ワン・モア・ヌーク (新潮文庫 ふ 58-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101017815

作品紹介・あらすじ

「核の穴は、あなた方をもう一度、特別な存在にしてくれる」。原爆テロを予告する一本の動画が日本を大混乱に陥れた。爆発は 3 月11日午前零時。福島第一原発事故への繫がりを示唆するメッセージの、その真意を政府は見抜けない。だが科学者と刑事の執念は、互いを欺きながら“正義の瞬間”に向けて疾走するテロリスト二人の歪んだ理想を捉えていた──。戒厳令の東京、110時間のサスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • オリンピックを控えた3月11日に東京で核テロをやろうというお話。物語は核物質が東京に持ちこまれてからの、5日間を描いています。いろいろな人物の思惑が交錯しますが、淡々と進んでいく時間が緊張感をあおります。
    藤井さんの小説は技術者目線のお仕事小説の傾向が強いですが、本作はサスペンスに徹している感じ。テーマについては、なかなか考えさせられますね。

  • 現代最高のエンタメ作家による、現代最高のエンタメ小説、とまでは言えないか、傑作なのは間違いないけど。
    山周賞あるかな。

  • ちょっとイライラすることがあったので、手元にあった小説を読んでみました。
    結論から言うと、こういうときに読むべき小説ではなかった、笑。
    とういうのも、テーマや著者の問題意識がが重い、重い。。

    さらに今現在のロシアのウクライナへの侵攻のタイミングで、
    ロシアが核を使うぞという脅しをかけている状況では、
    まさしく核や放射能の危険性を伝えるタイムリーな小説と言えそうです。

    ちょっと重かったけれど、著者は核や放射能について正しく認識してほしいという
    問題意識を持っていたのではないでしょうかね。
    そういう意味では、著者の目的は達成できている小説家と思います。

  • 被爆者として、核の恐怖を世界に知らしめたいムフタール・シェレペット。
    途上国の悲惨な現状を先進国に知らしめるため、使命に燃えるイブラヒム。
    放射能のプロフェッショナルとして、事態の収束にあたる舘野とそのチーム。
    日本国内でのテロ行為を未然に防ぐために奔走する、警視庁公安部。

    そんな彼ら/彼女らを全て出し抜いて自らの想いを遂げようとする、最強最悪のテロリストにして美貌の革命家・但馬樹。

    エモい。その一言に尽きます。
    作中世界は、2020年3月6日から同10日のたった5日間を中心に、もの凄い密度で展開していきます。現実の東日本大震災の9年後、未だ生まれ故郷に帰還し得ていない人の想いをベースに、現実の2020年世界とそれほど齟齬のない、地続きの世界観の中で物語が進んでいきます。人に寄って様々な解釈が可能だと思いますが、鴨的にこの作品は「鎮魂」を目的としたものであり、第三者がとやかく言っても前に進まないものであると理解しました。

    藤井作品の特徴である、「登場人物が全員優秀過ぎて鼻白む」側面は、この作品においても顕著です。誰もが自分の信念に基づいて善かれと思ったことをしているだけなのに、あらゆる物事が悪い方に向かってしまう、この悲劇。
    特に、物語のドライバーである但馬樹の行動原理が、鴨にはどうしても理解できませんでした。私費を投げ打って地元・福島の除染を果たし、「戻っておいで」と呼びかけた友人がそれをプレッシャーに感じて自死を選択した、それを「自分の責任ではない」と納得するためだけに首都圏の臨界汚染を目論んだ・・・という展開が、ただの自己愛にしか感じられず、物語全体の説得力が一段下がった感じ。まぁでも、この辺は極めて主観的な受け止め方なので、それぞれの想いがあってしかるべきだと思いますし、それを否定できる人はいないと鴨は思います。

  • なんて気高い…!
    著者の誇り高い仕事ぶりに、ただ涙が流れます。
    万人に受ける小説ではないかもしれないけど、できるだけ早く(できれば3月11日より前に…!)、多くの人に読んでほしいと思う秀作です。

    2020年の東京、3月11日に原爆テロが予告された戒厳令下という、聞いただけでギョッとなる設定。刑事、科学者、テロリスト、それぞれの線が最初は群像劇的に動いていき、やがて絡み合って…というストーリーです。
    ※文庫の帯にも解説にも「爆心地」が書かれてしまっていたものの、そこまでネタバレ感はなく。
    読み終わったばかりの今思うのは、著者から送られているエール。東京を守る人々に対して、核に傷つけられた人々に対して、そして福島の人々に対して。

    あと1ヶ月でこの小説はひとつの区切り(悪く言えば、賞味期限)を迎えてしまう訳です。初出の雑誌連載は2015年から2017年だけど、この文庫は2020年1月29日に出版。どうしても2020年に出版したかった、ということなのでしょう。
    現実の世の中はコロナウイルスのせいで別の不安に包まれてしまっていますが、本著が持つ希望の力は、全く色褪せないもの。3月11日が良い日で、2020年が良い1年になりますよう。

  • 解説にも書かれているが、この小説はリアリズムである。であるが故に非常に怖い。現実に起こり得る出来事が描かれている。
    東京オリンピックに向けた中で核爆弾によるテロが計画され実行されていく。現実ではコロナにより延期されているが、小説内では予定通り2020年に実施される予定となっている。
    テロリストはISの生き残りと日本人デザイナー。日本人デザイナーの動機は、日本に核の説明責任を果たさせる事。
    デマの廃絶は現実世界でもまだまだだが、説明する事でしか解決出来ないと思う。

  • 近未来とも言えない"今"を描いた本作はまさしくリアルタイム小説で、来週になってしまえばもう現実では過去の物語になってしまっている。2020年3月11日を迎える直前の今、この作品を読めてよかったと心から思う。

    イスラム国の自爆テロに巻き込まれて一命を取り留めたIAEAの職員をはじめ、この物語で極めて読者に近い存在に感じられる刑事たち、東京を核の恐怖に陥れたいイスラム国の元幹部、核を廃すために核爆撃を企てる被爆者の女、フクシマのデマで死んでしまった友人のために核爆弾を作り上げた天才の美女。
    複数の登場人物たちそれぞれの思惑と推理と賭けが重なったとき、すべては東京オリンピック開催直前の、新国立競技場に集結する。

    厚めの作品かつ重めのテーマだが、決して飽きさせないテンポで進んでいく物語は非常に映画的で、個性的な登場人物たちの姿や、核の恐怖に晒された東京の様子、クライマックスで描かれる致死量の美しさが、映像となってありありと目に浮かぶようだった。むしろリアルすぎて3Dプリンターを駆使すれば20%濃度の核燃料でも核爆弾が作れるのではないかという気さえしてくる。但馬さえいれば。

    その方面の専門家なのかと思うほどにイスラム国や核に対する作者の豊富な知識量には脱帽した。エンタメ小説としてかなり面白く、他の作品も読んでみたいと思うほど惹きこまれたのは久しぶりだ。

    あまりにも陳腐な発想なので書くのを躊躇うが、東京、原爆というだけでなんとなくシンゴジラを想起してしまった。映画化したら面白いと思う。

  • 2020年3月のオリンピックを控えた東京を舞台に、核テロリストと攻防を描いたサスペンス。

     テロリストの三人は、それぞれの理由から、微妙に異なる状況を作り出そうとするが、それゆえ、思惑が絡み合い事態は二転三転する。一方で、それを追う、警察などの組織も、テロを防ぐという同じ目的を追いながら、それぞれの立場のしがらみや情報の欠落に翻弄される。


     登場人物のバックグラウンドを通じて、読者は、過去と現在における核による被害の対比構造に気づかされる。
     核保有国の初期のウラン採掘に関わった祖先や、核実験に影響を受けた自分自身や家族、それは過去の為政者の「知らせなかった」罪だ。また、一方で、また別の主人公の悩みや苦しみは、3.11のデマや風評被害といった、「正しく理解しようとはしなかった」罪を、現在の我々に突きつける。

     動機の純粋さと、その実現方法の精密さと大胆さ、そして鮮やかさに、読者は目を奪われる。そしてやがて、それらを通じて、著者が訴えようとしているものをくっきりと浮かび上がらせる。これは、物語の中の犯罪者と著者の「共犯」関係だとも言える。


     こういった重いテーマを扱いながら、一方で、登場人物の動作を生き生きと描く。そしてまた、彼らのテクノロジや人種に囲まれた生活を、正確に、そしてポジティブに描く。これらは、我々の時代も良いものにしていけるのだという希望を与えてくれる。

     扱う題材に対して、なんとも言えない爽やかな読後感だった。2011年から9年。この期間の一つの区切りとして、この時代に生きたすべての人に読んでほしい本だと思った。

  • 直訳すると「もう一度核を」。恐ろしいタイトルである。
    原爆テロを予告する動画が日本政府に届けられた。その時に向かって、各国の組織が、日本の警察が動き出す。
    緊迫感溢れるストーリーである上に専門用語がバンバンと飛び交うハードなストーリーだ。かつてテロリストが米国内で核テロを企てる『ピースメーカー』という映画があったが、あれよりもずっとハードで、おまけにサスペンスフルだ。
    最初こそ普段触れていない言葉に面食らうかもしれないが、そこを越えてしまえばあとはサスペンスに身を委ねればいい。緊迫感溢れるサスペンス小説だ。

  • 現代東京、しかも時は2020年3月。
    東京オリンピックを目前に控えた国内の混乱を具体的に描写しており、舞台描写はこの上なくリアル。
    対して、そこで展開されるイスラム圏やCIAを巻き込んだストーリーは壮大で。
    このリアルさと壮大さのギャップにイメージを刺激される。

    突っ込み処はいくつもある。
    例えば女犯人、超人過ぎ問題。
    この人が本気出したら大統領選に出馬しながら自前でロケットつくりそう。
    また例えば警官・科学者ペアの、察し過ぎ問題。
    あの情報範囲からテロ犯の動機と分裂を見抜くのは第六感に近い。
    世界を混乱に陥れ、日本経済に壊滅的ダメージを与えた犯人に、この人たちは事件による死者の「数」を日常のそれと比較して慰めたりもしている。
    余波を思うと絶対そんな場合ではない。

    ただこうしたザラザラした違和感を呑み下して先へどんどん読み進めるほど、魅力的な物語ではあった。

    その魅力の主軸になっているのがおそらく、先述のリアルさに込められたメッセージ性。
    3.11以降の原発問題や9.11以降のイスラム圏テロリズム勃興、隣国での核実験と人権侵害など、現代日本が抱える社会問題が多く織り込まれている。
    読み進む程に、「我々日本人」は、「日本人だからこそ」、核・原爆を遠い国や過去の問題とせず、原発問題を過ぎ去った出来事としないで、学び続けねばならないと思いを強くする。
    読後に余韻を引く物語。

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著者プロフィール

藤井大洋:1971年鹿児島県奄美大島生まれ。小説家、SF作家。国際基督教大学中退。第18代日本SF作家クラブ会長。同クラブの社団法人化を牽引、SF振興に役立つ事業の実現に燃える。処女作『Gene Mapper』をセルフパブリッシングし、注目を集める。その後、早川書房より代表作『Gene Mapper -full build-』『オービタル・クラウド』(日本SF大賞受賞)等を出版。

「2019年 『AIが書いた小説は面白い?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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