虞美人草 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010106

感想・レビュー・書評

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  • 学生を終えた頃のモラトリアムの宙ぶらりん感と大人になる切なさ決意を思い出す。真面目に生きることは素晴らしい!いつまでも善きひとでいられたら。。
    甲野さんの日記の書き言葉と話し言葉の使い分け、漢詩などの教養、インテリ同士の会話の応酬など、自分の教養のなさ、緊張感のない乱れた言葉遣いなど大いに反省。独特の描写部分は音読するように読んだ。 端的で且つ美しくその的確さときたら!会社や身近な人物の評価表現の参考になりそうだ。最後に女の人生の難しさを思わずにいられない。そうそう、エリザベステイラーのクレオパトラが頭に浮かんだな。

  • 様々な登場人物がお互いの人間関係の中で揺れ動いていく話。軸としては秀才の小野がプライドの高い女、藤尾と小野の恩師の娘小夜子との間で揺れ動き小夜子の縁談を断る。その後、悲劇が…という内容。
    世間や外面を気にして結局自分の存在が謎となる…そんな考え方は面白いと思う。ただ解説で勧善懲悪の物語と示されていてわりとあっさりとした解釈もできるようだ。
    あと漱石、西洋というよりイギリスが嫌いだろって突っ込みたいところがある。

  • 2016年3月15日読了。
    中盤からの物語の加速すごい。だけども、評価に困る、という意見が多いのも納得ではある。

  • 僕が読んだ漱石はこれで9作目になる。とにかく読みづらい本だった、はじめは。会話文はいいのだけど、それ以外の部分が非常に読みにくい。何だかずっと昔の文章を読んでいるようだ。今まで読んだ漱石の小説ではあまり感じなかった印象だ。それに、名前がわかりにくい。姓と名がばらばらにとびとびで出てくる。登場人物の関係がつかみにくい。僕は最初の50ページを読んだくらいであきらめて読むのをよそうかと思った。でもまあとりあえず、会話文だけでも読んでみようと思った。そうするとわりとすらすら読めて、しかも話がだんだんおもしろくなってきた。その後は一気に読み通すことができた。時間の流れはゆっくりで、登場人物の心のありようがはっきりと伝わってくる。これはいつもの漱石の小説通りだ。そしてこれも漱石の小説ではよくあることだけど、なぜこれほどまでにいやな性格の友人が出てくるのだろうと思ってしまう。そんな言い方されるのなら、つきあいをやめてしまえばいいのに、と何度も思った。恋愛をする心というのは、おそらく今も100年前もそれほど大差はないのだろう。でも、結婚ということになると話は違うようだ。今のように何でも個人の気持ちで決めてしまうわけにはいかない。(現在でも、両親や親類などのしがらみでうまくいかないケースもあるようだけど。)家と家の結婚。本人の意にそわない結婚。どうしてそんなこというの、と言いたくなるようなこともたびたび。そして、最後には何故?!という結末。それは読んでのお楽しみとしておこう。何故そういう結末にしたかは、解説を読むと少しは腑に落ちる。最後に、少し気になった一節を。それに対する解説はできないけど。「問題は無数にある。粟か米か、これは喜劇である。工か商か、これも喜劇である。あの女かこの女か、これも喜劇である。つづれおりかしゅちんか、これも喜劇である。英語かドイツ語か、これも喜劇である。すべてが喜劇である。最後に一つの問題が残る。--生か死か。これが悲劇である。(漢字をカナにあらためたところがあります。)」

  • リーダーの本棚技術経営のあり方学ぶ
    科学技術振興機構理事長 中村道治氏

    2015/7/19付日本経済新聞 朝刊

      尊敬する物理学者の自伝を常に手元に置き、技術経営のヒントを得ている。











     大学で原子核物理を学んだので物理学者の自伝的な本に興味があります。超一流の人が書いたものは物理学の話のレベルが高いだけでなく、社会とのかかわりや研究所の運営などの深い考察が記されたものが多いように思います。1972~73年、勤めていた日立製作所の制度で米カリフォルニア工科大学に留学し、研究の進め方や厳しさを学びました。帰国後、中央研究所で部長職に就き、組織運営などについて考えていた頃に、旧ソ連の物理学者、ピョートル・カピッツァの講演などを集めた『科学・人間・組織』の広告が目に留まって購入しました。


     カピッツァが英国のキャベンディッシュ研究所にいた頃に指導を受けた(原子核物理学が専門のノーベル賞受賞者)ラザフォードから「君は足踏みしているね。結論はいつ出るのか」といつも言われていたエピソードが出てきます。カピッツァは厳しさを感じたものの、ラザフォードは励ましのつもりで、若手の独自性、積極性、個性を伸ばそうという意識が強かったと書かれているのを読み、雰囲気がカリフォルニア工科大と似ていると感じました。


     カピッツァは休暇中に旧ソ連で拘束され英国に戻れなくなりましたが、低温物理学で業績をあげノーベル物理学賞を受賞しました。この本で一番教えられたのはメンター、つまり師の大切さです。日立の中央研究所でも現場を大切にし、一人ひとりの研究者の声を聞くよう心がけました。さらに、日本流のチームワークを大切にし、高水準の研究を製品に結びつけていけば海外にも勝る強みを発揮できると確信しました。


     世の中を変える大きな成果を出す研究には20~30年かかります。科学技術振興機構などが手掛ける研究も同じです。優秀な人材が集まり、挑戦できる環境を維持することこそが技術経営だと思うに至りました。1つの研究分野を立ち上げるには10年単位の時間がかかりますが、組織が弱るには1日あれば十分です。実はキャベンディッシュ研究所は90年代以降、ノーベル賞受賞者が出なくなっているようです。海外から多くの研究者が来て、独創的な研究のるつぼのようだった環境が失われたのが理由だと聞いたことがあります。


      科学技術が細分化しすぎ、専門分野に特化した研究者が増えている最近の傾向が気になる。


     (ミクロの世界の物理法則である)量子力学の立ち上げにもっとも貢献したウェルナー・ハイゼンベルクの『部分と全体』は、タイトルにひかれて買いました。原子論や量子力学の誕生の過程が生々しく描かれていますが、それだけでなく自分自身と周囲、科学と社会、科学と行政などの関係も実に深く洞察しています。科学哲学の書ともいえます。


     人間は細胞が集まって器官ができ、それが協力しあって全体としての恒常性を保っています。一方、科学技術は進歩を続けるなかで、どんどん細分化されてきました。個々の計算や実験、理論と、背景にある物理学、生化学、天文学、さらには人文科学、社会科学を関係づけて考えることの大切さがタイトルには込められています。当時の指導者たちの、物事を考えるスケールの大きさに触れ、視野が広がりました。


      科学技術を離れ、落ち着きたい時には小説を手に取る。


     夏目漱石の小説は高校時代から繰り返し読んでおり、おそらく全作を10回は読み返しています。今でも半年くらい仕事で突っ走って、疲労感が出たときなどに息抜きに手にします。休みの日に、家でゆったりとした気持ちで読むことが多いですね。なかでも気に入っているのは『明暗』で、人間のエゴ、生き方などについて考えさせられます。深刻さはなく、言葉がわかりやすく、すっと頭に入ります。『虞美人草』も好きで、夢かうつつかわからないような世界で遊ばせてくれます。


     でも、仕事以外の時もやはり科学技術関係の本が気になります。先日は吉本隆明の『「反原発」異論』に目を通しました。人間は科学技術を前進させる動物で、結果として核エネルギーを使うまでになった。発達した科学を後戻りさせるのは人間をやめること。どう使うかに知恵を絞るべきだ――。主張のすべてに共感するわけではないが、科学をよく知ったうえで書いていると感じました。


    (聞き手は編集委員 安藤淳)






    【私の読書遍歴】




    《座右の書》


    『科学・人間・組織』(カピッツァ著、金光不二夫訳、みすず書房)


    《その他愛読書など》


    (1)『部分と全体』(W・ハイゼンベルク著、山崎和夫訳、みすず書房)。序文はノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹氏が寄せた。繰り返し読んでいるが、まだすべてを理解できてはいない。


    (2)『宇宙をかき乱すべきか』(上・下、F・ダイソン著、鎮目恭夫訳、ちくま学芸文庫)。物理学の伝道師とも呼ばれ、原爆を開発したマンハッタン計画で知られるオッペンハイマーらの近くで研究していた著者が、科学と社会の関係、原子力産業が抱える問題などを論じる。


    (3)『明暗』(夏目漱石著、新潮文庫)。連載中に著者が病没したため未刊となった長編。


    (4)『虞美人草』(同上)。漱石にとって初めての新聞連載小説。


    (5)『「反原発」異論』(吉本隆明著、論創社)東日本大震災以後と、以前の2部構成。対談なども収めている。

  • 「迷わぬものは凡てこの女のかたきである。
    文明の淑女は人を馬鹿にするを第一義とする。人に馬鹿にされるのを死に優る不面目と思う。」

    解説によると専業作家として初の新聞連載で、緊張がそのまま表れたガッチガチな作品、ということで、確かにそういうところもあるけれど、上記のような言い回しは上手いと唸るしかない。
    構成も、舞台演劇のようで面白い。
    展開に中世的な大袈裟さが感じられるのと、人物によって掘り下げがまちまちかとは思ったけれど、読むのが素直に楽しかった。

  • 漱石の時代と現代とで、人間はこんなにも変わらないものなのかと読みながらとにかく驚かされたし、自分自身の醜い部分を時代を超えて見透かされているような気分になってドキっとしました。
    今の自分に喝を入れてくれる様な話で、読むことが出来て良かった。
    真面目にならなければ。

  •  久しぶりの漱石! この小説、漱石のうんちくがすごい。笑 なんだか漱石の「えっへん。僕、知識いっぱいでしょ。すごいでしょ♪」って誇らしげな顔が思い浮かぶような文章でした。笑
     話の終わらせ方はあっけなさすぎて「え〜」ってかんじだけれど、そこまではどうなるかな、どうなるかなっとワクワク読めました。

  • 序盤は情景が描けず、やや苦しかった。

    優柔不断な小野。小野の従順さこそ夫として「欲しいもの」に値すると考えている、高笑いハイカラ美女・藤尾。
    そんな藤尾にデレデレ状態の小野だったのだが、五年来、彼の妻になるものと見做されていた女、小夜子がやってくる。
    二人を前に、傷を負わずして藤尾を選択しようとした小野。からの、結末がすごい!うーん、なかなか突飛だと思う。。。

    小野、藤尾、小夜子の話はなんだかどろどろしていて、あまり好きにはなれなかったが……序盤から謎めいていた藤尾の兄、甲野の終盤の涙になんだかきゅん!
    更に、糸子と甲野が共に家を出るシーンも良かったなー。

    雨が降っても、濡れるのはあなたではない。

    いやあ、かっこいい!
    本当はもっと読み込むべき部分があるのだろうが、初読ではストーリーを追うのに必死だった。

  • 後半の怒涛の展開、漱石お得意の、対で語る主義主張は読み応えあり。学識ない女子に「世間がどう云ったって…いいじゃないですか。」と言わせるのも、快感だった。でも、なんで藤尾がここまで悪く描かれ、挙げ句あっさり自殺なのか?親の言いなりで、一度自分を拒んだ男と結婚する小夜子、意気地がなく二股した上に、友達に諭されあっさり世間体を取る小野、妹が死ぬまで母親に面と向かって心の内を言わない甲野なんかより、よっぽど自分を持ってるじゃないか。わがままではあるが、自分の価値観で男を選ぶってだけ。漱石のいう徳って、なんだろう…。これ以降の小説は、テンポ良いが多いから、やっぱり第一弾という価値なのかな。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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