山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101020051

作品紹介・あらすじ

人買いのために引離された母と姉弟の受難を通して、犠牲の意味を問う『山椒大夫』、弟殺しの罪で島流しにされてゆく男とそれを護送する同心との会話から安楽死の問題をみつめた『高瀬舟』。滞欧生活で学んだことを振返りつつ、思想的な立場を静かに語って鴎外の世界観、人生観をうかがうのに不可欠な『妄想』、ほかに『興津弥五右衛門の遺書』『最後の一句』など全十二編を収録する。

感想・レビュー・書評

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  • 芦田愛菜さんの「まなの本棚」に感化され、拝読しました。
    事前のイメージとは違い、内容は深くともさらっと読みやすく、ページ数も少ない為物足りないほどすぐ読み終わってしまいました。
    森鴎外の緻密で繊細な描写は、やはり文豪らしく秀逸でした。特に情景描写の美しさに惹かれました。

    「その日は暮れ方から風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温かさが、両岸の土からも、川床の土からも、もやになって立ちのぼるかと思われる夜であった」

    安楽死について、罪について、読了後も引きずるように思いを巡らせずにはいられません。
    善悪の区別がつかないような展開に、幾度となく心が揺さぶられる作品。

  • 今年の新潮3冊目
    表題作はどちらも古典をアレンジした話。

    「山椒大夫」の、予期せぬ悲劇的な始まりに絶句。

    いきなり人買いに捕まって、乳母は死に、親子はバラバラに引きさかれ、あっというまに姉弟は山椒大夫の奴隷になるとか、転落具合と絶望感が半端じゃなくて、茫然。

    原典はもっと残酷なようですが、鷗外版もじゅうぶん胸が痛む話でした。


    「高瀬舟」は、弟を安楽死させた兄と、その護送役の話。

    安楽死は罪なのか? と悶々とする役人。
    罪ではない気もするが、わからない。
    わからないからお上の判断に従おう。
    お上が間違うはずがないんだから。
    (「最後の一句」にもありました)

    こんな皮肉ばかり言ってたら、そりゃ左遷させられます。
    (これでも丸くなったというんだから…)

    また、この兄・喜助は、足るを知る人間として描かれているのですが、正反対なのが、足るを知らない帝国主義政府というわけですね。

    明治の末頃から、日本はどんどん軍事拡張して大陸を暴走していくわけだけど…
    内輪の鷗外としては、大っぴらに反論することもできず、かといって黙っているのも忍びなかったのだろうと推測。

    彼の日露戦争従軍記をぜひ読みたい。


    それにしても、独語や仏語が文中にありすぎです。
    ルビもない原語そのままのときもあるので、読めもしない。
    該当の日本語がないせいかもしれませんが、それにしても多い。
    このグローバル現代でさえ、あんまりカタカナを使われるとイラッとするのに、当時はどうだったのか。

    それさえなければ、ふつうに読みやすい文章です。

  • 『興津弥五右衛門の遺書』は、読むのに難儀した。
    山椒大夫、高瀬舟とも高校時代の文学史で、森鴎外作ということは知っていたが、実際に読んだのは初めて。
    やっぱり教科書に載っている、試験に出る文学作品は一読すべきである。深い。深いが故に何度も読み返す必要があろう。
    作中でてくる重要な登場人物が意外に若い。山椒大夫も最後の一句も子供である。早熟な鴎外だからなのか。

    また1年後に再読する予定。

  • 昭和54年10月15日 28刷 再読

    鴎外日露戦争後、医務局長となり、自由に小説を書きはじめた時代の 短編12編

    「杯」

    明治43年1月 1910年
    8人の少女達がそれぞれの杯で泉の水を飲む。一人は異国の少女で、陰湿な言葉で排除されようとするが、その態度と自国の言葉で自己を主張する。
    凛として美しい。数ページだが、印象深い。

    「普請中」

    明治43年6月 1910年
    ドイツから愛人だった女性が訪ねてくるが、拒絶する日本人参事官。日本はまだ政治も文化も普請中である、待ち合わせのレストランも工事中。

    「カズイスチカ」

    明治44年2月 1911年  臨床記録
    医学士の青年が、開業医の父親の代診をした経験。父親の知識と経験に尊敬をする様になる。
    「生理的腫瘍」の表現には、感嘆。病気だと思っていた妊娠のことでした。

    「妄想」

    明治44年3月 1911年
    鴎外と思われる翁が自分の半生を振り返る。自分は、望まれた自分を演じてきたようだ、と。ドイツ留学時代、自然科学を研究しながら哲学を漁り、それが、その後の作品にも影響する。生と死にも言及しており、これからの生き方について考えいたのだろうか。
    最後にきて、これらの著述自体を反故とする。と書き加えられていた。

    「百物語」

    明治44年  1911年

    僕(鴎外)は百物語の催しに参加するも、話には興味なく、集まった人、開催して人を興味を持ってみる。

    「興津弥五右衛門の遺書」

    1912年 歴史小説集『意地』の一つ
    難しくて読めない。
    一番良い香木(初音)を買う為に人を斬ってしまう。でもそれは主人の願いだから許される。初音の一部は献上され(白菊)となり、今も徳川美術館に展示されているそうな。

    「護持院原の敵討ち」

    大正2年 歴史小説『意地』の一つ
    盗賊に父親を殺された青年と父親の世話になった壮年の男が、敵討ちをする為全国を巡る。その過酷さに息子は離脱してしまう。最後は敵討ちをすることができる。
    これは中々良い。心情が理解できる。敵討ち制度は明治初頭に廃止されたが、武士社会に於いて、重要な役割があったのかもしれない。

    「山椒大夫」

    大正4年 1915年  五説経 さんせい大夫原話

    理不尽な人攫いにより辛酸をなめる安寿と厨子王。
    昔は絵本でもありましたね。小説では、拷問のシーンは無く、自ら入水。焼印も夢の中の出来事となっております。後は、ほぼ同じ。
    安寿の武士の家の姉たる悲哀、弟への愛情。
    世界の何処かでは、まだこようなことが起きているのかと思う。

    「二人の友」

    大正4年 1915年 小倉にて

    実在した二人の友と鴎外との顛末。
    時代なのか、それぞれ頭脳明晰なのか、懐が深い三人。小倉で知り合ったが鴎外が、東京へ戻ると、それまでの生活を捨てて、二人とも付いてきてしまう。それぞれの得意な分野で学び合う。一人は結婚の面倒までみる。
    現在では、考えられないような実話ですが、微笑ましくもあり、無鉄砲でもあり。

    「最後の一句」

    大正4年 1915年 太田蜀山人「一話一句」

    死罪と決まった父親を助ける為、長女は自身と幼い姉弟を身代わりに差し出す。そこで、お上に審判を促す。少女の「間違いはございませんでしょうから」という、意思表示が表題となっている。

    「高瀬舟」

    大正5年1月 1916年 翁草 「流人の話」

    高瀬川を下る舟に乗る罪人、喜介。彼の生き様に、安楽死と、知足を語る。
    考えても、経験を積んでも、結論が出ない題材。純粋に感嘆して読んだ、が、その後の自作解説までは読んでいないので、本当に意図したところは理解していないのかもしれない。

    森鴎外では、この短編集が一番、理解しやすいのでは、と思う。鴎外自身が、多少自由となったこともあるのかもしれない。

  • 諦念、受容、流転‥‥

  • 何年ぶりかに「高瀬舟」を
    読んでみたくて購入

    ちょっと思い違いをしていたシーンや
    当時はあまりピンと来なかった事が
    感慨深ったり再発見できて良かった

    当時は該当する日本語が
    無かったのか
    外国カタカナ語を
    そのまま使っている短編は
    ちょっと読みづらかった

    「二人の友」が良かった
    淡水の交わりとは
    こういうものかなと

    ブックオフ一宮妙興寺店にて購入

  • 足りてることを知っている人が一番幸せなんだと思います。あと安楽死の是非を思案することに意味があるように思います。問題から目を背ける事がないように。

  • 最後の、「安寿恋しや…」と子どもの名前を口にする母親の描写に胸が苦しくなった。

  • 12篇からなる短篇集。
    『妄想』を始め幾つかの作品から、鷗外の考え方や人付き合いがよく分かり興味深い。ベルリン留学は彼にとって非常に有意義な経験であり、頭脳明晰で医学だけでなく文学も書かずにはいられなかったと推察する。
    『山椒大夫』は所謂「安寿と厨子王」で、姉弟の思いやる気持ちに心震える。タイトルが何故に山椒大夫なのかは理解できなかった。
    『高瀬舟』は17頁の短い作品中に、生き方や命に対する問いかけがギュッと詰まった名作である。

    鷗外がすっかり好きになったので、更に他作品を読みたい。

  • (高瀬舟)情景描写が丁寧に描かれていて物語の中に引き込まれるような感覚に陥った。自らの貧しい境遇と罪人と呼ばれる高瀬舟の乗員の境遇を照らし合わせる場面に心打たれた。

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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