五つ星をつけてよ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101013510

作品紹介・あらすじ

いつからか、レビューがなければ何も選べなくなってしまった――。離婚して実家に戻った恵美は、母の介護を頼んでいるホームヘルパー・依田の悪い噂を耳にする。細やかで明るい彼女を信頼していたが、やっぱり見る目がなかったのだろうか。十歳のときに買った浴衣、二十九歳で決めた結婚。母の意見に従わなかった決断は、どちらも失敗だった。今こそ母に依田をジャッジしてほしい。けれど母の記憶と認識は、日増しに衰えている。思い悩む恵美に、母が転んで怪我をしたと依田から連絡が入り……(表題作「五つ星をつけてよ」)。ネットのレビュー、LINE、ブログ、SNS。評価し、評価されながら生きる私たちの心を描き出す6編!

感想・レビュー・書評

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  • ここで日々星をつけている者にとっては、なんとも言えない気持ちになるタイトル。それだけに、刺さる部分の多い一冊でした。

    なんといっても設定といい心理描写といい、絶妙かつそして鋭い。奥田亜希子さんの作品は初読でしたが、絶妙かつ鋭い今を切り取る感性と、それを生かした心理描写に感嘆した短編集です。

    収録作品は6編。いずれもネットやSNSが話に関わってくる。そうした現在的なものを扱いつつ、そこから浮かび上がる人の普遍的な心理を鮮やかに描き切ります。

    表題作『五つ星をつけてよ』は、ネットのレビューを読み込む女性が主人公。ある日自分の母の介護ヘルパーの悪い噂を耳にした彼女は……。

    「五つ星をつけてよ」という感覚は自分にはよく理解できる。このサイトでもそうだけど自分がいいと思ったものが、ほかの人が低評価で、なおかつその低評価レビューにたくさん「いいね」がついてることがある。

    『でも自分は面白かったから』と強がっても、心のモヤモヤは晴れない。
    主人公は自分は好意を抱いているヘルパーさんの悪い評価を聞くにつけ、自分以外の誰かの物差し、肯定を求め「五つ星をつけてよ」と思うのだけど、身に覚えのある感情を場面を通して鮮やかに描いていて、非常に印象的だった。

    他に印象的な短編だと多感な時期の少女を描いた2編『キャンディ・イン・ボックス』と『ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ』も良い。
    高校の卒業式の日の女子高生の友情を描いた前者は、ある事実の隠し方と明かし方が上手く、そこから一気に彼女への共感の感覚が深くなる。
    そして、語り手の少女が友人のある一面を知った時の感情の描き方の鮮やかさといい、青春小説として抜群に素晴らしい出来の作品。

    後者の短編は、この時期特有の青臭さや、なんだか盛り上がってしまう感情と、それへのシニカルな描き方が好印象の短編。

    上記三編は爽やかな印象が強い短編ですが、一方で苦みの残る後の三編も、それらとまったく遜色のない完成度。『ジャムの果て』で描かれる親子関係、「空に根ざして」の男女関係、そして『君に落ちる彗星』の閉塞感のあるそれぞれの人生の断片。

    ネット、SNSと現代の道具を使い、今を生きる人の心理を鮮やかに切り取った、個人的に刺さるところの多い短編ばかりの一冊でした。

  • 奥田亜希子さん初読み。ネットのレビュー、ブログ、SNS…私達の生活に今や不可欠なそれらを、こんな風に小説に絡ませてくるとは。なかなか痛いところを突いてくるなと思いながら、ほろ苦さの中のほのかな甘さを、いつまでも感じていたいと思わせる読後感だった。
    登場する様々なタイプの男女たち。決して100%共感できるわけではないのに突き放して見ることもできない。ドハマリした本は大体一気読みしてしまう私だが、本書の場合は一つの短編を読み終わる毎に、余韻を味わうように軽く読み返していた。女子中高生の青臭さ、熟年女性の融通のきかなさ、サラリーマンの煮えきらなさ…中途半端なメンタルが、いいねや星の数、既読の有無、悪意あるコメントに翻弄され、感情の距離感がつかめなくなる。ああ~わかる、足元ぐらつくこの感覚…と思っていると、意外な方向に捻った展開。この斜め上の角度のつけ方が何とも絶妙なのだ。
    彩瀬まるさんの解説も素晴らしい。「強靱な日常性を書ける人」まさにその通りと強く感じた。この作品に出会えてよかったな。幸せの輪郭なんて見えにくいものだけど、曖昧だったその輪郭を何となくはなぞることができた気がするのだ。

  • SNS中毒みたいなストーリーなのかなと思ってたけどどれも違った。
    でもキャンディ・イン・ポケットは好きなお話だった。女子学生あるあるとゆうか、人気者やかっこいい先輩の側にいる事が一種のステータスのような。
    あとは結局何が言いたかったのかあまり理解出来なかった。特にウォーター・アンダー・ザ・ブリッジは漣くんが何故あんなに執着したのか分からないままだった。もっと人物像を書いてほしかったな。

  • どれもかなり・・・鮮烈な印象をそれぞれに受けた。面白い、というのとは少し違うような。
    「他人が物や他者に下した評価」を簡単に知ることができる昨今、そこにクチコミのような信頼度やリアリティはなく、どれくらい参考にするかは自分で決めなくてはならない。けど、その自分の物差しもハッキリ定まりきらないのがつらいところ。他人の評価に右往左往する人を、わらうことはできないなと思う。
    表題作は"星を気にする人"そのままの話だが、女子高生の友情についての『キャンディ・イン・ポケット』や、元アイドルのブログを書く側と見る側から描いた『君に落ちる彗星』でも、自分の中の評価軸について考えさせられる。
    「三年間、そばにいてくれた相手を、どうして信じられなかったのだろう。」

  • 本当は自分の価値観だけを大切にしていたい。
    だけどそんな自信は全くない。
    自信はないから人の肯定に安心したいのに、
    いろんな価値観があってその情報量に溺れそうになってしまう。
    自分の支えになるものだけを、救いになるものだけを選びたいとそう願っているだけなのにそれが難しい。
    銀くんのように自意識を持って全能感をもっていることと、
    恵美のように他人の評価がないと選び取れないことは一見真逆に見えて同じことなのかもしれない。
    自分が見ているように、他人からも自分は見られている。

  • 初めて読んだ作家さんだけど、良かった。
    ちょっと長くなるけど、お気に入りの話が沢山あるので、是非残したい。

    冒頭「キャンディ・イン・ポケット」は、この短編集のモチーフになっているインターネットにまつわるアレコレこそ出てこないが、女の子同士の微妙な関係性に、グッと引き込まれた。

    高嶺の花の女友達。
    一緒に通学する、ただそれだけの関係が、卒業を機に終わってしまうことを沙耶は分かっていた。
    憧れや恋心にも似た気持ちを秘め、卒業式を抜け出した沙耶は、椎子にあることを仕掛ける。

    粘り気のある文章から、不穏な方に向かってしまうんじゃないかと、正直ハラハラした。
    私は、関係を自分から続けていける根気のない人間だと思う。
    だからこの時期の、たった一人に見捨てられることの怖さ、恋人が出来た友達への違和感、そして節目を迎えることの寂しさは、少し分かる気がする。
    沙耶に光が当たって、良かった。

    続いて「ジャムの果て」。
    今度は、間違いなく不穏に突き進む。
    夫に先立たれ、ジャム作りとブログ更新に励む母。
    度々ジャムが送られて来る娘、息子夫婦は辟易して、離れて行ってしまう。
    「家族」という形に囚われすぎて、見えていなかったそれぞれの心を、成人し、一人になった今になって突き付けられ、追い込まれてゆく。
    結末の狂気が、上手い。

    「五つ星をつけてよ」では、母を介護する娘からの視点が苦しい。
    母の言うことや口コミを頼らなければ、信じて決断できずにきた彼女。
    母を見てもらっている介護士に、実は虐待の噂があって……というあらすじ。
    物がなくなった、怪我をした。
    どちらの話が、本当か、嘘か、藪の中。

    自分自身や、自分を作り上げてきた場所や人に、評価が下されることって、よく考えるとむごい。
    モノにまつわる感情や人も、もはやモノと化して、評価されているんだよなぁ。
    でも、今現在そんなシステムに浸っている自分がいて、再び傷付いてしまう。

    「君に落ちる彗星」は、最後に相応しく、構成にゾワっとさせられます。

    どの話も、短いけれど、ずしりと来る。
    まだ、文庫化された作品は少ないけれど、他の作品にも手を出そうと決めた。
    解説は彩瀬まるさん。ああ、なるほど!
    彼女の作品が好きな方には、オススメしたい。

  • 04

    めっっちゃすき。
    誰もが持ってて、でも隠している暗いところを
    ちくちくと攻撃してくる。

    全部好きだけど、読み終わって二週間経ってもタイトルも内容も覚えているのは キャンディインマイポケット、ジャムの果て、五つ星をつけてよ。

    高校生の時、自分よりレベルの高い友達と一緒にいると誇らしさと劣等感があるよね。でも対等じゃないって思ってるから、一歩引いたりしたよね。

    ジャムの果てはもうつらい。つらいからこそ心にすごく残る。最後裸足でどこに行ったんだろうか。

    五つ星をつけてよ はもーーわかるわかる!
    これだけ情報も物も溢れる世界で、自分の評価に自信がなくなって失敗したくないからレビュー参考にして
    そしたら自分の意見に自信がなくなっちゃった。
    最後、自分自身の評価を下せてよかった。

    20200116

  • 5つの短編の中でも、特に「キャンディ・イン・ポケット」の情景描写や人物の心の中を表現した言葉が特に気に入った。人物が生き生きと描かれていて、詩的な表現も多く、気に入った。女性の視点から描かれた男性は、こんな風に頼りなげに映っているのかという現実も感じた。

  • 「キャンディ・イン・ポケット」通学の30分間だけの友達。見た目も付き合う人も世界が違い、なんとなく一緒に登校してるだけなんだろなと思われていると感じている沙耶。控えめで内気な感情や憧れ。後半に向かい少しずつ感情が溢れ出していく鮮やかさ。後悔と喜びの間で揺れながらも前に進む沙耶が素敵。
    「ジャムの果て」ジャムの描写がいい。気分のいい時には光り色鮮やかに、子供達への不満を感じた後には鈍くどろりと重たいようなものに。良かれと思ってたことが押し付けだと言われ今までの自分はなんだったのかという失望。ジャムとうまく絡み合って面白い仕上がり。
    6編全てに人への想いや距離感や他人の肯定、自分自身への肯定と、こうだったはずという思いをなかなか消せない日常が描かれていて面白かった。

  • 誰かに認められないと生きている意味さえ感じられないなんて、人間って悲しい存在であるな。

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著者プロフィール

1983年愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。他の著書に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『魔法がとけたあとも』がある。

「2021年 『求めよ、さらば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

奥田亜希子の作品

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