- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101021225
作品紹介・あらすじ
夫は毎晩のように泥酔する。一歳の娘がいるのに、なぜ育児にも自分の健康にも無頓着でいられるのだろう。ふと、夫に父の姿が重なり不安で叫びそうになる。酒に溺れ家庭を壊した父だった。夫は、わたしたちはまだ、立ち直れるだろうか――。家族だから愛しく、家族だから苦しい。それでもわたしが夫に、母が父に、父が人生に捨てきれなかった希望。すべての家族に捧ぐ、切実なる長編小説。
感想・レビュー・書評
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全部許せることはないと思うんです。
アルコール依存症の父親と娘の長く、壮絶な戦い。娘は、夫のアルコールへの依存にも悩み始める。
娘は幼児の頃から 暴言と暴力と理不尽な要求に耐えながら成長していく。働き始めても、一人暮らしを始めても 家族からの呪縛は解けない。
父親を説得して病院へ連れて行くが 移動中でさえ飲み続ける。
彼女は、許せない父親をなぜここまで治そうとできるのか。酒に溺れる前の幸福な時間への執着なのか。たぶんどこかに残る愛情なのかとは思う。
家族だった義務感である方が、生きやすいだろうな。
無理難題を突きつけ愛情を確認する試し行動をとる大人もいる。対応を誤るとより深刻になる。
前作の「恩にも時効があっていい」それで良いのではと思う。
一木さん、好きだわ。
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一木けい『全部ゆるせたらいいのに』新潮文庫。
読んでいて、昔懐かしいささやかな家庭の描写に喜びを感じる一方で、切なさと悲しさで心が痛くなるような小説だった。
一種のアル中小説と言っても良いだろう。
酒で憂さを晴らすとか、酒は百薬の長とか、適度な酒ならとか都合の良いことを言うが、酒は一滴でも身体にも、精神衛生にも良くない。本書に描かれている通り、酒は家庭崩壊の原因にもなる。どうして法律で禁止されないのか不思議でならない。
毎晩のように泥酔する夫の宇太郎に自身の父親の姿を重ね合わせ、不安に押し潰されそうになりながらも、何とか家庭にすがる千映。
娘の恵が産まれてから、より一層、仕事に力を入れる夫の宇太郎だったが、その反動なのか日に日に酒量が増え、泥酔し、物を無くしたり、警察の世話になったりと不安を募らせる千映。
千映の父親がアルコール中毒だった。大学院に通っていた時に母親と知り合った父親は子供が出来ると、バイト生活から一転、大学院を辞めて、名の知れた企業の正社員になる。その反動で、酒量が増し、泥酔したり、暴力を奮ったりと家庭崩壊の危機にあった。
宇太郎や千映の父親が酒に溺れる気持ちも解らないではない。自分も会社で仕事が忙しく、毎日のように深夜残業が続き、酒を飲んでいた時期がある。深夜に仕事を終え、飲みに行き、飲み屋から会社に出勤したこともある。記憶を失ったり、物を無くしたり、翌日は起きれなかったりということもあった。あのまま飲み続けていたら、今の人生は無かったかも知れない。酒を止めて10年になる。酒を止めてから、身体も心も楽になった。
本体価格590円
★★★★★ -
アルコール依存症の父親。
娘の千映。
それから千映の夫と娘。
家族の葛藤の物語でした。
アルコール依存症の父親
仕事の付合いやストレスで飲酒が増える夫。
そんな彼らを
許す? 諦める? 認める? 理解る?
どれも簡単には出来ないのではないだろうか。
アルコールでの家庭の崩壊、夫婦間の危機
読んでいて、どちらも恐ろしく気持ちが沈んだ。 -
アルコールにまつわる苦しい家族の物語が描かれています
千映は毎晩のように泥酔する夫・宇太郎に対して強い怒りと絶望を感じている…とよくある夫婦ものと思って読んでいたら、父と娘の話になっていく
3、愛で選んできたはずだったはもう凄絶です
1、愛に絶望してはいけないで千映がどうして夫に対して激しい感情を抱いていたのかという答えが書かれています
読んでる最中ずっと苦しくてたまらなかった
総ページは240ページと少なめですが、中身はかなり重くて濃い
『全部ゆるせたらいいのに』という千映の祈りはただひたすらに悲しい
ラストは未来への希望を感じられて良かった -
主人公の千映は
夫の宇太郎と一歳の娘の恵と三人暮し
宇太郎は毎日のように泥酔して帰宅する
宇太郎とアルコール中毒の父と重なる
タイトルから複雑な感情と切なさを醸し出している
どうしようもない父
愛されたい
自分も父を愛したい
たまに見せる父の優しさ
でも、、、
自分の生まれながらある家族と
自分が作る家族の物語 -
タイトルがまず刺さりました。
日頃ほんとうにそう思います。
何もかも許せたら、自分だって相手だってもっとよく過ごせるはずなのに。
共感する部分が多くてしんどいながらも引き込まれて読み終わりました。 -
親子とアルコール依存症の話だった。タイトルが身に染みる内容。
父のことがあってもなくてもあの旦那の調子だと辟易するのも分かるけど過去はずっと着いて回るなと思う。 -
アルコール依存症の父のもと育った千映。
自分の夫もまた、アルコールに溺れようとしている。
夫に父の姿が重なり、『ああなっては欲しくない、娘の恵に自分と同じ道は歩ませたくない』と神経をすり減らす日々を過ごしている。
『全部ゆるせたらいいのに』とは、つまり、ゆるすことができない部分があるということだ。
全部ゆるすことができたら楽になることは理解しているけれど、ゆるすことができない。
許すは、何かを行うことを認めること。
赦すは、既に行った罪や過ちを責めないこと。
平仮名で表すことでそのどちらの意味も含有しているのだとすると、過去も未来もひっくるめてあなたの行為をゆるしたい、ということなのかな?
諦めとはまた違うんだろうし、なんだか難しい。
私が千映と同じ環境に育ち、同じ境遇に今立っているとしたら、絶対ゆるせないけどなぁ。
そもそも、ゆるせたらいいのに、とも思えるだろうか。
気力がないと読めない作品かもしれない。 -
愛ってなんなのか。
家族ってなんなのか。
他人から見たら異常なものでも、本人からすると普通なのか。
見たいものを見たいようにしか見ていないからなのか。
愛、家族にはどうして人をこんなに執着させるのだろう。
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主人公である千映の父親。
孤独、理不尽などの、生きるために折り合わなければならない「現実」の鋭利な角をやり過ごす為にアルコールを用いる人。
愛するものを作らなければ、生活を支える必要がなければ、ひっそり生きていけたかもしれないのに。
「この本が作者の経験に基づいて書かれてある」と解説にあった。
このお父様の気持ちが、我がことのように感じられ、慄然とせざるを得ない。
著者プロフィール
一木けいの作品






表紙好き(*´ω`*)
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