不連続殺人事件 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 711
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101024035

作品紹介・あらすじ

探偵小説を愛し、戦争中は仲間と犯人当てゲームに興じた安吾。本作は著者初の本格探偵小説にして、日本ミステリ史に輝く名作である。その独創的なトリックは、江戸川乱歩ら専門作家をも驚嘆せしめた。山奥の洋館で起こる殺人事件。乱倫と狂態の中に残された「心理の足跡」を見抜き、あなたは犯人を推理できるか? 自らの原稿料を賭けた「読者への挑戦状」を網羅。感涙の短篇「アンゴウ」特別収録。

感想・レビュー・書評

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  • たまさか図書館に置いてあるのを見つけて、すぐさま手に取った。だから私の読んだ角川文庫版では、今は巻末に収録されているという短篇などはなかった。
    坂口安吾は探偵小説の神髄は「犯人当て」にあると言い切ったとおり、本作もいったい真犯人は誰か、ということが小説の主題である。物語の最後で、探偵の役どころである巨勢博士が犯人とその動機、そして八人もの殺人が行われた事件の全貌を語るのだが、その件を読むと、本作が「犯人当て」をモチーフとした探偵小説として実にフェアな書き方をしていることがわかる。その中に坂口安吾が潜ませた小さな違和感を捉えられるか? おそらく坂口安吾は相当に自信があったに違いない。ゆえに真犯人を当てた読者に懸賞金を出す、という企画も発表当時には行われたという。
    本作は登場人物の多さが特徴的だ。さらに、登場人物の一人ひとりが、とにかく個性的で一癖も二癖もある。個性ある人たちが一堂に会した洋館で起こる殺人事件だけに、誰もが怪しく思えてくる。しかも登場する人物は三十人を超えるため、八人もの殺人が行われる事件ではあるものの、容疑者の数もまた少なくないのである。物語は語り手である矢代の視点で進んでゆくが、当然ながらこの語り手もまた「信頼できない語り手」に思えてくる。
    読み始める前に、本作の「真犯人当て」の趣向を知ったために、なおさら疑心暗鬼になりながら読み進めてしまったかもしれない。ミステリー史に輝く名作とすでに名高い本作だが、読んでみて「名作」の冠も決して大げさではなかった。
    本作においては、モルヒネやら青酸カリといった毒物による殺人も行われるが、この作品が書かれた昭和二十二年頃の日本では、これらの毒物は容易に入手可能だったのであろうか。そう思われるほどに、これらの毒薬がいわば「自然に」使われている。一部を除いて、それらの薬物の入手先も明かされない。事件の解決には入手先が決め手になることはないので、あえて話中でそれらを語っていないのかもしれない。しかし、そうした毒物が自然に登場する戦後間もない日本社会の「闇」も合わせて見たような気がする。

  • 古今東西、多くの文豪たちがミステリ仕立ての小説を書いている。物語の多くが何らかの謎をはらんだものであるからそれは当然のことであり、また当人たちもミステリを書いたつもりは毛頭ないだろう。

    しかし、中にはミステリを愛し、正面から四つに取り組んだ文豪もいる。その代表的な作家といえば、福永武彦(加田怜太郎)と坂口安吾だろう。

    「不連続殺人事件」は、日本ミステリのアンソロジーが組まれる際には、十中八九、収載される名作である。複雑怪奇な人間関係、やたらと多い登場人物(しかもそれぞれにあだ名がある)にたじろぐが、最後まで読み通せば、ミステリにかけた安吾の思いを感じることができるだろう。すなわち、ミステリは論理的で、かつ読者が答えを導き出せる知的ゲームということである。トリックのためのミステリは否定されるし、トリックが論理的であったとしても心理描写が矛盾していれば、それもまた否定される。かくて、安吾は幕間に挑発的な「読者への挑戦状」を挟むのだ。

    私が初めて「不連続殺人事件」を読んだのは大学生のころ、その時も犯人はわからなかったが、今回もまるで分からなかった(要するに忘れていた)。学生時代にはあまり感じなかったが、再読して、かなり露骨な女性蔑視、差別表現があることに驚いた。時代の流れを感じる。

    この新潮文庫版は創元推理文庫版を底本としており、その編集にあたった東京創元社の名編集者・戸川安宣さんと北村薫さんの対談も収められている。それだけでも手にする価値はある。

  • 2冊目『不連続殺人事件』(坂口安吾 著、2018年9月、新潮社) 1947年から48年にかけて雑誌「日本小説」に掲載された、名作と名高いミステリーの古典。ストーリーテリングよりも犯人当てゲームとしての側面を強く押し出した一作。犯人と殺害方法をピタリと当てた読者に、著者自らが実費で賞金をプレゼントするという趣向には、豪放磊落な安吾らしさを感じずにはいられない。 同時収録されている短編「アンゴウ」は、感涙必至の超名作。 「十八カラットのダイヤかなんか差上げたいが、ないからダメです。」

  • 何かの解説で出てきたので興味湧き読んでみました。時代の背景もわからず文体も難しく読みにくかったが、最後の推理は見事で、なるほどと納得。登場人物の奇妙な人ばかりというのトリックの1つ。参考にした人は多いんだろうな。この時代、こんな人ばかりじゃないよね。。

  • 角川からも文庫が出ていたけれど去年新潮文庫から出た新しいほうを。こちら昭和22年からの連載当時に、安吾自身が真犯人を当てた読者に懸賞金を出すという豪華企画があったそうで、太っ腹だなあ。連載当時の「読者への挑戦状」も各話ごとに収録されている。楽しそう。

    それにしても登場人物がとにかく多い。しかも人間関係が複雑で、情報量の多さをどう処理するかが読者としては大変。できるだけ一気読みしないと、誰が誰のなんだったか関係をすぐ忘れてしまう(それは私がおばちゃんだから)

    語り手は作家の矢代。探偵役は、矢代の弟子である巨勢博士。矢代は友人で詩人の歌川一馬の邸宅に招待され妻の京子と訪問するが、この京子は、一馬の父親で大金持ちの歌川多門の元・愛人。一馬の現在の妻・あやかは、画家の土居光一の元妻、一馬の妹・珠緒は奔放で、嫌われ者で下品な作家の望月王仁ともデキている。一馬の元妻で女流作家の宇津木秋子は現在は作家の三宅木兵衛と再婚。

    さらに屋敷には、歌川多門の妹夫妻とその娘でブサイクな千草、多門が使用人に手をつけて産ませた美貌の娘・加代子も同居、この加代子は腹違いの兄・一馬に恋している。さらに屋敷には弁護士の神山夫妻、お抱え医者の海老塚、愛想のない看護婦・諸井琴路らがが我が物顔で出入り、料理人や使用人も数人。そこへ一馬らの友人である他の作家や女優やら大勢がやってきて、三十数人が集まったところで殺人事件勃発。

    登場人物を覚えるだけでせいいっぱいだった私は誰が犯人かはほとんどわからなかった。というか、犯人と動機の目星はついても、実行手順について整理して説明するのはちょっと面倒という感じ。しかし読者に謎解き懸賞をかけてるだけあって、ちゃんと書かれている内容から推理すれば正解にたどりつけるようになっているので、突然読者の知らない登場人物や情報が後だしで出てくるようなことがなく、とても良心的。おかげで自分で犯人を当てるまでの熱意はなくともゲーム感覚で楽しめて気持ち良く読み終えられました。

    余談ですが1977年に映画化されたとき、土居光一は内田裕也だったんですね。妙な説得力。見てみたい。

    ※収録
    不連続殺人事件/アンゴウ/対談:戸川安宣・北村薫

    • 淳水堂さん
      こんばんは!
      こら昔読みましたが、無茶苦茶で面白かったですよね。
      登場人物たちがワケアリ過ぎて、殺人が事件におもえないくらいというか(笑...
      こんばんは!
      こら昔読みましたが、無茶苦茶で面白かったですよね。
      登場人物たちがワケアリ過ぎて、殺人が事件におもえないくらいというか(笑)
      2019/04/08
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)
      そうなんですよね、登場人物の多さと、そのキャラの濃さ、関係性の複雑さに気を取られて、事件が頭に入って来ない...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)
      そうなんですよね、登場人物の多さと、そのキャラの濃さ、関係性の複雑さに気を取られて、事件が頭に入って来ないという…^_^;

      犯人分かってしまえば、いたってシンプルな事件なのに…
      2019/04/09
  • 登場人物が多いし、過去の人間関係が複雑すぎて
    何度も何度も最初のページに戻って読み返さないといけないので読んでいて疲れた。

  • 犯人当てゲームに特化した話。
    派手なトリックとか探偵の大活躍とか期待してると、あれ?とか思うかもしれないけど、作者が『ミステリはヒントを読者にも見える形で正々堂々と書いてちゃんと犯人をあてられるようにしてある論理的なのが一番良い』みたいな考え方の人なのでそういうところを目指した作品としてはすごく面白いと思う。
    些細なこととかあれは何か関係してたのかな…みたいなとこが全部ちゃんと考えられて書かれてたってことが最後わかるのですごいなぁと。
    犯人を知ってる状態でもう一回読みたくなる。

    最初は登場人物の多さと、やたらと入り乱れた関係性についていけなくてなかなかノれなかったけど、それに慣れてきて事件が起き始めたあたりからはテンポもよくなって読みやすかった。

    この新潮社版には登場人物表がついてたのが本当にありがたかった。これがなければさらに覚えにくかったと思う。
    安吾から読者への挑戦状も載ってて面白かった。

    他に『アンゴウ』と、戸川さんと北村さんの対談が載ってるのも良い。

  • 昔ながらの文学青年たちのつどい、というか時代背景を考えると作者たちの近くのコミュニティがこんな感じだったのかなーと思うと生々しくて良い。
    トリックは凝ったものではなく犯人もおよそ想像ついてましたが、出てくる人々皆怪しい(読者に聖域を作らせない)状況をギリギリまで引っ張るのがさすが。

  • 何ていうか…、登場人物のクセが強すぎて。
    この時代の人がみんなこんなわけじゃないよね?この時代の作家とかが、みんなこんなわけじゃないよね?
    ちょっとのことで、激怒しすぎで怖いわ。
    ちょっとケガするくらいの暴行は、傷害致死とかで捕まらないの?

  • 不連続殺人事件は当然のこと、巻末掲載のアンゴウが良かった……
    仮に、不連続殺人事件で完全燃焼して気力がなくなってしまっても、アンゴウは読み飛ばさないでほしい……

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著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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