THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本 (新潮文庫 ふ 57-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101017518

作品紹介・あらすじ

やけくそのパワーで労働者階級が反乱を起こす英国から、わが祖国へ。20年ぶりに著者は日本に長期滞在する。保育園で見た緊縮の光景、労働者が労働者に罵声を浴びせる争議の現場、貧困が抜け落ちた人権課題、閉塞に穴が開く奇跡のような場所……。これが、今の日本だ。草の根の活動家たちを訪ね歩き、言葉を交わす。中流意識に覆われた「おとぎの国」を地べたから見つめたルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • イギリス在住のブレイディみかこさんが、20年ぶりに日本に長期滞在し、非正規労働者の支援、貧困者支援、母子支援、子ども支援などの分野で働いている人たちを取材する。
     「すべて国民は、個人として尊重される。」と憲法にあっても、ふだんの生活の中では「人権」というものが、どうも実感に乏しいもののように思っていた。そこで国際人権NGOの元事務局長の寺中さんの言葉はしみじみ「人権」というものの意味を感じさせてくれた。「お金があるならお金を使いなさい。友達がいるなら友達に頼りなさい。体力に自信があるならそれを駆使して頑張ればいい。でも、それが全部なくなって頼るものがなくなったとき、そこにある蓋が人権です。」自分が何もない状態になってもそこにあって、何もない状態の自分も受け止めてもらえるもの。
     なんだか肩の力が抜けて、ほっとする気がした。
     それが社会の中でのどんなことと結びつけてどうしていくべきかを知ることはまだまだ課題ではあっても、身近な人たちと接する中でも、「人権」を考えるもとになる言葉だったと思う。
     エピローグのカトウさんの話には驚いた。世田谷の自主保育の場でこんな光景が見られるとは。
     

  • 本の内容とは「反緊縮」以外関係ないけど、読んで思った感想。
    確かに最近はSNSでも政治の話をするのは、イケてない感が有るし「そんなん期待したって仕方ないやん」という雰囲気がある。
    諦めというか呆れというか与野党のなかで与党が少しはマシ、というだけで政権を握っている。
    なぜ「反緊縮」という誰にも受け入れやすい主張を野党はしないのだろうか?
    最近、山本太郎がMMTで金刷って配れって言ってるけど、もっと普通に教育予算とか貧困対策とかを反緊縮の立場で、しっかりやれって主張する政党が有っても良いのに。
    立憲とか共産党とか「経済は大事ですよね、国民の皆さんの暮らしを守ります」とか言って「モリカケがー」とかやってれば選挙で勝てるわけない。
    維新は緊縮大好きで大阪の医療崩壊の土台を作った張本人だし。救いが無いなあ。

    Amazonより/////////
    やけくそのパワーで労働者階級が反乱を起こす英国から、わが祖国へ。
    20年ぶりに著者は日本に長期滞在する。
    保育園で見た緊縮の光景、労働者が労働者に罵声を浴びせる争議の現場、貧困が抜け落ちた人権課題、閉塞に穴が開く奇跡のような場所……。
    これが、今の日本だ。
    草の根の活動家たちを訪ね歩き、言葉を交わす。
    中流意識に覆われた「おとぎの国」を地べたから見つめたルポルタージュ。

  • 他の国と比べることで見えてくる日本があって面白かった。。


    日本人の政治や社会問題に対する無関心は、教えない考えさせない教育の問題だと思ってたけど、その根底に人権に対する意識の違いがあるんだと書いてあって、なるほど!!と思った。確かに、日本には支払い能力のないものは人権を主張するな的な空気がある。宗教や歴史の影響も大きいだろうけど…とても納得した。

    でも人権の意識って根深い話。わたしも子どもに対して選択の余地を与えず親に従って当たり前でしょ!みたいな怒り方することがあって、それって子どもの人権侵害してるってことだなぁと反省。わたしもしっかり日本的な人権の考え方に染まっているなぁ。

    あとは保育園の章も興味深かった。


    これから少子高齢化が進んで、さらなる問題がたくさん出てくる。日本のこれからはどうなるのだろう。未就学児からの教育が大切になってくるんだろうなぁと思った。



  • イギリスで実際に保育士をしている作者、20年振りに日本へ帰国しての取材から、まさに生活者の目線で、日本とイギリスの政治、行政、保育環境から貧困、格差、ひいては人権意識まで、その違いを論じていて、多くの事を感じ、学んだ。
    以下それらのポイントを列挙。

    ・ミクロからマクロへ、手元の出来事から政治へ、半径5メートル内で起きていることを国会に持ち込めということだ。なぜなら、いまはマクロをやっている人たちにミクロが全然見えていない時代だから。

    ・新自由主義とグローバル資本主義の結果として、もはや世界は「右」と「左」ではなく、「上」と「下」に分かれてしまった。

    ・「中東やアフリカから欧州にせりあがって来ている人々は、資金、英語力などのスキルと能力、危険に晒される移動の旅に耐えられる体力と気力を持ったひとたち」で、「欧州の競争社会で疲弊した人々」は、そんなニューカマーを「仕事を取られる」「自分はあの人たちに負けるかも」という危機感を抱く。トランプ現象やブレグジットに通底しているのは、こんな「下」の人々の排外的思想がポピュラーとなった正にポピュリズムなんだろうか。

    ・日本とイギリスの保育士の配置基準の違いはヤバい。保育士1人で面倒見る子供の数:0歳児=日本3人(イギリス3人)、1歳児=6(3)、2歳児=6(4)、3歳児=20(8)、4歳児=30(8)、5歳児=30(就学で対象外)。特に3歳児からの差が大きく、これによって保育士が子供に対してしてあげられる事の差が大きくなる。日本では(イギリスの保育士である著者が見て)「積極的に子供たちと何かをしているというよりは、何事も起こらないように全体を監視しているという感じ」なのに対し、イギリスでは保育士の資格取得コースにおいて、決断力とは後天的スキルであり子供に失敗も含め経験を積み重ねる事の重要性だったり、創造力とは「他人とは違うことをやってみたい」と思うところから目覚める、といった事を学んで実践している、という。この差は大きい!

    ・「幼児を大人の経済活動の邪魔になる厄介者と見なす政治」と、「人間の脳がもっとも成長する重要な数年間を生きている小さな人々として幼児を認識し、社会全体で彼らを支え、国の将来を担う人たちのポテンシャルを最大限に伸ばすために投資する政治」。日本の保育環境(考え方・政策・施設とその設置環境・監督行政・法律の有無などなど)は前者、イギリスは政権によって変化あるも後者なんだそうで、これは実に残念過ぎる現実。

    ・横浜のドヤ街を回った著者の感じる横浜とイギリスのホームレスの人たちの違い。横浜のホームレスは「別に酒臭い息をはいてふらふらしているわけでも、充血した目でへらへら笑っているわけでもない。まじめにひっそりと真冬の夜の路上で寝ている高齢のお爺ちゃんたちだった。〜〜彼らは働いても布団の上では眠れないのだという。」

    ・人権意識の日本とイギリスの違い。「そもそも、著しい貧困は人の尊厳を損なうものであり、そのことを社会が放置することの人権的な問題は教えられていないのだろうか。〜貧困をつくりだす政治や経済システムもまた人権課題なのである。」「英国人にとって「貧困の時代」は「貧しくとも民衆が粛々と生きた健気な時代」ではなく、「民衆が踏み躙られたていた間違った時代」なのである。」

    エピローグにて、ここ迄は日英の保育問題周辺の法律や制度で、どちらかというと日本のそれが未整備で足りていないのではとの論調で来ていた作者が、法や制度と無関係に運営されているというイギリスではありえない「自主保育」の会 野毛風の子にて、加藤さんというホームレスの人と子供達とが戯れそれを遠巻きに眺める母親たちという図を見て、感極まってしまう場面は実に印象的だった。

  • 本屋大賞のノンフィクション部門で大賞を取られた事で一気に有名になりました。僕も前から知っているわけではなく、去年「子どもたちの階級闘争-ブロークン・ブリテンの無料託児所から」を読んで、非常に感銘を受けたのが最初でした。
    地べたからビルの隙間に覗く青空を指し示すような本で、硬派ながら母親の強さと優しさが感じられる名著でした。
    大賞を取った「ぼくはイエローで~」はエッセイに近いくらい読みやすい本で、感動的かつユーモアあふれる本です。
    そして本書は日本にスポットを当てた貧困、子育て、労働闘争への思いを綴っています。自身の考えだけではなく、実際に取材をして落とし込んでいるのですが、やはり英国と比べて日本の貧困層のおとなしさが特に気にかかるようです。
    本書を読んでいて思ったのは、日本は国民自体が「自己責任」の名の元に弱者を排斥しがちではないかという所です。
    貧しいのは怠けているからだ、という古来の思想が根深く残っていて、西洋のように生きていること自体が貴いという発想にならないのは思い当たります。
    同じ日本に居て、庶民として生きているものの、階級闘争というようなことをまず目にすることがありません。西洋ではミュージシャンが政治的な考え方をオープンにすることが沢山ありますが、現代の日本でミュージシャンが政治的発言をするとファンから叩かれる為黙り込まなければならない状況です。これはパンクを生み出した米国、パンクを発展させた英国では考え得られない事でしょう。
    民族のカラーがあるので何もかも他国と比べる必要はありませんが、日本人は自己規制的に自らを縛り上げる傾向がありますよね。
    日本人であることを自覚させられる本です。

  • 地元の書店で購入。ぼくはイエローでホワイトで…が面白かったので。

    この方の本、政治的社会的な面が分かりやすく勉強になる。そして何より、幼児2人を保育園に預ける働く母として、英国の保育士としての保育に関する記述が非常に興味深い。

    「日本の反緊縮財政は保育園からはじめよう。」(p151)、完全に納得。同意。イギリスには病児保育という概念が無いという記述にも勇気を貰った。
    私自身、病児保育を利用する気は無いので。でも、会社は病児保育やお迎え代行ベビーシッターの費用の助成とかにやたらと力を入れていて(有難いことではあるのだが)、制度が充実しているが故に「病児保育を利用せず自分で家で見るために休む」ことに対するハードルが上がるのも確か。自信を持って、ポリシーとして病児保育を利用しなくても良いんだ!と肯定された気がした。

    「ミクロからマクロへ」の視点が日本の現場のプロに欠けているという指摘も興味深い。
    政治に対して健全に積極的に考え、論じ、行動できる若者はどうやったら育てられるのかな?

  • 新型コロナウィルスへの対応を巡って、連邦政府を批判した州知事に対して、大統領が同知事に対して「仕事しろ」とツイートしたと聞いた。ちょうど本書の「キャバクラユニオンとネオリベ」読んでいる時で、たまたまの偶然とは思うし、本書の内容とニュースは少し筋違いかもしれないが、ネオリベ信仰者の常套句なのだろう。分断であることには変わりはない。

  • 話の内容が保育士関連は思っていたより少なく英国の政治内容が多く、無知の私にはとても難しく読み進めることがとても難しかったのが正直な気持ち。

    しかし、英国での貧富の差。区別がはっきりと土地により分かれており所得による教育への差別は日本よりも差があることを知った。
     イギリスは福祉面がとても手厚いと思っていた。
    日本所得が高い家庭、低い家庭が同じ施設で育ち同じ保育、教育を受けている。しかし、イギリスでは生活区域自体がきっぱり分かれているのだとか。

    また、人権が軸に話が進められ、人権運動について英国と日本の違いなど語られていた。

    ゆっくり読み進め長い間ストップしていため内容がおぼろげになっておりこの本からの気づきはたくさんあったはずなのに忘れてしまった。
    とても残念。
    勉強してもう一度読んだらまた違う面白さがあるはずだがなんせ難しかった。。

    ブレンディさんの「僕はイエローでホワイトで時々ブルー」を次は読む。たのしみだ!

  • 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』よりかなり難しくて、半分ぐらいしか理解できなかったと思う。けど、言いたいことはビシバシ伝わってきて、「ホント そう思うわ~」という部分多し。

  • こちらも一章だけ読んで図書館に返した。

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著者プロフィール

ブレイディ みかこ:ライター、コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じて渡英、96年からブライトン在住。著書に『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』(ちくま文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)、『他者の靴を履く』(文藝春秋)、『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など多数。

「2023年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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