ろまん燈籠 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 84
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006178

感想・レビュー・書評

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  • アクの強い兄弟姉妹5人が、リレー形式でグリム童話「ラプンツェル」のパロディ小説を書き上げるまでの正月休み5日間を、ユーモアたっぷりに書き上げた喜劇系妙作である表題作「ろまん燈籠」。

    無鉄砲で大人になりきれていない三男18歳。
    頭は良く人好きするけど恋に苦労するタイプの長女26歳。
    美男なのにケチで人を小ばかにしたところがある次男24歳。
    かなりのナルシストで健啖家の次女21歳。
    お人好しが取り柄の無職の長男29歳。

    前知識として小さなエピソードとともに紹介される5人それぞれに違う角度にこじれた性格が、各々が担当した小説のパートの展開や文体の個性と絶妙にマッチしていて、とても面白く、ニヤニヤしながら、一気読みしてしまいました。
    兄弟姉妹みんなで書いている設定なので、書き分けとして、各パートの文体や展開の巧拙具合にまでもしっかり明確な違いが見られる芸の細かさ。

    この遊戯に巻き込まれる彼らの祖父母、母、女中といった、周囲の人々も、いい味出していいます。

    そして、彼らが結果的に生み出した新生ラプンツェル物語は、ただただ愉快なパロディかと思いきや、意外や意外。
    5人それぞれの着眼点がある設定も相まって、人間の本質的課題や命題をあれこれと結構深くついています。
    それなのに、ものすごくコミカルに読み進められる抜群の娯楽性。そして、安心感。(ご安心を、太宰作ですけど、最後はハッピーエンドです。しかも、オリジナルのラプンツェルよりも何倍もハッピーです)

    小説を書きつないだ順番を、年齢の上から下、もしくはその逆、性別などという単純な並びになどせずに、書き手それぞれの性質をむしろ強く意識して、長幼も性別もごちゃ混ぜにした事も、読み終わってみると、ものすごく納得がいきます。

    太宰の持っていたユーモア溢れる企画力、構成力、そして筆力に脱帽の一冊です。

  • 太宰の中期の作品。
    時代的に戦争中の話が多かった。
    また意外と庶民的な面を垣間見れた短編集。
    講演をした際に地元の学生から「案外、常識家ですね」と言われたり、日々の生活の中で、少し神経質で気の弱い面が多々見られた。

    表題の『ろまん燈籠』は五人の兄妹の短編連作でユーモアに満ちた作品。
    『散華』は知り合いの若い大学生から太宰に宛てた手紙の入った辛い作品。
    「大いなる文学のために、死んで下さい。自分も死にます、この戦争のために。」はなんとも切なく遣りきれない想いを感じた。

  • 太宰の短編集。気に入ったのをいくつか。
    小説好きの5人兄妹が連作して一編の物語を書いていく「ろまん燈籠」。ストーリーだけでなく文体でもって5人の個性を描き分けた構成と筆致は見事。
    「恥」。作家が作品で書いた惨めな自画像が全て事実と思い込んだ女性ファンが、ファンレターを介してわざと汚い服を着て作家の家を訪ねる。が、意外なことに、作家は清潔な家で小奇麗な姿で暮らしている。真実を知った女は恥ずかしさのあまり女友達に愚痴を書いた手紙をしたためる。理想に忠実であってほしいという女のエゴを打ち砕く話で笑えるのだが、どこか哀しい。
    「新郎」。太平洋戦争開戦時に、浮足立った著者の心情が反映した小品。
    逆に「十二月八日」は、夫人の目から戦争に沸く世相を描いたもの。あくまで庶民の目線で物価から街の様子まで地に足がついた生活世界を丁寧に描いている。特に生まれたばかりの赤ん坊を銭湯に入れる筆致がいい。赤ん坊の肌の触感や愛らしさの描写が、暗い不安な時代において確かな実存と感触を確かめているようで、著者の息遣いが聞こえてくる。
    「散華」。これは好きな作品ではない。アッツ島で玉砕した学徒兵が作家のもとに送った決意の葉書。けど読んでしまう。おそらく太宰の実体験なのだろう。こういうのを読むとやはりこの作家は情に流されやすく、激情家タイプなのかなと思う。崇高なものへの献身と自己犠牲に憧れ美しさを感じる作家の感性を垣間見る思いで読んだ。しかし後味は悪く、なにより底暗い。

  •  表題作を始め意外なほど読みやすく、自意識に葛藤している様子も書かれてはいるが、日常描写の細やかさと共にあるので暗さや重苦しさは感じない。寧ろ作品の多くが戦争というバックホーンの元にあるので、その当時の庶民の様子や精神性が伺われるのが興味深い。

  • ろまん燈籠。兄妹連作のラプンツェル童話、愛される力を失っても愛する力は永遠に失われず、そこに人が生きる誇りがあるという次男の指摘に感銘。最後を飾る長兄の「ぶちこわしになったような気もする。」に笑う。

    みみずく通信。大真面目の発言を高校生に笑われる、外界と精神との乖離。

    服装に就いて。町田康が重なって仕方ない。

    誰。怖い。自分が悪魔かどうかに就いて、やっぱり主観と客観が乖離して怖い。

    恥。凄い!自意識の氾濫!

    作家の手帖。煙草の火を貸してあげて、御礼を言われることに対して言い知れぬ恐怖を感じるセンス。

    佳日。人間性の勘所。どんなにムカついても「これだから愛おしい」という感じは、よくわかる。

    散華。文学のために死ぬ決意が、三田君からの手紙に託して表現された、狂おしい文章。

    雪の夜の話。眼の中に、今まで見てきたものが映るという。

    東京だより。不当な試練が、底知れぬ美しさの原因だったという衝撃。

  • 戦時下の話が多かった。
    表題作は私はあまり楽しめなかったが、他は結構好きなのがあった。

    『恥』は笑えるような胸が苦しくなるような恥ずかしいような話。

    『小さいアルバム』はところどころすごい笑ってしまった。この自虐、ギャグマンガにもありそうなレベルでどうしても笑ってしまう。
    「私は今だってなかなかの馬鹿ですが、そのころは馬鹿より悪い。妖怪でした。」
    「二匹の競馬の馬の間に、駱駝がのっそり立っているみたいですね。」
    「かぼちゃのように無神経ですね。3日も洗顔しないような顔ですね。」
    あたりが好き。自虐でこんないろんな言い方ができるのはさすがだなあと。

    『佳日』も、白足袋がうまく履けない件は笑えるものの、戦争や、大隅君の性格などが絡まって切なくなる。最後は爽やか。

    『散華』は非常に辛い作品。
    戦地からの手紙の文言が心に刺さる。

  • 固い・暗い・重い。
    とかく陰鬱なイメージの先行する太宰治が生活の安定していた時期に書いた軽妙洒脱なホームドラマ。
    尊大で堅物な長兄、奉仕精神にあふれた長女、驚くほどの美青年だが病弱で皮肉屋な次男、ナルシストな次女、熊の子のように愛くるしい末っ子。
    個性的な五兄弟が連作で合作しひとつの物語を織り成していく。
    五人兄弟のキャラがそれぞれ立ってて面白い。こんな話も書けるんじゃん太宰治。
    この作品最大の美点はなんといってもそのユーモラスな持ち味、明るい作風。
    退屈しのぎに即興で物語を披露するのが趣味の兄弟たちだが、長兄の話はなにかと教訓めいて説教臭く、次女の話はロマンチックで次男の話はやたらひねくれてるといったぐあいに、語り口や筋運びにはそれぞれの個性が如実に出ている。
    五兄弟の性格や好み、思想が強く反映された物語はともすれば脱線し迷走し、他の兄弟への愚痴やイヤミをも内包するのだが確執じみた陰湿さは微塵もない。
    冒頭の人物紹介における、兄弟それぞれの特徴を端的かつ巧みに描写するくだりから引き込まれる。
    とくに好きなのは自前のコインの勲章を一週間でもっとも手柄を立てた者に贈る祖父のエピソード。
    末っ子の催眠術にわざと騙されたふりをしてやる祖母や次男と母の枕元での会話などほのぼのとした家庭の様子が伝わってくる。
    惜しむらくはもっと読みたかったこと。こんなにキャラ立ってて楽しいのにたった二編なんてもったいない!一家の話だけ一冊にまとめてほしい!
    太宰?なんか暗そう〜と敬遠してる人は「ろまん燈篭」でがらっとイメージ変わります。というか私自身冒頭の先入観で太宰はちょっと苦手に思ってました(「人間失格」のよさもあんまわかんなかったし)
    ちなみに「愛と美について」の作中作の方がお気に入りです。
    「ろまん灯篭」のほうは魔女のおばあさんにも救いがあってほしかった……。

  • 太宰の作品の中で一番好き。
    実は太宰はユーモアたっぷりで優しすぎるくらいの人だってわかる。
    兄弟で小説を回し書きするんだけど、兄弟によって文章も内容も性格に合わせて変わってきて・・。なんかとってもほっこりしちゃいます、でも、なんかじーんとするんです。太宰らしい作品だと思う。

  • 「恥」、「佳日」が好き。

    あとは、「鉄面皮」の、兄の言葉が衝撃的だった。

    「お前は、よその人にもそんなばかな事を言っているのか。よしてくれよ。いい恥さらしだ。一生お前は駄目なんだ。どうしたって駄目なんだ。五年?十年?俺にうむと言わせたいなんて、やめろ、やめろ、お前はまあ、なんという馬鹿な事を考えているんだ。死ぬまで駄目さ。きまっているんだ。よく覚えて置けよ。」

    「駄目」という言葉と、「きまっている」という言葉がセットになるのはどうしようもなく辛い。身動きがとれなくなる。この2つの言葉は、できるだけ遠く離れていて欲しい。

  • 太宰さんの読み終わったあとににっこりしたくなる雰囲気、好きです。
    母は偉大なり!

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著者プロフィール

1909年(明治42年)、青森県金木村(現五所川原市)生まれ。本名、津島修治。東大仏文科在学中に非合法運動に従事し、やがて本格的な執筆活動へ。35年、「逆行」で第1回芥川賞の次席となり、翌年には処女作品集『晩年』を刊行。以後「走れメロス」「斜陽」など多数。

「2018年 『津軽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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