堕落論 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101024028

感想・レビュー・書評

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  • -あの偉大な破壊の下では、運命はあったが、堕落はなかった。無心であったが、充満していた。

    -人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。



    否定する。幻想を夢みる。それは現実逃避ではなく、そうして自分という1人の人間の、いまこの生活を見つめるための文学的な生き方

  • 凄いものを読んだ。今後、一生付き合っていく一冊だろう。色んな言葉が溢れ返る最中、坂口安吾なりの見解によって、取捨選択をしているな、といった印象。

  • 「人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ」

    政治、歴史、宗教、戦争、人格者…

    文学の極北から人間の真相を暴き、行動を分解する。

    安吾の立つ座標は限り無く寒い。それが俺の人生だ。精一杯生きる感動だ。

    薄っぺらな批評など、そ知らぬ孤高。

  •  安吾のエッセイ集、表題作『堕落論』はちくまの全集(ベスト盤みたいなの)で以前読んだことがあって面白かったんですが、何年も前のことなので再読。やはり面白い。
     新潮版のまとめ方は発表年順、時系列に沿って読めるのでかなり良いと思う。音楽でも文章でも、あるいは絵でも何でも一緒ですが、発表順に見て行くと今までわからなかった点がわかることが多いです。それでいくと最初の『今後の寺院生活に対する私考』と『FARCEに就て』だけちょっと前のものなので、作風が違うしさほど面白くない。その後から面白くなります。
     『堕落論』『続堕落論』『天皇小論』『特攻隊に捧ぐ』『戦争論』なんかは戦後の戦争エッセイで面白いんだけど、今回面白かったのは後半の歴史エッセイのところ。全然知らなかったけど、随筆・純文学・推理小説・歴史もの等、安吾は色んなジャンルの文章を書いててどれも面白いんでびっくりしました。
     また、歴史探偵ものの題材がカトリック宣教師や道鏡だったりと、自分の興味あるところなのがとてもよい。地元だったりするし。地元といえば双葉山の話!新興宗教についても最高に面白い!大本や璽光尊の話が出てきます。

     お正月にタモさんの『戦後70年 ニッポンの肖像』ってやってて、これがめちゃくちゃ面白かったんですが、ゲストで出てた半藤一利は歴史探偵・安吾の弟子なんですよね。
     あと、そこでもオウム真理教について語られてたんですが、僕の考えだと日本人らしさというのは折衷することなんです。神仏習合や七福神などなど・・・諸星大二郎の漫画でも出てきますけど。
     神仏習合を最初にしたのは宇佐神宮と言われてますが、これ双葉山の地元でもあったり。あとケベス祭っていう謎の奇祭があるんですが、ケベスってエビス(夷)のことなんじゃないかなと。
     
     話が脱線しましたが、タモさんが「日本人は前の時代のものを全否定してきた」と言ってて、これどういうことかというと明治維新で江戸時代の文化を蔑ろにした、と。
     TVでは触れられてなかったけど、宗教的にいうと徳川幕府が政治利用してた仏教から、明治になると神仏分離で国家神道の政策になってしまう。戦後になると昭和天皇は人間宣言して宗教的空白ができてしまった、日本人のアイデンティティは完全に破壊されたんじゃないか、と。
     空白ができれば新興宗教に付け込まれる隙もできるわけで、資本主義教と共産主義教の対決がまずあって、どちらも’89~90年頃に崩壊しちゃう。そして学生運動がなくなったあとのしらけ世代(新人類世代)が中学生ぐらいの時(’74年頃)はオカルトブームだったわけで、彼らが20代後半の頃が丁度’89年頃、という流れがある。
     最後のまとめでタモさんが言ってたことは、資本主義と共産主義の良い所を折衷できるのは日本人しかいない・・・というようなことだったんじゃないかなあと。まさに日本人的だと思う。

     で、安吾なんですが新戯作派とか戯作復古って江戸期の戯作の精神ってことらしいし、新興宗教が形になってきたのは明治期だし、天皇も宗教も政治利用されてきたんでどうも全部つながっているようです。
    ※他の人のレビューを読んで追記。堕落論の堕落って聖俗の俗に落ちること、シンダラカミサマヨの逆、俗人として堕ちて生きよということかなと。特攻隊にしろ天皇の人間宣言にしろ。
    新戯作派の精神としても、漢文学や和歌を正統として、聖に対する俗が戯作なので共通してます。

  • 引用された形で何度か読んだ坂口安吾「堕落論」。そこかしこに馴染みがあり、懐かしい文体を読んでいる間ずっと同世代だった父のことが頭から離れなかった。戦時中のことをほとんど話さなかった父だけれど、折に触れて聞かされたのは「人間は失敗するが同じ失敗をするのは馬鹿だ」と「戦争をするのは馬鹿だ」という事。
    コロナや気候変動で世界全体が不安定な今こそ
    私達ひとりひとりはいかに生きるべきか。改めて安吾(と父)に諭された。
    八蔵読書会課題本

  • 若いころはわからなかった。大人になってから読んだらこんなに面白いものはないな、と目からウロコ

  • わたしと安吾を出会わせてくれた
    大学の図書館に感謝。

    表題作のみならず、すべての作品に流れる
    安吾イズムにしびれる。
    あけすけで、真正直で。好きです、安吾。

  • 最低にして最強の傑作。逆の発想というか、少し先の時代人として、敗戦国日本へエールを送った。人間というのは、そう容易くドン底を見れるものではないのだろう。「生きよ、堕ちよ」。はい、先生!どっからこんな言葉が出てきたんだよ。きっと神が書かせたのだろう。

  • 必要こそが美を産む。


    文学は生きることだよ。
    見ることではないのだ。

  • 最近、戦争(主に太平洋戦争)のことを調べるようになった。当時を生きた人が書いたものをいろいろ読んだ。自分にとっては遠い過去で想像もできなかったことが、本当にそこにあったんだなと感じるようになって、絶対にまた起きてはならないと、前とは違う感覚で考えるようになった。堕落論はそんな気分のうちに読んで、とても心に残った。

著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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