- 本 ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101018829
作品紹介・あらすじ
翻訳家の桐子(とうこ)は大工の伊助と深い仲。ただ彼は、生き別れた義妹が一番大事という。ならば私は何だと桐子は憤り、偶然行き着いた卜い家(うらないや)で彼の本心を探る(「時追町の卜い家」)。お宅は平穏ねと羨まれる政子。果たしてそうか、近所の家庭を勝手に格付けし、比べ始める。それが噂になってしまい……(「深山町の双六堂」)。“占い”に照らされた己の可能性を信じ、逞(たくま)しく生きる女性たちを描く短編集。
感想・レビュー・書評
-
『かたばみ』が良かったので、木内さん二作目。このお話も良かった。
占い師に頼るようになった女性や、自分が占い師になった女性が出てきます。
少し前の時代のお話だからというのもありますが、話し言葉や表現が丁寧で美しいです。読んでいると、こちらの心も綺麗になりそう。
色々と思い悩みながらも、何かがふっとわかって、そこから自分の心に向き合えて、賢明な判断をして前に進みだす女性の姿が描かれています。そんな風にできたらなぁと憧れます。
「北聖町の読心術」に出てくる、心を読む“都”という女性の占い方は特に印象に残りました。こんな方が実際になったらぜひ占ってもらいたい。
心に残ったところ
「屑待祠の喰い師」より
○人に教えるってのは、自分が苦労して技をものにするからできるんです。あそこでこうしとかないとしくじるぞ、ここで一手間加えるとうまくいく、ってね。
○職人がうまくできなかったり、しくじったものは、父が黙ってやり直した。それを見た職人たちは走り、恐縮し、懸命に技を磨いた。
職人たちは、研鑽しなければいづらくなることを肌で感じていた。
口ではなく、己の態度で人の仕事を正すというのが、最も尊いことなのだ。
○もちろん結果としてしくじることもあるでしょう。けれど、そうなった時、決して開き直ってもごまかしてもならないんです。ごまかす事は何も生みません。それどころか、自分まで見失ってしまう。
「北聖町の読心術」より
○女性というのは、自分で勝手に不安を作り出しては、突然相手に全てをぶつけて、仲を壊してしまう、ということをよくなさいます。ですから、ご相談にお見えになる方には、常々、不幸上手にならないように、と申し上げているんですよ。
○なぜ他者との関係でそこまで不安になるのか。それを克服しない限り、誰と交際しても同じことの繰り返しになるでしょう。
○人の心はどうにもならなくて、そのどうにもならなさには、様々なことが絡んでいます。生い立ちや、性格、今まで出てきた体験や。ですからときには、不可解をやり過ごす、ということがあって良いように思うのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「新潮文庫の100冊」に入れて欲しいと思うくらい良かったです。たまに100冊を超えている年があるので、中の人がコッソリ追加してくれても良いのでは…などと思ってみたり。
内容は、“占い”にハマってしまった女性たちを描く全7話の短編集。とはいえ、以下にあらすじを書いておきますが、占いだけにあらず。人が何かにハマって行く過程の恐ろしさや、他人と比較して一喜一憂することの無益さがとてもよく描かれていて感心しました。
各短篇は一話完結ですが、別の話しに登場した人が再登場する話しもあります。以下が参考になれば幸いです。
1話.時追町の卜い家
家の修繕をきっかけに、翻訳家で独身の桐子が年下の伊助と半同棲生活を送ることに。しかし、彼は行方不明の義理の妹がいて、仕事の合間に探し歩く日々。彼女は、彼が妹を愛していて、いつか自分のもとを去ってしまうのではと不安になります。ある時、彼の気持ちを知りたい一心から何度も占いを頼るうち、次第に自分を見失って行きます…。
2話.山伏村の千里眼
山奥から大叔母の家に出された16歳の杣子。
ある時、彼女は大叔母を訪ねてきた女性の相手を頼まれ、適当に助言をして帰しました。一月後、助言が当たったとの報告に伴い、次第に千里眼との噂が広まって、見知らぬ女たちが相談に来るようになりました。そんなある日、良い結果しか受け入れられない女性が現れ、何度も占いにやってくるようになります…。
3話.頓田町の奇聞館
知枝は、学業不振から翻訳家の桐子家(1話の女性宅)に英語を教わりに通っていました。彼女は、なぜか仏壇に飾られた(亡くなった)男性に一目惚れして、お見合いに6回も失敗してしまいます。ある日、彼女は亡くなった人と会話ができるお婆さんに、遺影の男性を呼び出してほしいと頼みます。そこで出てきた男性は、驚くべき性格の持ち主で…。
4話.深山町の双六堂
平穏で普通の家庭が一番と思っていた主婦の政子が、悪童で名高い近所の息子の進学校合格を耳にします。別の日には、夫の同僚の妻が画家として活躍している話を聞き、自身は平穏ではなく平凡だと気付きます。そこで、近所の家庭を評した考課表を作り、自身の立ち位置を調べるうちに、人生双六まで作成してしまいます。果して双六の上がりは如何に…。
5話.宵町祠の喰い師
女学校を主席で卒業し、薬剤師として働いていた綾子(2話に客として登場)が、大工頭の父が亡くなったことを期に家業を継ぐことに。男性優位な肩身の狭い会社勤めから逃げられましたが、どうにも素行が悪い職人がいて頭を悩ませる日々。そこで、他人の悩み事を、ただ聞き入ってくれる喰い師という存在を知り、彼女はそこを訪れて得た結論は…。
6話. 鷺行町の朝生屋
恵子(2話に客として登場)は、子宝に恵まれない事を、親戚や子持ちの友人たちに無遠慮に聞かれることに辟易していました(2話と5話に登場した級友の綾子は別です)。ある日、庭で猫を追いかける4歳のゆうたくんと出会い、その時の楽しい思い出が忘れられません。そんな折、ある新聞記事を見たことから、朝生屋という写真そっくりに絵を描くお店に出かけます…。
7話.北聖町の読心術
佐代は著名な画家(4話の政子の夫の同僚の奥さん)の絵画教室家に通っていました。彼女は容姿に自信がありませんでしたか、そこに出入りしている画材屋の武史郎に誘われて交際することに。ある時、彼には以前婚約者がいたとの噂を耳にします。容姿に自信がない彼女は、彼が気休めに自分と会っているだけなのではと疑心暗鬼になります。そこで読心術に長けた女性に、彼の心の内を見てもらうことに…。 -
翻訳家の桐子は大工の伊助と深い仲。だが、彼は生き別れた妹が命よりも大事だという。
ならば、私の存在はいったい何なのか。桐子は憤り、偶然行き着いた卜い屋で彼の本心を訪ねる(『時追町の卜い屋』)。
占いと女性をテーマに書かれた短編集です。
ある女性は恋しい相手の心を知るため手当たり次第に占い屋を訪ね歩き、ある女性は些細なきっかけから占い師として様々な人の相談を受けることになる。
ある短編に出ていた登場人物が、別の短編にも出ていたりしていて、それぞれ独立した話ではありますが、連作短編集のような雰囲気もあります。
自分や他人の気持ちに思い悩み、苦しみ、占いに縋る女性たち。時に間違い回り道をしても、最後には自分の進むべき方向へ正しく踏み出し、一回り成長したようで、こちらの気持ちもすっと軽くなるような素敵な一冊でした。
心を軽くし、心の闇を晴らし、ある時は人を救うきっかけにもなる「占い」。
私は店舗でもテレビや雑誌でも、占いはほぼ見たことなかったのですが、適切な付き合い方をすればそう悪いものでもないんだなあと、何だか占いに対する偏見が取り払われた気分です。
一番気に入った作品は、『宵待祠の喰い師』。棟梁であった父から継いだ組と職人の対応に苦慮する女性の話。こちらはちょっと個人的に身につまされる話でもあり、彼女のような強さが私も欲しいなあと羨むところでもあり。
また、『山伏村の千里眼』は、もう本当に切実に! ここまでの洞察力が欲しくて仕方ない。
なお、占星術師の鏡リュウジさんと作者さんの対談が巻末に載っています。
個人的に、16歳頃から少女誌で占星術コーナーの連載を持っていたという鏡リュウジさんの経歴に驚きました。そんな年齢でも雑誌連載って持てるんだ……!? -
「占い」をテーマにした7つの連作短編。自分でも経験があるが、占いに傾くのは、何かしら不安を感じていて、今後の道標が欲しいとき。ただ、気を付けないと負の連鎖に巻き込まれるがごとく、自分を見失い続けてしまう。
本作の舞台は大正時代あたりか。時代は違えど、女達の胸に巣くう不安は今と変わりがない。恋人や夫に対する疑心暗鬼。よその家庭への嫉妬。「隣の芝生は青く見える」という諺まんまの状況なのに、被害妄想的に突っ走ってしまう。
いやぁ…自分のことかと冷や汗かきながらページを捲りました。占いの結果にとことん翻弄され、されまくった末に見えてくるもの。その「我に返る瞬間」に、何を掴むか、なんだよなと。
占星術師の鏡リュウジ氏との対談はとても読み応えがあり、占いという世界の奥深さを改めて知った。ちょっと心が溺れかけたときの浮き袋のように、うまく付き合っていきたい。深入りしすぎるのは怖いけど、何だかんだ言いながらも占いが大好きなのだ。 -
人間の業の深さを突きつけられる1冊。
執着する気持ちも占いにすがりたくなる気持ちもよくわかる。わかるだけにそんな自分をごく客観的に見えてゾッとする。何かに頼りたくなったら縋りつきたくなった時に読み返したい。きっと冷静になれるはず。 -
時代は大正頃だろうか。いろんな占いに、未来の答えを求めてやってくる女達のストーリー。
占いって、万事がうまくいっている時は頼ろうとはあまり思わない。身近な人達に相談することを選ばず、赤の他人による”占い”という確証がないものに(一般的に言って)答えを求める女達。この小説のように、今も昔も女の思考は変わらないのだろうか。
占いとは関係ないけれど、登場する占い師で(占い師というか喰い師)唯一の男性が言った言葉、『他社の理念というのは、それがどれほど尊敬に値するものであっても、容易になぞれるものではありません。他者の考えを糧とすることは大切ですが、よほど腑に落ちない限りは、そのまま受け継げばいらぬ苦しみを生みます。やはり自分の内から純粋に湧いた気持ちでなければ』というのが心に響いた。 -
執心とはこう言うものだと、読み進めていくうちに自分もどんどん沼にはまっていくようなリアリティを持った物語だった。そんな中で、占いやまわりの人とのやりとりもきちんと描かれており、第四の壁から眺めている読者としては客観的な意見として情報は入ってくるので演劇を見ているようで楽しめた。
暗鬼に囚われていると都合のいい言葉しか耳に入らない、悪いことは「やっぱりそうなんだ」と思い、逆に都合が良すぎても疑う。もし自分が次にこのループにハマった時は、この作品を読み返すようにしたいと思う。思い出せるかな。 -
早く読み終えたいというようなねばねばと嫌な気持ちを描写している話があったり、
なんだかすこし戒めや心の成長のようなはなしもあったり
面白かったな
特に喰い師の話が好き
著者プロフィール
木内昇の作品





