もの思う葦 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006147

感想・レビュー・書評

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  • エッセイ集。器用さと不器用さ、両面が見えて面白い。

  • 主に小説や文学についての、鋭い意見、執念、真摯な姿勢を吐露した文章の集まり。
    著者は、あくまでも小説家としてありたいと思い、随筆や時事問題、書簡を書きたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
    だからこそ、川端康成に自作を批判されると、「刺す。そうも思った。」という極端な考えに至るのだと思う。この一文は素直が過ぎていて、面白かった。
    が、それもまだ甘い方で、「如是我聞」で縷々述べられる志賀直哉への恨みつらみはもっと容赦ない。
    作家が、別の作家をちくりと刺す文章は目にすることがあっても、作品や人格、口振りや容貌、思想等、その作家を構成するあらゆることを取り上げて、全否定していく著述はこれが初めて。
    「刺す」どころではなく、滅多刺し。
    「『暗夜行路』大袈裟な題をつけたものだ。~ほとんどがハッタリである~何処がうまいのだろう~風邪をひいたり、中耳炎を起こしたり、それが暗夜か」と、いちゃもんになっているし。
    ただ、著者が必死に先輩作家に抗しようとしているのが伝わってきて、いつの間にか「もっと言っちゃえ」と応援してしまっていた。
    一方で、師である井伏鱒二についての文章は、敬愛に溢れており、志賀直哉への作家論とは対極を成している。

  • 著者の随想集ということで興味を持った一冊。エッセイは小説とは違って作者が出るから面白い。好みが分かれるところだと思うけど著者の退廃的で斜に構えたような態度は意外と共感できる。川端康成、志賀直哉へのメッセージは時折感じられる自虐的な態度とは打って変わって、強烈で言葉の強さや文章を書くことに対するこだわり、自信みたいなものを感じた。また一層太宰のフアンになった。

  • 前期に書かれた表題作「もの思う葦」から晩年の「如是我聞」まで、太宰の言葉が集められた1冊。
    太宰はどこまでも一生懸命で、全力で文を書いている。(そのことは、何かの短編で語っていた。)不器用な懸命さというかなんというか、自己犠牲的なもの。命懸け。でも命懸けで書きたかったのは、小説であって、創作だった。だから随筆とか自分のことについては、おざなりでやっつけ感満載。お金のための、お酒のための仕事といった感じ。
    「如是我聞」は、今まで溜め込んで来たものを一気に書き散らした、自己破壊的な印象を持った。世間に対する恨みのようなものもあったかもしれない。そしてうわあああっと喚いて、あっけなく死んでしまったのだから、織田作之助のような最後の足掻きに近いものがある。
    太宰、よくやった!

  • 太宰の随想が単行本として死後まとめられたもの。
    随想ともなると作品以上に、より太宰治の直接的な思考の断片が見えるようでおもしろい。切れ味の良い言葉が沢山あった。
    太宰作品をいくつか見たあとに読むととても良い。
    「もの思う葦」というタイトルがあまりにしっくりくる。

    「太宰治ほど生きるのに真剣でド真面目ひとはいない」というのが読み終えた今の一番の印象だ。ド真面目というか、嘘をつきたくない思いというか。
    彼は、考えたことは実行し、また小説と生活は一致しなければならないという思いがとても強い。その思いの強さがある一方、圧倒的な批評能力が自分自身に向き、弱い自分とひたすらに真正面からむきあってしまうからいつも苦しいのだと思う。しかし、苦しむことこそが作家として芸術家として必要なものだと、プライド高く信じている。自分の弱さにあそこまで向き合える人はそうそういないんじゃないか。弱いけど強いという不思議な人。

    私が思っている以上に、彼はいつでも真剣すぎるくらい真剣に生きてて、自分の弱さに断固とした誇りがあるんだなと再発見できた。
    (傍から見るともっとなまぬるく生きてもいいのにと思うが、それは嫌なんだろうな)

    以下ざっくりと、それぞれ感想
    ■アフォリズム
    アフォリズムというものにあまり馴染みがなかったが、太宰との相性抜群である。批評家気質が内に向いている(己を批評している)タイプの太宰が、世に向けて切り込むとなるとそれはそれは洞察力に優れたものであり、かつ、その表現がユニークで良い。

    ─生きていく力 
    いやになってしまった活動写真を、おしまいまで、見ている勇気

    など、他にも色々。

    ■『春』『海』
    どちらもわずか2ページで、こうも惹き込まれる作品をつくれるとは。また好きな作品が増えた。

    ■『井伏鱒二選集 後記』
    井伏先生が大好きな弟子による、あまりに微笑ましい後記である。大変かわいげのある弟子の姿。井伏先生の作品を宝石に例えている。あの太宰が、宝石と......
    べた褒めすぎる。井伏先生の『夜更けと梅の花』は今度読もう。

    ■『如是我聞』
    これがあの有名な、如是我聞。前半の切れ味と真剣さたるや目をみはるほど堂々たる抗議であるが、後半どんどんとただの悪口と化してるのがすこし残念。
    そしてこのブチギレ具合の中でも言葉のあやつりがたくみで、根っから作家だなぁと思った。

  • 太宰は、滑稽である。少し認知症を患っている。一文が長すぎて(句点に辿り着くのに、数多の読点を要する)理解に苦しむ事がある

    • eng.123さん
      もし現代に生きてたらバズれる投稿を量産してたんでしょうね
      もし現代に生きてたらバズれる投稿を量産してたんでしょうね
      2022/07/23
  • 太宰治の随想集。
    「如是我聞」はひたすら志賀直哉への悪口なのに文章のセンスが良くて面白い。
    良い意味でも悪い意味でもなんとなく太宰の人柄が分かる。

  • 太宰の随想集。「川端康成へ」や「如是我聞」の志賀直哉への悪罵雑言には、自分に批判的な人に対しては喧嘩を売って見境なく怒るという片腹痛いものがある。子どものような面があり、なお言ってることはまともであり、まっすぐなところが愛される由縁でもあろう。2021.11.19

  • アフォリズム、エッセー集。
    小説を書きたい、エッセーなんか書きたくない、適当に埋め合わせようって気持ちが漏れ出てる書き方のものが多かった気がする。

    今まで何作か太宰を読んできて思ったのは、太宰の文章は本当にうまくて好きで、話の内容自体としては私小説色が強いものより太宰の影があまり出てこないような創作された話のほうがどちらかというと好きだったってこと。

    太宰の弱さや繊細さ、自分が大好きなくせに嫌いにもなったりするような部分はうまく作品に昇華されていれば好きなのだけど、こうやってエッセーで愚痴感覚で読むと結構きつかった。

    俺はこんなにがんばってるのに世間がせめる。生きづらい。
    世間はこんなものを良いというけど俺はそれはどうかと思う。こういうほうがいい。
    周りはみんな馬鹿ばかりで付き合いきれない。
    それじゃあ自分が大好きでしょうがないのかと思えば自分が嫌になる時もある。

    これはみんな多かれ少なかれ結構思ったことがあることなんじゃないかと思う。
    その部分に共感できるから、辛さがわかるから好きって人もいるんだと思う。
    私はしんどかった。こう思ってしまう彼が嫌いなんじゃなくて、わからないんじゃなくて、抑えこもうとしてる私自身の嫌いな部分を直球で客観的に見させられてる感じがするからしんどかった。

    この中では『織田君の死』『如是我聞』が好きかな。
    如是我聞は噂にはきいてたけどほんとにボロクソに言ってるというかもう気に入らんものに片っ端から噛み付いたれって感じでもはや清々しい。
    それは怒ってもしょうがないよねそれはおかしい言いたくなるよねって頷けるとこもあるけど、いや…それはほっといたれよ…そこは簡単に反論されそうだな…みたいなとこもあった。
    それだけいろんなことに我慢ならなくて怒っててどうしても言いたかったんだろうなぁというのは伝わってきた。
    みんな書かないであろうこの直球の訴えで変わったものも確かにあったのかもしれない。

  • 新潮文庫の太宰さん随筆厳選集です。
    かなり面白かったよ!
    破綻した生活をしていた部分もあるけれど、やっぱりこの人は頭が良いんだな~って思いました。

    上から目線じゃないし、変に気取ってないし、人生(カピ生)の為になりそうな言葉がたくさんあって、とてもお勉強になりました。
    最後に収録されていた志賀直哉さんに対する反論は、事情がわからないからちょっとビビったけどね(苦笑)
    らじはやっぱり太宰さんの文章って好きだなぁ…♪

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

太宰治の作品

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