩年』を刊行。1939年に結婚し、「富嶽百景」や「女生徒」、「走れメロス」などを発表。戦後には『斜陽』がベストセラーとなり、流行作家となる。「人間失格」を発表した1948年の6月に、玉川上水で入水自殺。織田作之助、坂口安吾らと共に「新戯作派」「無頼派」と呼ばれた。

「2019年 『太宰治 女性小説セレクション 誰も知らぬ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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