倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010021

作品紹介・あらすじ

イギリス留学中に倫敦塔を訪れた漱石は、一目でその塔に魅せられてしまう。そして、彼の心のうちからは、しだいに二十世紀のロンドンは消え去り、幻のような過去の歴史が描き出されていく。イギリスの歴史を題材に幻想を繰りひろげる「倫敦塔」をはじめ、留学中の紀行文「カーライル博物館」、男女間における神秘的な恋愛の直観を描く「幻影の盾」など七編をおさめる。

感想・レビュー・書評

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  • 初期短編集(明治38〜39年)。言文一致の現代書き言葉ではない作品もあったりする。近代日本文学直前のプロトタイプ集とでも呼びたくなる。作品ごとに変化するチャレンジングな表現が面白い。個人的には「趣味の遺伝」のサイコパスすれすれのユーモアがツボだった。

  • 夏目漱石の短編集。

    「幻影の盾」「薤露行」「一夜」はただただ美しさにうっとりする。
    美文調は正直何を言っているのかわからない部分もあるが、短編なのでさほど苦痛にならず、美しい絵をただ眺めるような気持ちで読める。

    漱石の戦争観を垣間見ることができる「趣味の遺伝」は面白い。
    主人公は戦死した友人にたびたび思いを馳せる。戦死の場面(あくまで想像)は白黒のショートフィルムを見ているよう。「塹壕に入ったまま上がってこない」というシンプルな表現が繰り返されることで、明るく平和な日常生活の中、サブリミナルのように戦場と死がちらつく。
    遺された者たちの思いが清らかで切ない。
    畳みかけるようなラストひと段落も胸を打つ。

  • 漱石初期の短編集 

    【倫敦塔】1905年
    留学中の倫敦塔観光記
    英国の歴史を塔の中に感じ、戯曲「リチャード3世」・絵画「ジェーングレー」などからの発想を ブラックファンタジー的に随所に表現。観光後、現在イギリス人(当時の)に現実に戻される。興醒めして(たぶん)もう二度と行かないとか言う。
    観光記でも普通には書きません。

    【カーライル博物館】1905年
    留学中のカーライル博物館訪問記 備考によると、味の素の発明者・池田菊苗さんと訪問しているらしい。まだ、海外渡航は珍しいから、外国で会うと仲良くなるのかしら。
    たぶん、漱石はカーライル大好きに思える。見学中の表現は、案内のおばさんをあんぱんみたいだとか、ベッドをたいしたことないような事言ったり、口が悪いけど、蔵書目録を発表したりね。

    【幻影の盾】1905年
    アーサー王物語・北欧神話を元に、「一心不乱」を書いたらしいのだけど、前説で上手くいかなかったみたいな言い訳している。
    主人公ウィリアムは霊を宿す盾を持つ。戦闘中の相手の城に恋人がいる。いよいよ戦争が始まり、恋人を助け会いたいのだが、戦火が回る。
    その後からは、幻かなと思う。馬が飛んできて、それに乗って南へ走る。女神が出てきて、盾に問えみたいなこと言われて、盾の中で恋人と会う。こんな感じ?元の話を知らないので難解でした。

    【ことのそら音】1905年
    異質の頑張った怪談風小説。
    結婚間近な主人公の周辺に起こるちょっとした怪談風出来事。ラストでほぼ全部解決して、めでたしめでたし。

    【一夜】1905年
    難解。「吾輩は猫である」の作中で「一夜」の事を
    誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないとか書いてあるらしい。やめてほしい、3回は読んだんですけど。人生を書いたので小説を書いたのではないと。
    登場人物は、髭のある人、髭のない人、涼しき眼の女。三人で禅問答みたいな会話して、最後は、思い思いに一緒に寝ちゃう。
    森鴎外の「寒山拾得」的。

    【薤露行】1905年
    アーサー王物語題材。擬古体。
    ○夢 アーサー王円卓の騎士らと試合に出発。
       騎士ランスロットは仮病を使って王妃と密会
       バレそうなので急いで試合に行く
    ○鏡 魔法の鏡に映るランスロット
       それを見たシャロットの女。鏡は割れる。
       ランスロットへの呪いをかける
    ○袖 古城に住まうエレーンは一夜泊めたランスロ 
       ットを好きになり袖を兜に付けさせる
    ○罪 試合は終わり皆帰るが、ランスロットは帰ら         
       ない。王妃は密通の糾弾を受ける。
    ○舟 エレーンはランスロット行方不明のショック
       断食自殺
       死体を乗せた舟は王妃のもとへ
    ランスロット持てすぎ疑惑あり。

    【趣味の遺伝】1906年 書いたのは1905年かな
    これは、なかなか良いです。
    主人公は一貫して、余。
    日露戦争で亡くなった、尊敬していた先輩を思い出す。戦争で、目を引く活躍をしただろうと想像する。ここの表現が、生き生きとしすぎて物悲しい。
    後半は、先輩の好きだった女性を探しだすという感じ。

    だいぶ時間かけて読み切ろうとは思ったのだけど、英文学に無知で難解すぎました。

  • 留学中にロンドン塔に魅せられた漱石がイギリスの歴史を交えて綴る「倫敦塔」ほか6編を収録。倫敦塔は難解でわからない描写が連続しあまり面白いとは思わなかった。7編の中で唯一良いと感じたのは「趣味の遺伝」。謎の女性に強く惹かれる漱石の意外な一面が見られる。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou8109.html

  • 再読

  • (個人的)漱石再読月間。15作品読了の後、せっかくなので短編も。その1。

  • 「倫敦島」のみは再読だった。
    夏目漱石の作品は一読だけでは理解し難く、全体像を把握出来なかった。
    伝説小説を基にして書かれた幻想的な「幻影の盾」「薤露行」は、「アーサー王」を読んだ事がないので分からなかった。
    しかしこの二作品は、是非とも映像で観たいと思わせる程流麗な描写が印象的だった。
    現代で言えばファンタジーになるだろうか。
    漱石には「倫敦塔」をはじめとした暗さが先入観にあったが、意外にもメルヘンチック且つロマンチックな一面を持っているのだなと感じた短編集だった。
    近代小説風の「琴のそら音」が最も純文学らしくて気に入った。

  • 漱石がロンドン留学中の折、ロンドン塔を見学した時の感想文。内容は今にして見るとそんなに深くないんだろうけど、言語の豊かさが見事。

    「幻影の盾」途中で挫折。

  • 漱石は悪くない。ただ僕の集中力と読解力が不足しており、ほとんどページをめくっているのか読んでいるのかわからない感じになり、唯一真面目に読んだのは「解説」という有様。もはや漱石の筆ですらない。自分の実力不足を切に感じた。

  • 初めて読んだのは19歳(遠い目)あの時に読んだ、幻想がちで胃痛(真似した訳でなく、高校時代から胃カメラ飲んでた正味の胃炎持ちだった)持ちの私が、勝手に漱石に親近感を感じて読んで読んで読みまくった中で、特に共感してしまった作品。まぁ、ウルトラ有名作家の有名作なので細かい説明はしませんが、イギリス留学中にロンドン塔に行った漱石の旅幻想妄想エッセイのようなもんです。冒頭からロンドン塔の見物は一度に限ると思うと言い切ってしまったのは、なんでなのかというのが読み進めば理解できる。やっぱり漱石ってヲトメだなぁ、、と思いますねぇ。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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