- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101010519
作品紹介・あらすじ
あなたにも、「忘れられない夢」がありますか。見知らぬ橋で、いつか訪れるはずの誰かを待つ男。父親から命を受けた幼い息子が赴く上総の海。今際の際に現れた、思い出を食べる伝説の動物――。100年の時を超え、夏目漱石『夢十夜』にインスパイアされた10名の人気作家が紡ぐ夢物語。「こんな夢を見た」の名文句に始まる珠玉の10篇を編み込んだ、儚くも美しい「夢」アンソロジー。
感想・レビュー・書評
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夏目漱石の幻想怪奇短編「夢十夜」をモチーフとして平成末期の人気作家10名が描いた短編集。どの作品も、あの名フレーズ「こんな夢を見た」から始まる。
とはいえ、明治の漱石とは違い、多くの現代作家にとっては、夢は「夜の眠りの中で見る幻」というよりも「つらい過去や現状に思いを馳せる」ことであるらしい。
心の傷である暗い体験が語られる中に白昼夢のように幾ばくかの幻影が紛れ込む物語は、幻想性は薄く、現実的な陰気さをまとっていて、時に生臭くさえある。
現代小説においては、掴みどころのない夢想よりも、読者の共感が得られそうな虚を少し混ぜた世界をリアルに書く方が「売れる」ことを暗に示されているように感じたのはさすがに偏屈な考え過ぎか。
それでも、本家の作風に近い雰囲気を纏う作品もあって。
北村薫さんの「指」は、「夢十夜」の静謐な文体とは少し違う歯切れ良い感じの文体だけれど、豊富な色彩描写、不可思議さ、荒唐無稽さ、儚さといった、本家の世界観を本当に見事に踏襲した、まさに夢の中の世界。
西加奈子さんの「小鳥」も、様々な色の描写が出てきて、楽しませてくれる。
それから、少し別の切り口ですごく面白かったのは、小路幸也さんの「輝子の恋」。
明言はされてないのだけど、これはおそらく、漱石の別の代表作「こころ」の登場人物が、過去を取り戻すことによって「皆が、幸せな笑顔を見せた」別の世界線の物語。
最後のキーパーソンにはびっくり。
原作では端役のその人でしたが、あ、なるほど…と唸ってしまいました。
たった数ページで別の世界線を築けてしまう筆力もすごい。
「夢十夜」が好きで、かつ好きな現代作家さんが執筆していたら、手に取ると楽しい作品集だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
恥ずかしながら最近まで『夢十夜』は漱石が実際に見た夢の話だと思っていました…。
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『こころ』が好きな方には、やはり小路幸也『輝子の恋』がおすすめです。
こうだったら救われたのに…。
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先日、私もこんな夢を見ました。(実話です)
自分が本棚になった夢を見ました。
壁に立っていると、みんなが私の顔に本をしまっていきます。
私は本棚だから、しょうがないなと思っています。
できれば本がしまわれた時に
内容までインストールされるといいのにな、とも。
しかしそうはいきませんでした。
そんな夢でした。
本の読みすぎでしょうか…?
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小説で「夢」を描くって、意外と難しいだなと思う。
漱石の「夢十夜」は、確かに「夢」の感じがするのに。
同じ虚構。でも、夢の持つあやふやさって難しい。
小路幸也「輝子の恋」は、「こころ」アナザーストーリー?
もしも、あの時、こうだったら、を描いた話なのだと思うのだけど。
もうちょっと寄せてほしかった。かも。
自分の「夢十夜」を考えてみたいな、と思わされる作品だった。 -
夏目漱石(1867-1916)没後100年&生誕150年を記念しての新潮文庫編集部企画による10篇のアンソロジ-。「こんな夢を見た・・・」で始まる夢物語を夢中で読み耽ったのは、あさのあつこ作の『厭だ厭だ』萩原浩の『長い長い石段の先』野中柊の『柘榴のある風景』小池真理子の『翼』小路幸也の『輝子の恋』でした。
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阿刀田高ほか著『眠れなくなる夢十夜(新潮文庫)』(新潮社)
2017.1発行
2017.10.16読了
まさにアンソロジーという呼び名に相応しい短編小説集。夏目漱石の夢十夜にちなんで「こんな夢を見た」から始まる。個人的には野中柊の「柘榴のある風景」と道尾秀介の「盲蛾」が割と好き。でも、「盲蛾」で使われている手法はむしろ三島由紀夫の「百万円煎餅」を連想させる。夏目漱石の夢十夜に近い作品となれば、阿刀田高の「夢一夜」と北村薫の「指」であろう。阿刀田高の作品は夏目漱石の「夢一夜」を180度ひっくり返した話だろうか。「指」はよく分からなかったけれど、何やら示唆的だった。眠れないという意味で一番ゾッとしたのは萩原浩の「長い長い石段の先」かな。
【収録作品】
夢一夜 阿刀田高 著
厭だ厭だ あさのあつこ 著
小鳥 西加奈子 著
長い長い石段の先 荻原浩 著
指 北村薫 著
こっちへおいで 谷村志穂 著
柘榴のある風景 野中柊 著
盲蛾 道尾秀介 著
翼 小池真理子 著
輝子の恋 小路幸也 著
URL:https://id.ndl.go.jp/bib/027780993 -
言わずと知れた夏目漱石の名作『夢十夜』を下敷きに、十名の作家たちが一篇ずつ「こんな夢を見た」と語り出す。
それが本当に夢の中の出来事なのか、それとも現での出来事なのか、それは誰にもわからない。
『夢一夜』では本家の第一夜と第三夜をミックスしたような物語になっている。
美しく静謐な、しかし不気味な夢の中。
『長い長い石段の先』は少年時代の恐ろしい体験を思い起こさせる。
迷ってしまった道の先。
どこか知らない場所。
ジブリの『千と千尋の神隠し』にも登場する、現世と異界との境。
どちらも物語だとしても、実体験として、記憶にある人もいるのではないか。
祖父母の家までの帰り、乗り過ごしてしまったバスの先。
永遠にも思える帰り道、幼い弟の手を握りしめながら不安と恐怖と戦う夏の日。
あれは、現実、のはずだ。
『輝子の恋』
本書の中では唯一の明るい話。
悪夢だらけの中、今宵の夢さえあれば、救われよう。
いや、悪夢の方がまだましとも思える現の夜、今宵の言葉があれば、慰めにもなろう。
人生は壮大な夢という。
そうであるならこんな終わり方なら、全て良し。 -
「こんな夢を見た」で始まる10のアンソロジー。「輝子の恋」がおもしろかった。2017.4.29
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現代作家十人が一夜ずつ書いていく。
どれも面白いんだが、特に、最後の小路幸也の「輝子の恋」は面白かったかな♪ -
学生のおすすめポイント
この本は短編集なので長い物語を本で読むのが苦手という人にはおすすめです。
眠れなくなる夢十夜というタイトルを見て、僕は怖い話だと思ったのですが、怖い話というよりは奇妙な話なので、そういう話が好きな人にはぜひ読んでもらいたいです。
夏目漱石の「夢十夜」にインスパイアされた10人の人気作家による「こんな夢を見た」の名文句で始まる10個の物語は、どれも個性があり、まさに夢を見ているかのような不思議な世界に連れて行ってくれます。
愛知大学図書館OPAC
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