憑神 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101019246

作品紹介・あらすじ

時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった
    落語のような設定・展開から、最後は武士としての矜持、生き方、死に方を語る物語。

    ストーリとしては、
    幕末の江戸。
    戦国時代に徳川家康の影武者としての役割を担った先祖をもつ下級武士の次男、別所彦四郎が主人公。
    ある夜、酔いに任せて小さな祠に神頼みしたところ、実際に現れた神様が貧乏神、疫病神、そして死神。
    また、この神様たちの人間界の外見が災厄と全く反対で面白い。
    貧乏神は裕福な商人
    疫病神は横綱級の力士
    死神はいたいけな幼女

    それぞれの神様からの災厄を受けながらも、「宿替え」手法を用いて、ほかの人に災厄をふってしまいます。
    しかし、死神の災厄の「宿替え」はさすがに人にふれない。
    この神々との掛け合いが落語のようにドタバタしながらも、後半の死神との関係の中で「死に方、生き方」「もののふ」としての在り方を示していきます。

    「人間はいつか必ず死ぬ。だが、限りある命が虚しいのではない。限りある命ゆえに輝かしいのだ。」
    「おまえも、九頭龍も、伊勢屋も、神々はみな力がござるが、人間のように輝いてはおらぬ。死ぬることがなければ、命は決して輝きはせぬのだ。」
    そして、死神の「宿替え」を鳥羽伏見の戦いで一人逃げ帰ってきた慶喜に振ることを提案されるも、彦四郎はそれを拒否、影武者としての本懐を成し遂げることを選択します。

    「限りある命が虚しいのではない。限りある命ゆえに輝かしいのだ。武士道はそれに尽きる。生きよ」

    胸が熱くなります。

    お勧め

  • 武士としての「生き方」を書いた小説でした。
    3つの邪神(貧乏神、疫病神、死神)と対しながら物語りはすすんでいきます。

    一番のテーマとなるセリフに
    「人間はいつか必ず死ぬ。だが、限りある命が虚しいのではない。限りある命ゆえに輝かしいのだ。」
    その後の文章で
    ”人間が全能の神にまさるところがあるとすれば、それは限りある命をおいて他にはあるまい。限りあるゆえに虚しい命を、限りあるからこそ輝かしい命となせれば、人間は神を超克する。”
    という所だと思います。

    こういう本は刺激を与えてくれます。
    映画も是非観てみたいと思いました。

  • 映画はコメディのイメージがあったんだけど…(内容は一切おぼえてない)
    そのノリで読み始めたからちょっと違う雰囲気にアレ?と思ってました。勝手に!勝手に私のイメージね!笑

    でもクスッとあり最後は涙あり、浅田次郎節なのかなぁ〜。
    最初はあの独特の口調に苦戦しましたが、程なく慣れます。(言い切り)

    さて、養子先から出戻り次男坊、榎本某の出世は三囲神社のおかげと聞き、たまたま行きあった三巡神社にお参りするも、とんでもないものが憑いてきます。とんでもないです。
    第一弾・貧乏神です。
    第二弾・疫病神です。
    第三弾・死神です。(先に全部言っちゃう)

    貧乏神、疫病神は憎い人たちに宿替えさせちゃいます。秘法中の秘法だそうです。滅多にやったらだめなことでやったら怒られるけど、情をかけてやっちゃうそんな主人公です。

    己の境遇を嘆きながら、最後は武士道をきっちりとおす。
    そんな主人公でした。




    @手持ち本

  • 浅田次郎作品、お父さんが大好きなんだけど理由がわかる。時代ものなんだけど小難しくなくて、ドラマチックで、男のロマン的なものがくすぐられるんだろうなと思う。出てくるキャラクターも魅力的だし、感動するところもクスッと笑っちゃうところもあって、充実した読書体験だったなと思える要素が盛りだくさん。

  •  時代にあわせた独特の会話に始めは戸惑ったものの、段々と慣れ、物語に引き込まれていった。

     主人公:彦四郎は、運に見放された男であった。神頼みをきっかけに貧乏神・疫病神・死神に取りつかれてしまう。

     「神頼みがさらなる不運を招く」驚く程波乱な展開。貧乏神・疫病神・死神の独特なキャラクター。面白くてあっという間に読破できた。

     災難に遭い続けながら、「何が一番大切なのか」を問いかけながら身の振り方を決めていく彦四郎。その真っすぐな姿勢が好きになった。

     死神に時間が欲しいと頼み込む場面が、一番心に残った。「人間は限りある命ゆえに輝かしい。自分にも輝きが欲しい。命に限りのない神に自分の思いをわかってほしい」というメッセージが素敵だと思った。「努力し続けても不遇な人生を、人は認めてくれなくとも、天は見ていた」そう確認でき、最終的な彼の決断には感極まった。

     コメディータッチでありながら人の気持ちを細部まで書き上げている作品だと思った。笑いと感動、両方の要素が楽しめた。また、幕末という時代が学べ、時代小説に興味がわいてきた。


  • 好きな生き方の話。
    日本人っぽくていい。

  • たとえ貧しくてもどう生きていくか。武士とは、男とは、人生とはなんたるかを考えさせてくれる。面白くて、泣ける時代小説。さすがは直木賞作家!当たり

  • +++
    時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。
    +++

    文武両道に秀でており、人柄も申し分ないのに、不運につきまとわれているような彦四郎だが、ある日、河原で朽ちかけていた祠に手を合わせたばかりに、さらに厄介なものに憑かれてしまう。貧乏神、疫病神、死神、という何とも豪華な(?)ラインナップであるが、これがなんとも人情味があって微笑ましかったりもしてしまうのだが、災厄はしっかり身に降りかかり、難儀する。ただ、宿替えなどという奥の手を使い、なんとかかんとか乗り越えていくのもまた一興。彦四郎のキャラクタの魅力と、周りの人たちの魅力、そして、時代の変化と武士の葛藤。さまざまなものが織り込まれて充実した一冊になった。

  • こんな神に取り憑かれてはたまらない。
    取り憑かれるのがお役目に真面目であろうとする武士なら、取り憑く方も役目を怠けたりはせぬ神であった。
    とはいえ、ゆるさも見えれば情に揺らぎもする。
    両者人間同士だったなら、ひょっとしたらいい飲み友達になったかもしれぬ。

    小文吾がいい。また、いい加減であかんたれな兄様にはちょっと同情。
    宿替えなんて、この立場に立ったらどうする!?

    ほんわりとした温かさが残った。
    決して出逢いたくはないけれど、見てはみたい神々だった。

  • 今回の憑神という作品ですが、映画化もされた作品です。

    主人公の武士にさまざまな神様が憑くという物語。

    それも普通の神様ではありません。

    貧乏神に始まり、疫病神、終いには死神まで・・・

    ちょっと可哀想と思っていまいましたが、
    主人公はめげず、時に神様に立ち向かい、時に人に擦り付けw、またある時は運命を受け入れる。

    ラストでは少しジーンと来てしまいました。
    個人的には好きな作品です。ぜひ読んでみてください!

  • 貧乏神・疫病神・死神と、ひょんなことで取り憑かれるはめになった一人の武士の話。

    コメディタッチの始まりだが、ラストの結末に向かう疾走感は圧巻。

    読後、清々しい気持ちになった。

  • 読むのは3回目。時代小説だから、普段は聞かないような言葉が多いけど、そこも好き。異文化に触れているというか。
    彦四郎がおつやを受け入れるシーンは何度読んでも好きだなぁ。

  • 現在の泣ける映画・小説ブームの先駆けは浅田次郎の「鉄道員」じゃないかと思っている。
    私はそういう一連の「泣ける」モノにあまり興味がなく、どちらかと言えば冷ややかな目で見ている。この本を買ったのは妻だ。私ではない。でも、話題となってる以上読んでしまう自分が悲しい。
    途中まで読んでいてこのストーリー展開は星新一だなと思った。拝んではいけない祠を拝み、貧乏神・疫病神・死神に次々憑かれる不幸な男。
    しかし、星新一ならその不幸を幸運に変えていくスノッブな展開で終わるだろうが、浅田次郎は違った。幕末を舞台に武士道を軸として泣ける話に仕上げている。
    ただし、この展開で泣くには主人公の考える武士道の何たるかを理解せねばならない。その部分が説明的で泣くためにはその部分をしっかり読まねばならぬ。泣くことに興味がない私には苦痛だった。
    貧乏神・疫病神・死神に次々憑かれる不幸な男の話を筒井康隆で読んでみたい。そう思った。

  • エンディングはまさに葉隠の「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」で、爽やかな涙を誘う。
    物語を見事に終わらす力を持つ作家だなぁと感じた。

  • 「限りある命が虚しいのではない。限りある命ゆえに輝かしいのだ」

    腐敗と、慢性的な疲弊に沈む現代日本では
    バカ正直に真面目に暮らしているようでは、良い暮らしにはありつけない……。

    本作の舞台・幕末の江戸でも同じ。
    真面目過ぎてお人好しですらある主人公が
    ツイてない人生に翻弄されながらも
    「自分らしくどう生きるか」を成長しながら見出す物語。
    憑神に取り憑かれる主人公や
    粋な江戸のユーモアをたっぷり織り交ぜたドタバタ劇かと思いきや
    読み手に「あなたの『人間を人間たらしめる真理』は何か?」と問いかける。
    心温まるストーリ。名作。

  • 貧乏神・疫病神のあたりまでは、個人的な恨みとか怒りとかで動いていた彦四郎だけど、最後の死神に憑かれてから、まさかあんな壮大な話になるとは…。
    武士の誇りが失われていった世の中で、己の信じた武士道を貫き、死神を受け入れて生ききろうとする姿は格好良かった。

  • 浅田さんにしては全体的に中途半端な構成。どうしたのかな?
    ーーーーー
    時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった! とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。

  • 幕末の御徒士を描いた作品。時代劇への興味皆無でも面白く読めた。
    意地と痩せ我慢が美しい。
    やっぱり、漢はこうじゃなくっちゃね。

  • 同じ作者でこうも筆遣いが違うものか・・・。 朝田さんには「壬生義士伝」で散々泣かされたけど、今度は愉快な人情話だと途中まで笑みをこぼしながら読み進んでた。 でもやっぱり最後は泣かされちゃった。 彦四郎、天晴れである

  • 名古屋本棚から再読

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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