- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101020037
作品紹介・あらすじ
哲学講師の金井湛君は、かねがね何か人の書かない事を書こうと思っていたが、ある日自分の性欲の歴史を書いてみようと思いたつ。六歳の時に見た絵草紙の話に始り、寄宿舎で上級生を避け、窓の外へ逃げた話、硬派の古賀、美男の児島と結んだ三角同盟から、はじめて吉原に行った事まで科学者的な冷静さで淡々と描かれた自伝体小説であり掲載誌スバルは発禁となって世論をわかせた。
感想・レビュー・書評
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本題はラテン語で「VITA SEXUALIS」(性欲的生活)とのこと。森鴎外の前半生の性欲体験を小説に託し自伝体的に描いたもののようだ。これを収載した雑誌「昴」は風俗を乱すかどで?発売禁止になったとのこと。
男なら誰でも体験するような性欲の芽生え(!)について、自らの体験?に基づき赤裸々に描いているのに驚かせる。
ただ、本書の最後にもあるように中途半端さ感は否めず、その描写にしても大体スルーしているので、エロティックなところは全くなく、逆に物足りなさが残った。(笑)あまりにも淡々とした思い出の羅列のような記述で、あるいは微笑ましくもあり、いまひとつ入り込む余地がないまま終わってしまった感じだ。もっと言えば、むしろストイックなのではないかという内容であり、「性欲的生活」の逆説的物語だったのではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鴎外の中でずば抜けてこれが好き。
別に言っちゃえば内容なんてないけどさ、こうこういい意味での内容の無さっていうのもあるよ!小説だもん。
ヰタ・セクスアリスって言葉はラテン語なのだそうですが、すごく美しい言葉じゃない?声に出して!「ヰタ・セクスアリス!」ほら素敵。
まず思春期の男の子のギムナジウム的閉鎖性って、女の子みんな好きだと思うの。そこに出てくる登場人物が概ね醜男っていうのがまたいいよね!わくわくしちゃう。
森鴎外の書く女の人がそもそもあんまりタイプじゃないから、こういう話はすごく嬉しかった。なんて性的で、なんて耽美な童貞文学。女好きを「軟派」男好きを「硬派」って呼んじゃうとか、可愛すぎる。 -
まさか森鷗外も、この作品が100年後まで読み継がれることになるとは思ってもいなかったんじゃなかろーか。
青春小説といえなくもないけれど、女子が真面目に読むものではありません(笑)
まさに、親が自分の息子に読ませるくらいがちょうどいい本。 -
『性欲的生活=ウィタセクスアリス→ヰタセクスアリス(独語)』
本作品は、哲学の教授である金井湛君の人生における性的生活について、鴎外本人の実体験を織りまぜ、書かれている。
性欲のことについて書かれている、しかもこの小説が載った雑誌は発禁になったと知ると、途端に興味がわいてくる。際どいことを述べている部分も確かにあるが、不愉快ではない。
日本語表現の幅が本当に広く、思わず惚れ惚れしてしまった。
選ぶ言葉のひとつひとつが繊細で美しい。その言葉のかけらが鎖となって繋がるとき、フレーズはひとつの芸術にもなり得る。日本語の美しさをあらためて感じることができ、大変うれしい。 -
昭和53年10月30日 46版 再読(全く覚えて無かった。)
1909年 明治42年 発表
哲学講師の主人公が、自身の性欲の歴史をを、幼児期の体験から、淡々と語る。
最初は、発禁処分を受けた作品のようですが、文学的で内容も鴎外が発表できる程度です。
まあ、どんな文豪も経験の蓄積は重要ですよね。ちょっと、ドキドキなところは、学生寮のお話。可愛い男子は、いろいろ大変ですね。腐女子必見。 -
なかなかユーモアのある作品である。難しくもなくさっと読める。発禁となるほどの内容だったのね当時は。
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生活風俗を探求する、という意味では楽しめたし興味がそそらられたものの、性欲的生活、とはいいつつ結局日本人って「真面目か?!」と言いたくなった。
この真面目さ加減に、純文学と言われる世界が谷崎潤一郎が境界線の内側になってしまっているのだし、谷崎を超える世界が同人漫画をはじめとする「サブカル」になってしまう所以なのだろうと感じた。 -
ヰタって何て読むんだろう?から手に取った。正解はウィタ。
アリスも可愛らしいと思ったが、日本語訳はファンタジーの欠片もない「性欲的生活」でした。
鴎外の分身とも言える金井湛くんの性欲との出会いとお付き合いが朴訥と、時にユーモアも交えて書かれている。
文章にはリズムと美学があって、あぁ文芸に触れているという感じ。
これは心地良くて病みつきになる類のもの。
当時は漢詩が身近だったから、文章のリズム感に優れているんだろうなぁ。
坂の上の雲の時にも書いた気がするが、明治の人たちの勉強熱心で自身の哲学を持っている生き様が格好良い。
貧富の差や女性差別の上に築かれた上澄みの部分しか見えていないが、
若者が日本社会と自分の立ち位置を踏まえた上で、世界を見据えている溌剌とした感じが良いなぁ。
題材としては、誰がどう性に目覚めようがそれほど興味はなかったが、
程よい自虐のスパイスが効いた森鴎外史と、当時の日本が垣間見れたのは面白かった。 -
実際は新潮文庫版でなく学研から出版されている全集もので読んだ。
森鷗外といえば『舞姫』のような堅牢な文章を操るイメージがあったが、『ウィタセクスアリス』においてはかなり平易な文体で書かれている。内容は草食系男子の性にまつわる体験に関するものだ。性にまつわる体験といいつつ、露骨なものに関しては匂わせつつもほぼ描かれないので安心して読める。
作中で「硬派」と「軟派」の2派が登場するが、読んでいるとどうも「硬派」というのがホモセックス野郎のことを意味しているようでド肝を抜かれた。寄宿舎生活の中で年少者は硬派の先輩の餌食になる。主人公が短刀を持って硬派の先輩から逃げ回り、アヌスの貞操を死守する場面がちょこちょこ登場するが、これが鷗外の自伝的性質を帯びた作品であることを踏まえると、男性読者なら当時の寄宿舎生活の凄絶さに恐怖を禁じ得ないはずだ。尻穴を狙う硬派から命からがら逃げ回る、そう、これはほとんど「ウォーキング・デッド」の世界なのだ。
ところで「金井湛君は哲学が職業である。」という書き出しは端的で内容にスッと入れるいい書き出しだ。「石炭をば早や積み果てつ。」に並ぶぐらいのいい書き出しだと思う。