新樹の言葉 (新潮文庫 た-2-16 新潮文庫)

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  • 新潮社 (1982年7月27日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784101006161

感想・レビュー・書評

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  • 太宰治30〜31歳にかけての作品集。「秋風記」「花燭」が特に良かった。

    (文学的価値があったとしても、)作者の全集ならともかく、未完の作品を収録することにいつも違和感を感じてしまう。

  • 随分長い時間を掛けて読みました。
    「葉桜と魔笛」が大好きで、繰り返し繰り返し、10回以上読みましたが、何度読んでも飽きることがありません。
    麻薬中毒と自殺未遂の日々からなんとか、平凡な小市民として生きようとする太宰の中期初め頃の作品集。
    どれもこれも苦しんで苦しんで書いているのが痛いほど伝わるけれど、それが余計に滑稽で可笑しくて、多分太宰は苦しみながらもそこまで分かって、如何にも大真面目振って書いているのがやっぱり笑ってしまう。
    「二度言った」「三度言った」って、もうええわ!って大真面目な彼に突っ込んでしまいそう。

    しかしそれでも全編を通して太宰の本音や心情、故郷や母、姉への憧憬、愛、それら全てが一種の煌めきのように散りばめられていて、読後感は非常に爽やかだ。
    「火の鳥」は、未完であることが本当に惜しい。きっと代表作のひとつになっていたと思う。
    「新樹の言葉」私小説のような物語は故郷や乳母、様々な人への太宰の愛情、思いが美しい文体で描かれていて、作品として秀逸。
    「誰も知らぬ」どうして太宰はかくも女の心をあっさりと代弁してしまうのか。誰もが心に秘めて他言しないようなことを。

    作品としては破綻していたりスッキリとしないものも含まれているが、それも含めてこの時期の太宰の決心のようなものが生き生きと迫る。

  • 昭和14年〜15年、太宰治三十〜三十一歳の時に書かれた小説、十五篇を収録。太宰治中期の作品群。
    解説は奥野健男。
    太宰治の魅力を堪能できる素晴らしい一冊でした。

  • 人間関係の表と裏
    「火の鳥」取り柄もない若い女性が男のために尽くそうと思い、寄り添うと不幸が訪れる。やがてそれは自分の甘えと知り、生きていくために女優になることを決意して一生懸命努力、自分の愛欲にも我慢を強いる。人への思いとは上手くいかないものだ、ましてや恋愛のような双方に思いがなければ上手くいかない。世の中も自分の思った通りには行かない、教えてくれるのは周りの人々の助言と自分の行動で社会を体験し気付くことなのだ。

  • 『秋風記』『花燭』など、どれをとっても身に刺さる、粒ぞろいの短編集。
    ただ無垢であろうとし救済を希う聖職者の気風と、現実を生きる卑しい肉塊の自分との落差に苛まれる。

    ――人のためになるどころか、自分自身をさえ持てあました。まんまと失敗したのである。そんなにうまく人柱なぞという光栄の名の下に死ねなかった。
    ――所詮、人は花火になれるものではないのである。
                               (『花燭』より)

  • 小説と書き手が親密のようで乖離していることはよくよく承知なのだけれど、やっぱり読むほどに、どれもこれも太宰のことを書いているような気がして、好きでたまらなくなるのは、本当にいけないのである…

  • 1か月掛けてじっくり読み込んだ、久しぶりの太宰。
    中期作品ということで、自身の復活、更正への思いが感ずられる短篇が多い。
    純粋なことばのあそびに、一々うっとりしてしまう。
    「懶惰の歌留多」なんて、ことばの端々に見え隠れする甘美さには溜め息漏らさずにページを繰ることなぞできまい。

    一般的小市民であることの仕合わせを目指す太宰の、小さな仕合わせとズレ、可笑しさ、滑稽さ、寂しさ。

    あの、好きです、
    と言いたくなる。太宰。

  • 太宰が麻薬中毒から立ち直り数多の佳作を残した初期から中期への移行期の短編集。意外なほど読み易かった。「葉桜と魔笛」が最高。物悲しくも美しい希望と余韻のある読後感だ。「新樹の言葉」は乳母の子供たちとの再会を想像して書かれたものだがこんな風に太宰は心温まる交流をしたかったのだろうな…と考えると切ない。「春の盗賊」はユーモアを織り交ぜつつ小市民的な生活と再び破滅に身を委ねたいという葛藤が伝わり強烈だ。「もういちど、あの野望と献身の、ロマンスの地獄に飛び込んで、くたばりたい!できないことか。いけないことか。」

  •  甲府市に移り住み、作家生活と人生の再出発を期していた頃の短編を中心に編纂された文庫である。
     精神病院に入るなどボロボロに荒廃し、作品も荒れていた時期の後に書かれた作品群である。おそらく「二十世紀旗手」の後の創作にあたる。
     尖鋭でぶっ飛んだ「二十世紀旗手」の作品の後に読むと、この「新樹の言葉」に集められた掌編は、穏やかで、やわらかい感じを受ける。

    斯様な一節があった。
    「私は、これからも、様々に迷うだろう。くるしむだろう。波は荒いのである。」 
    ~『懶惰の歌留多』~
     ふっと、この言葉に胸を突かれた。こういうところに太宰文学の魅力を感じる。

     さて、本文庫では、とりわけ、以下の掌編が気に入った。
    ・「新樹の言葉」。甲府で、幼き頃より慕っていた乳母の子と思いがけず再会するお話。そのよろこびとうれしさに満ちている。ほんとうにうれしそうである。
    ・「春の盗賊」。後半、自宅に侵入した夜盗と対面、対話が始まる展開から、俄然面白くなる。ユーモラス。天与の噺家の才能を感じる。
    ・「老ハイデルベルヒ」。帝大生の頃、伊豆の三島に旅したときの思い出。そして、再訪した際の侘しさを描く。調子にのって友人達を強引に三島まで連れ出すのだが、道中どんどん心細く、焦り始め、それでも強がりを言い続ける小心者ぶりが面白い。

  • 太宰が薬物中毒に苦しんでいた時期のセレクションのせいか、話がどうにもまとまらない作風が多い。その中でもやはり味わい深いオチの「葉桜と魔笛」は見事な傑作。時が経ち変わってしまった思い出の地の出来事を描いた「老ハイデルベルヒ」もいい。

  • 未完の『火の鳥』は、是非とも完結させてほしかった・・・これから面白くなりそうなところで終わってしまうのが残念です。

    ロマンス好きな兄妹たちがリレー形式で物語を紡いでいく『愛と美について』
    兄妹ひとりひとりの人柄と、物語がマッチしていて温かみを感じます。

    一番心に残っているのは『葉桜と魔笛』
    太宰お得意の女性の一人称小説なのですが
    短い物語に関わらず、とんでもない完成度です。
    太宰本人が主人公かな?と思われる他の作品とはえらい違いです。
    心が洗われるような、素敵な話です。

  • 『葉桜と魔笛』
    あの頃わたしは、せっかく生まれて若くてきれいなときは一瞬なのに、誰にも愛されることなく幸せを知ることなくこのまま年老いて死んでいくのだと思ってた。お利口に生きてきたのにそのために自分のしたいこともわからず、誰の記憶の片隅にも残らず、本当に生きたと思えないまま死ぬのだと思った。わたしの手が指が髪が肌がかわいそうだと思った。

  • 表題作ほか14作品を収めた新潮文庫です。
    どれも太宰さんが30歳から31歳頃のお話みたいだよ。

    あえて印象深かった作品をあげるとしたら『美少女』かな…。
    皮膚病に効くと言う温泉に行ったら、混浴の湯船のなかにすっごい美少女がいて、これまたナイスバディで「いいものを見た♪」ってゆ~お話。
    味がありました(笑)

  • 太宰中期の作品集
    世間の目に反抗しつつも、罪悪感にさいなまれる様子が伺える。生き辛いだろうなあ、という感じ

    収録作品:『I can speak』『懶惰の歌留多』『葉桜と魔笛』『秋風記』『新樹の言葉』『花燭』『愛と美について』『火の鳥』『八十八夜』『美少女』『春の盗賊』『俗天使』『兄たち』『老ハイデルベルヒ』『誰も知らぬ』

  • 何度も繰り返し読んだ表題作。人生を再出発する決意が込められた、「黄金風景」と並ぶ温かい作品。

  • 「秋風記」「愛と美について」「火の鳥」が結構好き

  • 太宰さん、トクシュです。

  • ヤク中と自殺未遂という地獄の時代から這い上がろうと懸命にあがいていたころの作品中。
    なんか、まだ精神病んでるせいか、やっつけな作品が多い気がする;
    『懶惰の歌留多』とか『火の鳥』は、完全に途中放棄してるでしょ。特に後者は完成していたら太宰作品のなかでも結構名作になったと思うのにな~もったいない。

    いくつか印象に残った作品についてメモする・

    『秋風記』 人妻Kと自称・不良少年の主人公が旅館で心中しようとする話。太宰ってこの手の自殺未遂もの多いよね。。自身の体験をもとにしてるんだろうけど憂鬱になってしまう

    『新樹の言葉』 故郷で世話を受けた乳母の子供たちと異郷の地で再会する話。
    「投げ捨てよ、過去の森。自愛だ。私がついている。泣くやつがあるか。」泣いているのは私であった。
    太宰の、更生しようと一生懸命な姿勢がうかがえていじらしい。

    『火の鳥』 大作を残そうとしたけどやっぱムリでした~的な、残念すぎる作品。でも個人的にはこれが1番好きかも。女優・高野幸代の物語。色々な男性のもとから、蝶のようにひらひら飛びうつろう女の話。
    よく思うんだけど太宰って女性の気持ちを語らせたら右にでるものはいないと思います。女性よりも女性の心理を穿ってるというか。可憐だなあ。

    『美少女』 銭湯?で出会った美少女の裸体に釘付けになる太宰・・・ロリコンやばいよ

    『春の盗賊』 支離滅裂すぎ、一番やっつけ感ひどいww

    『兄たち』 文学好きな仲良し兄弟の話。3番目の兄が亡くなる瞬間まで粋紳士風であったのは、遺された兄弟を元気づけるためなのか・・・
    どうでもいいがこの短編読んでて“フキヤ・コウジ”なる挿絵画家の存在を初めて知った。高畠カショウとか大好きな私にはたまらない絵柄だった。

  • 明るい太宰、と言うと語弊があるかもしれないし、太宰らしい作品を好まれる方も多いかもしれないけれど、一度は読んで欲しい太宰の一面がこの作品集にはある。読んでいて思わず吹き出してしまうものや、頬が緩んでしまうものがここにはあって、彼の「道化」の真骨頂を感じずにはいられない。

  • 太宰治の「葉桜と魔笛」は
    生きること、死ぬことに対する悲しみが
    とても分かりやすく表現されている。
    読みやすい。つまり、伝わりやすい。

    そして優しい。痛々しいほど、優しい。
    優しさとは何か。
    優しさとは、こういう家族のことだ。
    姉も妹も父も、それぞれに優しい。


    家族愛の美しさは
    「新樹の言葉」にも溢れている。

    血のつながりではなく
    乳のつながりが描かれている。
    主人公が大人になってから
    乳母の子供らと出会う。
    この関係性がいい。

    そして「偉くなりたい」というストレートな前向きさがいい。

    作品全体に危うさがあるからこそ
    明るい気持ちが、いっそう輝きを増す。
    それから、この兄妹のために、という感情が強い点もまた
    男が持つ良さなのだろうと思う。

    偉くなりたい、と
    ○○のために。
    この2つがあれば
    やっぱり「いい男」になるらしい 笑
    いつの時代も、それは変わらないのかも。

    一見、この感情は、太宰らしくない気もするけれど
    逆に、太宰だからこそ、これは外さない、
    という感じかもしれない 笑

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著者プロフィール

太宰 治(だざい・おさむ):1909-1948。青森県北津軽郡の生まれ。本名津島修治。中学の頃より同人誌に習作を発表。旧制弘前高校から東大仏文科に進む。この間、左翼思想に傾倒。「魚服記」「思い出」でデビュー。戦中から戦後にかけて「ロマネスク」「富嶽百景」「お伽草子」「ヴィヨンの妻」など、次々と秀作を発表。流行作家としての栄光のさなかに自殺。

「2025年 『人間失格』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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