ぼくは痴漢じゃない!: 冤罪事件643日の記録 (新潮文庫 す 21-1)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101012216

感想・レビュー・書評

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  • 痴漢冤罪の被害を受け、無罪判決が出るまでの法廷での戦いを本人と弁護士が語ったドキュメンタリー。

    痴漢冤罪は、映画「それでもボクはやってない」が公開されるなど一時話題になった。
    警察のでたらめさは以前から広く知られているが、その後「厚労省証明書偽造事件」での証拠捏造などで、検察も全くあてにならないことが明らかになった。

    立法・行政のダメっぷりに加え、司法もごらんの有様である。

    本自体は冤罪という落とし穴に嵌められた一小市民(作者の方、ごめんなさい。でも、そうですよね)の右往左往するさま、そして会社を首になって転落していくさまがリアルで、背筋が寒くなる。誰にとっても明日は我が身、かもしれない。

  • 会社員、鈴木健夫はある朝の通勤電車で女性に突然「触ったでしょ!」と腕を掴まれる。

    潔白を証明するつもりで駅の事務室からパトカーに乗せられ警察署へ…

    その後のとんでもない理不尽な体験を描くノンフィクション。



    第一部が鈴木健夫氏本人による手記で、まず警察があの手この手で

    犯人に仕立てようとするのが恐ろしい。

    調書は不利になるよう書こうとする、偽の逮捕状は見せつける、

    拘束期間はずるずると引き伸ばされ厳しい尋問が自白に追詰めようとする。



    釈放されたものの職を失い2年の歳月と二度の裁判(一審は有罪)を得て

    ようやく無罪を勝ち取るのだが、誰が責任を取るわけでもないし、

    失った社会的地位や収入に何一つ補償すらなく(!)

    保釈金や裁判費用、生活費にあてた借金の返済が続くことになる。

    大変つらい状況なのに鈴木氏が前向きな気持を失わないのが救いで

    留置場で一緒になった犯罪者と不思議な友情が生まれたり

    失業中、娘の授業参観に出て充実感を味わったり等

    素朴なユーモアのある文章から人柄がよく出ていると思う。



    第二部は鈴木氏の担当弁護士の解説をまとめたもの。

    これが知らなかった、で済まなくなるようなことなのに知らないことだらけ。

    女性に腕を捕まれ事務室に行く時点で「逮捕」されたことになり

    あとは流れ作業のように「有罪」として処理されてしまうんだと!

    しかも無罪判決は「夢のようにフェアな裁判所に当たった」

    ということで「運がよかった」のが大きいらしい。



    さてこの本、先月文庫化されたのだが事件から6年、




    鈴木氏は今、どうしているのか?




    新たに付された「文庫版あとがき」はなんとも不思議な「落ち」がついたようで

    …狐につままれたような気分になるのである。

  • 勉強になりました

  • 痴漢えん罪に巻き込まれた人がどのような物理的環境、心理的状態に置かれるのか。
    痴漢を疑われた時点でどう対処すべきなのか。
    刑事司法全体に潜む問題点とは。


    今から約20年前の事件(平成10年発生)であるが、果たしてどの程度刑事司法は進歩したであろうか。

  • 学生時代は満員電車通学だった為、よく痴漢には遭遇した。痴漢行為には憤りを感じるし、痴漢なんぞ警察に突き出してやりゃ良かったわと思う事もある。けれど、やってもいないのに「痴漢」呼ばわりされた場合、その相手の人生はメチャメチャになる。最近は女性も強くなって痴漢を突き出すことが「カッコイイ」「勇ましい」風潮があり、それはとてもいいことだと思う。けれど、本当にコイツだという確証もない場合や、ましてや痴漢の場合は女性の証言が正当性を持って受け入れるのを良い事に、強請りタカリに利用する輩もいる。そのあたりの事も鑑みて、痴漢行為については刑法を考えるべきではないのか。していない行為に対して、「しました」と言って罰金を払うのが一番傷の少ない方法だなんて、歪んでいるとしか思えない。

    警察は捜査をするのが仕事のはずが、自供させ、犯人に仕立て上げる。お巡りさんは正義の味方だと胸を張って言える警官はどれだけいるのだろう。

  • 「痴漢犯人生産システム」改題

  • 事件や事故に巻き込まれて人生が一変することがある。交通事故や犯罪など大方は因果関係が明らかか被害者の立場の場合だ。ところが、痴漢冤罪の場合は様子が違う。身に覚えのないことで、それだけに有効なアリバイも主張できず、さらには「出るとこに出れば潔白が証明される」などと思ってしまう。そもそも、痴漢の取り締まり自体が普通じゃない。池袋駅に「おい痴漢! いいかげんにしろよ おいチカン!!」という垂れ幕がかかっているが、この何ともいえないおかしな感じがそのまま痴漢取り締りの世界観と共通するものがある気がする。
    この本は痴漢の疑いで逮捕され、2年に渡る裁判の末に無罪判決となった鈴木健夫さんの著書。読むと本当に法治国家の弊害、役人社会の弊害をまざまざと見せつけられる。市民の味方だと思っていた警察や司法の横暴具合は、読んでいてこんな社会で生活しているのが恐ろしくなってくるほど。警察の聞き耳もたなさ具合も異常なくらいだし、裁判が何を解決してくれるんだろうとも思う。こうした場に関わる人たちは、人の人生を何だと思っているんだろう。鈴木さんも無罪を勝ち取りはしたけれど、社会を信じられなくなった傷は相当に深かったようで、それは現在の鈴木さんのブログなどを見ても感じられる。

  • 恐ろしい冤罪事件。日本の警察は誰も信じていないのに、いまだに逮捕=有罪と錯覚させる報道と、それに従ってしまう様々な組織。たかが5万円の罰金事件を2年かけて冤罪を証明する。それにしても、権力による横暴、暴力はひどいし、冤罪が確定した場合で、それ以前の生活を取り戻すことが絶対にできない今の状況はひどすぎ。国家補償は見直す必要があるだろう。

  • 読みやすく、解説もあるのでわかりやすい一冊。

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著者プロフィール

早稲田大学名誉教授。著訳書に『帝政ロシアの共同体と農民』(早稲田大学出版部)、『近代ロシアと農村共同体―改革と伝統』(創文社)、『近代ヨーロッパの情熱と苦悩』(共著、中公文庫)、『ヨーロッパ人の見た幕末使節団』(共著、講談社学術文庫)、ゲルマン/ブレーヴェ『ヴォルガ・ドイツ人 : 知られざるロシアの歴史』(共訳、彩流社)などがある。

「2021年 『ロシアドイツ人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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